ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

地方自治法改正法案に盛り込まれている指示権

2024年05月19日 00時00分00秒 | 国際・政治

 2024年5月15日付の朝日新聞朝刊2面13版Sに「(時時刻刻)国の指示 拡大に危うさ 地方自治法改正案 非常事態 具体例答えず」という記事が掲載されています。朝日新聞では断続的に採り上げられている問題ですが、行政法学を専攻する者としては、やはり取り上げておかなければならないと考えました。

 そこで、今回は、今国会(第213回国会)に内閣提出法律案第31号として提出された「地方自治法の一部を改正する法律案」の一部を紹介します。

 まずは提案理由です。国会に提出される法律案の最後には提案理由が示されるのですが、今回は都合上、最初に示しておきましょう。

 「地方公共団体の運営の合理化及び適正化並びに持続可能な地域社会の形成を図るとともに、大規模な災害、感染症のまん延その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と地方公共団体との関係を明確化するため、地方制度調査会の答申にのっとり、公金の収納事務のデジタル化及び情報システムの適正な利用等のための規定の整備を行うとともに、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と地方公共団体との関係等の特例の創設、地域の多様な主体の連携及び協働を推進するための制度の創設等の措置を講ずるほか、所要の規定の整備を行う必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。」

 情報システムに関する内容もありますが、ここでは指示権に関係する内容を取り上げます。

 まず、地方自治法の目次が変わることとなっています。現行法では、第11章が「国と普通地方公共団体との関係及び普通地方公共団体相互間の関係」ですが、改正法案では第12章に繰り下げられ(第11章に「情報システム」の諸規定が追加されます)、現行法の第13章を第15章に繰り下げるとともに新たに第14章として「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と普通地方公共団体との関係等の特例」の諸規定が追加されることとなっています。

 その第14章は、次の通りです。該当箇所を全文引用します。但し、漢数字は原則として算用数字に変えました。

 

  第14章 国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と普通地方公共団体との関係等の特例

 (資料及び意見の提出の要求)

 第252条の26の3 各大臣又は都道府県知事その他の都道府県の執行機関は、大規模な災害、感染症のまん延その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態(以下この章において「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」と総称する。)が発生し、又は発生するおそれがある場合において、その担任する事務に関し、当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態への対処に関する基本的な方針について検討を行い、若しくは国民の生命、身体若しくは財産の保護のための措置(以下この章において「生命等の保護の措置」という。)を講じ、又は普通地方公共団体が講ずる生命等の保護の措置について適切と認める普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与(第245条の4第1項の規定による助言及び勧告を除く。)を行うため必要があると認めるときは、普通地方公共団体に対し、資料の提出を求めることができる。

 2 各大臣又は都道府県知事その他の都道府県の執行機関は、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合において、その担任する事務に関し、当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態への対処に関する基本的な方針について検討を行い、若しくは生命等の保護の措置を講じ、又は普通地方公共団体が講ずる生命等の保護の措置について適切と認める技術的な助言その他の普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与若しくは情報の提供を行うため必要があると認めるときは、普通地方公共団体に対し、意見の提出を求めることができる。

3 第245条の4第2項の規定は、前2項の規定による市町村に対する都道府県知事その他の都道府県の執行機関の資料又は意見の提出の求めについて準用する。

 (事務処理の調整の指示)

 第252条の26の4 各大臣は、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合において、その担任する事務に関し、生命等の保護の措置の的確かつ迅速な実施を確保するため、当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に係る都道府県において、一の市町村の区域を超える広域の見地から、当該都道府県の事務(法律又はこれに基づく政令により都道府県が処理することとされている事務であつて、当該生命等の保護の措置に係るものに限る。)の処理と当該都道府県の区域内の市町村の事務(法律又はこれに基づく政令により都道府県が処理することとされている事務のうち、次に掲げるものであつて、当該生命等の保護の措置に密接に関連するものに限る。)の処理との間の調整を図る必要があると認めるときは、第245条の4第2項(前条第3項において準用する場合を含む。)の規定によるほか、当該都道府県に対し、当該調整を図るために必要な措置を講ずるよう指示をすることができる。この場合において、各大臣は、当該市町村に対し、当該指示をした旨を通知するものとする。

 一 法律又はこれに基づく政令により指定都市又は中核市が処理することとされている事務(法律又はこれに基づく政令によりこれらの市以外の市町村が当該事務を処理することとされている場合における当該事務を除く。)

 二 前号に掲げる事務を除くほか、法律又はこれに基づく政令により市町村が処理することとされている事務のうち政令で定めるもの

 三 第252条の17の2第1項の条例又は地方教育行政の組織及び運営に関する法律(昭和31年法律第162号)第55条第1項の条例の定めるところにより市町村が処理することとされている事務

2 前項後段の規定による通知は、都道府県知事その他の都道府県の執行機関を通じてすることができる。

 (生命等の保護の措置に関する指示)

 第252条の26の5 各大臣は、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合において、当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態の規模及び態様、当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に係る地域の状況その他の当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に関する状況を勘案して、その担任する事務に関し、生命等の保護の措置の的確かつ迅速な実施を確保するため特に必要があると認めるときは、他の法律の規定に基づき当該生命等の保護の措置に関し必要な指示をすることができる場合を除き、閣議の決定を経て、その必要な限度において、普通地方公共団体に対し、当該普通地方公共団体の事務の処理について当該生命等の保護の措置の的確かつ迅速な実施を確保するため講ずべき措置に関し、必要な指示をすることができる。

 2 各大臣は、前項の規定により普通地方公共団体に対して指示をしようとするときは、あらかじめ、当該指示に係る同項に規定する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に関する状況を適切に把握し、当該普通地方公共団体の事務の処理について同項の生命等の保護の措置の的確かつ迅速な実施を確保するため講ずべき措置の検討を行うため、第252条の26の3第1項又は第2項の規定による当該普通地方公共団体に対する資料又は意見の提出の求めその他の適切な措置を講ずるように努めなければならない。

 3 市町村に対する第1項の指示は、都道府県知事その他の都道府県の執行機関を通じてすることができる。

 (普通地方公共団体相互間の応援の要求)

 第252条の26の6 普通地方公共団体の長又は委員会若しくは委員は、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合において、生命等の保護の措置を的確かつ迅速に講ずるため必要があると認めるときは、他の法律の規定に基づき当該生命等の保護の措置について応援を求めることができる場合を除き、他の普通地方公共団体の長又は委員会若しくは委員に対し、応援を求めることができる。この場合において、応援を求められた普通地方公共団体の長又は委員会若しくは委員は、正当な理由がない限り、当該求めに応じなければならない。

