ひろば 研究室別室

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行政法講義ノート〔第6版〕に向けての暫時改訂版 第25回 取消訴訟の本案審理、判決

2017年10月31日 00時00分00秒 | 行政法講義ノート〔第6版〕に向けての暫時改訂版

 以下について、当初は「第25回 行政事件訴訟法における、その他の問題点」とする予定でしたが、内容が多くなるため、分割して「第25回 取消訴訟の本案審理、判決」と「第26回 取消訴訟以外の抗告訴訟」といたします。また、既に「行政法講義ノート」〔第6版〕に掲載している第26回〜第31回については、題目を変更せず、第27回〜第32回といたします(11月1日更新予定です)。

 

 

 1.取消訴訟の本案審理

 基本的には民事訴訟と同じように進められる。行政事件訴訟法には、本案審理に関する規定が多くないためである。第7条も参照のこと。

 (1)処分権主義と弁論主義

 処分権主義とは、民事訴訟において、訴訟の開始、審理の対象、および訴訟の終了について、当事者に自由な処分権限を認める原則のことである。基本的には取消訴訟についても妥当するが、訴訟の終了に関しては(和解や請求の認諾について)議論がある。

 また、弁論主義とは、訴訟資料に対する当事者の処分権限に関するものであって、事件の事実と証拠の収集を当事者の権限とすることである。裁判所には次の3点が求められることとなる。

 ①当事者が主張していない事実を判決の資料として採用してはならない。

 ②当事者間に争いのない事実をそのまま判決の資料として採用しなければならない。

 ③当事者間に争いのある事実を証拠により認定する際には、必ず当事者の申し出た証拠によらなければならない(自らが証拠を収集することもできない)。但し、取消訴訟についてどこまで妥当するかは問題である。

 弁論主義に対するものとして、職権探知主義がある。これは、事件の事実と証拠の収集を当事者の権限とせず、裁判所の権限とすることであり、特徴は次の3点にまとめられる。

 ①当事者が主張していない事実でも判決の資料として採用できる。

 ②当事者に争いのない事実でも判決の資料として採用しないことができる。

 ③当事者間に争いのある事実を証拠により認定する際には、当事者の申し出た証拠以外に、職権で他の証拠を取り調べることができる。

 (2)職権証拠調べ(行政事件訴訟法第24条)

 職権探知主義の③に該当するもので、当事者が適切な立証活動をしない場合に裁判所の職権による証拠調べが可能である。規定にあるように、裁判所の権限であり、義務ではない。行政事件訴訟特例法時代の判決である最一小判昭和28年12月24日民集7巻13号1604頁(Ⅱ―201)は、裁判所が当事者の提出した証拠によって十分な心証を得られるのであれば、職権による証拠調べは必要ない、という趣旨を述べている。

 他方、裁判所が必要と認めたとき、職権で証拠調をすることができるが、その結果について当事者の意見を聴くことを要する。当事者の提出した証拠だけで心証を得られない場合に証拠調べをすることが認められるのであるが、実務では、当事者に対して、証拠の提出を促す訴訟指揮権ないし釈明権を行使する程度で終わるのがほとんどである。

 なお、職権探知主義の①については、明文の法律の根拠が必要であるというのが通説である。

 (3)職権進行主義(民事訴訟法第93条・第98条など)

 日本の民事訴訟法は、訴訟の手続面について当事者主義ではなく、職権進行主義を採る。取消訴訟についても妥当する。このことは、訴訟の内容について当事者主義(弁論主義)を採るのと対照的である。

 (4)訴えの併合や変更―関連請求など  行政事件訴訟法第13条は、関連請求について訴えの併合を認める。また、同第18条は「第三者による請求の追加的併合」に関する規定であり、同第19条は「原告による請求の追加的併合」に関する規定である(同第20条も参照)。

 また、同第21条は、取消訴訟の目的となっている請求を、当該処分に係る事務の帰属する国または公共団体に対する損害賠償などの請求に変更すること (訴えの変更)を認める。認められるための要件は、次の通りである。

 ①請求の基礎に変更のないこと。

 ②口頭弁論の終結に至るまで、原告が申し立てること。

 ③裁判所は、訴えの変更を許す決定を下す前に、当事者および損害賠償その他の請求に係る訴訟の被告の意見を聴かなければならないことがある。

 (5)訴訟参加

 これには、第三者の訴訟参加(同第22条)と行政庁の訴訟参加(同第23条)とがある。

 第三者の訴訟参加は、訴訟の結果によっては権利を害されうる第三者が、その申立てまたは裁判所の職権で訴訟に参加しうるというものである。予め当事者および第三者の意見を聴いた上で、そして当事者もしくは第三者の申し立て、または職権によって、裁判所は第三者の訴訟参加を決定できる。この場合の第三者について民事訴訟法第68条が準用される(行政事件訴訟法第22条第5項)。

 これに対し、行政庁の訴訟参加は、「処分又は裁決をした行政庁以外の行政庁」(監督権を有する上級行政庁など)の参加のことであり、裁判所が他の行政庁の参加を必要としていることもありうるので認められている。基本的には第三者の訴訟参加と同様であるが、民事訴訟法第69条が準用される(行政事件訴訟法第23条第5項)。

 また、裁判所は、行政事件訴訟法第23条の2に規定される場合に、釈明処分などをなすことができる(釈明処分の特則)。

 (6)審理の方法

 基本的には民事訴訟と同様であるが、行政庁の裁量行為に対する審査については特殊な問題がある他、行政事件訴訟法に特有の問題がある。

 職権証拠調べ(行政事件訴訟法第24条)については、既に述べた。

 立証責任については、法律要件分類説、事実考慮説、基本権分類説の対立がある。

 法律要件分類説は、民事訴訟の通説に従う考え方である。法律要件を、権利発生事実と権利障害・消滅事実とに分けた上で、行政庁の権限行使の根拠を権利発生事実とみて行政庁に立証責任を負わせるとする。

 事実考慮説は、正義公平・事案の性質・立証の難易などによる分配を説く。  基本権分類説は、自由権的基本権の制限を旨とする処分については行政庁が立証責任を負うとする。

 行政事件訴訟は、通常の民事訴訟と異なる性質を有すること、行政庁の処分はその性質が必ずしも一義的であるとは限らないこと(二重効果処分など)、行政処分は公益上の処分であることから、行政救済法においては、行政処分が、それに不服を有する者との関係に照らし、法律上・事実上の不利益を及ぼす性質であるか否かを検討することが必要である。そして、不利益処分については、その権限行使の根拠事実の立証責任を行政庁に負わせるのが適当であると考えられる。実際の取消訴訟では、大部分、被告である行政庁が立証責任を負っている。

 (7)文書提出義務()

 民事訴訟法第220条に規定される。

 (8)行政事件訴訟法第10条第1項

 これは、原告が自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として「処分」の取消しを請求できないという趣旨の規定である(原告適格に関する規定ではない)。

 (9)理由の差し替え

 第12回において扱った違法行為の転換と関係するが、ここで扱う。

 被告(行政庁)は、訴訟において当初の「処分」理由を別の理由に差し替え、または別の理由によって追完することが可能か?

 一般論としては、理由の差し替えまたは追完が全面的に禁止されていない。しかし、当初の「処分」理由の付記について、理由の差し替えを認めるか否かについて議論がある。また、「処分」理由が争点を決める場合については、当初の「処分」理由と同一性を有する範囲において、追完を認める。例えば、或る公務員について、争議行為に参加したという理由で懲戒処分を行ったが、実はこの公務員が別の政治集会に参加していたという場合である。。さらに、「処分」理由が個別行為ではなく全体的な事情の評価による場合には、被告行政庁は、「処分」を維持するためにあらゆる理由を主張しうるとする判決が存在する(例、租税の更正処分など)。

 ●最三小判昭和56年7月14日民集35巻5号901頁(Ⅱ―196)

 事案:X社は、青色申告の際に本件物件の譲渡価額を7000万円、取得価額を7600万9600円、譲渡損を600万円弱とした。これに対し、Y(所轄税務署長)は、取得価額を6000万円であるとして1000万円の譲渡益を認定する旨の増額更正処分を行った。X社は異議申立ておよび審査請求を経て出訴したが、一審の段階でYは、仮に本件物件の取得価額がX社の主張通りに7600万9600円であるとしても、譲渡価額は9450万円であり、X社の申告遺脱分である2450万円は所得に計上されるべきであり、結果として増額更正処分には何らの違法も存在しないと主張した。京都地判昭和49年3月15日行集25巻3号142頁はX社の請求を一部認容したが、大阪高判昭和52年1月27日行集28巻1・2号22頁はYの控訴を認容してX社の請求を全て棄却した。最高裁判所第三小法廷は、次のように述べてX社の上告を棄却した。

 判旨:本件において「Yに本件追加主張の提出を許しても、右更正処分を争うにつき被処分者たるXに格別の不利益を与えるものではないから、一般的に青色申告書による申告についてした更正処分の取消訴訟において更正の理由とは異なるいかなる事実をも主張することができると解すべきかどうかはともかく、Yが本件追加主張を提出することは妨げないとした原審の判断は、結論において正当として是認することができる」。

 ●最二小判平成11年11月19日民集53巻8号1852頁(Ⅱ−197)

 事案:逗子市民のXは、Y(同市監査委員)に対し、同市情報公開条例に基づいて住民監査請求に係る文書の公開を請求した。Yは公開拒否処分を行ったが、その理由は、本件文書が「市又は国の機関が行う争訟に関する情報であり、公開することにより、当該事務事業及び将来の同種の事務事業の目的を喪失し、また円滑な執行を著しく妨げるもの」であり、同条例第5条(2)ウの定められる非公開事由があるというものであった。Xは公開拒否処分の取消を求めて出訴した。Yは、一審の段階で請求の対象となった文書が同条例第5条(2)アの非公開事由に該当するという主張を追加した。横浜地判平成6年8月8日判例地方自治138号23頁はXの請求を認容した。Yは控訴したが、東京高判平成8年7月17日民集53巻8号1894頁は控訴を棄却した。最高裁判所第二小法廷は、Yの上告を認容し、原判決を破棄して事件を東京高等裁判所に差し戻した。

 判旨:「本件条例九条四項前段が、前記のように非公開決定の通知に併せてその理由を通知すべきものとしているのは、本件条例二条が、逗子市の保有する情報は公開することを原則とし、非公開とすることができる情報は必要最小限にとどめられること、市民にとって分かりやすく利用しやすい情報公開制度となるよう努めること、情報の公開が拒否されたときは公正かつ迅速な救済が保障されることなどを解釈、運用の基本原則とする旨規定していること等にかんがみ、非公開の理由の有無について実施機関の判断の慎重と公正妥当とを担保してそのし意を抑制するとともに、非公開の理由を公開請求者に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与えることを目的としていると解すべきである。そして、そのような目的は非公開の理由を具体的に記載して通知させること(実際には、非公開決定の通知書にその理由を付記する形で行われる。)自体をもってひとまず実現されるところ、本件条例の規定をみても、右の理由通知の定めが、右の趣旨を超えて、一たび通知書に理由を付記した以上、実施機関が当該理由以外の理由を非公開決定処分の取消訴訟において主張することを許さないものとする趣旨をも含むと解すべき根拠はないとみるのが相当である。したがって、Yが本件処分の通知書に付記しなかった非公開事由を本件訴訟において主張することは許されず、本件各文書が本件条例五条(2)アに該当するとのYの主張はそれ自体失当であるとした原審の判断は、本件条例の解釈適用を誤るものであるといわざるを得ない」。

 

 2.執行停止制度

 (1)行政事件訴訟制度における仮の権利救済制度としての執行停止制度

 行政事件訴訟法第44条は、行政庁の処分その他公権力の行使にあたる行為に仮処分の制度が適用されないことを定める。また、同第25条第1項は、原告が取消訴訟を提起しても、行政行為(など)の効果が停止されない旨を定める。これが執行不停止の原則である。

 しかし、これでは行政行為の公定力との関係で、現状が固定化され、原告の側に不利な状況が進み、結局、原告の救済の機会は失われてしまう。執行不停止の原則があるために、狭義の訴えの利益が問題とされやすいのである。

 もう少し丁寧に記すならば、原告が取消訴訟を提起したからといって、問題とされる処分の効力は停止しないため、期間が経過するうちに原状回復が困難になる。そうなると、判決の時点より前に、処分の効力が消滅したり、処分の効力を争う意味が消滅することもありうる。

 そこで、原告側からの申立てが一定の要件を充足する場合には、裁判所が処分の効果を一時的に停止させる、すなわち、処分の執行を停止させる決定を出せるようにした。これが執行停止である。行政事件訴訟法第25条第2項によって、処分、処分の執行・手続の続行による回復困難な損害を避けるために、緊急を要し、かつ、「本案」について理由があり、しかも「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ」(同第3項)がないときに限り、裁判所は執行停止ができるのである。

 (2)執行停止の要件

 行政事件訴訟法第25条第2項・第3項・第4項は、次に示す要件が充足される場合に限り、裁判所が執行停止を行いうる旨を定める。

 ①本案訴訟が適法に係属していること。

 ②「処分、処分の執行又は手続の執行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要がある」こと(同第2項)

 原状回復が困難である場合、金銭賠償が不可能な場合は勿論、これらが可能であってもそれらだけでは損害の填補がなされないと認められるような場合も含む(東京高決昭和41年5月6日行裁例集17巻5号463頁を参照)。裁判所が「重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする」(同第3項)。実際に認められたものとして、集団示威行進申請拒否処分がある。これに対し、可否の評価が分かれたものとして、出入国管理及び難民認定法に基づく退去強制令書による強制送還がある。

 ③「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれが」ないこと(第4項)

 この要件に該当するものとして、集団示威行進や集会、土地収用関係の事案がある。

 ④「本案について理由がないとみえ」ないこと(第4項)

 上記②の要件に関連する判例として、次のものがある。

 ●最三小決昭和53年3月10日判時853号53頁

 事案:外国籍のXが訴訟の遂行を目的として日本への上陸許可を得た。Xは3回の在留期間更新許可を得たが、4回目の許可は受けられず、神戸入国管理事務所から退去強制令書を発付された。Xはこの令書発布の取消しを求めて神戸地方裁判所に訴えを提起し、執行停止の申立ても行った。神戸地方裁判所は送還部分のみ本案判決言渡時まで停止するという決定をなし、大阪高等裁判所もこの決定を相当と判断した。Xは、送還部分のみの停止では、X敗訴という本案判決が出された場合に直ちに令書が執行されることになるとして、最高裁判所に特別抗告を申し立てた。

 決定要旨:たしかに、Xが本国に強制送還されれば、Xが自ら訴訟を追行することは困難になるが、訴訟代理人による訴訟の追行は可能であり、Xが法廷に直接出頭しなければならない場合に、改めて日本に上陸することが認められないという訳ではない。従って、令書が執行されてXが強制送還されたとしても、Xの「裁判を受ける権利が否定されることにはならない」。

 (3)執行停止の内容

 「処分」自体の効力の停止、執行の停止、および手続の続行の停止がある。

 (4)執行停止の効果

 執行停止の効果としては、次のものがあげられる。

 ①明文の規定はないが、効果は将来に向かってのみ発生する〔農地買収計画について、最三小判昭和29年6月22日民集8巻6号1162頁(Ⅱ―207)〕。

 ②執行停止には第三者効がある。これは、行政事件訴訟法第33条第4項により、同第1項を準用するためである。

 ③執行停止には拘束力もある。これは、同第33条第4項により、同第1項を準用するためである。

 (5)執行停止制度の限界

 そもそも執行不停止の原則を維持すべきかという問題があるが、これについては検討を控えることとする。また、執行停止に遡及効を認める必要はないのか、という問題があることも指摘しておこう。

 執行停止の効果をみれば明らかであるように、裁判所による執行停止の決定は原状回復の機能を有するが、回復すべき原状がない場合に執行停止の利益は存在しない。同第33条第4項の規定に注意していただきたい。例えば、免許取消処分の場合には、執行停止決定により、免許が取り消されない状態が(一時的であるとしても)回復することになるから執行停止決定の利益がある。これに対し、免許申請拒否処分の場合、仮に執行停止決定をしても、行政庁には申請に関する審査義務が発生する訳ではないので、執行停止決定の利益はないものとされる。

 (6)執行停止の決定に対する即時抗告

 同第25条第7項により認められる。但し、即時抗告は、執行停止の決定の執行を停止する効力をもたない(同第8項)。

 (7)内閣総理大臣の異議

 行政事件訴訟法第27条により、内閣総理大臣は、執行停止の申立てがあった場合、または執行停止の決定がなされた場合に、異議を申し立てることができる(異議には理由を付さなければならない)。この異議がなされたときには、裁判所は、執行停止をすることができない。また、執行停止の決定がなされたときには、裁判所はこの決定を取り消さなければならない。

 内閣総理大臣の異議は、行政事件訴訟特例法制定の過程において平野事件(第22回を参照)が生じたことにより、同法に置かれた制度である。行政事件訴訟法においても存続するが、現在に至るまで合憲説と違憲説とに分かれている。

 合憲説によると、裁判所の執行停止権限は、本来の司法権の作用ではない。行政権の作用であるはずのものが、国民の権利保護の見地により、司法権の作用とされるにすぎない。同第25条第4項の公共性の判断も、本来は行政権のものであるところを裁判官に委ねているにすぎない。

 他方、違憲説によると、執行停止制度は原告(停止の申立人)の権利利益を保護するためのものであり、裁判所にとり不可欠な制度である。そのため、執行停止権限は本来的に司法権の作用であって、内閣総理大臣の異議は、訴訟制度の基本構造に矛盾し、裁判官の職権行使の独立性を侵害し、司法権に対する侵犯である。また、執行停止制度には即時抗告制度が用意されているのであって、それで十分である。

 

 3.取消訴訟の判決

 (1)訴訟の終了方法

 民事訴訟と同様に、行政事件訴訟の終了方法は判決に限定されない。但し、方法によっては否定的に考えられている。

 まず、訴えの取り下げは、取消訴訟についても認められる。

 次に、和解については、肯定説も存在するが、通説(?)は否定説を採る。訴訟上の和解は確定判決と同じ効力を有するために、行政庁に「実体法上の処分権」がない以上は和解が許されないとするのである。ややわかりにくい説明であるが、「処分」は行政庁が法律に従って一方的に行うものであって、当事者間の話し合いで解決しうるようなものではない、ということである※。

 ※この問題については、さしあたり、交告尚史「行政訴訟における和解」髙木光・宇賀克也編『行政法の争点(ジュリスト増刊新法律学の争点シリーズ8)』(2014年、有斐閣)132頁を参照。

 請求の認諾については、和解についてと同様の理由により、これについても否定説が存在する。

 そして、(終局)判決である。取消訴訟の判決も、原則的には「民事訴訟の例による」(行政事件訴訟法第7条)のであるが、特例がある。

 (2)判決の種類

 取消訴訟の判決の種類も、基本的には民事訴訟と同様である。しかし、民事訴訟にはない種類もある。

 却下判決は、訴訟要件が揃っていない場合の判決である。民事訴訟にいう訴訟判決と同じと考えてよい。俗に門前払い判決とも言われる。訴訟要件が揃っていないため、請求の中身の審査に入らない、という訳である。