 2 前項の応援を求めた普通地方公共団体の長又は委員会若しくは委員は、同項の生命等の保護の措置の実施について、当該応援に従事する者を指揮する。

 (都道府県による応援の要求及び指示)

 第252条の26の7 都道府県知事は、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合において、当該都道府県の区域内の市町村の実施する生命等の保護の措置が的確かつ迅速に講ぜられるようにするため特に必要があると認めるときは、他の法律の規定に基づき当該生命等の保護の措置について応援することを求めることができる場合を除き、市町村長又は市町村の委員会若しくは委員に対し、他の市町村長又は他の市町村の委員会若しくは委員を応援することを求めることができる。

 2 都道府県知事は、前項に規定する場合において、同項の規定による求めのみによつては同項の生命等の保護の措置に係る応援が円滑に実施されないと認めるときは、他の法律の規定に基づき当該生命等の保護の措置について応援すべきことを指示することができる場合を除き、市町村長又は市町村の委員会若しくは委員に対し、他の市町村長又は他の市町村の委員会若しくは委員を応援すべきことを指示することができる。

 3 前2項の規定による求め又は指示に係る応援を受ける市町村長又は市町村の委員会若しくは委員は、これらの規定の生命等の保護の措置の実施について、当該応援に従事する者を指揮する。

 (国による応援の要求及び指示等)

 第252条の26の8 都道府県知事は、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合において、第252条の26の6第1項若しくは前条第1項の規定による求め又は同条第二項の規定による指示のみによつてはこれらの規定の生命等の保護の措置に係る応援が円滑に実施されないと認めるときは、他の法律の規定に基づき当該生命等の保護の措置について応援することを求めるよう求めることができる場合を除き、当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に関係のある事務を担任する各大臣に対し、他の都道府県知事又は他の都道府県の委員会若しくは委員に対し当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し若しくは発生するおそれがある都道府県の知事若しくは委員会若しくは委員(以下この条において「事態発生都道府県の知事等」という。)又は当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し若しくは発生するおそれがある市町村の長若しくは委員会若しくは委員(以下この条において「事態発生市町村の長等」という。)を応援することを求めるよう求めることができる。

 2 各大臣は、前項の規定による求めがあつた場合において、その担任する事務に関し、事態発生都道府県の知事等及び事態発生市町村の長等の実施する生命等の保護の措置が的確かつ迅速に講ぜられるようにするため特に必要があると認めるときは、他の法律の規定に基づき当該生命等の保護の措置について応援することを求めることができる場合を除き、当該事態発生都道府県の知事等以外の都道府県知事又は都道府県の委員会若しくは委員(以下この条において「都道府県知事等」という。)に対し、当該事態発生都道府県の知事等又は当該事態発生市町村の長等を応援することを求めることができる。

 3 各大臣は、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合であつて、その担任する事務に関し、事態発生都道府県の知事等及び事態発生市町村の長等の実施する生命等の保護の措置が的確かつ迅速に講ぜられるようにするため特に必要があると認める場合において、当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に照らし特に緊急を要し、第一項の規定による求めを待ついとまがないと認めるときは、他の法律の規定に基づき当該生命等の保護の措置について応援することを求めることができる場合を除き、当該求めを待たないで、当該事態発生都道府県の知事等以外の都道府県知事等又は当該事態発生市町村の長等以外の市町村長若しくは市町村の委員会若しくは委員(以下この条において「市町村長等」という。)に対し、当該事態発生都道府県の知事等又は当該事態発生市町村の長等を応援することを求めることができる。この場合において、各大臣は、当該事態発生都道府県の知事等に対し、速やかにその旨を通知するものとする。

 4 各大臣は、前2項に規定する場合において、これらの規定による求めのみによつてはこれらの規定の生命等の保護の措置に係る応援が円滑に実施されないと認めるときは、他の法律の規定に基づき当該生命等の保護の措置について応援すべきことを指示することができる場合を除き、事態発生都道府県の知事等以外の都道府県知事等又は事態発生市町村の長等以外の市町村長等に対し、当該事態発生都道府県の知事等又は当該事態発生市町村の長等を応援すべきことを指示することができる。この場合(前項に規定する場合において、各大臣が指示するときに限る。)において、各大臣は、当該事態発生都道府県の知事等に対し、速やかにその旨を通知するものとする。

 5 事態発生都道府県の知事等以外の都道府県知事等は、第2項若しくは第3項の規定による求め又は前項の規定による指示に応じ応援をする場合において、事態発生市町村の長等の実施する生命等の保護の措置が的確かつ迅速に講ぜられるようにするため特に必要があると認めるときは、当該都道府県の区域内の市町村長等に対し、当該事態発生市町村の長等を応援することを求めることができる。

 6 事態発生都道府県の知事等以外の都道府県知事等は、第4項の規定による指示に応じ応援をする場合において、事態発生市町村の長等の実施する生命等の保護の措置が的確かつ迅速に講ぜられるようにするため特に必要があり、かつ、前項の規定による求めのみによつては当該生命等の保護の措置に係る応援が円滑に実施されないと認めるときは、当該都道府県の区域内の市町村長等に対し、当該事態発生市町村の長等を応援すべきことを指示することができる。

 7 第2項から前項までの規定による求め又は指示に係る応援を受ける事態発生都道府県の知事等又は事態発生市町村の長等は、これらの規定の生命等の保護の措置の実施について、当該応援に従事する者を指揮する。

 (職員の派遣のあつせん)

 第252条の26の9 普通地方公共団体の長又は委員会若しくは委員は、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合において、生命等の保護の措置を的確かつ迅速に講ずるため必要があると認めるときは、他の法律の規定に基づき当該生命等の保護の措置について職員の派遣のあつせんを求めることができる場合を除き、当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に関係のある事務を担任する各大臣又は都道府県知事に対し、第252条の17第1項の規定による職員の派遣についてあつせんを求めることができる。

 2 第252条の17第3項の規定は、前項の規定によりあつせんを求めようとする場合について準用する。

 3 市町村長又は市町村の委員会若しくは委員が第一項の規定により各大臣に対しあつせんを求めるときは、都道府県知事を経由してするものとする。

 (職員の派遣義務)

 第252条の26の10 普通地方公共団体の長又は委員会若しくは委員は、前条の規定によるあつせんがあつたときは、その所掌事務の遂行に著しい支障のない限り、適任と認める職員を派遣しなければならない。

 