 棄却判決は、訴訟要件が揃った上で、原告の請求に従って「処分」を取り消すだけの違法事由がない場合の判決である。こちらは民事訴訟にいう本案判決の一種であると考えてよい。

 認容判決は、原告の請求に従って「処分」を取り消すだけの違法事由がある、すなわち、取り消すべき瑕疵があると認める判決のことであり、やはり民事訴訟にいう本案判決の一種である。認容判決により、裁判所は処分を取り消すことになる。なお、行政庁の裁量処分が取消訴訟の対象となっている場合、裁量権の範囲を逸脱したり裁量権の濫用があった場合にのみ、その処分を取り消す判決を下しうる(同第30条)。

 以上は民事訴訟と同様であるが、民事訴訟では存在せず、行政事件訴訟法第31条により認められる判決として、事情判決がある。本来であれば原告の請求に従って「処分」を取り消すべきであるが、原告の請求を棄却しつつ、「処分」の違法を宣言する判決をいう。これは、行政行為(など)を基礎として現状が変更された上で新たな秩序が形成されて既成事実化した場合、その既成事実を消滅させることが公共の福祉に反するような事態が生じうるために、認められている。

 事情判決の適用例としては、次のようなものがある。

 土地区画整理法や土地改良法による換地処分に関する判決:行政事件訴訟特例法第11条によったものであるが、最二小判昭和33年7月25日民集12巻12号1847頁は、土地改良区(土地改良法)の設立認可処分に対する無効確認請求がなされた事案について、事情判決を行っている。しかし、例は多くない※。

 ※塩野宏『行政法Ⅱ』〔第五版補訂版〕(2013年、有斐閣)198頁は、本来であれば事情判決が利用されるべき事案について却下判決がなされた例などをあげている。

 議員定数配分不均衡に関する判決:最大判昭和51年4月14日民集30巻3号223頁などが事情判決を用いるが、多くの批判がなされている。本文に示した判決は、事情判決を一般的な法の基本原則として扱っているようであるが、公職選挙法第219条第1項は、行政事件訴訟法第31条の準用を明文で排除しているからである。

 なお、第31条第2項により、中間違法宣言判決も認められる。これは、終局判決の前に、判決として「処分」の違法を宣言するものである。

 (3)認容判決=取消判決の効力

 民事訴訟の判決の効力として、執行力、形成力および既判力があげられるが、取消訴訟の判決では、執行力が問題とならない。以下、認容判決の効力を概観する。

 ①形成力

取消訴訟について形成訴訟説(通説)を採る場合、取消判決により、「処分」の効力は、それがなされた時点に遡って消滅する。すなわち、取消判決によってこの「処分」が最初から存在しなかったのと同じことになる。このような取消判決の力を形成力と表現する。形成力は、取消訴訟の原状回復機能を担うこととなる。

 これに対し、確認訴訟説によれば、行政庁に「処分」権限がないことが確認されるということを意味する。

 ②第三者効

 行政事件訴訟法第32条は、取消判決の効力がが第三者に及ぶ旨を規定する。これが取消判決の第三者効である。しかし、同条にはこの第三者の範囲が規定されておらず、問題となる。

 まず、原告と対立関係にある第三者については、第三者効が問題なく及ぶ。例として、土地の収用裁決を取り消す判決の場合には起業者に、農地買収処分を取り消す判決の場合には農地売渡処分の相手方に、建築確認処分を取り消す判決の場合には建築主に、判決の効力が及ぶ。

 これに対し、原告と利益を共通にするが訴訟には参加していない第三者については、議論がある。

 相対的効力説は、このような第三者には判決の効力が及ばないとする。その理由として、次の二点があげられる。第一に、仮にこのような第三者に判決の効力が及ぶとすれば、権利保護などについて何らかの手当をする必要があるが、法はそうした手当や手続を整備していない。第二に、取消訴訟の目的は何よりもまず原告の個人的な権利利益の保護の回復にある。

 絶対的効力説は、このような第三者にも判決の効力が及ぶとする。その理由として、次の二点があげられる。第一に、取消訴訟によって法律関係は画一的に処理されるべきである。第二に、一般処分の取消訴訟は必然的に代表訴訟的な性格を有する。

 ③既判力

 終局判決が確定すると、当該事案について、再び裁判所で判断しないことになる。こうして、判決が裁判所を拘束することになる。これを判決の既判力という。行政事件訴訟法には規定が存在せず、民事訴訟法第114条に規定されている。

 主観的な範囲は、訴訟当事者(およびその承継人)である。また、客観的な範囲は、訴訟物である。こうして、取消判決によって「処分」の違法性が確定する※。

 ※取消訴訟の訴訟物については議論があり、通説は「処分」の違法性一般であると解する。

 ④拘束力

 原則として、行政事件訴訟法第33条第1項により、「処分」を取り消す判決が出されるならば、行政庁は、判決の趣旨に従って行動するという実体法上の義務を負うことになる。すなわち、拘束力は、行政庁に対する効力であり、また、その他の関係行政庁に対する効力でもある。

 同第2項は、具体的な適用場面を規定する。これは実体上の問題に関する規定となっているが、手続上の問題についても同様に妥当する。そして、同第3項は、申請に基づいてした処分、または審査請求を認容した裁決が、手続の違法により取り消された場合について規定する(同第2項の準用)。

 ▲違法性の承継が認められるような場合には、先行「処分」Aが違法の故に取り消されると、行政庁には、Aの有効性を要件とする後行「処分」Bを取り消す義務が生ずる、と説明されることがある。但し、先行「処分」Aが取り消されるのであれば、後行「処分」Bの要件が欠けることになるからBは無効となり、あえて拘束力を持ち出す必要がないとする説もある※。

 ※塩野・前掲書188頁など。

 なお、最小三判昭和50年11月28日民集29巻10号1797頁(Ⅱ―192)は「農地買収計画についての訴願を棄却した裁決が行政事件訴訟特例法に基づく裁決取消の訴訟において買収計画の違法を理由として取り消されたときは、右買収計画は効力を失うと解すべきである」とし、その理由として「原処分の違法を理由とする裁決処分の訴は実質的には原処分の違法を確定してその効力の排除を求める申立にほかならないのであり、右訴を認容する判決も裁決取消の形によって原処分の違法であることを確定して原処分を取り消し原処分による違法状態を排除し、右処分により権利を侵害されている者を救済することをその趣旨としていると解することができる」とする。

 ⑤反復禁止効

 取消判決が出されると、行政庁は、同一事情の下において、同一理由による同一処分をなすことできない、ということである。

 (4)棄却判決の効力

 棄却判決の場合は、既判力のみが問題となる。判決が確定すれば、当該「処分」について原告が取消しを求める訴訟を再度提起することはできない。

 (5)違法判断の基準時

 取消訴訟の訴訟物たる「処分」の違法性をどの時点で判断すべきなのか、という問題がある。このような問題が生ずるのは、処分時と判決時との間に事実関係の変更や法律の改正・廃止がありうるからである。

 通説および判例〔最二小判昭和27年1月25日民集6巻1号22頁(Ⅱ―204)〕は処分時説をとるが、判決時説も有力である。なお、いずれの説に立つとしても例外を認めざるをえないことには注意が必要である。

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サントリーホールでイツァーク・パールマン(Itzhak Perlman)

2017年10月30日 00時17分50秒 | 音楽

 10月29日、関東地方でも時折強い雨が降る中、妻と一緒にアークヒルズのサントリーホールへ行きました。「FUJI XEROX Presents Perlman Violin Recital Japan tour 2017」の初日が行われたためです。

 お客さんも多く、会場では「満員御礼」の札も掲げられていました。どうでもいいことですが、この札の字が勘亭流で書かれており、後楽園ホールと間違えているのではないかと思いました。「笑点」の収録ではないのだから、という訳です。もっとも、サントリーは「笑点」のスポンサー企業でもありましたね。

 御年72歳、幼少時の病気による身体障害を抱えながらも一流のヴァイオリニストとして活躍してきたパールマンさんの演奏は、勿論、テレビやラジオでも聴いていますし、何セットかCDも買っています。とくに、バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタとパルティータ全曲集は、大学院時代に六本木WAVEで購入して以来、何度となく聴き返してきました。また、アイザック・スターン生誕60周年記念コンサートでの演奏も忘れられないもので、実は私がパールマンさんの演奏を初めて聴いたのが、そのコンサートの録音です(LPがCBSソニーから出ており、秋葉原で購入して、これも何度となく聴いています)。

 今回は、次の曲が演奏されました。

 前半

  シューベルト:ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ第1番二長調D.384

  ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第9番イ長調作品47「クロイツェル」

 後半

  ドビュッシー:ヴァイオリンソナタト短調

  当日案内の「ヴァイオリン名曲集」

   チャイコフスキー:弦楽四重奏曲第1番ニ長調第2楽章(「アンダンテ・カンタービレ」)

   フィオッコ:アレグロ(パールマンさんは「鈴木メソッドの第4巻か第5巻かに取り上げられている」というようなことを言われていましたが、そうだったでしょうか? 記憶にありません。)

   クライスラー:クープランの様式によるルイ13世の歌とパヴァーヌ

   プロコフィエフ:「3つのオレンジへの恋」より行進曲

   ウィリアムズ:シンドラーのリスト

   クライスラー:中国の太鼓

 アンコール

  ヴィエニャフスキ:エチュード、カプリースより第4番

 我々が座ったのは1階の前から2列目の左側で、パールマンさん、ピアノのロハン・デ・シルヴァ(Rohan De Silva)さんの背中は見えますが、ヴァイオリンなどはあまり見えません。そのせいなのか、それとも大ホールであったからか、ヴァイオリンの音が少々聴き取りにくいようにも思えました。時折、パールマンさんがヴァイオリンを正面に向ける時には聴き取りやすかったということも記しておきます。