 こうした諸規定が入っている地方自治法改正法案は、衆議院総務委員会で5月14日になってから実質審議入りしたということです。内閣から衆議院に法案が提出されたのは3月1日ですが、衆議院が総務委員会に付託したのは5月7日になってからのことでした。

 この改正案については、既にいくつかの問題点が指摘されており、議論もなされています。これについては、機会を改めて述べることとします。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

箱根町の増税論議

2024年05月09日 00時00分00秒 | 国際・政治

 私は神奈川県民です。とは言え、今回の舞台である足柄下郡箱根町は県の南西端に近い場所、川崎市は県の北東端ということで、かなりの距離がありますし、横浜市青葉区や東京都世田谷区などと違って気が向いたら散歩がてらに出かけるというほど身近さはないのですが、町税の話題となれば、取り上げない訳にもいきません。毎日新聞社のサイトに、2024年5月6日9時2分付で「ごみ処理や救急出動…観光客への経費かさむ箱根 宿泊税など町が検討」という記事(https://mainichi.jp/articles/20240506/k00/00m/040/016000c#:~:text=%E7%94%BA%E3%81%AF%E6%B8%A9%E6%B3%89%E5%85%A5%E6%B5%B4%E3%81%AB,%E3%82%89%E3%82%8C%E3%82%8B%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E3%83%87%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%88%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8B%E3%80%82)が掲載されているので、今回はこの記事を基にします。

 箱根町は、全国的に有名な観光地です。人口は1万人程度なのですが、観光客は年に2000万人ほどが訪れるそうです。こうなると、町政には様々な問題が生じます。上記毎日新聞社の記事から引用しますと「人口規模を上回るごみや下水道処理、救急出動などの経費がかさむ」ことであり、「観光施設の整備や運営に加え、ごみや下水道処理、救急出動など一部でも観光客が関わるサービス経費は多額だ。コロナ禍前の2019年度で入湯税の収入をあてても23.6億円が必要だった」とのことです。

 箱根町は、2019年に有識者からなる検討会議を設置しています。COVID-19の影響でしばらく中断されていました、2023年10月から議論が再開されました。

 上の引用文で23.6億円という数字が出てきますが、これは同町にとって巨額な経費です。何故なら、1996年度の町税収入が78.4億円しかなかったのです。しかも、この年度がピークであって、2015年度の町税収入は59.7億円です。町税収入のかなりの割合を「一部でも観光客が関わるサービス経費」が占めることになります。箱根町は地方交付税交付団体ですし、令和6年度箱根町一般会計予算第1条第1項によれば歳入歳出予算の総額は10,847,000千円、すなわち108億4700万円ですが、それでも20%を超える額がサービス経費のために必要であるということでしょう。

 このような事態を迎え、箱根町が何もしなかった訳ではありません。2016年度に、同町は固定資産税の税率を0.18%引き上げたとのことです。上記毎日新聞社記事では詳しいことがわからず、2015年度までは地方税法に定められる標準税率よりも箱根町の税率が低かったということなのかもしれませんが、おそらく違うのでしょう。参考までに、現在の箱根町町税条例第20条を紹介しておきます。

 第1項:「固定資産税の税率は、100分の1.4とする。」

 第2項;「国際観光ホテル整備法(昭和24年法律第279号)の規定により登録を受けたホテル業又は旅館業の用に供する家屋に対して課する固定資産税の税率は、前項の規定にかかわらず当該家屋が登録を受けた日の属する年度の翌年度から次に掲げる年度の区分に応じ、それぞれに定めるとおりとする。

 第1年度 100分の0.7

 第2年度 100分の0.84

 第3年度 100分の0.98

 第4年度 100分の1.12

 第5年度以降の各年度 100分の1.26」

 (記事の内容などからすれば、第2項に定められる税率が引き上げられたということでしょう。)

 観光客が多いとはいえ、人口減に見舞われる可能性が高く、将来的に財源不足が解消される可能性は非常に低いでしょう。そこで、検討会議は他の税に目を向けました。

 まずは入湯税です。この税については私も「地方目的税の法的課題」(日税研論集46号に掲載)で取り上げたことがあります。この税は目的税であり、地方税法第701条によると「鉱泉浴場所在の市町村は、環境衛生施設、鉱泉源の保護管理施設及び消防施設その他消防活動に必要な施設の整備並びに観光の振興(観光施設の整備を含む。)に要する費用に充てるため、鉱泉浴場における入湯に対し、入湯客に入湯税を課するものとする」というものです。つまり、入湯税の収入の使途は限定されている訳で、「人口規模を上回るごみや下水道処理、救急出動などの経費」に充てることはできないということになります。同条にいう「消防活動に必要な施設の整備」や「観光の振興(観光施設の整備を含む。)に要する費用」にごみ処理、下水道処理、救急車の出動などのための経費を読み込むことも不可能ではないでしょうが、文言解釈の範囲を超えてしまうと考えるほうが自然です。あくまでもごみ処理、下水道処理、救急車の出動などの経費は一般的な行政サーヴィスの領域に属するものであり、観光客云々は結果的に含まれるに過ぎないからです。敢えて記すなら目的論的解釈または拡張解釈によって「観光の振興」に必要な費用のうちに読み込むことも可能でしょうが、限度があります。救急車の出動などの経費であれば「消防活動に必要な施設の整備」のための費用に含めることもできますが、やはり限度があります。

 おそらく、その点を検討会議もわかっていたのでしょう。一時は入湯税の増税も検討されたようですが、地方税法によって限定される使途を念頭に置けば、入湯税の税率を引き上げたところで一般的な行政経費に入湯税の税収を向けることができません。可能であるとしても一部でしかありません。さりとて、箱根町町税条例第3条第1項に同町が課する普通税として列挙される町民税、固定資産税、軽自動車税、町たばこ税および特別土地保有税の税率を引き上げることは、住民の負担が増えるだけであって、観光により生ずる経費への対策としては筋が違います。上記毎日新聞社記事によると、箱根町の入湯税の「税収、入湯客ともに1987年度以降、日本一をキープしており、19年度は約6億2000万円の収入があった」とのことですから、地方税法が目的税という形で市町村の条例制定権に枠をはめていることになり、予算編成権にも制約をかけていることになるのです。