 また、シルヴァさんのピアノについては、これほどピアノ伴奏という言葉が似合う演奏もないだろうと思えてきたほどですし、伴奏に徹しているという感じもするものでした。

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南武線の駅ナンバリング

2017年10月29日 00時02分44秒 | 写真

最近、南武線で駅ナンバリングが実施されました。武蔵溝ノ口駅はJN10、武蔵新城駅はJN09です。

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「ものづくり」も、所詮は神話か

2017年10月28日 00時00分00秒 | 日記・エッセイ・コラム

 日本人は神話が大好きなのでしょうか。

 「ものづくり」も、所詮は神話でしょう。わざわざひらがなで記すところが胡散臭いところでもあります。

 脆くも2011年3月11日に崩れ去った、原子力発電所の安全神話が、日本人が大好きで、深く信じてきた神話の代表ですが、神戸製鋼、日産自動車、スバル(SUBARU)……。時事通信社が、今日の20時55分付で「製造業、相次ぐルール軽視=揺らぐ『日本品質』」(https://www.jiji.com/jc/article?k=2017102701325&g=eco)として報じていて、その中で、トヨタ自動車の社長が「原因究明と再発防止を徹底することが『日本の「ものづくり」の強み』であり、『今こそしっかりやるべき』」と強調した」と語ったそうですが、何年も無資格者が検査を担当してきたこと自体、「ものづくり」が神話であることを物語っています。もっとも、無資格者であるから技術も経験もないという訳ではありませんから、一概には言えませんが、「ものづくり」を疎かに考えている人が少なくなかったことを端的に示しているとは言えます。

 このように記すと、「他の会社とかも同じようなことをやっているよ」と言われます。うちの妻にも言われました。そうであるなら、なおさら日本人に「ものづくり」は似合いません。今すぐにでも、まずは神話を捨て、「ものづくり」もやめてしまうほうがよいでしょう。どうせ「ものづくり」への誇りも何もないのですから(せいぜい、虚栄心などがある程度でしょう)。

 競争相手が手を抜いているなら、自分はいっそう手を入れて良い品を作るのが、本当の「ものづくり」でしょう。他人もやっているから自分も同じようなことをやる、というのでは、目新しさも何もありません。世界的に見て、日本の製造業が競争力を失った理由がわかるような気がします。

※※※※※※※※※※

 余談めきますが、鉄道車両で使われているステンレスを見ると、例えば、デビューから40年以上が経過する東急8500系の車体の外板は、今でもステンレス鋼のあの光沢を保ち続けていますが、最近の軽量ステンレスの車体では、登場して1年か2年も経つと光沢を失っています。どうかすると錆らしいものも目に付きます。ダルフィニッシュということもあるのですが、それでは説明がつかない違いも見受けられるのです。

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行政法講義ノート〔第6版〕に向けての暫時改訂版 第30回 行政組織法その2 国家行政組織法および地方自治法の基礎

2017年10月28日 00時00分00秒 | 行政法講義ノート〔第6版〕に向けての暫時改訂版

 1.改めて、国家行政組織法

 国の行政組織は、中央省庁等改革基本法に基づき、2001年1月6日に改編されたが、今も複雑多岐にわたる。このため、行政組織図などを参照されたい。また、第31回の「行政組織法の一般理論」の項目も参照されたい※。

 ※なお、比較的簡明な組織図を掲載しているものとして、大橋洋一『行政法 現代行政過程論』〔第2版〕(2004年、有斐閣)209頁がある。

 (1)憲法による行政機関の構成

 憲法第65条に示されているように、原則として、国の行政権は内閣に属する。そして、内閣府設置法、国家行政組織法、各省設置法に基づいて組織が設けられ、権限などの配分が行われる。但し、人事院は内閣の所轄の下にあり、国家公務員法を法的根拠とする。

 憲法上、内閣から完全に独立した行政機関の存在は許容されていない。但し、それに対する唯一の完全な例外がある。憲法第90条に基づき、憲法上の機関と位置づけられる会計検査院は、内閣から完全に独立している。

 なお、国の行政事務と考えられるもののうち、独立行政法人や特殊法人などによって担われるものがある(独立行政法人の動きなどに注意すること!)。

 (2)内閣

 内閣は、内閣総理大臣および国務大臣(原則14人以内、最大でも17人以内)によって構成される合議体である。職務は、憲法第73条を初めとする規定に掲げられるものの他、内閣法、各個別法による。

 内閣の意思決定は、内閣総理大臣が主宰する閣議による。この閣議に基づいて、内閣総理大臣が職権を行使し、行政各部を指揮監督する(内閣法の諸規定を参照)。なお、閣議における意思決定は全会一致によるとするのが慣行である(通説も支持する)。

 (3)内閣総理大臣

 内閣総理大臣は、次の三つの地位を占める(憲法第66条第1項・第68条第1項・同第2項、内閣法第4条ないし第8条、内閣府設置法第6条、国家行政組織法第5条第2項)。

 第一に、内閣の首長としての地位である。閣議の主宰、重要政策に関する基本方針などの案件の発議権、国務大臣の任免権、国会への議案提出権、一般国務・外交関係の国会への報告権、行政各部の指揮監督権、権限疑義の裁定権、中止権を有する。

 第二に、内閣府の長(内閣府設置法第6条)としての地位である。内閣府に係る事項については主任の大臣である。従って、国務大臣と同じ権限を有する。

 第三に、内閣に直属する部局(内閣官房、内閣法制局、安全保障会議)の行政事務についての主任の大臣としての地位である。

 なお、内閣総理大臣が各省の大臣を兼任することも可能である。

 第一次吉田内閣、第二次吉田内閣および第三次吉田内閣において、吉田茂内閣総理大臣が外務大臣を兼任していたことは有名である。また、第一次吉田内閣において吉田は短期間ながら農林大臣なども兼任していた。その後、石橋内閣(石橋湛山内閣総理大臣が郵政大臣を兼任)、第一次岸内閣(岸信介内閣総理大臣が外務大臣を兼任。但し、内閣改造後は藤山愛一郎が外務大臣を務めた)、竹下内閣(竹下登内閣総理大臣が大蔵大臣を兼任。但し、昭和63年12月9日から24日までのみ)、第二次海部改造内閣(海部俊樹内閣総理大臣が大蔵大臣を兼任。但し、平成3年10月14日以降)、第二次橋本改造内閣(橋本龍太郎内閣総理大臣が大蔵大臣を兼任。但し、平成10年1月28日から30日までのみ)、第一次小泉内閣(小泉純一郎内閣総理大臣が外務大臣を兼任。但し、平成14年1月30日から2月1日までのみ)という例がある。

 (4)内閣府

 内閣の機能強化のための一環として新設されたもので、内閣に置かれ、内閣官房を支援する組織であり、内閣の事務を助ける組織。内閣補助部局としての性質をも有する。以前の総理府と異なり、内閣府は他の省より上位の組織であり、国家行政組織法の適用を受けない。

 内閣府の長は内閣総理大臣であり、内閣官房長官も統括の役割を果たす。また、特命大臣が置かれることがある。

 (5)省・委員会・庁

 いずれもいわゆる3条機関であり、国家行政組織法第3条第2項、そして同法別表第一に掲げられている機関である。

 ①省

 省は内局として位置づけられている。行政事務を担当する機関であり、長は各省大臣である。

 ②委員会

 各省または内閣府におかれる外局の一つである。各省または内閣府の一部ではあるが、一定の独立性を有する。合議制の機関であり、委員会自体が行政庁となる。また、委員の任免方法、任期、資格要件が一般公務員と異なる。

 ③庁

 やはり、各省または内閣府に置かれる外局の一つである。各省または内閣府の一部ではあるが、一定の独立性を有する。包括的な行政機関である点で委員会と異なる。

 なお、委員長(委員会の長)と長官(庁の長)には国務大臣が充てられるものもある。

 (6)内部部局

 国家行政組織法によると、府または省の機関単位は、局・官房、部、課、室、職となる(大→小)。

 (7)附属機関

 3条機関に附属する附属機関であり、審議会等(国家行政組織法の条文から8条機関ともいう)、施設等機関(第8条の2)、特別の機関(第8条の3)がある。

 

 2.地方自治法

 〔1〕地方自治の基本的な意義

 a.地方自治の要素

 従来から、地方自治の要素として団体自治と住民自治の二つがあげられてきた。このこと自体についても議論があるが、ここでは通説に従うこととする。

 団体自治とは、国から独立した地域団体が設けられ、この団体が自らの事務を自らの機関により、自らの責任において行うことを指す。国家から独立した意思の形成に注目する。

 住民自治とは、地域の住民が、地域的な行政需要を、自らの意思に基づいて自らの責任において行うことを指す。住民が地域における意思の形成に政治的に参加する点に注目する。

 団体自治という側面から、地方公共団体の存立や権限行使に着目し、地方自治をいかに保障するものかという点に関して、地方公共団体が前憲法的な基本権を有することを前提として、自然権的・固有権的な基本権を保障するものであるとする固有権説と、地方公共団体は前憲法的な基本権を有せず、存立や権限行使などは国家によって決定されるものであるとする伝来説とが対立してきた。固有権説のほうが地方自治の保障に厚いとも言いうるが、歴史的にみても妥当とは言い難く、伝来説のほうが妥当性が高い。しかし、伝来説では、結局のところ、地方自治の制度自体が国家によって左右されてしまうため、憲法によって保障する意味が乏しくなる。そこで登場するのが、制度的保障説である。

 制度的保障説は、ドイツの公法学者カール・シュミット(Carl Schmitt. 1888-1985)が『憲法論』(Verfassungslehre)において提唱したものである。シュミットによると、憲法の規定には、基本的人権自体ではなく、特定の制度の存在を保障する場合がある。日本の公法学においても多くの学説や判例によって支持されている制度的保障論は、意味や範囲が論者によって異なるが、シュミット自身が最初にあげる例は地方公共団体の基本権である。彼はフランクフルト憲法やヴァイマール憲法の規定を引き合いに出して説明を行っているが、基本的な趣旨は、日本国憲法の解釈にも妥当するであろう。但し、何が制度の中心部分であるかという点が問題となる。

 なお、有力な説として、北野弘久博士による新固有権説がある。これは、制度的保障説を援用しつつも、国民主権原理と基本的人権の尊重から地方自治の固有権的な理解を導く。元々は地方税・地方財政に関する議論に由来するものである。

 b.日本国憲法における地方自治

 日本国憲法の第92条ないし第95条は、地方自治に関する規定である。このうち、第92条は「地方自治の本旨」を定めており、第93条は組織原理に関する規定である(但し、第92条と矛盾する関係にあるとも考えられる)。そして、第94条は、地方公共団体に、広範な権限を付与することを定めている。

 c.地方自治法の法源(成文法のみをあげておく)

 法源として最も基本的かつ最高の地位にあるのが憲法である。これを受けて地方自治法が存在する。そして、地方税法、地方財政法、地方交付税法、地方公務員法、地方公営企業法は、地方自治法の規定を受けて、それぞれの分野について規律をなす、という体系になっている。その他、個別法として警察法などがある。

 国の法令より下位に位置づけられるのが、地方公共団体による立法である。条例は地方公共団体の議会が制定する法であり、規則は地方公共団体の長が制定する法である。

 〔2〕地方公共団体とは?

 一般的に、国家の三要素になぞらえる形で、地方公共団体の三要素が主張される。住民、区域、法人格(地方自治法第2条第1項)の三つである。

 既に第29回において述べたように、地方公共団体は、普通地方公共団体と特別地方公共団体とに区別される。普通地方公共団体とは、都道府県および市町村のことであり(同第1条の3)、特別地方公共団体とは、特別区、地方公共団体の組合および財産区のことである。

 a.普通地方公共団体は、憲法上の自治権を保障される公法人である。

 ①市町村

 地方自治法第2条第4項により、市町村は基礎的な地方公共団体として位置づけられる。同第8条第1項は、市となるための要件を定めており、原則として、人口が5万人以上であること(同第1号)、当該普通地方公共団体の中心となる市街地を形成する区域内の戸数が全戸数の6割以上を占めていること(同第2号)、「商工業その他の都市的業態に従事する者及びその者と同一世帯に属する者の数が、全人口の六割以上であること」(同第3号)および「前各号に定めるものの外、当該都道府県の条例で定める都市的施設その他の都市としての要件を具えていること」(同第4号)とされているが、市町村の合併の特例に関する法律第7条に特例が定められている。また、地方自治法第8条第2項は、町となるための要件の定めを都道府県条例に委任する。。

 市と町村とでは、組織、事務配分などで取り扱いが異なる。例えば、議会に代わる町村総会の設置(同第94条)、事務局を置かない議会の職員の配置(第同138条第4項)、出納員(同第171条第1項)、監査委員の定数(同第195条第2項)をあげることができる。

 また、地方自治法は、市を3種類に分けている。

 まず、指定都市(同第252条の19以下。一般的には「政令指定都市」といわれる)は、人口50万人以上の都市であって政令で指定されたもの(実際には70万人以上あるいは80万人以上か)を指す。2017(平成29)年1月1日現在で「地方自治法第252条の19第1項の指定都市の指定に関する政令」(昭和31年政令第254号)によって指定都市とされるのは、大阪市、名古屋市、京都市、横浜市、神戸市、北九州市、札幌市、川崎市、福岡市、広島市、仙台市、千葉市、さいたま市、静岡市、堺市、新潟市、浜松市、岡山市、相模原市および熊本市である。

次に、中核市(同第252条の22以下)は、人口20万人以上の都市で政令であって指定されたものである。同日現在で「地方自治法第252条の22第1項の中核市の指定に関する政令」(平成7年政令第408号)によって中核市とされるのは、宇都宮市、金沢市、岐阜市、姫路市、鹿児島市、秋田市、郡山市、和歌山市、長崎市、大分市、豊田市、福山市、高知市、宮崎市、いわき市、長野市、豊橋市、高松市、旭川市、松山市、横須賀市、奈良市、倉敷市、川越市、船橋市、岡崎市、高槻市、東大阪市、富山市、函館市、下関市、青森市、盛岡市、柏市、西宮市、久留米市、前橋市、大津市、尼崎市、高崎市、豊中市、那覇市、枚方市、八王子市、越谷市、呉市、佐世保市および八戸市の48市である。

 1995(平成7)年に中核市となる要件として面積および昼夜間人口比率も定められていたが、数度の改正の度に要件の緩和または廃止が行われ、2006(平成18)年には人口30万人以上の要件のみとなった。2014(平成26)年改正によって特例市制度を中核市制度に統合することとなり〔施行は2015(平成27)年4月1日〕、併せて人口要件も30万以上から20万以上に引き下げられた。「中核市要件の変遷」(http://www.soumu.go.jp/main_content/000356216.pdf)を参照されたい。

 指定都市、中核市のいずれも、程度の差こそあれ、都道府県から権限を移譲するために設けられた制度であるため、本来は都道府県の担当すべき事務を担当することになる。この点については、同第252条の19および同第252条の22を参照していただきたい。

 指定都市、中核市のいずれにも該当しないのが一般の市である。

 なお、地方自治法第252条の26の3により、特例市の制度が設けられていた。これは、中核市と同様、2000(平成12)年度に施行されたものであり、人口20万人以上の都市であって政令で指定されたものであった。前述のように、中核市制度に統合される形で廃止された。但し、特例市から中核市へ自動的に移行する訳ではなく、2017年1月1日現在で、小田原市、大和市、福井市、甲府市、松本市、沼津市、四日市市、山形市、水戸市、川口市、平塚市、富士市、春日井市、吹田市、茨木市、八尾市、寝屋川市、所沢市、厚木市、一宮市、岸和田市、明石市、加古川市、茅ヶ崎市、宝塚市、草加市、鳥取市、つくば市、伊勢崎市、太田市、長岡市、上越市、春日部市、熊谷市、松江市および佐賀市の36市が施行時特例市となっている。

 ②都道府県

 市町村を包括する広域の地方公共団体であり(同第2条第5項)、広域にわたる事務、市町村の連絡調整に関する事務、市町村が処理することが適当でないと認められる程度の規模の事務を処理するものとされている。

 なお、本来的には、都道府県と市町村との間に上下関係はない。

 b.特別地方公共団体

 地方自治法によって創設された地方公共団体であり、憲法上の自治権を保障されない。但し、特別区については以前から議論があり、かつては憲法上の自治権を保障されないとする理解が優勢であったが、現在は保障されるとする理解のほうが多数を占めるものと思われる。

 ①特別区

 都※の区である(同第281条)。現在は基礎的地方公共団体として位置づけられており、基本的に市の規定が適用される(同第283条)。

 ※現在、都は東京都のみであるが、同第281条第1項は「都の区は、これを特別区という」と定めるに留まるから、別に東京都の23区に限定されるという意味ではない。例えば、大阪府と大阪市が合併して大阪都になった場合、現在の大阪市にある各区(行政区)は特別区に変更されるであろう。但し、特別区の設置については「大都市地域における特別区の設置に関する法律」(平成24年法律第80号)の定めるところによる。

 なお、政令指定都市(横浜市、川崎市など)の区は行政区(地方自治法第250条の20)であり、法人格をもたない。

 ②地方公共団体の組合

 一部事務組合、広域連合(介護保険などで多用された)など、複数の地方公共団体が事務を共同で処理するための、独立の法人格を有する組合組織のことである。

 ③財産区

 市町村や特別区の一部分でありながら、財産や公の施設の管理や処分を行う法人のことである。

 (3)地方公共団体の事務(同第2条第2項など)

 ①地方自治法における事務の分類

 地方分権一括法による地方自治法の改正前には、団体事務(固有事務)、団体委任事務および機関委任事務に分類されていた。このうち、団体事務(固有事務)は地方公共団体の事務であった。団体委任事務は、地方公共団体そのものに委任された事務という意味であるが、やはり地方公共団体の事務であった。

 問題は機関委任事務で、これは地方公共団体の長に委任された事務である(地方公共団体そのものに委任されるのではない)。国の事務としての性格を有し、地方公共団体の長は国の機関と位置づけられていた。数が多かっただけでなく、委任が法律によって行われるものと限らなかった。

 地方分権一括法による改正後、現在の自治事務と法定受託事務とに分類されるようになった。このうち、自治事務は、地方自治法第2条第8項により、地方公共団体の事務のうち、法定受託事務でないもの、という定義しかなされていない。そこで、同第9項に定められる法定受託事務の定義をみておく。

 法定受託事務は、第1号法定受託事務と第2号法定受託事務とに分けられる。このうち、第1号法定受託事務は、法律またはこれに基づく政令によって地方公共団体が処理すべきものとされているが、本来は国が果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理をとくに確保する必要があるものとして、とくに法律またはこれに基づく政令に定められるものである。これに対し、第2号法定受託事務は、法律またはこれに基づく政令によって市町村または特別区が処理すべきものとされているが、本来は都道府県が果たすべき役割に係るものであって、都道府県においてその適正な処理をとくに確保する必要があるものとして、とくに法律またはこれに基づく政令に定められるものである。

 両者の区別は、国による関与の方法などによる。とくに、都道府県の法定受託事務について、同第245条の9第1項により、各大臣は「当該法定受託事務を処理するに当たりよるべき基準を定めることができる」。また、市町村の法定受託事務について、同第2項により、都道府県の執行機関は「当該法定受託事務を処理するに当たりよるべき基準を定めることができる」(同第3項にも注意すること)。自治事務については、以上のような処理基準を定めることはできない。