 〔せっかくのことですから、箱根町町税条例第37条を紹介しておきましょう。次のような条文です。

 「入湯税の税率は、入湯客1人1日について、それぞれ次の各号に掲げる区分によるものとする。

 (1) 宿泊を伴うもの 150円

 (2) 宿泊を伴わないもの 50円」〕

 入湯税に限度があるとなれば、地方税法に税目として示されていない税、すなわち法定外税の出番です。最近の法定外税の定番といえば宿泊税でして、このブログでも導入論議のいくつかを紹介していますが、箱根町の検討会議も宿泊税に目を付けました。現在、神奈川県には宿泊税を課している地方公共団体が一つもありませんから、関東地方に旅行される方は東京都ではなく神奈川県の川崎市や横浜市などに宿泊されることを強くおすすめいたしますが、箱根町が導入すれば神奈川県で初の例ということになりそうです。

 法定外税の場合、例えば箱根町が宿泊税の賦課徴収を定める条例を制定した後(町税条例の改正でも同様です)、施行の前に総務大臣との事前協議を行う必要があります。これまでの宿泊税の導入例はいずれも目的税ですから地方税法第731条以下によることとなりますが、箱根町が目的税として宿泊税を導入しようとするならば、町税条例を改正して宿泊税に関する規定を設けるか、町税条例とは別に宿泊税条例を作って町議会の可決を得た後に、地方税法第731条第2項により、総務大臣との事前協議を行う必要があります。その上で、総務大臣の同意を得る必要がありますが、同法第733条により、総務大臣は、宿泊税が「国税又は他の地方税と課税標準を同じくし、かつ、住民の負担が著しく過重となること」、「地方団体間における物の流通に重大な障害を与えること」または「前二号に掲げるものを除くほか、国の経済施策に照らして適当でないこと」のいずれかに該当しない限り、同意をしなければなりません。これまで同意されなかった例がありませんから、箱根町が宿泊税を導入することについて総務大臣が同意しないことはないでしょう(同意がないというのは、条例に余程の問題があるということになりますが、事前協議は地方税法に規定がなかった時代でも実際には行われていましたし、前例に従わないような条例を制定して施行しようとする地方公共団体はまず存在しないでしょう)。総務大臣の同意を要する事前協議は、箱根町が普通税として宿泊税を導入する場合でも必要であり(地方税法第671条)、私は普通税としての宿泊税の導入も可能であると考えています(異論がある方は是非とも御意見などをお寄せください)。勿論、目的税にするとしても条例で目的を示せばよい訳です(広く示しても許されるでしょう)。

 ただ、宿泊税というものは、あくまでもホテルや旅館に宿泊する観光客を納税義務者として課する租税です。上記毎日新聞社記事にも「観光客の7割以上を占める日帰り客からは徴収できないというジレンマがある」と書かれている通りです。

 それならば、例えば太宰府市の「歴史と文化の環境税」(普通税)のように、駐車場利用者を納税義務者とする租税を課するなど、手はあります。場合によっては、宮島訪問税のようなものを課することも考えられます(この場合には特別徴収義務者となりうる企業、例えば箱根登山鉄道の意向も聴取する必要があります)。もっとも、日帰り客に対する課税の場合、町内の複数の観光施設を訪れる観光客からはその都度税を徴収することになるので、この点は問題でしょう。

 さらに、上記毎日新聞社記事には「これまでの検討会では、山梨県と静岡県が実施してる富士山の入山料『富士山保全協力金』などについても意見が交わされた。1人1000円で、環境配慮型トイレの整備などに充てられているが、任意という課題がある」と書かれています。租税でない以上、任意であるのは当たり前であり、町の財源確保の観点からすれば弱いということでしょう。

 上記毎日新聞社記事は「議論の方向性は見えておらず、検討会は26年9月までに報告をまとめる。町側は『最も望ましい負担のあり方を模索したい』と見守っている」という文で締めています。確かに、箱根町という地方公共団体の状況を考えると難しい問題でしょう。しかし、観光客も当該地方公共団体による行政サーヴィスを多少なりとも受けているという事実を考慮すれば、箱根町が観光客に対して何らかの税負担を求めるというのは、何らおかしなことではなく、むしろ自然な流れであることも否定できません。箱根町の場合は、宿泊税とそれ以外の法定外税の二本立てという方法で臨むのが現実的であると考えられます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

公立化か閉校か

2024年04月17日 14時00分00秒 | 国際・政治

 千葉科学大学の公立化の話が浮上したのは2023年10月1日です。これは、千葉科学大学の側から銚子市に出された要望でした。このブログでも2024年2月2日0時0分付で「千葉科学大学の公立化は難航することに」として取り上げましたが、その続きというべき内容になります。読売新聞社が、2024年4月16日の16時54分付で「千葉で大学運営する加計学園『公立化無理なら撤退』…検討委の委員『我々の議論に圧力』『聞き違いかと思った』」として報じています(https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/news/20240416-OYT1T50064/)。

 4月14日に、銚子市で公立大学法人化検討委員会の第1回会合が開かれました。当初は1月に開催されるはずでしたが、詳しい事情がわからないものの、上記読売新聞社記事によれば「市と加計学園の事前協議が整わず、1月予定の開催がずれ込んでいた」とのことです。

 検討委員会のメンバーは10人で、学識経験者や経済界代表などから構成されています。銚子市のサイトに千葉科学大学法人化検討委員会のページがあり、14日の会合は公開で行われていました。また、千葉科学大学法人化検討委員会のページには資料3として「千葉科学大学公立大学法人化検討委員会スケジュール(案)」が掲載されており、次のような予定が書かれていました。

 第1回(4月14日):千葉科学大学の公立大学法人化に関する要望について/千葉科学大学の現状とこれまでの取組について/今後の検討委員会の進め方について

 第2回(5月12日):千葉科学大学を取り巻く環境について/千葉科学大学誘致の検証について

 第3回(6月30日):他の公立大学の運営状況について/公立大学法人による運営の可能性について

 第4回(7月中に予定):これまでの議論の総括/最終とりまとめ案の審議

 第5回(8月中に予定):最終とりまとめ

 検討委員会の委員には千葉科学大学関係者、つまり加計学園関係者が入っていませんが、当事者ということで第1回の会合に参加していました。そこで、加計学園側は次のように説明したとのことです。

 (1)2022年度までに公立化した11の大学の全てで、2022年度の入学者数が定員が上回った。公立化することによって「授業料が引き下げられ、大学のブランド力が上がり、学生が集まる」。千葉科学大学についても「公立化すれば、30年度には8億円超の黒字を確保できる」。

 (2)千葉科学大学では定員割れが続いており、収支は2022年度まで7年連続の赤字となっており、公立化がなされなかったら学生募集を停止し、在学生の全員が卒業したら閉校する(記事では「撤退」と書かれています)