 (4)地方公共団体の権能

 地方公共団体は、自治組織権、自治行政権、自治財政権および自治立法権を有する。

 (5)地方公共団体の機関

 普通地方公共団体は、長と議会の二元主義をとる。これは、大統領制的な要素を基本とするが、議院内閣制的な要素をも含んでいる。

 ①首長主義

 地方自治法は、長(知事、市町村長)以下を執行機関※とする(同第138条の2 )。執行機関については多元主義がとられている(同第138条の4・第180条の5)。

 ※行政官庁理論の執行機関と意味が異なるので注意を要する。

 長は、自治立法権限(同第15条)、条例案の提出権(同第149条第1号)を有する。他方、議会は、長に対する議会の不信任決議をなすことができるが、これに対して、長は議会を解散する権限を行使しうる(同第178条)。

 また、普通地方公共団体の議会が成立しないとき、長が議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであるとき、議会が議決すべき事件を議決しないときなど、一定の要件が充足されるならば、長は議会が議決すべき事件を自ら処分することができる(同第179条第1項。同第2項も参照)。これを専決処分といい、長は次の会議において議会に報告し、承認を求めなければならない(同第3項。同第4項も参照)。また、専決処分は、議会の議決により指定された事項についても行うことが認められている(同第180条第1項。同第2項も参照すること)。

 ②議会

 議会の最も重要な権限は議決権である(条例制定権も議決権の一種である)。議決事項は、地方自治法第96条に規定されるものである。なお、自治事務のみならず、法定受託事務についても条例制定権が認められる。また、同第100条により調査権が認められており、この他、地方自治法の第6条ないし第9条の5など、重要な事項について議決事案とされている。

 また、同第109条以下に、委員会に関する規定が存在する。

 議会議員の選挙については、長と同様に公選制がとられている。同第11条においては日本国民たる住民のみに選挙権が認められているが、この点については最三小判平成7年2月28日民集49巻2号639頁を参照。

 ③住民

 地方公共団体において、住民は必要不可欠の存在であり、「地方自治の本旨」を充足するためには十分な権利・権限が与えられていなければならない。地方自治法においては、住民に次のような権利・権限が認められる。

 まず、直接請求である。一応のイニシアティブとしての条例制定改廃請求権、事務監査請求権、リコールとしての議会解散請求権、長など特定職員についての解職請求権(同第12条・第13条。なお、市町村合併特例法を参照) が認められている。

 次に、住民監査請求および住民訴訟(地方自治法第242条・第242条の2)である。基本的には、地方公共団体の職員が行った不当または違法な財務会計上の行為を正すことを目的とする制度であり、差止請求(1号請求)、違法な処分の取消または無効確認の請求(2号請求)、違法に怠る事実の違法確認請求(3号請求)、損害賠償または不当利得返還の請求を求める請求(4号請求)が規定されている。なお、住民監査請求では不当または違法な財務会計上の行為を対象としうるが、住民訴訟では違法な財務会計上の行為のみを対象としうる※。

 ※住民監査の一つの問題点として、次のようなものがある。住民が適法な住民監査請求を行った。しかし、監査委員は誤って違法と判断して却下した。この場合、その住民は同一の行為または怠る事実について再び住民監査請求を行うことができるか(平成13年度国家Ⅱ種で出題された)。

 住民には、公の施設の利用権も認められる(同第10条・第244条)。ここでいう公の施設は、道路、公園、文化会館、学校、病院などであり、営造物、公共用物に対応するものが多いと言われている。設置については条例主義が採られる(同第244条の2第1項)。また、救済については同第244条の4が規定する。

 他方、住民には一定の義務も課される。同第10条が公課(地方税の他、分担金、加入金、使用料、手数料、受益者負担金などを指す)についていわゆる負担分任の義務を定める。この他、個別法に定められることがある。

 (6)国と地方公共団体との関係

 これは、日本国憲法施行当初から続いてきた問題であり、地方分権改革もこの問題に対する一定の解決を目指すものであるが、現実には課題が山積している。

 憲法第92条を受けて地方自治法第1条の2が地方公共団体の役割と国の役割などについての大原則を示し、さらに同第2条第11項および第12項において国と地方公共団体の役割分担が規定される。

 ①国の立法権と地方公共団体の立法権

 国の立法権は、地方公共団体の立法権に優先する。すなわち、条例は法令の範囲内で制定可能である。

 これは憲法および地方自治法に示される原則であり、法律先占論もここから導かれる。しかし、「地方自治の本旨」は、国の立法権に対する枠をかぶせるものである。とくに問題となるのが、条例における上乗せ規制や横出し規制であり、法律の定める規制の基準がミニマムを定めていることが明文で示されている場合、あるいは解釈から導き出される場合には認められる、という解釈が多数説になっているものと思われる。

 ②国の行政権と地方公共団体との関係 国と地方公共団体は、常に互いに無関係あるいは独立に行政活動を展開しているのではない。国が地方公共団体に関与し、都道府県が市町村に関与することは、憲法も当然に想定していることである。 地方公共団体が私人と同様の立場で活動する場合には、とくに議論をする必要はない。これに対し、地方公共団体が私人と異なる立場で活動する場合には、国の関与が問題となる。 関与の仕方は、地方自治法第245条に定められている(必ず参照のこと!)。そして、関与の法的根拠は法律または政令でなければならない(同第245条の2・第245条の4)。

 さらに、関与の基本原則は、同第245条の3に規定されている。 もっとも、関与の法的性質については問題が存在する。以下、関与の種類などを概観する。

 助言、勧告、資料の提出の要求は、事実上の行為であり、自治事務、法定受託事務のいずれに対しても行いうる。

 是正の要求は、都道府県の自治事務に対するものである。この場合には、地方公共団体に措置をとるべき義務が課される。

 是正の指示は、都道府県の法定受託事務に対するものである。要件は是正の要件と同じであり、やはり地方公共団体に義務が課される。

 同意、許可、認可、承認は、行政行為に準ずるものと考えられる。すなわち、これらがなされない限り、地方公共団体の行為は効力を生じない。但し、同意については議論があるが、協議のうち、同意を要する場合には、上記の同意などと同じ効力があると解される※。

 ※ 詳細は、森稔樹「地方税立法権」日本財政法学会編『財政法講座3 地方財政の変貌と法』(2005年、勁草書房)49頁を参照。

 代執行は、都道府県の法定受託事務に対するものである(同第245条の8を参照)。

 処理基準の設定は、同第245条の9に規定される。

 関与の手続は、同第247条以下に規定される。行政手続法に準じたものが多い。

 関与をめぐって、国と地方公共団体との間で紛争が生じることがありうる。その処理を行うのが、国地方係争処理委員会(総務省に置かれる、いわゆる8条機関。地方自治法第250条の7)である。対象となるのは公権力の行使にあたるもので、是正の要求や指示、許可の拒否などである(同第250条の13)。手続については、同第250条の14を参照。

 同様に、都道府県と市町村との間で紛争が生じることがありうる。その処理を行うのが、自治紛争処理委員である(同第251条の3。第251条も参照)。

 また、同第251条の3・第252条は、裁判による紛争処理手続を規定する。

 ③地方公共団体相互の関係 委員会等の共同設置(同第252条の7)

 事務の委託(同第252条の14) 職員の派遣(同第252条の17) この他、同第252条17の2、第252条の17の3、第252条の17の4を参照。 また、紛争処理として、自治紛争処理委員による調停制度(第251条)、境界紛争(第8条)などがある。

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行政法講義ノート〔第6版〕に向けての暫時改訂版 第29回 行政組織法その1 行政組織法の一般理論

2017年10月27日 00時00分00秒 | 行政法講義ノート〔第6版〕に向けての暫時改訂版

 1.行政主体(行政体)

 行政活動の担い手である法人を行政主体(行政体)という。具体的には、次のようなものである。

 (1)国(国家)

 少なくとも日本における最近の憲法学の教科書では、国家論あるいは国家学説に言及していないものも多く、国家法人説、国家有機体説などの議論もあまりなされていないようであるが、法律学の観点からすれば、国家法人説を前提と考えるべきであろう。少なくとも、国(国家)と個人との関係を考える際に、そこに権利義務関係が存在することは否定できないのであるから、国(国家)が法人であることを認めなければ、国有財産、行政契約などの概念も成立しえないこととなるであろう。

 国(国家)を法人として捉えるならば、社団法人の一種または変種であると理解できる。そして、内閣総理大臣、国務大臣、各省庁などは国家機関であることとなる。

 (2)地方公共団体

 地方自治法第2条第1項は、「地方公共団体は、法人とする」と定める※。やはり、社団法人の一種または変種であると理解できる。

 この規定との対比を通じても、国(国家)が法人であることを否定することはできないであろう。

 日本国憲法第8章にいう地方公共団体、換言すれば、憲法において必ず設置されなければならないものと想定されている地方公共団体が何かということについては、都道府県および市町村とする説と、市町村のみとする説とがある(これが道州制の議論につながる)。地方自治法第1条の3によると、地方公共団体は、普通地方公共団体(都道府県および市町村)と特別地方公共団体(特別区、地方公共団体の組合および財産区)とに分かれる(同第1条の3)。

 (3)公共組合

 利害関係人(一定の組合員)により、特別の法律によって設立される社団法人で、公の行政に属する特定の事業を行なうためのものである。

 通常、行政上の特別の権能(公権力性、強制徴収など)を有するとともに、強制加入、国の監督権などを伴う。例として、土地改良区(土地改良法)、健康保険組合(健康保険法)がある。弁護士会、司法書士会、行政書士会なども公共組合の一種である。

 (4)特殊法人

 様々な定義があるが、ここでは、法律によって直接設立されるもの(公社)、および、特別の法律によって特別の設立行為をもって設立される法人(公団、事業団、公庫、営団、特殊会社、地方公社、港湾局など)としておく。独立採算制による企業的な経営方式を採る、とされた。

 (5)独立行政法人

 独立行政法人通則法および個別の独立行政法人設立法により設置される法人で、政策の実施機関(試験研究機関など、国家行政組織法第8条の2に定められた機関)や国公立大学などを国や地方公共団体から切り離し、独立の法人格を与えたものである(独立行政法人通則法第2条第1項、地方独立行政法人法の定義を参照すること)。これにより、国の省庁などの事務は、基本的に政策の企画立案や監督行政に限定される、とされる。

 独立行政法人通則法第2条は、独立行政法人を三種に分類する。

 まず、中間目標管理法人は「公共上の事務等のうち、その特性に照らし、一定の自主性及び自律性を発揮しつつ、中期的な視点に立って執行することが求められるもの(国立研究開発法人が行うものを除く。)を国が中期的な期間について定める業務運営に関する目標を達成するための計画に基づき行うことにより、国民の需要に的確に対応した多様で良質なサービスの提供を通じた公共の利益の増進を推進することを目的とする独立行政法人として、個別法で定めるものをいう」(同第2項。同第29条以下、同第50条の2以下も参照)。

 次に、国立研究開発法人は「公共上の事務等のうち、その特性に照らし、一定の自主性及び自律性を発揮しつつ、中長期的な視点に立って執行することが求められる科学技術に関する試験、研究又は開発(以下「研究開発」という。)に係るものを主要な業務として国が中長期的な期間について定める業務運営に関する目標を達成するための計画に基づき行うことにより、我が国における科学技術の水準の向上を通じた国民経済の健全な発展その他の公益に資するため研究開発の最大限の成果を確保することを目的とする独立行政法人として、個別法で定めるものをいう」(同第2条第3項。同第35条の4以下、同第50条の2以下も参照)。

 そして、行政執行法人は「公共上の事務等のうち、その特性に照らし、国の行政事務と密接に関連して行われる国の指示その他の国の相当な関与の下に確実に執行することが求められるものを国が事業年度ごとに定める業務運営に関する目標を達成するための計画に基づき行うことにより、その公共上の事務等を正確かつ確実に執行することを目的とする独立行政法人として、個別法で定めるものをいう」(同第2条第4項。同第35条の9以下、同第51条以下も参照)。行政執行法人の職員は国家公務員としての身分を有する(同第51条)。

 独立行政法人は、行政の効率的な運営を目的とするものとされ、事務事業の透明性、柔軟な組織運営を目指すものと位置づけられている。

 独立行政法人の組織、人事、財務および業務について国が関与権を有する。業務については、国の関与が違法行為の是正要求(行政指導と考えられる)に限定されている。また、主務大臣が中期目標を策定し、この中期目標を達成するための中期計画を独立行政法人が作成する。独立行政法人の業務は、この計画に基づいて行われ、独立行政法人評価委員会という第三者機関によって実績が評価される。

 (6)認可法人

 民間などの関係者が発起人となって自主的に設立する法人のうち、業務の公共性などの理由により、設立について特別の法律に基づいて主務大臣の認可が要件となっているものをいう。行政実務用語である。日本下水道事業団や日本商工会議所などがある。

 (7)指定法人

 これも行政実務用語で、特別の法律に基づいて特定の業務を行うものとして、行政庁によって指定された民法上の法人である。試験や検査を行う機関、啓発活動などを行う機関などがある。

 (8)登録法人

 法律に基づいて行政庁の登録を受けた法人であって、公共性が認められる一定の事務や事業を委ねられるものである。

 

 2.行政機関の概念

 行政機関の概念は、大別して二つの類型に分けられうる。但し、日本の法律では混用されるし、理論的にも全く別物であるとは言い切れない。

 (1)作用法的機関概念

 行政機関と私人との関係(外部関係)を基準とするものである。行政行為論などにおける行政庁理論が代表的である。

 (2)事務配分的機関概念

 行政機関が担当する事務を単位として扱うものである。従って、外部関係・内部関係の区別とは無関係である。従来からの典型例が国家行政組織法であり、近年では情報公開法など少なからぬ法律がこの概念を採用する。但し、作用法的機関概念が忘れ去られた訳ではない。

 なお、行政機関に権限※はあるが、権利はない(通説)。権利は人格のあるもの(自然人および法人)が有するものである。行政機関は法人でなく、自然人になぞらえるならば頭部、手、足のようなものでしかないからである。

 ※権限とは、行政主体の権利や義務の実現のため、行政機関に認められ、または義務付けられた行為を指していう。

 

 3.行政官庁

 (1)行政官庁など

 まず、行政官庁とは、国家意思を決定し、外部に表示する機関のことである※。国であれば大臣など、地方であれば市町村長など、単独制(独任制)が通常であるが、行政委員会のような合議制のものも存在する。

 ※この講義ノートにおいては、行政行為論などを扱う際に行政庁という言葉を用いてきた。

 行政官庁は対外的な意思決定表示機関であるから、私人・私法人、さらに他の行政主体との法的関係を検討する際に重要な意味を有する。行政行為論などにおいて行政(官)庁の概念が多用されたのも、法的関係を重視する側面があったからである。しかし、行政官庁だけですべての行政活動がなされる訳ではない(実際上、不可能である)。行政官庁は、人間の身体になぞらえるならば脳あるいは頭部のようなものである。人間が、脳あるいは頭部だけで活動を行いえないように、行政主体も、行政官庁だけでは十分な意思決定をなしえないし、活動をなしえない。そこで、行政主体は、行政官庁を頭としてこれを助ける諸機関から構成される。

 行政官庁を補助する機関として、補助機関がある。実定法では政務官、事務次官、局長、課長、副知事、助役などが該当する。職員一般も含められる。

 行政官庁の意思決定を補助するが、補助機関とは異なるものとして諮問機関がある。これは、行政官庁の意思決定に際して、専門的な立場から、あるいは行政庁による決定の公正さを担保する意味で決定に関与する機関である。実際の名称は様々であるが、国家行政組織法第8条にいう審議会が代表例であり、合議制であることが通常である。なお、諮問機関による意見には法的拘束力がない。

 諮問機関とは別に、参与機関が存在する。これは、行政官庁の意思決定に関与するという点などにおいて諮問機関と同様であるが、法的拘束力があるという点で異なる。

 また、執行機関という概念が存在する。これは、国民に対して実力を行使する権限を有する機関のことである※。警察官、消防署員、徴収職員など、行政上の強制執行や即時執行に携わる者が該当する。また、立入検査や臨検に携わる者も含められうる。

 ※地方自治法第7章にいう執行機関とは全く意味が異なるので、注意が必要である。

 (2)行政官庁の権限

 行政作用法の根拠がある場合には、その法律により定められた範囲に留まる。また、行政作用法の根拠が不要である場合であっても、行政組織法で定められた所掌事務の範囲に留まる。

 (3)権限の代理

 行政組織法にも、代理の概念が存在する。そして、行政機関の権限の代理についても、民法第108条以下が適用される。そのため、代理者Aの行為は被代理官庁(民法で言うと本人。例.行政官庁)の行為としての法的効果を有することになる。そして、民法と同様、授権代理と法定代理とに大別される。

 まず、授権代理は、授権という行為によって代理関係が生じる場合をいう。法律の根拠が不要であるとするのが通説である。被代理官庁には指揮監督権が残され、責任は被代理官庁に帰属する。

 法定代理は二種類に分けられる。狭義の法定代理は、法律で定められた要件が充足された場合、当然に代理関係が生じる場合をいう(地方自治法第152条第1項など)。法律の根拠が必要である。これに対し、広義の法定代理は、指定代理ともいい、法律で定められた要件が充足された場合、指定によって代理関係が生じることをいう(内閣法第9条など)。これについても法律の根拠が必要である。

 (4)権限の委任

 行政組織法にも、委任の概念が存在する。行政組織法の場合は、次のように構成される。

 a.委任により、権限は委任官庁から受任官庁に移される(代理権は伴わない)。従って、例えば行政行為についてみれば、甲から乙に権限が委任された場合、処分庁は甲ではなく乙になる。代理と異なるので、注意が必要である。

 b.法律上の処分権限への変更があるため、法律の根拠が必要である。

 (5)専決・代決

 専決・代決のいずれも、元々は実務用語で、内部的な事務処理方式であり、法律の根拠は不要である。

 専決とは、法律によって権限を与えられた行政官庁が、補助機関に決裁の権限を委ねることをいう※。実際には補助機関が最終的な決裁を行うが、外部に対してはあくまでも行政官庁の名と責任で活動がなされることとなる。

 ※地方自治法第179条に定められる、普通地方公共団体の長の専決処分とは意味が異なるので、注意を要する。

 代決とは、専決のうち、決定権限を有する者が不在の場合に、補助職員が臨時的に代行して決裁を行う場合を指す。

 (6)行政官庁の相互関係

 a.上下関係の場合

 基本的に指揮監督関係である。法律の根拠がなくとも認められる。

 監視権とは、調査権、報告徴収権をいう。

 認可権とは、下級行政機関の権限行使に対する内部的な承認をなす権限をいう。なお、この関係は国と公法人(上記の公共組合や特殊法人など)との間でも成立するとされており、判例として、第23回で取り上げた成田新幹線訴訟(最二小判昭和53年12月8日民集32巻9号1617頁。Ⅰ―2)がある。

 指揮権とは、訓令・通達により、上級行政機関が下級行政機関の権限行使について命令を発する権限をいう。通達は、書面の形をとる訓令の意味で使われることが多い。

 取消停止権とは、下級行政機関の行為を取り消したり停止したりするもので、取消または停止の命令→取消・停止という形をとる(地方自治法第154条の2など)。なお、これについては法律の根拠が必要か否かについて議論がある。