 まず、(1)についてですが、検討委員会の資料6-2「千葉科学大学の現状とこれまでの取り組み(2) - 銚子市と共に歩む大学、千葉科学大学-」(千葉科学大学が提出)には次のように書かれています。

 「5.公立化の意義

 ▷公立大学になることで、ブランド力が高まり、地域からだけでなく全国から入学志願者の応募が期待できる。 また、銚子市のブランド力の向上に貢献できる。

 ▷銚子市の政策や地域の要請に応えた教育プログラムの見直しやコースの設定、大学院研究科の充実、地域を志向した 「地育地就」の推進などにより、地域の発展に貢献できる人材育成や産官学金連携を強化することができる。

 ▷地域の特色を生かした魅力ある教育・研究プログラムを提供することで、地域の優秀な人材の流出を抑制するとともに、 市域外から銚子市への若者の流入や定着が期待でき、地域経済規模の拡大や活気ある街づくりに貢献できる。

 ▷銚子市と千葉科学大学が一体となることで、市のシンクタンクとしての機能をさらに果たすことができるようになると ともに、学生による地域における社会貢献活動の強化など、学生による主体的な街づくりへの参画が期待できる。

 6.公立化した場合の運営の考え方

 ・公立大学法人となった場合は、総務省から設置者である銚子市に地方交付税が交付され、銚子市から大学に運営費交付金(定員充足した場合約28億円)の交付が見込める。

 ・公立化後は、授業料等の学生納付金と運営費交付金を主要な財源として運営するが、教員の教育研究力の強化により、 外部資金の獲得に努める。

 ・私立大学より低額の授業料設定により、従前の奨学制度は概ね廃止とするが、地域限定の奨学制度については内容を見直し継続する。

 ・学生確保により収容定員を充足させることによって収入増が見込まれ、安定経営(黒字経営)により財政基盤の確立を図ることができる。」

 しかし、公立化のメリットの根拠がほとんど示されておらず(別の資料も参照しましたが、公立化によって入学検定料、入学金、授業料がどうなるのかということが書かれているものの、どのような理由によってそうなるのかということは示されていません)、検討委員会の委員から疑問が出されました。公立化をしたからといって直ちに学生数を確保できるとは考えられず、加計学園側の努力(定員減、学部再編など)を求める意見が出てもおかしくはありません〔但し、これまでいくつかの学科や専攻(大学院)の募集停止が行われていました〕。また、千葉科学大学の場合、2023年度における薬学部の定員充足率が36%、危機管理学部が51%、看護学部が44%となっており、委員からは原因についての分析を求める声が出ました(「ここまで(入学定員充足率が)下がるのは見たことがない」という指摘がなされたそうです)。

 さらに、上記読売新聞社記事には「校舎などの老朽化に伴う将来の修繕、建て替え費用の確保についても、懸念の声が出た。『大学の資産はどれくらいあるのか。その情報がないと議論にならない』として、加計学園に貸借対照表などの財務資料や、修繕費の将来試算を提出するよう求めた」と書かれています。千葉科学大学が提出した資料には「大学・学部設置に伴う銚子市及び加計学園の支出額」というページがあり、「千葉科学大学 資金収支計算書」には2004年度から2022年度までの収支が図示されているのですが、「貸借対照表などの財務資料」や「修繕費の将来試算」は示されていません。

 次に(2)についてです。これまで私立大学から公立化された大学としては、このブログでも取り上げた福知山公立大学(公立化前は成美大学)、高知工科大学などがあります。それぞれの事情について私は存じませんし、論文ではなくブログ記事に過ぎませんからここで調べた後に書くつもりもありませんが、私立大学側が「公立化が無理なら撤退」という趣旨の発言をした例はあったのでしょうか。

 4月14日の会合では、千葉科学大学、つまり加計学園は明確に「公立化が無理なら撤退」を述べたそうです。やはりというべきか、委員からは不快感が示されたそうですし、委員長も「我々の議論を制約する」と述べたそうです。ただ、加計学園の態度はかなり明確にされたとも評価できます。公立化であれ閉校であれ、加計学園が千葉科学大学から手を引く意向であることは明らかです。ここは銚子市の態度如何によると言えます。

 ただ、銚子市としても、公立化にそう簡単に手を出すこともできないでしょう。さりとて、千葉科学大学の閉校後の跡地利用も頭を悩ませる問題です。他の大学との合併という選択肢もあるとは思うのですが、現実的、非現実的のどちらでしょうか。

 4月16日には高岡法科大学の募集停止も報じられました。同大学については公立化の動きなどがなかったようです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

川崎市の人口が155万人を突破した

2024年04月12日 00時00分00秒 | 国際・政治

 川崎市に生まれ育った私は、実のところ、三代続けば江戸っ子というのと同じ意味で川崎っ子であるため、やはり川崎市のことが気になります。

 溝口に住み始めて14年が経過しました。その間、高津駅や二子新地駅の周辺の人出が多くなっているような気がしていましたが、どうやら、これは私だけが感じていたことではなかったようです。神奈川新聞社のサイトに、2024年4月11日の18時30分付で「川崎市の人口155万人突破 30年には160万人の見込み 増える要因は」という記事が掲載されています(https://www.kanaloco.jp/news/government/article-1070086.html)。

 残念ながら、上記神奈川新聞社の記事は会員でなければ全文を読めませんので詳細はわかりません。ただ、川崎市が4月11日に(4月9日現在での)人口155万人突破を発表したことが書かれていました。今後もしばらくは人口が増えると予想されており、2030年に160万5000人ほどにまで達するであろうとのことです(その2030年がピークであるとも予想されています)。

 川崎市の公式サイトを見たところ、上記についての直接の情報は掲載されていませんが、「川崎市の世帯数・人口、区別人口動態、区別市外移動人口(令和6年4月1日現在)」によれば、次の通りです。

 世帯数:779,004。

 人口:1,548,254。

 対前月増減人口:3,206。

 対前年同月増減人口:6,614。

 さらに、「令和6年3月中の人口動態を見ると、自然動態は409人減少し、社会動態は3,615人増加しました。区別の人口を見ると、全ての区で増加しました」と書かれています。

 上記神奈川新聞社記事には、川崎市の「人口は、市制を施行した1924(大正13)年の約5万人から100年間で約150万人増加し、155万242人となった。21年に、死亡者数が出生数を上回り自然減に転じたものの、1997年から2023年まで27年連続で転入を理由とする社会増が続いていることが、人口増の要因となっている」と書かれています。

 地元民が書くのもどうかとは思いますが、川崎市は物価、交通費などを考えると住みやすいと考えられます。面積は決して広くないのですが、7つの区にそれぞれの個性があり、選択の幅が広いのではないでしょうか。どう見ても馬鹿らしいランキングの一つに「住みたい街ランキング」がありますが、いかにあてにならないものであるかがわかります。

 ※※※※※※※※※※

 以下はテーマと関係のない、どうでもよい話。

 昨日、地方税共同機構のeLTAXのサイトを使って川崎市の固定資産税・都市計画税の納付を行いました。クレジットカード、インターネットバンキング、スマートフォン決済アプリのいずれかを利用することができますが、納付額が多い場合には最も現実的であるのがインターネットバンキングであると考えられるため(全く逆がスマートフォン決済アプリ)、インターネットバンキングを利用しました。意外なほどに簡単に済みました。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

熱海市が宿泊税の導入を決める

2024年03月14日 22時55分00秒 | 国際・政治

 テレビ静岡が、今日(2024年3月14日)付で「静岡・熱海市『宿泊税』2025年4月から導入へ 満足度高い観光地へ…1人1泊200円」として報じていました(https://www.sut-tv.com/news/indiv/26020/)。

 今日、熱海市議会が宿泊税条例案(正式名称は書かれていません)を全会一致で可決しました。同市は、2025年4月から施行することを目指しています。これから総務大臣との事前協議に入りますが、おそらく総務大臣は同意するでしょう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ニセコ町で宿泊税

2024年03月14日 00時00分00秒 | 国際・政治

 昨日(2024年3月13日)付の日本経済新聞朝刊5面12版に「ニセコ 宿泊税11月から 総務相が同意 1泊最大2000円」という記事が掲載されていました。

 北海道にあるニセコ町は、地方自治に携わる方々やスキー愛好者の方々には御馴染みの場所でしょう。とくに、スキーという点では海外からの観光客が多いことも知られています。そこに町は目を付けたのでしょう(このようなことは上記日本経済新聞には露骨に書かれていませんが、「高級ホテルが多く立地する」ことは書かれています)。最大2000円と高額であることも説明が付きます。

 「最大2000円」と書かれているように、税額は宿泊料金によって異なります。次の通りです。

 宿泊料金5000円未満:税額は100円。

 宿泊料金5000円以上2万円未満:税額は200円。

 宿泊料金2万円以上5万円未満:税額は500円。

 宿泊料金5万円以上10万円未満:税額は1000円。

 宿泊料金10万円以上:税額は2000円。

 既に条例は2023年12月のニセコ町議会で可決されており、地方税法の規定によって総務大臣との協議に入っていました。一昨日、つまり3月12日に総務大臣が同意したということです。上記日本経済新聞には明確に書かれていませんが、これまでの宿泊税の導入例と同じく法定外目的税でしょう。

 施行は今年の11月からです。最近はビジネスホテルでも宿泊料金が上昇する傾向にあるようですから、宿泊地と宿泊料金には注意しましょう。

 今や、宿泊税は法定外税のトレンドになっています。東京都では増税の方向で見直すようです。

 ただ、このブログでも記したように、北海道、札幌市、倶知安町が宿泊税の導入を検討しています。ニセコ町も北海道にあるので、北海道が宿泊税を課すようになれば、ニセコ町に宿泊する際にはニセコ町の宿泊税と北海道の宿泊税の双方が宿泊料金に上乗せされることとなります。一種の二重課税に当たるのではないかとも考えられます。また、以前にも記しましたが、私は、然したる根拠はないとはいえ、現在大きな問題とされているオーバーツーリズムなどは短期的なものと予想しています。この予想が当たれば、宿泊税で税収を稼げる期間も短くなり、むしろ国内の観光業などを阻害する可能性も出てきます。こういうことは考えられていないのでしょうか。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

地方交付税についての事項要求

2024年03月06日 07時00分00秒 | 国際・政治

 今更ながらの話ですが、かつて「地方交付税法第6条の3第2項の解釈と運用」という論文〔早稲田法学第95巻3号第2分冊(2020年)に掲載)を書いた者として、メモ程度に記しておきます。

 2023年8月31日に「令和6年度総務省所管予算概算要求の概要」が公表されました。その3頁に、次の記述が見えます。

 「令和6年度において、引き続き巨額の財源不足が生じ(1.8兆円)、平成8年度以来29年連続して地方交付税法第6条の3第2項の規定に該当することが見込まれることから、同項に基づく交付税率の引上げについて事項要求する。」

 これはかなり異常なことではないでしょうか。30年近くも同じ状態が続いているのです。もう、地方交付税制度、税源配分を初めとした地方税財政制度全般についての再構築が求められるべき時に来ていると言えます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

弘南鉄道大鰐線の廃止を求める声が

2024年03月04日 20時30分00秒 | 国際・政治

 たまたま、仕事の合間にYouTubeで鐵坊主さんの「暇坊主チャンネル」を見て知ったことです。

 このブログでも何度か取り上げた弘南鉄道大鰐線について、弘前市議会で廃止を求める発言が相次いだようです。東奥日報社が2024年2月29日付で「大鰐線廃止求める発言相次ぐ/弘前市議会」(https://www.toonippo.co.jp/articles/-/1732562)として報じていますが、Web会員でないと全文を読めないため、Yahoo! Japan Newsに同日付で掲載された「『弘南線(弘前-黒石)に集中すべき』弘南鉄道大鰐線廃止求める発言相次ぐ 青森・弘前市議会」(https://news.yahoo.co.jp/articles/80d5b4b29c0eba8db53c0a57aa65bebc0ada2945)を参照しましょう。

 別記事で記したように、大鰐線は当初から弘南鉄道の路線であった訳ではなく、弘前電気鉄道という会社が1952年に開業させた路線であり、1960年代には苦境に陥り、廃止の論議が生じました。1970年に弘前電気鉄道は解散し、大鰐線は弘南鉄道に引き継がれ、現在に至っています。詳しいことはわかりませんが、弘南線が黒字を計上した年が多かったのに対し、大鰐線は赤字を計上し続けていたようで、内部補助で存続してきたようなものでした。しかし、弘南線も2017年度に赤字に転落しています。それよりも前、2013年6月下旬に弘南鉄道社長が大鰐線の廃止を表明しました。これは同月の株主総会における議題にあげられていなかったことでしたが、当時から大鰐線の廃止が意識されていたことには注意が必要です。

 さて、弘前市議会に話を移しましょう。2月28日の一般質問で、弘南鉄道が大鰐線を廃止して弘南線の維持に経営資源を集中すべきであるという趣旨の発言が相次ぎました。これは、おそらく、2月27日に弘南鉄道が青森県に対して追加財政支援を要請したことを受けたものと思われます。