 代執行権とは、下級行政機関がなすべき行為を上級行政機関が代わって行う権限をいう。これについても、法律の根拠が必要か否かについて議論がある。

 b.委任関係および代理関係

 元々上下関係にある場合には、委任関係や代理関係が成立した後も、上級行政機関と下級行政機関との間に指揮監督関係が残る。元々上下関係にない場合については、前述(4)を参照。

 c.対等官庁関係

 成田新幹線訴訟とも関係を有する判決として、最三小判平成6年2月8日民集48巻2号123頁がある。

 事案:恩給担保金融を行う国民金融公庫(被告)に対し、国(原告)が恩給受給者の普通恩給などを払い渡したが、当時の総理府恩給局長がこの恩給受給者についての恩給裁定を取り消したため、国が国民金融公庫に対して支払った普通恩給などについて不当利得返還請求を求めた。国民金融公庫は信義誠実の原則違反および権利濫用を主張した。東京地方裁判所および東京高等裁判所は国の請求を認めたが、最高裁判所は破棄自判判決を下した。

 判旨:最高裁判所判決は、国民金融公庫が公法人であって当時の大蔵大臣の認可、監督、計画、指示の下に必要な事業資金を国民に融通するという行政目的の一端を担うことを認めた。しかし、一方で国民金融公庫が国から独立した法人であり、自律的な経済活動を営むものであり、恩給法の下で一定の要件の下に恩給担保貸付を義務付けられていることなどを述べている。そして、国民金融公庫が恩給裁定の有効性について自ら審査することができないから、国が不当利得返還請求をなすことは許されない、とした。

 

 4.国家行政組織法などによる事務配分的行政機関概念

 (1)行政機関

 事務配分的行政機関概念の場合は、最大単位が最も重要な意義を有する。最大単位から最小単位に向かって、府・省→庁、局、部、課、係、職ということになる。

 (2)行政機関相互の関係

 指揮監督関係は、国家行政組織法第14条に定められている。

 事務配分的行政機関概念においても、代理関係や委任関係は認められる。

 行政官庁理論などの作用法的機関概念には登場しない(想定されていない)関係としては、次のようなものがある。

 まず、共助関係である。これは、対等な関係、または相互に独立という関係にある行政機関が協力し合うことをいう。実定法では共助、協力、相互応援などの語が用いられる。

 次に、調整関係である。内閣官房および内閣府は、行政機関の調整を主要な事務とする(内閣法第12条第2項、内閣府設置法第4条第1項、同第9条などを参照)。また、国家行政組織法第15条も参照。

 また、評価・監察関係がある。これは、監査、検査、監察などの関係をいう。代表的なのは会計検査院による監査・検査であるが、総務省も政策評価や行政監察を行っている。

 そして、管理関係である。これは、内閣法制局、総務省、人事院などと他の行政機関との関係を念頭に置いている。

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行政法講義ノート〔第6版〕の更新(続)

2017年10月27日 00時00分00秒 | 行政法講義ノート〔第6版〕に向けての暫時改訂版

 25日に続き、26日にも更新作業を行い、行政法講義ノート〔第6版〕に第26回第27回を掲載しました。

 第25回、第29回、第30回および第31回が残っていますが、今後も作業を続け、今年中に全てを掲載できれば、と思っています。

 また、既に掲載している回でも修正を必要とするところがありますので、これも、徐々にではありますが進めて参ります。

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行政法講義ノート〔第6版〕の更新

2017年10月26日 00時00分00秒 | 行政法講義ノート〔第6版〕に向けての暫時改訂版

 久しぶりとなってしまいましたが、昨日(10月25日)、私の「川崎高津公法研究室」に掲載している「行政法講義ノート」〔第6版〕の続編を掲載しました。

 追加したのは、以下のものです。

 第17回 情報公開法制度

 第18回 個人情報保護法制度

 第21回 行政不服審査制度—2014(平成26)年行政不服審査法の概要—

 第22回 行政事件訴訟制度とは

 第23回 取消訴訟の訴訟要件その1—処分性を中心に—

 第24回 取消訴訟の訴訟要件その2—原告適格および狭義の訴えの利益を中心に—

 第28回 損失補償制度

 まだ掲載していない第25回、第26回、第27回、第29回、第30回および第31回についても、現在準備を進めております。

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出雲大社

2017年10月25日 00時46分07秒 | 旅行記

 私は、2009年4月1日から2011年3月31日まで、大東文化大学法学部法律学科主任を務めておりました。

 そのため、2010年7月31日と8月1日、鳥取県米子市と島根県松江市へ出張しました。仕事が終わって、そのまま出雲空港へ向かって帰るのも味気ないので、松江しんじ湖温泉駅から一畑電車に乗り、出雲大社に行ってみました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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行政法講義ノート〔第6版〕に向けての暫時改訂版 第18回 個人情報保護制度

2017年10月25日 00時00分00秒 | 行政法講義ノート〔第6版〕に向けての暫時改訂版

 以下、法律については次のように略記する。

 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律⇒行政個人情報保護法

 独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律⇒独立行政法人個人情報保護法

 

 1.個人情報保護

 (1)個人情報保護制度  情報公開法制度と同様に、個人情報保護制度も地方公共団体での取り組みが先行した例である。1980年代から、一部の地方公共団体が個人情報保護条例を制定していた(情報公開条例より数は少ない)。

 国の場合、1988(昭和63)年に、行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律が制定された。そして、2003(平成15)年に、個人情報保護法と総称される諸法律が制定され、2005(平成17)年度から施行された。

 ①個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)

 これが個人情報保護に関する基本法である(第1章~第3章)。そして、民間部門の個人情報保護に関する一般法でもある(第4章~第6章)。

 ②行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(行政個人情報保護法)

 ③独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律(独立行政法人個人情報保護法

 ④情報公開・個人情報保護審査会設置法

 ⑤行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律等の施行に伴う関係法律の整備等による法律

 ②~⑤と地方公共団体の個人情報保護条例が、公的部門の個人情報保護に関する法制度である。そして、②~④は①に対する個別法としての位置づけを与えられている。以下、②を中心として扱う。

 (2)行政個人情報保護法の目的

 行政個人情報保護法第1条は、同法の目的として、行政の適正かつ円滑な運営(甲)、および個人の権利利益の保護(乙)をあげる。規定の仕方は「行政の適正かつ円滑な運営を図りつつ、個人の権利利益を保護すること」となっており、甲を図ることによって乙を実現するとはされていない。このことからも判明するように、終局目標は乙であるとはいえ、甲と乙とが対立する場合もあり、甲と乙とのバランスが問題となりうる。

また、ここにいう個人の権利、とくに、個人情報保護法によって保護される権利の性質などが問題となりうる。この点については、個人情報保護法にも行政個人情報保護法にも言及がなく、自己情報コントロール権としてのプライバシー権が保護されるのか否かについては議論の余地を残している。

 (3)行政個人情報保護法の対象機関

 情報公開法の対象機関と同じである(第17回を参照)。

 (4)個人情報などの意味

 行政個人保護法において、個人情報などについては、次のように定義されている。

 ①個人情報 行政個人保護法第2条第2項により、生存する個人に関する情報で、氏名、生年月日などによって特定の個人を識別できるものとされる。これは、情報公開法における個人情報と同様である。

 ②保有個人情報 同第3項により、「行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した個人情報であって、当該行政機関の職員が組織的に利用するものとして、当該行政機関が保有しているもの」で、情報公開法にいう「行政文書」に記録されているものである。

 ③個人情報ファイル(同第4項)

 同第4項により、保有個人情報を含む情報の集合物で、コンピュータなどによって検索が可能であるように体系的な構成がなされたものとされている。これについては、第10条および第11条の規定があり、作成および保有をしようとするときの総務大臣への事前通知、帳簿(個人情報ファイル簿)の作成および公表が定められている。

 (5)取扱基準

 個人情報の取り扱いについては、第3条以下に規定されている。

 ①保有の制限、特定(第3条)

 利用目的の達成に必要な範囲を超えてはならない、など。

 ②利用目的の明示(第4条)

 ③正確性の確保(第5条)

 ④安全措置の確保(第6条)

 ⑤従事者の義務(第7条)

 ⑥利用および提供の制限(第8条)

 但し、第2項により、一定の要件の下において利用目的外の利用を認める。

 (6)行政個人情報保護法と個人の権利

 ①開示請求権(第12条) 未成年者または成年被後見人の法定代理人にも認められるが、開示すれば本人に不利益が及ぶおそれがある場合には不開示となる(第14条第1号)。

 原則は開示であるが、第14条各号により、不開示事由が定められる(限定列挙)。第1号以外は、ほぼ情報公開法と同様の事由が定められている。裁量開示も認められる(第16条)。

 なお、情報公開法と同様に、部分開示(行政個人情報保護法第15条)、そして存否応答拒否処分(同第16条)も定められている。

 ②訂正請求権(第27条、第29条)

 これは、自己に関する内容が事実でないと思料するときに訂正(追加または削除を含む)を請求する権利である。行政機関の長は、請求に理由があると認めるときに訂正をしなければならない(一応は義務である)。

 ③利用停止請求権(第36条)

 保有個人情報の開示を受けた日から90日以内に請求しなければならないとされる。

 a.保有個人情報の利用の停止または消去:保有個人情報が行政機関によって適法に取得されたものではない場合、第3条第2項に違反して保有されているとき、または第8条第1項・第2項の規定に違反して利用されているとき

 b.保有個人情報の提供の停止:第8条第1項・第2項の規定に違反して提供されているとき

 (7)救済制度(第42条)

 情報公開法と同様の規定であり、行政不服申立てについても情報公開・個人情報保護審査会への諮問手続が明示されている。

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