 御記憶の方も多いと思われますが、2023年8月に大鰐線で脱線事故が発生し、9月25日には線路の不具合を理由とする弘南線、大鰐線両線の運休が始まりました。弘南線の運休は11月6日まで続きました。一方、大鰐線の津軽大沢駅から中央弘前駅までの区間で運転が再開されたのは11月20日、同線の全線での運転再開は12月8日でした。既にこの頃には大鰐線の存廃問題もかなり議論されてきていたようで、朝日新聞社2023年11月7日付「1カ月以上の全面運休、弘南鉄道が運転再開も課題は山積」(https://www.asahi.com/articles/ASRC67SQXRC6ULUC00R.html)には大鰐線の赤字額が約9700万円であり、「沿線5市町村でつくる活性化支援協議会は、路線存続のため21年度から5年間で同社に約5億1100万円の財政支援をしている。だが、26年度以降も継続するかは、今年度の経営状況などを踏まえ、来春から検討するとしている」、「弘前市の桜田宏市長は10月の定例会見で、整備コストが比較的安いライトレールも例に挙げ、『あらゆる可能性を視野に議論が必要だ』と話した」と書かれています。

 市議会議員の発言には「安全管理体制が危機的状況だ」、「公共交通機関の責務を果たせるだけの体力や組織力があるのか。2路線両方は無理で、選択と集中が必要ではないか」というものがあったようです。一方、市長は、2024年度中に大鰐線の存廃に関する判断が行われることを踏まえて「同社の改善状況を注視し、市民の声を平等に拾い上げた上で、市民の足がどうあるべきか沿線自治体などと協議を重ねたい」、「市民の交通手段である公共交通をどうするのか、という問題だ。今あるものを生かすのか、代替手段があるのか。実現可能性も含めた深い議論が必要だ」などと発言しました。また、これは市議会においてではなく、取材に対しての発言であるようですが、市長は大鰐線の廃線の影響が大きいとも述べたようです。2023年に弘前市民の4000人を対象としたアンケートで、仮に大鰐線が廃止されると高齢者の移動手段がなくなるという回答が87%に達したことが理由となっています。また、大鰐線には弘高下、弘前学院大前、聖愛中高前、義塾高校前といった駅があることからすれば、通学のための手段も問題となるでしょう。のと鉄道能登線が廃止されてバス転換されたことで高校生の通学などに悪影響が出たことも想起しておく必要はあります。

 とは言え、大鰐線の廃止は現実的に最も大きな選択肢であると思われます。この路線は、起点の大鰐駅から義塾高校前駅までJR奥羽本線と完全に並行しており、義塾高校前駅から中央弘前駅まではJR奥羽本線から少し離れた所を走っているものの、並行路線と言えます。また、終点の弘前中央駅は大鰐線のみの駅であり、弘南線の起点でもある弘前駅から1キロメートル以上離れています。弘南鉄道の路線となる前に廃止の議論が出ており、しかもその原因の一つが弘南バスとの競争に敗れたことという歴史を考えると、存続してきたことが一つの驚異とも言えます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

和歌山県高野町で法定外税の導入か

2024年03月02日 15時00分00秒 | 国際・政治

 ここに来て、法定外税の導入への動きが活発になってきました。地方分権一括法が制定されてから25年ほどが経過しようとしている中で、注目すべき潮流と言えます。

 今日(2024年3月2日)も和歌山県から法定外税の導入に関する話が入ってきました。読売新聞社が、今日の6時付で「高野山観光客に『入山税』…高野町、観光公害対策で導入方針」(https://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/news/20240301-OYO1T50054/)として報じています。

 高野町と聞いてすぐに高野山を思い起こす方は多いでしょう。そう、その高野山に関係のある話で、高野町は「入山税」として観光客から徴収することなどを検討するようです。実際に「入山税」となるかどうかはわかりませんが、法定外税であることに変わりはありません。

 高野町が3月1日に発表したのは、法定外税の導入の方針であり、具体的なことはこれから決めるそうですが、上記読売新聞記事に書かれているところによれば「高野山への観光客は年間約150万人で、盆や紅葉の時期は、町人口の約10倍にあたる2万~3万人が訪れる日もある。駐車場の警備や公衆トイレの管理だけで年約4000万円かかり、町と高野山真言宗・総本山金剛峯寺で負担しているという」とのことです。

 私が気になるのは、信仰の自由との関係です。勿論、賦課徴収の仕方にもよります。仮に金剛峯寺の拝観料に上乗せする形であるとするならば、金剛峯寺が特別徴収義務者となるので、かつての奈良県文化観光施設税と京都市古都保存協力税について生じた問題が再燃する可能性もないとは言えません(場合によっては政教分離原則も問われるでしょう)。

 しかし、判例は、寺社を特別徴収義務者とし、拝観者に対して直接消費税を課することについて、一貫して合憲・合法とする傾向にあります。この点については、奈良地判昭和43年7月17日行裁例集19巻7号1221頁(奈良県文化観光施設税訴訟)、京都地判昭和59年3月30日行裁例集35巻3号353頁(京都市古都保存協力税訴訟一審判決)および大阪高裁昭和60年11月29日行裁例集36巻11・12号1910頁(京都市古都保存協力税訴訟控訴審判決)を御覧ください。

 金剛峯寺の理解が得られるならば、高野町の法定外税である「入山税」は実現する可能性は高いでしょう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

第213回国会内閣提出法律案第21号「地方税法の一部を改正する法律案」

2024年02月22日 00時00分00秒 | 国際・政治

 仕事のために、衆議院のサイトを見ました。

 現在召集されている第213回国会においては、地方勢法を改正するための法律案がが二つ提出されています。次の通りです。

 内閣提出法律案第2号=「地方税法等の一部を改正する法律案」

 内閣提出法律案第21号=「地方税法の一部を改正する法律案」

 第2号のほうは2024年2月6日に衆議院に提出されており、同月15日に衆議院総務委員会に付託されています。例年と同様に2024年度税制改正のための法律案です。

 これに対し、第21号は、2024年1月1日の能登半島地震に関するものであり、2024年2月16日に衆議院に提出され、同日に衆議院総務委員会に付託されるとともに同委員会において審査が行われ、2月20日に衆議院本会議において全会一致で可決されています。同日に参議院に送付されており、参議院総務委員会において審査された結果、21日に可決され、すぐに参議院本会議において可決されました。同日中に委員会審査と本会議での審議が行われたこととなります。従って、第2号より第21号のほうが先に成立することになりました。2月中に法律として公布し、即日施行ということになるものと思われます。

 また、内閣提出法律案第20号として「令和六年能登半島地震災害の被災者に係る所得税法及び災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律の臨時特例に関する法律案」が提出されています。名称からおわかりであると思われますが、第20号と第21号は対になっています。第20号も2024年2月16日に衆議院に提出され、同日に衆議院財務金融委員会に付託されるとともに同委員会において審査が行われ、2月20日に衆議院本会議において全会一致で可決されています。同日に参議院に送付されており、参議院財務委員会において審査された結果、21日に可決され、すぐに参議院本会議において可決されました。やはり、同日中に委員会審査と本会議での審議が行われたこととなります。従って、第1号より第20号のほうが先に成立することになりました。2月中に法律として公布し、即日施行ということになるものと思われます。

 第21号に付されている「地方税法の一部を改正する法律案要綱」の全文を引用しておきましょう。次のように書かれています。

 「一 令和六年能登半島地震災害の被災者の負担の軽減を図るため、令和六年能登半島地震災害によりその者の有する資産について受けた損失の金額については、所得割の納税義務者の選択により、令和五年において生じた損失の金額として、令和六年度以後の年度分の個人の道府県民税及び市町村民税の雑損控除額の控除及び雑損失の金額の控除の特例を適用することができるものとすること。(附則第四条の四関係)

 二 この法律は、公布の日から施行すること。」

 総務省のサイトには「地方税法の一部を改正する法律案の概要」が掲載されています。これには「令和6年1月に発生した能登半島地震による災害(以下「今般の災害」という。)では、広範囲において、生活の基礎となるような家財や生計の手段に甚大な被害が生じており、かつ、発災日が1月1日と令和5年分所得税(令和6年度分個人住民税)の課税期間に極めて近接していること等の事情を総合的に勘案し、臨時・異例の対応として、令和6年度分個人住民税について、以下のとおり今般の災害による損失に係る特別な措置を講ずる」と書かれており、続けいて「(雑損控除の特例)」として「今般の災害により住宅や家財等の資産について損失が生じたときは、令和6年度分の個人住民税(令和5年分所得)において、その損失の金額を雑損控除の適用対象とすることができる特例を設ける」と書かれています(引用に際して一部省略しました)。

 特例が定められない場合には、2025年度分の個人住民税(2024年分所得)から雑損控除を行うということになるので、1年早めて2024年度分の個人住民税において雑損控除を行うことが認められるということになります。本来であれば、2024年1月1日に被災したのであれば2024年分所得において考慮すべき事柄になりますが、これでは被災された方々に対して過酷な税負担を強いることになりかねませんので、2023年分所得に含めた上で雑損控除を認めるということになる訳です。当然と言うべき内容であり、衆議院本会議において全会一致で可決されるのも自然なことです(もっとも、会議録がまだ公表されていませんので、審査・審議の具体的な内容はわかりません)。

 「地方税法の一部を改正する法律案の概要」には雑損控除および繰り越しに関する図が書かれているので、参照していただくとよいでしょう。

 改正される予定であるのは地方税法の附則であり、「令和六年能登半島地震災害に係る雑損控除額等の特例」という見出しが付された新第4条の4の追加が重要です(というより、実質的にはこの条文の追加のみが中身です)。次の通りとなっています。

 第1項:「道府県は、所得割の納税義務者の選択により、令和六年能登半島地震災害(令和六年一月一日に発生した令和六年能登半島地震による災害をいう。以下この項及び第四項において同じ。)により第三十四条第一項第一号に規定する資産について受けた損失の金額(令和六年能登半島地震災害に関連するやむを得ない支出で政令で定めるもの(以下この項において「災害関連支出」という。)の金額を含み、保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより埋められた部分の金額を除く。以下この項において「特例損失金額」という。)がある場合には、次項に規定する申告書の提出の日の前日までに支出したものに限る。以下この項において「損失対象金額」という。)について、令和五年において生じた同号に規定する損失の金額として、第三十二条第九項(第三十三条第四項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)及び第三十四条第一項の規定を適用することができる。この場合において、これらの規定により控除された金額に係る当該損失対象金額は、その者の令和七年度以後の年度分で当該損失対象金額が生じた年の末日の属する年度の翌年度分の個人の道府県民税に関する規定の適用については、当該損失対象金額が生じた年において生じなかつたものとみなす。」

 第2項:「前項の規定は、令和六年度分の第四十五条の二第一項又は第三項の規定による申告書(その提出期限後において道府県民税の納税通知書が送達される時までに提出されたもの及びその時までに提出された第四十五条の三第一項の確定申告書を含む。)に前項の規定の適用を受けようとする旨の記載がある場合(これらの申告書にその記載がないことについてやむを得ない理由があると市町村長が認める場合を含む。)に限り、適用する。」

 第3項:「前二項に定めるもののほか、これらの規定の適用がある場合における道府県民税の所得割に関する規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。」

 第4項:「市町村は、所得割の納税義務者の選択により、令和六年能登半島地震災害により第三百十四条の二第一項第一号に規定する資産について受けた損失の金額(令和六年能登半島地震災害に関連するやむを得ない支出で政令で定めるもの(以下この項において「災害関連支出」という。)の金額を含み、保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより埋められた部分の金額を除く。以下この項において「特例損失金額」という。)がある場合には、特例損失金額(災害関連支出がある場合には、次項に規定する申告書の提出の日の前日までに支出したものに限る。以下この項において「損失対象金額」という。)について、令和五年において生じた同号に規定する損失の金額として、第三百十三条第九項(第三百十四条第四項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)及び第三百十四条の二第一項の規定を適用することができる。この場合において、これらの規定により控除された金額に係る当該損失対象金額は、その者の令和七年度以後の年度分で当該損失対象金額が生じた年の末日の属する年度の翌年度分の個人の市町村民税に関する規定の適用については、当該損失対象金額が生じた年において生じなかつたものとみなす。」

 第5項:「前項の規定は、令和六年度分の第三百十七条の二第一項又は第三項の規定による申告書(その提出期限後において市町村民税の納税通知書が送達される時までに提出されたもの及びその時までに提出された第三百十七条の三第一項の確定申告書を含む。)に前項の規定の適用を受けようとする旨の記載がある場合(これらの申告書にその記載がないことについてやむを得ない理由があると市町村長が認める場合を含む。)に限り、適用する。」

 第6項:「前二項に定めるもののほか、これらの規定の適用がある場合における市町村民税の所得割に関する規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。」

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする