ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

第3部:地方税財政制度  第13回:地方交付税制度

2022年12月25日 00時00分00秒 | 財政法講義ノート〔第6版〕

1.地方交付税制度の存在意義

 地方交付税制度は財政調整制度、日本流の表現では地方財政調整制度の代表的な存在である。「第3部:地方税財政制度 第10回:地方税財政法の基本原則(地方財政権その2)」において、地方税財政法の基本原則の一つとして地方税財政自律主義を取り上げたが、いかに地方公共団体の財政を保障し、強固なものとするために地方税制度を組み立てたとしても、人口、産業基盤などの偏差により、地方公共団体の財政力に格差が生じることは避けられない。地方税制において完全な意味における普遍性を実現することは不可能に近いからである。しかし、格差を放置することは財政力の乏しい地方公共団体の存在を危うくし、ひいてはその住民の生活水準を低下させることになる。これは、憲法第14条および第25条の趣旨に鑑みても許されることではないであろう。

 そのために、地方公共団体間の財政力の偏差あるいは格差を是正する必要が生ずる。こうして、財政調整制度としての地方交付税制度が存在するのである。

 日本において財政調整制度に関する本格的な取り組みが始められたのは昭和時代に入ってからのことであり、1936(昭和11)年の臨時町村財政補給金制度を嚆矢として、1937(昭和12)年からの臨時地方財政補給金制度、1940(昭和15)年からの地方分与税制度と続いた※。シャウプ勧告を受けて1950(昭和25)年から地方財政平衡交付金制度※※が施行されたが、財政平衡交付金の総額をめぐる紛争が絶えなかったことから、1954(昭和29)年より地方交付税制度が採用され、現在に至っている。

 ※地方分与税制度は還付税と配布税とからなっていた。このうち、配布税は、所得税収入と法人税収入とのそれぞれに対する一定の割合を総額とするものであった。

 ※※地方財政平衡交付金制度は、地方分与税制度のうちの配付税と異なり、地方財政の必要に応じて平衡交付金の額を毎年決定し、国の一般財源から支出する、というものであった。財政平衡交付金制度の場合、たしかに、地方財政の強化や平準化には資する。しかし、総額を決定する際に国と地方公共団体との間に紛争が生じやすくなるという問題点がある。

 地方交付税制度は、世界の財政調整制度の中でもとくに精緻で複雑な制度であることで知られる。後にその点について検討を進めることとして、地方交付税の総額に関する基本的な事柄から入る。

 地方交付税法第6条第1項は「所得税及び法人税の収入額のそれぞれ100分の33.1、酒税の収入額の100分の50、消費税の収入額の100分の19.5並びに地方法人税の収入額をもつて交付税とする」と定めている。

 次いで、同第2項は「毎年度分として交付すべき交付税の総額」として「毎年度分として交付すべき交付税の総額は、当該年度における所得税及び法人税の収入見込額のそれぞれ100分の33.1、酒税の収入見込額の100分の50、消費税の収入見込額の100分の19.5並びに地方法人税の収入見込額に相当する額の合算額に当該年度の前年度以前の年度における交付税で、まだ交付していない額を加算し、又は当該前年度以前の年度において交付すべきであつた額を超えて交付した額を当該合算額から減額した額とする」と定める。

 従って、地方交付税の総額は、上記5種類の国税の、対象年度における実際の収入額によって決定される訳ではない。まずは収入見込額、すなわち、国の歳入予算に計上される額を見積もり、これによって暫定的に計算する。そして、実際の収入額と収入見込額との差額を、後の年度における地方交付税の総額において精算することとなる。

 また、地方交付税は普通交付税と特別交付税とに分けられる(同第6条の2第1項)。このうち、普通交付税の総額は第6条第2項の額の94%に相当する額、特別交付税の総額は第6条第2項の額の6%に相当する額である(同第2項・第3項)。

 なお、地方交付税は、普通交付税であれ特別交付税であれ、垂直的財政調整のための制度である。但し、間接的であるが、水平的財政調整にも資する制度でもある。間接的と記したのは、地方公共団体相互間における資金のやり取りがなされないためである。それでも、都市部、または富裕な地方公共団体の領域から徴収される国税収入を、都市部以外の地域、または富裕でない地方公共団体に配分するという機能が、地方交付税には存在する。

 

 2.地方交付税の目的および性質

 地方交付税は、地方財政調整制度の一種であり、地方公共団体の財政力の格差を是正するための制度である。この他に、いかなる目的があるのか。地方交付税法第1条は、次のように規定する。

 「この法律は、地方団体が自主的にその財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能をそこなわずに、その財源の均衡化を図り、及び地方交付税の交付の基準の設定を通じて地方行政の計画的な運営を保障することによつて、地方自治の本旨の実現に資するとともに、地方団体の独立性を強化することを目的とする。」

 ここで明示されているのは、財源の均衡化は勿論、地方行政の計画的運営の保障、地方公共団体の独立性の強化である。地方交付税は、国庫支出金と異なり、使途が限定されていないので、財政の均衡化に資するのみならず、地方公共団体の行政を執行する権能を損なわないという利点を有する。但し、その利点が逆に作用することもありうる。とりわけ、現在のように、都道府県レヴェルでみるならば地方交付税不交付団体は東京都など数団体に過ぎず(しかも、東京都以外の団体、たとえば神奈川県、景気の推移によって不交付団体にも交付団体にもなる)、市町村レヴェルでみても地方交付税不交付団体が100団体程度ほどしか存在しないという状況では、過度に依存度を高め、結果として地方税財政自律主義を減殺させることになりかねない。

 また、地方交付税は、あくまでも垂直的財政調整を第一の特質とするため、国の財政状態に左右されるという問題点もある。当然のことであるが、国の歳入が少なければ、地方交付税の総額も少なくなる。これまで、地方交付税率や算定などが度々変更されているが、1990年代には歳入に占める地方交付税の割合が全体的に上昇していたのに対し、2000年代に入ってからは国の財政事情や地方分権改革における見直しなどもあって低下傾向を示している。

 地方交付税は地方固有の財源である、などと表現されることもある。しかし、これは不正確である。そもそも、財政力の調整のための制度であるから、交付を受ける地方公共団体と交付を受けない地方公共団体とに分けられるから、地方税と異なって固有の財源であるとは言えない。地方交付税の配分に関する権限は、第一次的にも最終的にも地方公共団体の側ではなく、国の側にある。また、憲法上、地方交付税制度が地方自治の本旨を実現するために不可欠な制度であるとしても、具体的な制度設計などは国の側に委ねられる訳であるから、その意味においても地方固有の財源とは言えない。あくまでも、一般財源として自主財源を補助するための資源と理解すべきである。

 

 3.地方交付税の総額の変更

 既に述べたように、地方交付税の総額は、収入見込額によって暫定的に計算した上で、実際の収入額と収入見込額との差額を、後の年度における地方交付税の総額において精算することによって算出する(なお、国家予算の補正がなされた場合には、補正後の額が収入見込額となる)。このため、地方交付税の総額が減額となる補正を受ける可能性はある。

 地方交付税法第16条は、交付の時期を定める。原則として、第1項の表に掲げられている時期に一定の額を交付することになるのであるが、第2項は「当該年度の国の予算の成立しないこと、国の予算の追加又は修正により交付税の総額に変更があつたこと、大規模な災害があつたこと等の事由により、前項の規定により難い場合における交付税の交付時期及び交付時期ごとに交付すべき額については、国の暫定予算の額及びその成立の状況、交付税の総額の変更の程度、前年度の交付税の額、大規模な災害による特別の財政需要の額等を参しやくして、総務省令で定めるところにより、特例を設けることができる」と定めている。ここに言う特例には増額変更と減額変更の双方が含まれると解すべきであろう。どちらかを除外する趣旨が明文に現われていないからである。

 もっとも、碓井教授も指摘するように、地方交付税の規定を概観すると、減額修正に関する規定は十分であると言えない〈 碓井光明『要説自治体財政・財務法』〔改訂版〕・(1999年、学陽書房)56頁 〉

 また、地方交付税の総額の変動には、地方税も関係する。所得税や法人税の計算の際に、地方税によっては必要経費や損金に算入されるので※、地方税について超過課税などを行った場合には国税収入が減少することになり、地方交付税の総額も減少することとなる。逆の関係も成立する。

 ※まず、所得税法第45条第1項第4号は、必要経費に算入しない地方税として道府県民税および市町村民税をあげる。また、同第5号は、地方税法に定められる延滞金、過少申告加算金、不申告加算金および重加算金を必要経費に算入しないことを定める。

 次に、法人税法第38条第2項第2号は、損金に算入しない地方税として道府県民税および市町村民税(退職年金等積立金に対する法人税に係るものを除く)をあげる。また、同第55条第3項第2号は、地方税法に定められる延滞金、過少申告加算金、不申告加算金および重加算金を必要経費に算入しないことを定める(但し、延滞金によっては損金に算入するものもある)。

 なお、地方交付税法第10条第1項により、普通交付税は、毎年度、基準財政需要額が基準財政収入額を超過する、すなわち、財源不足が生じる場合に、その財源不足の額を地方公共団体に対して交付されることとなっている。仮に財源不足の合算額が普通交付税の総額を超過する場合には、同第2項ただし書きにより、次のように算出して得られた額を交付する。

 A-B×(C-D)/E

 A:当該地方団体の財源不足額

 B:当該地方団体の基準財政需要額

 C:財源不足額の合算額 

 D:普通交付税の総額

 E:基準財政需要額が基準財政収入額をこえる地方団体の基準財政需要額の合算額

 ここで、B×(C-D)/Eの部分が調整率である。これにより、基準財政需要額を圧縮することによって調整することになる。そして、その調整を経た後の額が普通交付税の合算額に満たない場合には特別交付税の総額を減額した上で普通交付税に充てることとされる(同第6項)。

 

 4.地方財政計画

 地方財政計画は、地方交付税法第7条に従い、毎年度、内閣が作成する「翌年度の地方団体の歳入歳出総額の見込額に関する書類」であり、国会に提出して審議の参考に供さなければならないとともに、一般に公表しなければならないこととなっている。その内容は、地方公共団体全体の予算とも言いうるものとなっており、地方交付税の総額は勿論、地方債発行額の総額なども決定される。

 地方財政計画には、次の事項を記載しなければならない。

 ①地方公共団体の「歳入総額の見込額及び左の各号に掲げるその内訳」(「各税目ごとの課税標準額、税率、調定見込額及び徴収見込額/使用料及び手数料/起債額/国庫支出金/雑収入」)

 ②地方公共団体の「歳出総額の見込額及び左の各号に掲げるその内訳」(「歳出の種類ごとの総額及び前年度に対する増減額/国庫支出金に基く経費の総額/地方債の利子及び元金償還金」)

 

 5.基準財政需要額および基準財政収入額

 既に述べたように、普通交付税は、毎年度、基準財政需要額が基準財政収入額を超過し、財源不足が生ずる場合に、その財源不足の額として地方公共団体に対して交付される(地方交付税法第10条第1項)。そこで、基準財政需要額および基準財政収入額の意味が重要となる。

 この二つは、地方公共団体の財政力を測るためにも重要な概念である。財政力指数は、基準財政需要額に対する基準財政収入額の比率として求められるからである。

 (1)基準財政需要額

 地方交付税法第11条により、基準財政需要額は「測定単位の数値を第13条の規定により補正し、これを当該測定単位ごとの単位費用に乗じて得た額を当該地方団体について合算した額」と定義される。すなわち、基準財政需要額は、地方公共団体が行政サーヴィスを行うために必要な財政需要を、各々の行政項目ごとに、経常的経費、投資的経費として算定した合計額を基礎とし、これに公債費(地方債の償還費)を加えた額のことである。

 これをさらに詳しくみていくことにすると、経費の種類ごとに測定単位が設けられており、その数値に補正係数を乗じ、さらに単位費用を乗じて得られた額の合計額が基準財政需要額である。従って、

 各行政項目の基準財政需要額=測定単位×補正係数×単位費用

という数式で表すことができる〈林宏昭・橋本恭之『入門地方財政』〔第2版〕(2007年、中央経済社)138頁による〉

 ここで測定単位は、第12条に定められるように、経費に係る財政需要の大きさを、合理的かつ客観的に反映するための指標であり、経費の種別ごとに定められている。たとえば、都道府県の警察費については警察職員数、教育費のうちの小学校費および中学校費については教職員数となっている。同条の表のみではわかりにくいが、経常的経費と投資的経費の違いは、たとえば都道府県の教育費のうちの高等学校費については、経常的経費の測定単位が教職員数、投資的経費の測定単位が生徒数というようになっている。経常的経費の測定単位と投資的経費の測定単位が同一である場合も存在する。

 測定単位の数値の補正は第13条に定められる。これには種別補正、段階補正、密度補正、態容補正、寒冷補正、数値急増・急減補正、災害復旧費補正がある。

 種別補正:「面積、高等学校の生徒数その他の測定単位で、そのうちに種別があり、かつ、その種別ごとに単位当たりの費用に差があるものについては、その種別ごとの単位当たりの費用の差に応じ当該測定単位の数値を補正する」ものであり(第1項)、「当該測定単位の種別ごとの数値に、その単位当りの費用の割合を基礎として総務省令で定める率を乗じて行うものとする」(第2項)。

 段階補正:「人口その他測定単位の数値の多少による段階」による補正をいう(第3項第1号、第4項第1号)。

 密度補正:「人口密度、道路1キロメートル当たりの自動車台数その他これらに類するもの」による補正をいう(第3項第2号、第4項第2号)。

 態容補正:「地方団体の態容に応じてそれぞれ割高となり又は割安となるものについて行う」補正をいう(第3項第2号、第4項第3号)。

 寒冷補正:「寒冷度及び積雪度」(第3項第4号)によって「当該行政に要する経費の測定単位当たりの額」が割高となるものについて行われる補正をいう(第4項第4号)。

 数値急増・急減補正:「人口、学校数その他の測定単位の数値が急激に増加し又は減少した地方団体、廃置分合又は境界変更のあつた地方団体及び組合(地方自治法第284条第1項の一部事務組合、広域連合又は役場事務組合をいう。)を組織している地方団体に係る補正係数」(第10項)。

 災害復旧費補正:「災害復旧費に係る測定単位の数値に」ついて行われる補正(第11項)。

 いずれの補正についても、補正係数の算定方法につき必要な事項は、法律にも施行令にも定められておらず、普通交付税に関する省令という総務省令で定められることとなっている(第12項)。地方交付税制度が非常に理解し難い制度になっている原因の一つが、ここに現われている。

 単位費用は、地方公共団体が標準的な行政活動を行う際に必要とされる一般財源の額を、測定単位1について示したもので、次のように計算される〈林・橋本・前掲書139頁による〉

 (A-B)/C=D/C

 A:標準団体(これは一種の仮想団体であり、市町村であれば人口10万人、面積160平方キロメートルという想定がなされている)の標準的歳出

 B:国庫補助金等特定財源

 C:標準団体の測定単位の数値

 D:標準団体の標準的一般財源所要額

 詳細は、第12条第4項および第5項を受け、別表第一および別表第二に規定される。

 (2)基準財政収入額

 基準財政収入額は、地方交付税法第14条に定められるものであり、標準地方税収入の見積額である。ここで標準地方税収入は、法定普通税および一部の目的税、地方譲与税その他の収入を言い、法定普通税および一部の目的税、都道府県税交付金(市町村)については、それぞれの収入の75%、地方譲与税については100%が算入される。但し、附則第7条の2により、道府県個人住民税および市町村個人住民税の所得割については「当分の間」100%が基準財政収入額に算入される。

 また、附則第7条により、「当分の間」ではあるが道路交通法附則第16条第1項に定められる交通安全対策特別交付金の収入見込額も基準財政収入額に算入される。

 基準財政収入額を算出する際の地方税の税率は、地方交付税法第14条第2項により、基準税率というものが利用される。これは、地方税法第1条第1項第5号に定められる標準税率または一定税率が基礎となっており、道府県税、市町村税など、いずれについても75%となっている。

 基準財政収入額に含まれない標準地方税収入は、留保財源といわれ、使途の決定が地方公共団体に委ねられている。

 

 6.地方交付税制度の問題点

 これまで、地方交付税制度の概要を述べてきたが、非常に複雑な制度であり、理解や説明に苦労する。実際の算出は、とくに補正係数が絡んでくるために面倒になる。しかも、この補正係数が法律にも施行令にも定められず、普通交付税に関する省令という総務省令で定められるのである。実際に、地方交付税制度を、そして毎年度の地方交付税の算定の様子などを正確に理解しうる者は総務省の内部にごく僅か存在するだけであるという話すらある。

 また、算定時期、交付時期に不安定性があることも指摘されている。地方交付税法第8条は「各地方団体に対する交付税の額は、毎年度4月1日現在により、算定する」と定めるのであるが、総務大臣による普通交付税の額の決定は「遅くとも毎年8月31日までに決定しなければならない。但し、交付税の総額の増加その他特別の事由がある場合においては、9月1日以後において、普通交付税の額を決定し、又は既に決定した普通交付税の額を変更することができる」とされる(同第10条第3項)。従って、或る地方公共団体に普通交付税が交付されるか否か、換言すれば、或る地方公共団体が交付団体になるか否かは、通常、その年度の8月下旬頃にならなければわからないということになる。

 さらに、交付団体になるか否かは、地方交付税以外の財源にも影響を与えることとなる。

 普通交付税に関する省令は、基準財政収入額の算定に関する詳細などを定めるのであるが、この省令はほぼ毎年、7月下旬に改正される。そのため、とくに法人関係の地方税については、収入の伸び率などがどのように変化するかが基準財政収入額の変化に影響を及ぼすこととなる。

 なお、合併を行った市町村については、市町村の合併の特例等に関する法律第17条により「国が地方交付税法(昭和25年法律第211号)に定めるところにより合併市町村に対して毎年度交付すべき地方交付税の額は、当該市町村の合併が行われた日の属する年度及びこれに続く5年度については、同法及びこれに基づく総務省令で定めるところにより、合併関係市町村が当該年度の4月1日においてなお当該市町村の合併の前の区域をもって存続した場合に算定される額の合算額を下らないように算定した額とし、その後5年度については、当該合算額に総務省令で定める率を乗じた額を下らないように算定した額とする」こととされる。

 

 7.特別交付税

 特別交付税は、地方交付税法第15条第1項により「第11条に規定する基準財政需要額の算定方法によつては捕そくされなかつた特別の財政需要があること、第14条の規定によつて算定された基準財政収入額のうちに著しく過大に算定された財政収入があること、交付税の額の算定期日後に生じた災害(その復旧に要する費用が国の負担によるものを除く。)等のため特別の財政需要があり、又は財政収入の減少があることその他特別の事情があることにより、基準財政需要額又は基準財政収入額の算定方法の劃一性のため生ずる基準財政需要額の算定過大又は基準財政収入額の算定過少を考慮しても、なお、普通交付税の額が財政需要に比して過少であると認められる地方団体に対して、総務省令で定めるところにより、当該事情を考慮して交付する」ものとされている。

 具体的な算定方法は、特別交付税に関する省令(現在は総務省令)に規定されており、この省令に基づき、総務大臣が毎年度、12月中および3月中の2回に分けて額を決定する。その際、「第1回目の特別交付税の額の決定は、その総額が当該年度の特別交付税の総額の3分の1に相当する額以内の額となるように行う」こととされている(地方交付税法第15条第2項。同第16条も参照)。

 

 8.誘導策としての地方交付税

 地方交付税は、本来、地方公共団体の一般財源を補充するための資金として位置づけられるべきものであり、何らかの政策目的のための誘導策として用いられるべきものではない。しかし、実際には、国の特定政策のための誘導策として利用される傾向が強くなっている。とりわけ、特別交付税の場合は誘導策としての機能を強く発揮する。この点については、特別交付税に関する省令を参照されたい。

 しかし、普通交付税であっても誘導策としての機能を発揮することがある。私としては、このことを問題としたい。もっとも、地方交付税に特定政策のための誘導策としての機能を持たせることが、直ちに憲法上の問題などを惹起する訳ではない。それでも、数の上で交付団体が不交付団体を圧倒的に上回る状況が続いている中では、その時々の国の政策に従うか否かが地方公共団体の財政状況を左右するという結果につながりやすいだけに、地方交付税が地方を支配するための有効な道具として扱われやすいことを意味する。

 その方法の第一は、地方公共団体が国の法律に従って一定の施策を実施する際にみられる。地方公共団体が地方税の課税免除や不均一課税などを行った場合には、こうした措置による減収額を基準財政収入額から控除するという方法である。この方法は多くの法律において採用されている。また、地方交付税法第14条は基準財政収入額の算定の際に標準税率を採用するので、この標準税率より低い税率によることは、地方公共団体の財政に余裕があるとみられることになる。逆に、標準税率より高い税率、すなわち超過税率を採用しても、基準財政収入額の算定に反映されない。

 第二は、地方債の元利償還金の全部または一部を、普通地方交付税の基準財政需要額の計算において単位費用として算入する、という方法である。これは、旧市町村合併特例法第11条の2第2項で威力を発揮した方法であり、合併しなければ地方交付税の交付額が減少するという施策もセットされた上に、同第1項により発行される合併特例債とあいまって、多くの市町村の合併を強力に推進する役割を果たした。また、一種の変形として、事業費補正に算入するという方法もある。

 碓井教授も指摘するように、地方交付税を「受け皿として一定の国の政策を推進することは、もともと交付税に期待されていた機能から相当離れたものであ」り、「地方債の元利償還金を交付税で措置することは、『もらい得』の観念を生むばかりでなく、国(納税者)の将来の負担を約束するものであり、極力抑制されなければならない」〈碓井・前掲書64頁〉。しかし、実際には、むしろ濫用ではないかと疑われるほどに多用されており、長期的に地方財政を悪化させるのではないかという懸念をぬぐえない。

 第三は、やはり地方債に関連するものであるが、特定の基金に資金の拠出をなす際に地方債を発行し、元利償還金について地方交付税措置を採るという方法である。これには、特定の民間事業への融資の原資に際して地方債の発行を認め、利息負担分について地方交付税措置を採るという変形もある。

 

 9.地方交付税の減額などに関する勧告および返還請求

 地方交付税の交付については減額補正などがありうることは既に述べた。これとは別に、地方公共団体の行政活動の態様によっては、特定の地方公共団体に対し、地方交付税に関する勧告、さらには返還請求が行われることがありうる。

 基準財政需要額の算定は、都道府県および市町村が法令により定められる行政事務を着実に行うことを前提としている。そこで、地方交付税法第20条の2第1項により、「関係行政機関は、その所管に関係がある地方行政につき、地方団体が法律又はこれに基く政令により義務づけられた規模と内容とを備えることを怠つているために、その地方行政の水準を低下させていると認める場合においては、当該地方団体に対し、これを備えるべき旨の勧告をすることができる」とされる。なお、この勧告をなす際には、あらかじめ、総務大臣に通知することを必要とする(地方交付税法第10条の2第2項)。

 この勧告に地方公共団体が従わなかった場合には、同第3項により、関係行政機関が総務大臣に対し、当該地方公共団体に「交付すべき交付税の額の全部若しくは一部を減額し、又は既に交付した交付税の全部若しくは一部を返還させることを請求することができる」。これを受けて、第4項により、総務大臣は、当該地方公共団体の弁明を受けた上で「災害その他やむを得ない事由があると認められる場合を除き、当該地方団体に対し交付すべき交付税の額の全部若しくは一部を減額し、又は既に交付した交付税の全部若しくは一部を返還させなければならない」。これは、国が自らの政策を地方公共団体にとらせる―さらに強く表現すれば、従わせる―ために威力を発揮する、非常に強力な手段であると評価しうる。但し、第5項により、減額または返還額は「当該行政につき法律又はこれに基く政令により義務づけられた規模と内容とを備えることを怠つたことに因り、その地方行政の水準を低下させたために不用となるべき額をこえることができない」という歯止めはかけられている。

 以上とは別に、地方財政法第26条第1項は、「地方公共団体が法令の規定に違背して著しく多額の経費を支出し、又は確保すべき収入の徴収等を怠つた場合においては、総務大臣は、当該地方公共団体に対して交付すべき地方交付税の額を減額し、又は既に交付した地方交付税の額の一部の返還を命ずることができる」と定める。これは、地方交付税法第20条の2と比較するならば、やむをえないもの、あるいは妥当性の高いものとも考えることができるが、裁量性が完全に否定されている訳ではないだけに、根幹に深刻な問題を抱えうるものであるとも言いうる。

 

 10.地方特例交付金

 地方交付税とは別に、地方公共団体の財源を保障する手段として、地方特例交付金制度が存在し、地方特例交付金等の地方財政の特別措置に関する法律によって規律される。

 地方特例交付金は、元々、1999(平成11)年に行われた減税措置に伴い設けられた制度である。現在、同法第1条は次のように規定する。

 「この法律は、個人の道府県民税(都民税を含む。第三条において同じ。)の所得割及び個人の市町村民税(区民税を含む。同条において同じ。)の所得割の収入が地方税法(昭和25年法律第226号)附則第5条の4及び第5条の4の2(同法附則第45条の規定により読み替えて適用する場合を除く。)の規定による控除(第3条において「住宅借入金等特別税額控除」という。)を行うことにより減少することに伴う地方公共団体の財政状況に鑑み、その財政の健全な運営に資するため、当分の間の措置として、地方特例交付金の交付その他の必要な財政上の特別措置を定めるものとする。」

 地方特例交付金は都道府県および市町村に対するものであり(同第2条第1項)、児童手当特例交付金および減収補てん特例交付金の二種類である(同第2項)。児童手当特例交付金の額は同第3条に、減収補てん特例交付金の額は同第4条に定められている。

 なお、地方特例交付金は、普通交付税の基準財政需要額に全額が算入される。

 

 ▲第6版における履歴:2022年12月25日掲載。

 ▲第5版における履歴:未掲載。

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第3部:地方税財政制度  第9回:地方税財政法とは(地方財政権その1)

2022年12月24日 00時00分00秒 | 財政法講義ノート〔第6版〕

 この講義ノートにおいて用いる「地方財政権」という語は、北野弘久博士、碓井光明教授などが用いる「自治体財政権」と同じ意味である。また、私が今回の講義で用いる「地方税財政法」は、碓井教授のいう「自治体財政・財務法」と同義と考えてよい。

 碓井光明『要説自治体財政・財務法』〔改訂版〕(1999年、学陽書房)3頁は、「自治体財政法」を「自治体の財政権力に関する法や、国・他の自治体との財政関係を規律する法の色彩が強」いもの、「自治体財務法」を「内部的な財政事務の統制ないし財政管理に関する法、すなわち、財政管理法(本書においては、この意味に用いることとする)という色彩が比較的強い」ものとして位置づけている。

 ここで、まずは地方税財政法について、さらに詳しくみていくこととする。

 既に、第1部において財政および財政法の定義を示した。念のため、ここに再現しておく。

 財政:国または地方公共団体が、その存在目的、およびそれを実現する任務を果たすため、必要な財力を調達し、維持・管理し、使用する作用のことである。

 形式的意義における財政法:財政法という名称の法律のことである。

 実質的意義における財政法:国または地方公共団体が必要な財力を調達するための法、財力を維持・管理するための法、財力を使用するための法、これらの総体である。

 従って、地方財政という場合には、上の定義から国を除けばよいことになる。そして、地方財政法という場合、それらの意義は、一応、次のようになる。

 形式的意義における地方財政法:地方財政法という名称の法律のことである。

 実質的意義における地方財政法:地方公共団体が必要な財力を調達するための法、財力を維持・管理するための法、財力を使用するための法、これらの総体である。なお、この講義においては、実質的意義における地方財政法を地方税財政法と表現している。

 碓井・前掲書6頁は「憲法92条及び94条から自治体財政権を抽出するならば、自治体財政権とは、自治体が、その事務処理に必要な経費に充てるために必要な財源を調達し管理する権能であるということができる」としている。

 但し、地方税財政法の場合、一の地方公共団体自体で完結するものではなく、国との関係などが含まれる。しかし、それを念頭に置くとしても、地方税財政法の定義は、上記のままでよいと思われる。

 それでは、地方税財政法の構造には、いかなる特徴があるのであろうか。碓井教授は「複合的構造」として、次の3点をあげている〈以下の記述を含めて、碓井・前掲書8頁による〉

 まず、地方税財政法のうちの財務管理に関する法は、主として地方公共団体の内部法としての性格を有し、形式的経理手続法とも言われる。主に行政組織法の一部として扱われることになるのであるが、時には外部法としての性格、さらに住民訴訟制度を通じて裁判規範としての性格を有することもある。むしろ、昨今においては裁判規範としての性格の度合いが高まっている、と考えてよい。

 次に、地方税財政法には、財政権力法というべきものが存在する。地方税法が代表的な存在である。地方税は一種の法定債務であり、法律および条例によって地方公共団体の債権および住民の債務が創造されることとなる。また、地方税の賦課徴収に権力的な側面が多いことは否定できない。しかも、地方税の場合は普通徴収方式(国税で言えば賦課徴収方式)によることが多く、申告制度によることが多い国税の場合よりも権力性が高いとも言える。但し、住民との関係が常に権力性を有する訳ではないという点には、注意を要する。

 そして、地方税財政法には、国または他の地方公共団体との関係を規律する法が存在する。これも行政組織法の一種と捉えることが可能であるが、地方自治法第2条第1項によって地方公共団体は法人とされており、国または他の地方公共団体との関係は行政主体間の関係であるから、行政組織法とは言っても単なる内部法ではありえない※。碓井教授の表現を借りるならば「行政主体間関係法」または「政府間関係法」ということになる。この講義ノートにおいては、行政主体間財政関係法と銘うつこととしておく。形式的な意味における地方財政法、地方交付税法などが、この種の法の代表である。もっとも、地方税法などにも、この種の性格がみられることがある。

 ※但し、碓井・前掲書9頁も指摘するように、この種の地方税財政法は、国も地方公共団体も行政機能を分担するがために狭義の法規としての性質を有しない、とする見解がある。この場合には、仮に地方公共団体と国との争訟が発生するとしても機関争訟としか位置づけられないこととなる。

 後に述べるように、行政主体間財政関係法は、とくに国との関係という側面に注目するならば、地方公共団体の財源を保障する機能と、その逆の機能とが同居するというものである。また、財政調整(Finanzausgleich / Fiscal Equalization System)の観点で記すならば、国と普通地方公共団体との税財政関係を規律する場合は垂直的財政調整が問題となり、普通地方公共団体同士の税財政関係を規律する場合は垂直的財政調整と水平的財政調整とが存在しうることとなる。

 本来、地方自治法第2条に示されているように、都道府県と市町村とは同格である。しかし、多くの場合において、同格ではなく、都道府県のほうが上に位置づけられることもある。このような場合には、都道府県と市町村との関係は垂直的な関係にある。他方、都道府県相互、または市町村相互の関係は水平的な関係である。

 ここで、地方税財政法とされる法律のうち、基本的なものをあげておく。

 ①日本国憲法

 当然のことながら、地方自治制度の大原則は日本国憲法に示されている。とくに、第92条および第94条は、地方税財政法に一貫すべき大原則を定めるのであり、地方財政権の根拠もこれらの条文に求められる。

 ②地方自治法

 日本国憲法を踏まえつつ、地方自治法が、地方自治に関する基本法として、地方自治制度の大枠を定めている。この中には、予算・決算、地方税や分担金などの収入に関する規定、支出に関する規定、財産の管理や処分に関する規定などが含まれている。その意味において、地方自治法は地方税財政法の基本法でもある。但し、地方自治法が地方税財政法の全領域を細かく規定する訳ではなく、この他の法律、政令、条例などに規律を委任している場合も多い。

 ③地方財政法

 地方自治法第243条の4は、「普通地方公共団体の財政の運営、普通地方公共団体の財政と国の財政との関係等に関する基本原則については、この法律に定めるもののほか、別に法律でこれを定める」と規定する。これを受ける形で地方財政法が存在する。同第1条に示されているように、地方財政の運営という、普通地方公共団体内部の事柄、そして「国の財政と地方財政との関係」などに関する基本原則を定めるものである。その意味において、国の財政を規律する形式的意味における財政法よりも規律の範囲が狭く、地方財政全般を規律するものではない。

 杉村章三郎『財政法』〔新版〕(1982年、有斐閣)372頁は、地方財政法について「その名称の示唆するような地方財政に関する法典を意味するものではない。その内容の重要性も国と地方公共団体との間における経費の配分、国の地方公共団体に対する負担強制の抑制等、国自身の行為の規制に見出されるのである」と述べる。

 ④地方税法

 この法律は、普通地方公共団体の地方税立法権、課税権などの根拠となる地方自治法第223条を受けたものである〈拙稿「地方税立法権」日本財政法学会編『財政法講座3 地方財政の変貌と法』(2005年、勁草書房)36頁)〉。また、地方自治法第96条第1項第4号にも関係する。

 国税については、所得税法、消費税法などのように、税目毎に法律が制定され、手続などについても国税通則法や国税徴収法のように個別に制定される。これに対し、地方税の場合は、税目に関係なく、地方税法によって統一的に定められる。税目のみならず、賦課徴収などの手続についても、地方税法によって統一的に定められる。その意味において、地方税法は地方税に関する統一的法典と言いうる。但し、地方税法の規定がそのまま各普通地方公共団体(東京都の特別区を含む)に適用されるのではなく、各普通地方公共団体の地方税条例(など)に規定されることによって、各普通地方公共団体は地方税の賦課徴収などをなしうるのである。地方税法は、普通地方公共団体の収入たる地方税に関する規定を置くことによって、普通地方公共団体の課税権を根拠づける一方、それに対する制約をなすものでもある。

 なお、法定外普通税・法定外目的税とは、地方税法に定められていない地方税のことである。地方税条例とは別個の条例によって規律される。

 ⑤地方交付税法

 地方自治法には対応する規定が存在しないが、これも地方公共団体の収入に関する法律である。それとともに、国と地方公共団体との財政関係を規律する、非常に重要な法律の一つである。地方交付税は、国税の一定割合を普通地方公共団体に交付することによって、地方財源の均衡化を図り、地方行政の計画的運営を保障することとされているのであるが(地方交付税法第1条)、実際には補助金に近い存在とも言われ、また、均衡化の役割も失われている。

 ⑥地方公営企業法

 地方自治法第263条を受けたものである※。国も一定の事業を行う際に企業を経営することがありうるが、地方公共団体についても同様である。そのため、企業の組織、企業に従事する職員の身分取り扱い、財務などに関して、地方自治法に対する特例法としての位置づけにある。公営企業については、特別会計が設けられ(地方公営企業法第17条)、発生主義に基づく企業会計原理が採用され(同第20条)、予算などについても特例が設けられている。

 ※この他、地方自治法第263条に基づく法律として地方公営企業労働関係法がある。

 ⑦地方独立行政法人法

 既に、国の行財政改革の一環として独立行政法人通則法が存在していたが、行財政改革の必要性は地方公共団体についても変わりがないため、地方公共団体が独立行政法人を設立する際の根拠法として制定されたのが地方独立行政法人法である。

 ⑧地方公共団体の財政の健全化に関する法律

 地方税財政法の基本的部分を構成すると言いうるか否か、私自身には明確ではない。しかし、昨今の地方財政の状況に鑑みると、いつ、どの地方公共団体がこの法律の適用を受けるかということも考えられうる。また、国と地方との関係、そして普通地方公共団体と住民との関係に重大な影響を及ぼすものなので、ここで取り上げておく。

 この法律に関する入門書的な文献として、月刊「地方財務」編集局編『スラスラわかる! 自治体財政健全化法のしくみ』(2007年、ぎょうせい)、兼村髙文『財政健全化法と自治体運営』(2008年、税務経理協会)がある。また、批判的な文献も少なくないが、ここでは平岡和久・森裕之『地方財政改革の焦点 新型交付税と財政健全化法を問う』(2007年、自治体研究社)をあげておく。

 地方公共団体の財政の健全化に関する法(以下、自治体財政健全化法)は、地方財政再建促進特別措置法に代わる法律として、2007(平成19)年6月22日、法律94条として公布され、一部の規定を除いて2009(平成21)年4月1日より施行された。地方公共団体の財政の健全化については、2006(平成18)年1月より、当時の総務大臣の私的懇談会として設置された「地方分権21世紀ビジョン懇談会」において議論されていた。同年、夕張市定例市議会において市長が地方財政再建促進特別措置法の準用団体となって財政再建に取り組む決意を述べたことがきっかけとなり、新しい法制度の設置が急がれたことによって、自治体財政健全化法が制定されたのである。

 なお、夕張市が準用再建団体に指定されたのは2007年3月である。

 自治体財政健全化法について述べる前に、廃止された地方財政再建促進特別措置法について若干の説明をしておこう。この法律は、本来は臨時立法であり、都道府県の約8割、市町村の約7割、町村の約2割が赤字決算だったと言われる1953(昭和28)年度決算の状況に鑑みて制定されたものである〈杉村章三郎『財政法』〔新版〕(1982年、有斐閣)373頁による〉。赤字決算に陥った普通地方公共団体を救済するという意味を有するが、地方債についての特例※を設ける一方、財政再建計画に対する国の承認、計画の実施状況の調査など、国による強い関与を受け、それに応じて自治権が制約されることになる※※。

 ※2006(平成18)年度より、地方公共団体が地方債を起こす際には総務大臣または都道府県知事との協議を行うこととされた(地方財政法第5条の3第1項・第3項・第4項、地方自治法第250条。原則として総務大臣または都道府県知事の同意を要するが、同意を得ないで起こすことも可能である)。しかし、財政再建団体となり、財政再建債を起こすには、総務大臣の許可を必要とした。2005(平成17)年度まで一般的に採用されていた許可制が残されている訳である。なお、地方財政法第5条の4にも、総務大臣または都道府県知事の許可を得なければならない場合が規定されている。

 ※※碓井・前掲書18頁は、地方財政再建促進特別措置法に対する批判説を紹介し、「財政再建団体の自律性が著しく制限されていたことは疑いない」としつつも、この法律による普通地方公共団体の自治権(財政権)の制約はやむをえないものであると評価する。

 なお、地方財政再建促進特別措置法の適用を受ける地方公共団体を財政再建団体というが、これは同第3条第4項により、「財政再建計画について承認を得た昭和29年度の赤字団体」、さらに言えば、同第2条第1項により、「昭和29年度において、歳入が歳出に不足するため昭和30年度の歳入を繰り上げてこれに充て、又は実質上歳入が歳出に不足するため昭和29年度に支払うべき債務の支払を昭和30年度に繰り延べ、若しくは昭和29年度に執行すべき事業を昭和30年度に繰り越す措置を行つた地方公共団体」を指す。このため、1955(昭和30)年度以降の年度に「歳入が歳出に不足するため翌年度の歳入を繰り上げてこれに充て、又は実質上歳入が歳出に不足するため当該年度に支払うべき債務の支払を翌年度に繰り延べ、若しくは当該年度に執行すべき事業を翌年度に繰り越す措置を行つた地方公共団体で既に財政再建団体となつているもの以外のもの(以下「歳入欠陥を生じた団体」という。)」は、同第22条第2項および第3項に従い、準用再建団体という。最近では、1992(平成4)年度から2001(平成13)年度まで、福岡県赤池町※が準用団体であった。また、2007(平成19)年度に、北海道夕張市が準用再建団体となっている。

 ※2006(平成18)年3月、金田町および方城町と合併し、福智町となっている。

 しかし、地方財政再建促進特別措置法には、次に示すような重大な問題点があった〈以下、宇賀克也『地方自治法概説』〔第9版〕(2021年、有斐閣)217頁を基にしている〉

 第一に、財政の早期是正ないし再建に重点を置いた財政指標の開示がなされず、その財政指標および算定根拠の客観性や正確性などを担保するための手段が不十分であった。

 第二に、再建団体の基準は存在したが、早期に是正する機能がなかった。このために、再建が長期にわたらざるをえないこととなった。

 第三に、再建団体の基準として実質収支比率というフローの指標のみが用いられていた。このため、実質公債費比率などが悪化した地方公共団体や、ストックベースで財政状況の面において問題を抱える地方公共団体が対象から外れていた。

 第四に、主に普通会計のみが対象とされており、地方公営企業や地方公社などとの関係が考慮の外に置かれていた。莫大な赤字を抱える地方公営企業、地方公社、さらに第三セクターなどを抱える地方公共団体には有効に対処しえなかったという訳である。

 第五に、地方公共団体における再建制度と地方公営企業における再建制度とが全くの別物であり、しかも後者についても財政情報の開示が不十分であった。

 第六に、再建を促進するための仕組みがほぼ限定されていた。

 以上の問題点を克服し、地方公共団体の破綻を防ぎ、「再建制度から再生制度へ」の転換※を図ることを目的として自治体財政再建法が制定された。第1条は「この法律は、地方公共団体の財政の健全性に関する比率の公表の制度を設け、当該比率に応じて、地方公共団体が財政の早期健全化及び財政の再生並びに公営企業の経営の健全化を図るための計画を策定する制度を定めるとともに、当該計画の実施の促進を図るための行財政上の措置を講ずることにより、地方公共団体の財政の健全化に資することを目的とする」と定めている。

 ※この表現は、兼村・前掲書3頁による。

 兼村髙文教授は、自治体財政再建法が地方財政再建促進特別措置法と異なる点として、主に「①自主再建の選択はないこと、②全ての自治体を対象としていること、③破綻の前に『早期健全化』の段階を設け2段階で健全化に取組むこと、④監査委員と議会にも責任を求めたこと、⑤健全化の財政指標(健全化判断比率)を法定したこと」をあげる〈兼村・前掲書23頁〉。また、平岡和久教授と森裕之准教授は、自治体財政再建法の特徴を「新たな自治体財政規律のルールとそれにもとづく国による行政的統制の強化」であるとした上で、同法の重要な点として「①財政の健全化を判断する指標として4つの指標を導入すること、②早期是正制度を導入すること、③早期是正段階での個別外部監査契約の義務づけ、④財政再生団体(従来の財政再建団体)の基準に実質赤字比率に加えて新たに連結実質赤字比率と実質公債費比率を入れたこと、⑤公営企業の経営の健全化を促進(資金不足比率が基準以上になった場合、経営健全化計画策定を義務付け)、⑥議会と監査委員の役割の拡大、など」をあげる〈平岡・森・前掲書102頁〉

 ここで、自治体財政健全化法第3条第1項が「健全化判断比率」としている4つの指標について概観しておく。同第2条がこれらの定義に関する規定を置くが、いずれも難解であるので簡略化する。

 第一に、実質赤字比率(同第1号)は、地方公共団体(都道府県、市町村および特別区のみを指す)の前年度一般会計等の歳入における実質赤字額を、標準財政規模の額※で除して得た数値のことである。

 ※これは、地方財政法第5条の4第1項第2号に規定されており、標準的な規模の収入の額として政令で定められる額をいう。

 第二に、連結実質赤字比率(同第2号)は、地方公共団体の連結実質赤字額を前年度の標準財政規模の額で除して得た数値のことである。結局、全会計の実質赤字額を前年度の標準財政規模の額で除して得た数値であるということになる〈平岡・森・前掲書102頁、宇賀・前掲書219頁〉

 第三に、実質公債費比率(同第3号)は、地方債の元利償還金(地方財政法第5条の4第1項第2号)の額と準元利償還金(同第2号)の額との合計額から一定の経費を控除して得られた額を、標準財政規模の額から一定の額を控除して得られた額で除して得られた数値である(但し「当該年度前三年度内の各年度に係るものを合算して得られた額」の3分の1の数値を用いる)。

 第四に、将来負担比率(自治体財政健全化法第2条第4号)は、地方公共団体の地方債の残高や債務負担行為に基づく支出予定額などの実質的な負債に地方公営企業や出資法人などの実質的負債を加えた額を、前年度の標準財政規模の額から算入公債費等の額を控除した額で除して得た数値である。

 地方公共団体の長は、毎年度、前年度の決算の提出を受けた後、速やかに以上の健全化判断比率およびその算定の基礎となる事項を記載した書類※を監査委員の審査に付し、その意見を付けて当該健全化判断比率を議会に報告し、かつ、当該健全化判断比率を公表しなければならない(同第3条第1項)。そして、この健全化判断比率を、都道府県知事および政令指定都市の市長は総務大臣に報告しなければならず、その他の市町村の長および特別区長は都道府県知事に報告し、その報告を受けた都道府県知事は総務大臣に報告しなければならない(同第3項)※※。

 ※これについては、自治体財政健全化法第3条第6項によって備え付けの義務が課されている。また、包括外部監査団体については同第7項を参照。

 ※※報告の取りまとめおよび公表については、第4項および第5項に規定されている。

 上記4種の健全化判断比率のいずれかが早期健全化基準以上の数値を示した場合には、原則として地方公共団体の長が財政健全化計画を作成し、議会の議決を経て定めなければならず(同第5条第1項、同第4条第1項)、この計画の内容を公表しなければならず、都道府県知事および政令指定都市の市長は総務大臣に報告しなければならず、その他の市町村の長および特別区長は都道府県知事に報告し、その報告を受けた都道府県知事は総務大臣に報告しなければならない(同第5条第2項)。

 この計画の内容は「財政の状況が悪化した要因の分析の結果を踏まえ、財政の早期健全化を図るため必要な最小限度の期間内に、実質赤字額がある場合にあっては一般会計等における歳入と歳出との均衡を実質的に回復することを、連結実質赤字比率、実質公債費比率又は将来負担比率が早期健全化基準以上である場合にあってはそれぞれの比率を早期健全化基準未満とすることを目標とし」なければならず、「次に掲げる事項について定めるもの」とされる。

 「一 健全化判断比率が早期健全化基準以上となった要因の分析

 二 計画期間

 三 財政の早期健全化の基本方針

 四 実質赤字額がある場合にあっては、一般会計等における歳入と歳出との均衡を実質的に回復するための方策

 五 連結実質赤字比率、実質公債費比率又は将来負担比率が早期健全化基準以上である場合にあっては、それぞれの比率を早期健全化基準未満とするための方策

 六 各年度ごとの前二号の方策に係る歳入及び歳出に関する計画

 七 各年度ごとの健全化判断比率の見通し

 八 前各号に掲げるもののほか、財政の早期健全化に必要な事項」(以上、同第2項)

 また、「財政健全化計画は、その達成に必要な各会計ごとの取組が明らかになるよう定めなければならない」(同第4条第3項)。

 なお、早期健全化基準は「財政の早期健全化(地方公共団体が、財政収支が不均衡な状況その他の財政状況が悪化した状況において、自主的かつ計画的にその財政の健全化を図ることをいう。以下同じ。)を図るべき基準として、実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率及び将来負担比率のそれぞれについて、政令で定める数値をいう」と定義されている(同第2条第5号)。

 また、上記4種の健全化判断比率のいずれかが財政再建基準以上の数値を示した場合には、財政健全化計画ではなく、財政再生計画の策定が義務づけられることとなる。自治体財政健全化法第8条第1項本文は「地方公共団体は、実質赤字比率、連結実質赤字比率及び実質公債費比率(以下「再生判断比率」という。)のいずれかが財政再生基準以上である場合には、当該再生判断比率を公表した年度の末日までに、当該年度を初年度とする財政の再生のための計画(以下「財政再生計画」という。)を定めなければならない」と定める。

 財政健全化計画を定めている地方公共団体(財政健全化団体)が財政再生計画を定めた場合には、財政健全化計画の効力が失われる(自治体財政健全化法第8条第2項)。

 ここで財政再生基準は「財政の再生(地方公共団体が、財政収支の著しい不均衡その他の財政状況の著しい悪化により自主的な財政の健全化を図ることが困難な状況において、計画的にその財政の健全化を図ることをいう。以下同じ。)を図るべき基準として、実質赤字比率、連結実質赤字比率及び実質公債費比率のそれぞれについて、早期健全化基準の数値を超えるものとして政令で定める数値をいう」と定義されている(同第2条第6号)。早期健全化基準の数値を超える場合には再生判断比率とも呼ばれる。

 財政再生計画は、やはり地方公共団体の長が作成し、議会の議決を経て定めなければならない(同第9条第1項)。これについても財政健全化計画とほぼ同様の報告義務が課されている(同第2項)。財政再生計画の内容は「財政の状況が著しく悪化した要因の分析の結果を踏まえ、財政の再生を図るため必要な最小限度の期間内に、実質赤字額がある場合にあっては一般会計等における歳入と歳出との均衡を実質的に回復することを、連結実質赤字比率、実質公債費比率又は将来負担比率が早期健全化基準以上である場合にあってはそれぞれの比率を早期健全化基準未満とすることを、第十二条第二項に規定する再生振替特例債を起こす場合にあっては当該再生振替特例債の償還を完了することを目標とし」なければならず、「次に掲げる事項について定めるものと」される。

 「一 再生判断比率が財政再生基準以上となった要因の分析

 二 計画期間

 三 財政の再生の基本方針

 四 次に掲げる計画(ロ及びハに掲げる計画にあっては、実施の要領を含む。次号において同じ。)及びこれに伴う歳入又は歳出の増減額

  イ 事務及び事業の見直し、組織の合理化その他の歳出の削減を図るための措置に関する計画

  ロ 当該年度以降の年度分の地方税その他の収入について、その徴収成績を通常の成績以上に高めるための計画

  ハ 当該年度の前年度以前の年度分の地方税その他の収入で滞納に係るものの徴収計画

  ニ 使用料及び手数料の額の変更、財産の処分その他の歳入の増加を図るための措置に関する計画

  ホ 地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第四条第二項若しくは第五条第二項に掲げる普通税について標準税率を超える税率で課し、又は同法第四条第三項若しくは第五条第三項の規定による普通税を課することによる地方税の増収計画※

 五 前号の計画及びこれに伴う歳入又は歳出の増減額を含む各年度ごとの歳入及び歳出に関する総合的な計画

 六 第十二条第二項に規定する再生振替特例債を起こす場合には、当該再生振替特例債の各年度ごとの償還額

 七 各年度ごとの健全化判断比率の見通し

 八 前各号に掲げるもののほか、財政の再生に必要な事項」(以上、同第8条第3項)

 ※「財政の再生のため特に必要と認められる地方公共団体に限る」(自治体財政健全化法第8条第3項ただし書き)。

 また、「財政再生計画は、その達成に必要な各会計ごとの取組が明らかになるよう定めなければならない」(同第4項)。

 再生判断基準および財政再生計画に関連して、地方公共団体は次のような制約を受ける。

 第一に、再生判断比率のいずれかが財政再生基準以上であり、かつ、財政再生計画について総務大臣の同意(同第10条第3項・第7項)を得ていない地方公共団体は「地方債をもってその歳出の財源とすることができない」(同第11条本文)。

 第二に、財政再生団体は、財政再生計画について総務大臣の同意を得ている場合に限り、収支不足額を地方債に振り替え、その収支不足額を財政再生計画の計画期間内に計画的に解消するため、地方財政法第5条の規定にかかわらず、当該収支不足額の範囲内で、地方債(再生振替特例債)を起こすことができる(自治体財政健全化法第12条第1項)。財政再建団体は、再生振替特例債を財政再生計画の計画期間内に消化しなければならないが、国も法令の範囲内において、かつ資金事情の許す限りにおいて適正な配慮をしなければならない(同第2項・第3項)

 第三に、財政再生団体、および財政再生計画を定めていないが再生判断比率のいずれかが財政再建基準以上である地方公共団体は「地方債を起こし、又は起債の方法、利率若しくは償還の方法を変更しようとする場合は、政令で定めるところにより、総務大臣の許可を受けなければならない。この場合においては、地方財政法第五条の三第一項の規定による協議をすること並びに同法第五条の四第一項及び第三項から第五項までに規定する許可を受けることを要しない」(自治体財政健全化法第13条第1項)。

 この他、財政再生団体に係る総務大臣から各省各庁の長への通知(同第14条)、財政再生団体の長による財政再生計画の実施状況の報告・公表(同第18条)、総務大臣による財政再生計画の実施状況の調査や報告(同第19条)などがある。

 

 ▲第6版における履歴:2022年12月24日掲載。

 ▲第5版における履歴:未掲載。

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第3部:地方税財政制度  第12回:地方公共団体の経費の負担(地方財政権その4)

2022年12月23日 00時00分00秒 | 財政法講義ノート〔第6版〕

 1 経費全額負担の原則

 行政事務の経費を、どの行政主体がどれだけ負担すべきであるかは、地方税財政制度における重要な課題である。行政事務は国、都道府県、市町村のそれぞれが法令または条規に従って行うのであるが、事務の配分と財政支出権限の配分とが一致しない場合も多く、共管事務、事務の委託などが往々にして行われているからである。

 経費の負担については、いくつかの考え方が存在しうる。1948(昭和23)年に制定された地方財政法は、当初、事務を実際に行う行政主体の如何ではなく、利害が帰属する行政主体が経費を負担するという原則を採用し、「主として地方公共団体の利害に関係のある事務を行うために要する経費」、「国と地方公共団体相互の利害に関係のある事務を行うために要する経費」、「主として国の利害に関係のある事務を行うために要する経費」および「地方公共団体が処理する権限を有しない事務を行うために要する経費」に区分していた〈碓井光明『要説自治体財政・財務法』〔改訂版〕(1999年)33頁による〉。しかし、1952(昭和27)年度改正により、利害の帰属ではなく、事務を行うべき行政主体が経費を負担するという原則に変更された。現在の地方財政法第9条は、都道府県が条例によって市町村が処理することとした事務(地方自治法第252条の17の2第1項)※、および、都道府県が条例により、都道府県が加入しない広域連合が処理することとした事務(同第291条の2第2項)を除き、当該地方公共団体が、事務を行うために要する経費を全額負担すると定める※※。これを経費全額負担の原則と表現することが可能である。

 ※これは「条例による事務処理の特例」と位置づけられ、事務の委託とは異なる、と説明される。都道府県から市町村への事務の再配分であり、事務の管理および執行の権限は市町村長にある。松本英昭『要説地方自治法』〔第六次改訂版〕(2009年、ぎょうせい)636頁。

 ※※地方自治法第252条の17の2第1項に該当する場合には、地方財政法第28条第1項により、都道府県が経費の財源について必要な措置を講じなければならない。また、地方自治法第291条の2第2項に該当する場合には、地方財政法第28条第2項により、同第1項が準用される。

 経費全額負担の原則は、地方自治法第232条第1項にも「普通地方公共団体は、当該普通地方公共団体の事務を処理するために必要な経費その他法律又はこれに基づく政令により当該普通地方公共団体の負担に属する経費を支弁するものとする」として表現されている。

 その上で、国が法令によって新たに事務の処理を義務づける場合には、やはり地方公共団体が経費を負担しなければならないのであるから、同第2項により、「法律又はこれに基づく政令により普通地方公共団体に対し事務の処理を義務付ける場合においては、国は、そのために要する経費の財源につき必要な措置を講じなければならない」こととされる。この趣旨は地方財政法第13条第1項にも規定される。さらに、この「財源措置について不服のある地方公共団体は、内閣を経由して国会に意見書を提出することができ」(同第2項)※、「内閣は、前項の意見書を受け取つたときは、その意見を添えて、遅滞なく、これを国会に提出しなければならない」(同第3項)。

 ※碓井・前掲書34頁は、意見書提出について「自治体の国政参加権の一種として位置づけることができる」と述べる。

 地方財政法第13条に規定される財政措置に関する権利は、あくまでも個別の地方公共団体の権利であり、地方公共団体の連合組織などについて認められるものではない。地方公共団体の全国的な連合組織については、地方自治法第263条の3に規定されており、第1項において設置した場合の総務大臣への届出義務を規定した上で、第2項において届出をした全国的連合組織が「地方自治に影響を及ぼす法律又は政令その他の事項に関し、総務大臣を経由して内閣に対し意見を申し出、又は国会に意見書を提出することができる」と定めている。

 もっとも、内閣に対して意見を申し出、または国会に意見書を提出するとしても、個別の地方公共団体、全国的連合組織の意思が確実に反映されるとは限らない。内閣は、提出された意見を参考にするなどの政治的義務を負うものと思われるが、提出された意見を着実に反映する財源措置を講じなければならないという法的義務を負うものとは解されない。また、国会は、提出された意見書を誠実に処理しなければならないものと思われるが、その趣旨を必ず実現しなければならないとは言えない。その意味において、個人の請願権と類似する性格を有することとなる。

 一方、地方財政法第21条第1項は「内閣総理大臣及び各省大臣は、その管理する事務で地方公共団体の負担を伴うものに関する法令案について、法律案及び政令案にあつては閣議を求める前、命令案にあつては公布の前、あらかじめ総務大臣の意見を求めなければならない」と定め、同第2項は「総務大臣は、前項に規定する法令案のうち重要なものについて意見を述べようとするときは、地方財政審議会の意見を聴かなければならない」と定める。これは、地方公共団体の過重負担を防止するためのものであるが、ここで総務大臣は地方公共団体の代理人的な地位にある訳ではない。また、同第22条第1項は「内閣総理大臣及び各省大臣は、その所掌に属する歳入歳出及び国庫債務負担行為の見積のうち地方公共団体の負担を伴う事務に関する部分については、財政法(昭和22年法律第34号)第17条第2項に規定する書類及び同法第35条第2項に規定する調書を財務大臣に送付する際、総務大臣の意見を求めなければならない」、第2項は「総務大臣は、前項に規定する書類及び調書のうち重要なものについて意見を述べようとするときは、地方財政審議会の意見を聴かなければならない」と定めるが、これについても第21条と同様のことを指摘しうる。

 

 2 経費全額負担の原則に対する例外

 前述の通り、地方財政法第9条は経費全額負担の原則を定める。しかし、同条ただし書きは、同第10条ないし第10条の4までに規定される経費については例外としている。また、附則にある第34条ないし第36条、災害関係の多くの法律が、経費全額負担の原則に対する例外を定める。このうち、第10条の4は、第10条ないし第10条の3と性質を異にするので、別個に扱うこととする。

 地方財政法第10条ないし第10条の3に定められる国の経費負担は、一般に国庫負担金と言われる。ここで辞書的に定義を記すならば、国庫負担金とは、地方公共団体が行う事務で国と地方公共団体の相互の利害に関係する事務に要する経費につき、国と地方公共団体との経費の負担の区分に基づき、国が義務的に負担する給付金をいう。この種の事務について国が経費を一部でも負担するのは当然のことであるため、いわば割勘的に国と地方公共団体がそれぞれ分担するのである〈碓井・前掲書71頁〉

 ここで地方財政法第10条ないし第10条の3までの規定を読むと、経費全額負担の原則は実のところ法的意味に乏しいことが理解される。たとえば、普通国庫負担金を定める第10条は「地方公共団体が法令に基づいて実施しなければならない事務であつて、国と地方公共団体相互の利害に関係がある事務のうち、その円滑な運営を期するためには、なお、国が進んで経費を負担する必要がある次に掲げるものについては、国が、その経費の全部又は一部を負担する」として、義務教育職員の通常の給与に関する経費(第1号)、義務教育諸学校の建物の建築に要する経費(第3号)などを掲げ、第10条の2は「国がその全部又は一部を負担する建設事業に要する経費」を掲げる。

 第10条の2に定められる国庫負担金は建設事業費国庫負担金ともいい、第10条の3に定められる国庫負担金は災害復旧事業費等国庫負担金ともいう。

 なお、第10条の4は「専ら国の利害に関係のある事務を行うために要する」経費について「地方公共団体は、その経費を負担する義務を負わない」と定め、「国会議員の選挙、最高裁判所裁判官国民審査及び国民投票に要する経費」、「外国人登録に要する経費」、「国民年金、雇用保険及び特別児童扶養手当に要する経費」などを掲げる。これらは国庫委託金といい、国庫負担金と区別される。

 これらは、いずれも本来ならば国が自らの機関を通じて行うべき事務であり、それを地方公共団体の機関に委任しているのであるから、地方公共団体が経費負担の義務を負わないことは当然である(もっとも、地方公共団体が自ら経費を負担することが許されない訳ではない)。しかし、「国会議員の選挙、最高裁判所裁判官国民審査及び国民投票に要する経費」については実額負担ではなく、国会議員の選挙等の執行経費の基準に関する法律によって定められた基本額および加算額のみが負担されることとなる。また、第10条の4に規定された諸事務を地方公共団体が支弁した場合に、その金額を直ちに国に対して請求しうるものではない、とされている。

 

 3 経費負担の区分の意味

 地方財政法第10条ないし第10条の3を再読すると、いずれの規定においても「国が、その経費の全部又は一部を負担する」と定められているものの、負担割合の詳細については一切示されていないことがわかる。結局、第11条により、「第10条から第10条の3までに規定する経費の種目、算定基準及び国と地方公共団体とが負担すべき割合は、法律又は政令で定めなければならない」ということになるのであるが、第10条ないし第10条の3に列挙される事務の根拠法律を参照しても、国の負担割合が規定されているものもあれば規定されていないものもあって統一がとれていない。とくに、根拠法律に規定されていないものは政令に委任されており、全く問題がないとは言えない。また、負担割合を規定しているとしても「予算の範囲内」などとしている例も多い。碓井教授の表現を借りるならば、「国庫負担金は、割勘的な経費負担であるのに、ここでは、『予算の範囲内』という留保によって、補助金に転化されているといえよう(負担金の補助金への転化)」〈碓井・前掲書37頁〉

 国庫補助金は、地方財政法第16条によって「その施策を行うため特別の必要があると認めるとき又は地方公共団体の財政上特別の必要があると認めるときに限り」国から地方公共団体に交付するものとされている。特定の事務や事業の実施を奨励するための補助金を奨励的補助金といい、財政援助をするための補助金を財政援助補助金という。いずれにせよ、概念上は国庫負担金と異なり、国の利害に関係のある地方公共団体の事務事業について当然に経費として支出すべきものではない。しかし、同第18条が国庫負担金、国庫委託金および国庫補助金を併せて国庫支出金と総称すること、この三種類がいずれも特定の使途に向けられた経費であることから、とくに国庫負担金と国庫補助金との区別が曖昧になりやすいのである。

 このことは、摂津訴訟として法廷の場においても問題となった。まずは事案を見ていくこととする。

 摂津市は、市内に四箇所の保育所を設置し、その費用として合計9272万9990円を支出した。同市は、地方財政法第10条の2第5号、児童福祉法第52条(当時)、同第51条第2号(当時)、児童福祉法施行令第15条第1項(当時)、同第16条第1号の規定に従い、国は摂津市 が支弁した費用の額からその費用のための寄付金などの収入額を控除して得られた精算額の2分の1を国庫が負担すべきであると主張した。その上で、摂津市は「各会計年度終了時において当該年度中に支弁した設備費用につき、何ら特別の手続を要せずに直接右法及び法施行令の各規定に基づいて国庫に対し精算額の2分の1に該当する金額の負担金支払請求権を取得するものと解すべきである」として、支出額の2分の1である4636万4995円から、既に国が交付決定し支払った250万円を差し引いて得られた4386万4995円を支払うように請求した。

 これに対し、国は「国の負担金についての具体的な請求権は、(中略)補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(中略)第六条所定の交付の決定(中略)の効果として発生し、同法第一五条所定の補助金等の額の確定があつた場合の確定額が当該請求権の金額となる」と主張した。

 東京地判昭和51年12月13日行裁例集27巻11・12号1790頁は、「負担金については交付決定を経由することなく各実体法の規定に直接基づいて具体的な請求権が発生するとの見解をとれば、国はいつ、いかなる内容の負担金支払請求権が発生し、それが行使されることになるのかを把握することが困難となり、その結果適正化法の前示目的の達成が不服又は著しく困難となるのみならず、予算編成にも支障が及び、ひいては財政上の基本原則として採用されている会計年度独立の原則を脅かすこととなり、また、国家財政の計画的運用、財源の効率的活用も不可能となることが明らかであ」ると述べた。その上で、児童福祉法第52条などについて「右規定は単に抽象的な国の負担義務を定めた規定にとどまると解すべきであつて、右規定から直接具体的な負担金請求権が生ずると解することはでき」ず、「右各規定は市町村が任意に設置する保育所のすべてを負担金交付の対象とすべきことを規定したものではなく、また負担金交付対象とした保育所の設備費用についても、市町村が現実に支出した費用の全額をもつて負担金の額算定の基礎とすべき旨を規定したものではな」く、「行政庁が当該保育所を負担金交付の対象とすべきものか否かを判断し、交付対象とすべきものと判断した場合に、合理的な基準に基づいて算定した設備費用額を基礎とする一定割合の額の負担を国に命じている規定であつて、具体的負担金請求権は行政庁の合理的な判断とそれに基づく行為によつて発生することを予定した規定」であると判断した。

 しかし、このように理解すると、結局、地方財政法第10条の2第5号の規定の意味は失われかねない。国庫負担金は裁量性を認めうるような性質のものではないはずである。その点において、一審判決には疑問が残る。摂津訴訟二審判決(東京高判昭和55年7月28日行裁例集31巻7号1558頁)は、児童福祉法および同施行令の当該規定のみから具体的請求権が発生しないとした点において一審判決と同様であるものの、「地方財政法10条以下に現定されている地方公共団体に対する国の負担金と同法16条所定の地方公共団体に対する国の補助金とを比較するとき、同法上これらの性質に異つた点のあることは右各規定からみて明らかであり、とくに、前者は義務的なものであり、後者は裁量的なものである点において大きな差異があるというべきである」と判示している。

 

 4 寄付等の禁止

 地方財政法第4条の5は、国が地方公共団体またはその住民に対して、直接的か間接的であるかを問わず、寄附金を割り当てて強制的に徴収してはならないと規定する。同条は、地方公共団体が他の地方公共団体または住民に対して同様の行為をなすことも禁止する。

 この規定の趣旨は、寄附金などによって国のサーヴィスの提供先が左右されるなどの弊害を防ぐこと、寄附金などのために地方公共団体の財政に負の影響を与えることを防止することにある。その意味において、この規定は地方公共団体の税財政権を保障するとともに、財務法上の規制法でもある。

 なお、地方財政法第24条は「国が地方公共団体の財産又は公の施設を使用するときは、当該地方公共団体の定めるところにより、国においてその使用料を負担しなければならない。但し、当該地方公共団体の議会の同意があつたときは、この限りでない」と定めている。この但し書きにある議会の同意については見解が分かれるが、包括的な同意の議決や条例の定めによる同意ではなく、個別的な同意の議決を必要とすると考えるのが妥当であろう。

 

 ▲第6版における履歴:2022年12月23日掲載。

 ▲第5版における履歴:未掲載。

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第3部:地方税財政制度  第11回:国対地方の関係の側面からみた地方財政権(地方財政権その3)

2022年12月22日 11時10分20秒 | 財政法講義ノート〔第6版〕

 地方財政権は、憲法第92条および第94条に根拠づけられるとともに、これらの規定によって保障されるべきものである。このことは、地方財政権も国法体系の一構成要素であることをも意味する。そのため、地方財政権には、国との関係という側面からみた場合に、国、とくに国家財政からの一定の自律あるいは自立を求めるという性質を有すると同時に、国、とくに国家財政に対して一定の財源を保障するように請求しうるという権能をも有することとなる。

 そこで、地方財政権を、自律権と財源保障とに分け、それぞれについて概説を加えておく。

 (1)自律権としての性格

 地方公共団体は、国法体系に位置づけられ、統治機構としての性格を有しつつも、独立の法人格を与えられた存在である。すなわち、地方公共団体は国の統治機構の一部をなすのではなく、国から独立した自律的(または自立的)な存在なのである。

 地方財政権についても、基本的に同様のことが妥当する。地方財政権も国法体系に位置づけられる以上、国と全く無関係ではありえない。国家財政と密接な関係を有することを否定する訳にもいかない。しかし、一定の自律性が認められなければ、地方公共団体の自律性そのものが失われかねない。

 この、自律権としての性格に着目した場合、地方財政権は自主財政権とも言われる。日本の場合、憲法の規定にもかかわらず、大日本帝国憲法時代から引き継がれた機関委任事務が長らく存在し、強化されたこともあって、地方分権推進計画も指摘したように「国と地方の歳出純計に占める地方の歳出の割合は約3分の2であるのに対し、租税総額に占める地方税の割合は約3分の1となっており、歳出規模と地方税収入との乖離が存在している」という状態が根本に存在していた。そして、地方財政は、独自の租税収入よりも大きい部分を、地方交付税や国庫支出金などに頼っている状態である。地方分権的な色彩が皆無であった訳ではないが、中央集権的な性格のほうが濃厚であり、いわゆる三割自治の状態が、現在まで続いてきた。

 地方財政法第2条は、第1項において「地方公共団体は、その財政の健全な運営に努め、いやしくも国の政策に反し、又は国の財政若しくは他の地方公共団体の財政に累を及ぼすような施策を行つてはならない」とし、第2項において「国は、地方財政の自主的な且つ健全な運営を助長することに努め、いやしくもその自律性をそこない、又は地方公共団体に負担を転嫁するような施策を行つてはならない」とする。この規定は、地方財政権に自律性を保障しようとする一方で、地方財政権が国家財政などに拘束されうることを認めている。

 地方財政権の自律性が問題となりうる局面は多岐にわたるのであるが、主なものとしては、地方税立法権および地方税行政権(両者を合わせて課税権としてよい)、予算編成権であろう。

 地方税立法権および地方税行政権については、後に扱う。

 予算編成権については、法定受託事務の存在、および、地方交付税法第7条に基づいて内閣が作成する地方財政計画が、制約として存在する。同条によると「内閣は、毎年度左に掲げる事項を記載した翌年度の地方団体の歳入歳出総額の見込額に関する書類を作成し、これを国会に提出するとともに、一般に公表しなければならない」として、第1号および第2号に規定される事項をまとめなければならないこととなっている。これが地方交付税の交付額の算定につながるだけに、各地方公共団体の予算作成にとって制約になるばかりでなく、国の予算の成立時期によっては障害にもなりうる。

 (2)財源保障請求権としての性格

 地方公共団体の財政権の自律性を保障することは重要である。しかし、地方公共団体の財政権には格差がある。現実には、地方公共団体の財政需要を自らの財源調達のみによってカヴァーしえないという所が多い。また、本来は国または都道府県の事務であるべきものが法定受託事務として都道府県または市町村の事務とされるものも多い。以上の点からすれば、地方公共団体の財政需要を充足するためにも、それなりの財源を保障せざるをえない。

 ①義務教育費国庫負担法など

 義務教育は、憲法第26条に定められるものであり、本来的には国の責務であると考えられる。少なくとも、教育水準の確保など、一定の責務が国に課せられる。他方、学校教育法第2条第1項は、地方公共団体が学校の設置者となりうることを規定し、同第5条は「学校の設置者は、その設置する学校を管理し、法令に特別の定のある場合を除いては、その学校の経費を負担する」と定め、設置者負担原則を明示する。

 これらを受けて、義務教育費国庫負担法第1条は「この法律は、義務教育について、義務教育無償の原則に則り、国民のすべてに対しその妥当な規模と内容とを保障するため、国が必要な経費を負担することにより、教育の機会均等とその水準の維持向上とを図ることを目的とすると定め、さらに、第2条は「教職員の給与及び報酬等に要する経費の国庫負担」として、次のように定める。

 「国は、毎年度、各都道府県ごとに、公立の小学校、中学校、中等教育学校の前期課程並びに特別支援学校の小学部及び中学部(学校給食法(昭和29年法律第160号)第6条に規定する施設を含むものとし、以下「義務教育諸学校」という。)に要する経費のうち、次に掲げるものについて、その実支出額の3分の1を負担する。ただし、特別の事情があるときは、各都道府県ごとの国庫負担額の最高限度を政令で定めることができる。

 一 市(特別区を含む。)町村立の義務教育諸学校に係る市町村立学校職員給与負担法(昭和23年法律第135号)第1条に掲げる職員の給料その他の給与(退職手当、退職年金及び退職一時金並びに旅費を除く。)及び報酬等に要する経費(以下「教職員の給与及び報酬等に要する経費」という。)

 二 都道府県立の中学校(学校教育法(昭和22年法律第26号)第71条の規定により高等学校における教育と一貫した教育を施すものに限る。)、中等教育学校及び特別支援学校に係る教職員の給与及び報酬等に要する経費」

 ここで、関係する諸法律の規定も示しておくこととする。

 市町村立学校職員給与負担法の第1条は、次のように定めている。

 「市(特別区を含む。)町村立の小学校、中学校、中等教育学校の前期課程及び特別支援学校の校長(中等教育学校の前期課程にあつては、当該課程の属する中等教育学校の校長とする。)、副校長、教頭、主幹教諭、指導教諭、教諭、養護教諭、栄養教諭、助教諭、養護助教諭、寄宿舎指導員、講師(常勤の者及び地方公務員法(昭和25年法律第261号)第28条の5第1項に規定する短時間勤務の職を占める者に限る。)、学校栄養職員(学校給食法(昭和29年法律第160号)第7条に規定する職員のうち栄養の指導及び管理をつかさどる主幹教諭並びに栄養教諭以外の者をいい、同法第6条に規定する施設の当該職員を含む。以下同じ。)及び事務職員のうち次に掲げる職員であるものの給料、扶養手当、地域手当、住居手当、初任給調整手当、通勤手当、単身赴任手当、特殊勤務手当、特地勤務手当(これに準ずる手当を含む。)、へき地手当(これに準ずる手当を含む。)、時間外勤務手当(学校栄養職員及び事務職員に係るものとする。)、宿日直手当、管理職員特別勤務手当、管理職手当、期末手当、勤勉手当、義務教育等教員特別手当、寒冷地手当、特定任期付職員業績手当、退職手当、退職年金及び退職一時金並びに旅費(都道府県が定める支給に関する基準に適合するものに限る。)(以下「給料その他の給与」という。)並びに定時制通信教育手当(中等教育学校の校長に係るものとする。)並びに講師(公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律(昭和33年法律第116号。以下「義務教育諸学校標準法」という。)第17条第2項に規定する非常勤の講師に限る。)の報酬及び職務を行うために要する費用の弁償(次条において「報酬等」という。)は、都道府県の負担とする。

 一 義務教育諸学校標準法第6条の規定に基づき都道府県が定める小中学校等教職員定数及び義務教育諸学校標準法第10条の規定に基づき都道府県が定める特別支援学校教職員定数に基づき配置される職員(義務教育諸学校標準法第18条各号に掲げる者を含む。)

 二 公立高等学校の適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律(昭和36年法律第188号。以下「高等学校標準法」という。)第15条の規定に基づき都道府県が定める特別支援学校高等部教職員定数に基づき配置される職員(特別支援学校の高等部に係る高等学校標準法第24条各号に掲げる者を含む。)

 三 特別支援学校の幼稚部に置くべき職員の数として都道府県が定める数に基づき配置される職員」

 同第2条は、次のような規定である。

 「市(地方自治法(昭和22年法律第67号)第252条の19第1項の指定都市を除く。)町村立の高等学校(中等教育学校の後期課程を含む。)で学校教育法(昭和22年法律第26号)第4条第1項に規定する定時制の課程(以下この条において「定時制の課程」という。)を置くものの校長(定時制の課程のほかに同項に規定する全日制の課程を置く高等学校の校長及び中等教育学校の校長を除く。)、定時制の課程に関する校務をつかさどる副校長、定時制の課程に関する校務を整理する教頭、主幹教諭(定時制の課程に関する校務の一部を整理する者又は定時制の課程の授業を担任する者に限る。)並びに定時制の課程の授業を担任する指導教諭、教諭、助教諭及び講師(常勤の者及び地方公務員法第28条の5第1項に規定する短時間勤務の職を占める者に限る。)のうち高等学校標準法第7条の規定に基づき都道府県が定める高等学校等教職員定数に基づき配置される職員(高等学校標準法第24条各号に掲げる者を含む。)であるものの給料その他の給与、定時制通信教育手当及び産業教育手当並びに講師(高等学校標準法第23条第2項に規定する非常勤の講師に限る。)の報酬等は、都道府県の負担とする。」

 同第3条は、次のような規定である。

 「前2条に規定する職員の給料その他の給与については、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(昭和31年法律第162号)第42条の規定の適用を受けるものを除く外、都道府県の条例でこれを定める。」

 なお、義務教育諸学校国庫負担法は廃止された。

 ②地方財政調整制度

 財政調整という用語は、元々、ドイツ租税法学の父とも評価されるアルベルト・ヘンゼル(Albert Hensel)が、おそらくはスイスの憲法制度を基にしつつ打ち立てた概念であるが、その概念の重要性にも関わらず、ドイツにおいては確定的定義が未だ存在しないという状況にある。一方、日本は単一国家であるという事情があるので、とくに地方財政調整と表現されることが多いが、やはり、地方財政調整について明確な定義が下されていない場合が多い。それ故に、何を財政調整(法理)論の対象にするかについて必ずしも明らかでなく、しかも論者により射程距離に微妙な差異が存在する、という状況にある。ここでは、財政調整とはいかなる概念であるかについての詳説を避けるが、一般的には地方交付税制度が該当するという共通理解がみられる。

 文献紹介の意味も含めて、拙稿「地方税立法権」日本財政法学会編『財政法講座3 地方財政の変貌と法』(2005年、勁草書房)前掲書32頁注(10)を参照。また、同「ヘンゼルの地方財政調整法制度論」日本租税理論学会編『相続税制の再検討(租税理論研究叢書13)』(2003年、法律文化社)167頁、同「ドイツの地方税財源確保法制度」日本財政法学会編『地方税財源確保の法制度(財政法叢書20)』(2003年、龍星出版)75頁も参照。

 地方財政調整制度と考えられるものは、他に国庫支出金(地方財政法第10条以下および同第17条に規定される国庫負担金と同第16条に規定される国庫補助金からなる )などがあるが、国庫支出金についても、国庫支出金を財政調整制度に含める説※、国庫補助金を財政調整制度に含めない説※※、国庫支出金について明言を避けているが故に、国庫支出金を財政調整制度に含めるか否かが明らかでない説※※※が並存している。

 ※やや古い文献であるが、金子宏「総説」雄川一郎=塩野宏=園部逸夫編『現代行政法大系第10巻財政』(1984年、有斐閣)6頁、山崎正『地方分権と予算・決算』(1996年、勁草書房)93頁。また、橋本徹「イギリスの財政調整制度―レイフィールド委員会報告を中心に」藤田武夫=和田八束=岸昌三編『地方財政の理論と政策』(1978年、昭和堂)も、同じ前提をとるものと思われる。なお、佐藤進「国と地方公共団体の財政上の関係」雄川一郎=塩野宏=園部逸夫編『現代行政法大系第10巻財政』305頁は、「地方財政調整制度―交付税交付金を中心に―」という表題の下に地方交付税制度について論述するが、地方交付税制度以外の何が財政調整制度であるかについては明言していない。

 ※※遠藤湘吉「政府間の財政調整」武田隆夫=遠藤湘吉=大内力編『資本論と帝国主義論下―帝国主義論の形成と展開』(1971年、東京大学出版会)356頁。但し、この論文においては、国庫負担金を財政調整制度に含めるか否かについて明言されていない。

 ※※※例:俵静夫『地方自治法』(1969年、有斐閣)364頁、大島通義=宮本憲一=林健久編『政府間財政関係論』(1989年、有斐閣)所収の各論文、高林喜久夫「曲がり角に立つ地方財政調整」本間正明他『地方の時代の財政(シリーズ現代財政3)』(1991年、有斐閣)59頁、佐藤進=林健久編『地方財政読本』〔第四版〕(1994年、東洋経済新報社)177頁[持田伸樹担当]。

 ③地方譲与税制度

 地方譲与税は、財政調整の一種と考えるべき制度であり、地方公共団体の財源を保障するために、国税の全部または一部を地方公共団体に譲与するというものである。課税技術の関係で国税として賦課徴収されるものが望ましい、という理由により、地方譲与税が存在する。現在は、地方揮発油税、石油ガス譲与税、自動車重量譲与税、特別とん譲与税、航空機燃料譲与税がある。また、2004(平成16)年度から2006(平成18)年度までは、三位一体改革による税源移譲(平成18年度税制改正による、所得税から個人住民税への税源移譲を指す)に向けての暫定措置として、所得譲与税法による所得譲与税が施行されていた。

 地方揮発油税は、地方揮発油税法により、都道府県、市町村および特別区に対して財源を譲与するため、地方道路譲与税に代えて2009年4月1日から施行されるものである。

 地方道路譲与税は、地方道路譲与税法により、目的税としての地方道路税法によって徴収される地方道路税の収入額全額を譲与税とするものであった。譲与税の58%は都道府県および道路法第7条第3項に規定される指定市(地方自治法第252条の19第1項の市、すなわち政令指定都市を指す)に按分され(同第2条)、42%は市町村に按分されていた(同第3条)。

 石油ガス譲与税は、石油ガス譲与税法により、本来は普通税であるが道路特定財源とされている石油ガス税の収入額の2分の1を譲与税とするものであり、都道府県および道路法第7条第3項に規定される指定市に按分される(同第1条)。

 自動車重量譲与税は、自動車重量譲与税法により、本来は普通税であるが道路特定財源とされている自動車重量税の収入額の3分の1を譲与税とするものであり、市町村に按分される(同第1条)。

 特別とん譲与税は、特別とん譲与税法により、特別とん税の収入額全額を譲与税とするものである。これは、開港が所在する市町村に按分されるものであり、外航船舶に対して固定資産税の軽減措置がとられているために、その減収分を補うための財源とされる。特別とん税は目的税であるが、特別とん譲与税は開港所在市町村の一般財源とされる。

 開港とは、関税法第2条第1項第11号により「貨物の輸出及び輸入並びに外国貿易船の入港及び出港その他の事情を勘案して政令で定める港」と定義されるものである。この定義が、とん税法第2条第1項においてそのまま援用され、さらに特別とん税法第2条に援用されている。

  航空機燃料譲与税は、航空機燃料譲与税法により、普通税である航空機燃料税の収入額の13分の2を譲与税とするものであり、空港関係市町村および空港関係都道府県に按分される。空港関係市町村は、空港が所在する市町村または特別区「及びこれに隣接する市町村並びにその区域外に空港を設置している市町村で、総務大臣が指定するもの」であり、空港関係都道府県は「当該市町村を包括する都道府県」である(同第1条第2項)。航空機燃料譲与税は「航空機の騒音により生ずる障害の防止、空港及びその周辺の整備その他の政令で定める空港対策に関する費用」に充てられなければならない(同第7条)。

 ④交付金

 交付金は、国から地方公共団体などに対して、一定の行政上の必要性から交付される現金的給付である。性質は様々であるが、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律の適用対象とならないのが一般的である。補助金よりも使途が緩和されているなどの特徴がある。

 交付金には様々な種類がある。たとえば、地域再生法第19条は、地域再生計画の認定を受けた地方公共団体に対して地域再生基盤強化交付金を交付することができると定めており、これを「道整備交付金」、「汚水処理施設整備交付金」、「港整備交付金」からなるものとしている。また、道州制特別区域における広域行政の推進に関する法律第19条は、特定広域団体である道に対して「特定砂防工事交付金」、「特定保安施設事業交付金」、「特定道路事業交付金」、「特定河川改良工事交付金」を交付することができると定めている。

 また、発電用施設周辺地域整備法第7条による交付金※、防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律第9条による特定防衛施設周辺整備調整交付金、公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律第5条による、学校および病院などへの助成などは、補助金とは別に地方公共団体に資金を供給するものである。一方、国有提供施設等所在市町村助成交付金に関する法律による交付金は、在日米軍基地および自衛隊基地の所在市町村に対する交付金である。この他、道路交通法附則第16条に定められる交通安全対策特別交付金などがある。

 ※原子力発電所、水力発電所、地熱発電所、火力発電所、原子力発電に使用される核燃料物質の再処理施設など原子力発電と密接な関連を有する施設の誘致のためのものである。

 ⑤公営競技

 競馬、競艇、競輪、オートレースであり、それぞれ、競馬法、モーターボート競走法、自転車競技法、小型自動車競走法の定めによる。これらは、元々、地方公共団体の財源を保障するために認められているものであるが、近年は赤字のために廃止あるいは見直しを受ける例が多くなっている。

 ⑥宝くじ

 正式には当せん金付証票といい、地方財政法第32条および当せん金付証票法に基づいて行われる事業である。本来は第二次世界大戦後の混乱期に、地方財政の窮乏に対する当分の間の救済策として認められたものであるが、現在も事業は続けられているばかりか、ますます盛大になっている。「当分の間」という限定を外し、恒久的財源として位置づける必要があるものと思われる。

 参考:スポーツ振興投票券

 一般にサッカーくじなどと言われるもので、スポーツ振興投票の実施等に関する法律によって事業が行われる。この事業自体は地方公共団体でなく、独立行政法人日本スポーツ振興センターのみが行いうることとなっているが、同第21条第1項により、収益を「文部科学省令で定めるところにより、地方公共団体又はスポーツ団体(スポーツの振興のための事業を行うことを主たる目的とする団体をいう。以下この条及び第30条第3項において同じ。)が行う次の各号に掲げる事業に要する資金の支給に充てることができる」とされているので、地方公共団体が行うスポーツ施設の整備などに充てられることとなるであろう。但し、この法律がどこまで地方公共団体の財源保障請求権に応えるものであるかについては、不明確な点もある。

 (3)財政権力としての地方財政権

 直接的には国対地方の関係の側面に関わる訳ではないが、全く無関係とも言えないので、ここで住民などに対する関係を扱っておく。

 地方財政権は、財政権力としての性質を有する。この財政権力の中心は、何と言っても課税権である。その課税権を仔細に見るならば、立法権、賦課権、徴収権、収入権などと分けることが可能である。実際に地方公共団体がいかなる内容の課税権を有するかについては、国、時代などによって異なりうるし、現在の日本の地方税制度においても、税目によって異なっている。たとえば、地方消費税の場合、本来的には少なくとも賦課権、徴収権および収入権が認められることとなっているが、附則第9条の4以下により、収入権のみが認められる。しかし、これでは地方譲与税とあまり変わりがないし、国との関係はともあれ、住民などとの関係は非常に稀薄なものとなる。少なくとも賦課権および徴収権を有しなければ、真の課税権とは言えないであろう。

 既に述べたように、地方公共団体の課税権は、法律上、地方自治法第223条に根拠づけられる。その上で地方税法に根拠づけられるのである。もっとも、これについては地方税条例主義という重要な概念があるので、「15 地方税制度」において述べることとする。

 また、地方自治法第228条は、分担金、使用料、加入金および手数料について条例主義を規定する。すなわち、これらの収入を得るためにはあらかじめ条例を制定しておかなければならないということである。これら以外の収入について、個別の法律が存在する場合に認められることは当然であるが、法律に定めがなく、かつ、禁止規定もない場合に、地方公共団体が条例によって独自の収入を設定し、それについて地方財政権を行使しうるかという問題もあるが、この講義においては、一応、可能であると考えておくこととする。

  そして徴収権である。財政権力の一部としての徴収権であるから、基本的に強制徴収が可能であると考えなければならない。地方税については地方税法が詳細に定めるところであるが、その他のものについては地方自治法第231条の3第3項の規定があり、「分担金、加入金、過料又は法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の歳入料又は法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の歳入につき第1項の規定による督促を受けた者が同項の規定により指定された期限までにその納付すべき金額を納付しないときは、当該歳入並びに当該歳入に係る前項の手数料及び延滞金について、地方税の滞納処分の例により処分することができる」とされる。ここでいう「法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の歳入」は、同附則第6条により限定的に列挙されることには注意が必要である。

 徴収権は、国の場合と同様、消滅時効にかかる。地方税法第18条第1項は、地方税の徴収権が法定納期限の翌日から起算して5年間行使されないことによって、時効により消滅すると定める。しかも、この時効については援用を必要とせず、利益を放棄することもできない(同第2項)。また、時効の中断および停止については第18条の2が定める。さらに、還付金については第18条の3が規定しており、「地方団体の徴収金の過誤納により生ずる地方団体に対する請求権及びこの法律の規定による還付金に係る地方団体に対する請求権」は、請求をすることができる日から5年を経過したときには消滅時効にかかることとなっており(同第1項)、やはり援用を必要とせず、利益を放棄することもできない(同第2項により、第18条第2項を準用)。

 地方税法などの法律に定めがない金銭債権については、地方自治法第236条第1項により、権利を5年間行使しないことによって消滅時効にかかる(住民の側が普通地方公共団体に対して有する、金銭の給付を目的とする権利についても同様である)。この種の金銭債権についても、特別の規定がない限り、時効の援用を必要とせず、利益を放棄することもできない(同第2項。住民の側が普通地方公共団体に対して有する、金銭の給付を目的とする権利についても同様である)。

 

 ▲第6版における履歴:第10回として2022年12月22日掲載。

            2022年12月23日、第11回に繰り下げ。

 ▲第5版における履歴:未掲載。

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第3部:地方税財政制度  第10回:地方税財政法の基本原則(地方財政権その2)

2020年11月19日 16時59分43秒 | 財政法講義ノート〔第6版〕

 地方自治といえども、日本国憲法の下にある以上、議会制民主主義など、基本的には国政と同様の原則に服することは当然である。もとより、現行の地方自治法には、例えば住民の条例制定改廃請求権(第74条)、監査請求権(第75条)、議会解散請求権(第76条)、議員解職請求権(第80条)、長の解職請求権(第81条)のように、国政にない直接民主主義的な性格を示す制度が存在する〈普通地方公共団体の長の選挙も、当然、直接民主主義的な性格を示す制度である〉。しかし、このような制度は、日本国憲法の趣旨に合致した上で、その方向性を拡張したものであり、単なる特別規定でもなければ、議会制民主主義の原則そのものに対する全面的な修正を示すものでもない。

 地方自治法第74条は、最近、市町村合併に関する住民投票条例の制定などに際して活用されているが、第1項において地方税や分担金、使用料や手数料に関する条例制定改廃請求を除外する。住民の間における民主主義が未熟であった昭和20年代であればともあれ、現在において、地方自治の根幹とも言いうる地方税財政法を除外する理由は何であろうか。

 地方税財政法についても、日本国憲法の下にあるため、国の財政法と同様の原則が通用すると考えるのが自然であろう。議会制民主主義は、まさに地方税財政法にも適用される原則であり、財政民主主義として現れるのである。また、「第2部:国の財政法制度  第7回:国債の法的問題」において取り上げた、財政法第4条に示される赤字国債発行禁止の原則、より一般的に言うならば健全財政の原則も、同様に妥当する(地方財政法第5条)。この他、既に説明した諸原則についても同様である。

 ただ、地方税財政法に独自の原則が妥当する場合があるし、国の財政制度と異なるものが採用されることがある。碓井光明教授は「自治体財政・財務法の基本原則」として、次のものをあげる〈碓井光明『要説自治体財政・財務法』〔改訂版〕(1999年、学陽書房)10頁〉

 (1)自治体活動を担保するための諸原則

 ①地方自治の保障手段の原則(地方財政法第1条を参照)

 ②自治体財政自律主義(同第2条を参照)

 ③公金・公財産尊重主義

 ④最小経費最大効果原則(地方財政法第4条および第8条、地方自治法第2条第13項を参照)

 (2)自治体財政議会主義

 ⑤自治体財政「地方議会」主義

 ⑥人権尊重主義

 (3)住民財政主義

 ⑦住民財政主義

 この講義においては、上記の碓井教授の説を参照しつつ、次のように原則をまとめておきたい。

 (1)地方に関する財政民主主義

 上述のように、財政民主主義は地方税財政についても妥当する。このことは、日本国憲法第92条ないし第94条からもうかがえる。

 財政民主主義が地方税財政法にも妥当するとなると、憲法第83条との関係が問題となりうる。佐藤功教授は、憲法第83条の適用範囲が国の財政に限られるとしつつも「地方公共団体の権能は国の統治権の授権に基づく伝来的な権能で」あること、「地方公共団体の財政を処理する権限も国の法律の定めるところによって行使され、また国の法律の定めるところによって国の特別の監督を受ける」ことから、同条の趣旨が地方税財政法にも及ぶと理解する〈佐藤功『憲法(下)』〔新版〕(1984年、有斐閣)1091頁〉。しかし、この考え方を徹底すると、地方自治の一つの原則でもある住民自治の要素が消滅することになる。そのため、憲法第83条の趣旨が地方税財政法にも及ぶことを認めつつも、地方税財政法における財政民主主義は第一に普通地方公共団体の議会による関与、そして住民による統制が優先されるべきことを前提としたものであると理解しておきたい〈碓井・前掲書12頁を参照。もっとも、碓井教授が示す二つの説については、根本的な差異があるものとは思えない〉。そうでなければ、地方自治法第242条に規定される住民監査請求制度や同第242条の2に規定される住民訴訟制度の趣旨が不明なものとなり、あるいは徹底しないものとなる。

 とくに、憲法および地方自治法の趣旨を生かすのであれば、地方税財政法における財政民主主義は、単に普通地方公共団体の議会中心主義を意味するのみならず、住民の参画を伴うものである、と理解すべきである〈これは、碓井教授のいう「住民財政主義」とほぼ同義ではないかと思われる〉。住民監査請求および住民訴訟は、その一端である。

 なお、碓井教授は、地方税財政法における財政民主主義を「自治体財政議会主義」あるいは「自治体財政『地方議会』主義」と称し、「公金・公財産尊重主義」を担保し、補充するものとしての「財政公開主義」をあげる。その例として、地方自治法に定められる予算の要領の公表(第219条第2項)、決算の要領の公表(第233条第6項)、財政状況の公表(第243条の3第1項)、監査委員による監査結果の公表(第199条第9項。同第12項も参照)が示されている。国の財政についても、憲法第91条により、国の財政状況公開の原則が定められているので、これに対応するものと考えてよいであろう。しかし、憲法第91条に規定されているところよりも、地方税財政法における「財政公開主義」のほうが、原則としての意味が強い。

 (2)地方税財政自律主義

 碓井教授があげる「地方自治の保障手段の原則」および「自治体財政自律主義」は、それぞれ別個の原則として捉えるべきであるかもしれないが、「自治体財政自律主義」は「地方自治の保障手段の原則」を前提とするものと考えられる。また、地方自治を保障するということは、基本的に地方公共団体の財政の自律性をも要請するということである。

 そのため、私は、碓井教授があげる両者の原則をひとまとめにし、さらに地方税制における自律性をも強調する意味で「地方税財政自律主義」としておきたい。

 日本国憲法が想定する地方税財政制度について、既に疑念を述べた。それでも認めなければならないのは、憲法が地方自治を保障する以上、しかも、地方自治法第2条第1項が地方公共団体を法人と位置づけ、一応は国から独立した人格を与える以上、地方税財政法が地方自治の発展に資するように設計されなければならない、ということである。問題は、これだけを述べたとしても、具体的な制度設計にどれほど生かされるのか、ということである。

 そして、地方財政法第2条は、第1項において地方財政健全主義を、そして国の政策に反する施策などを行ってはならない旨を規定するとともに、第2項において、国が「地方財政の自主的な且つ健全な運営を助長することに努め」なければならず、地方公共団体の「自律性をそこな」うような施策を行い、または「地方公共団体に負担を転嫁するような施策」を行ってはならない旨を規定する。ここに、地方税財政自立主義が現れている。

 もっとも、第1項に定められる事柄と第2項に定められる地方税財政自律主義は、相互に矛盾する関係にある、とは言わないまでも、緊張関係にある。どちらを優先するかは国の政策次第というのが現状である。1990年代に景気回復策として全国の地方公共団体により行われた公共事業には、地方公共団体の単独事業として行われたものが多かったのであるが、実際には、国からの補助金を削減する一方、地方交付税が活用され、国の政策に動員されていたのである。しかも、この時、国は、普通地方公共団体に地方債を大量に発行させ、その元利償還に地方交付税を利用するという方策を使ったのである〈当時、地方債の起債は許可制だったので、これを利用した訳であり、しかも、公共事業を優先するなど、順位をつけていた〉。これは、地方税財政自律主義に反するものであったと評価せざるをえないし、地方交付税制度の濫用と考えざるをえない。それだけでなく、普通地方公共団体の多くが財政赤字を抱えるようになると、或る意味では手軽な手段として市町村合併という政策を推進させてきたし、今もその段階は完全に終了した訳でもない。

 (3)公金・公財産尊重主義

 碓井教授が掲げるこの原則は、その内容が不明確ではないのかという疑問があるものの、地方税財政法のうち、主に国の財政における財政管理法に相当する法領域(財務法規と称される)において妥当するものとされている。公金であれ公財産であれ、元々の出所は普通地方公共団体自身の財産などではなく、国民・住民の租税である。そのために、例えば支出の際には適正な価格(金額)にて行うこと、などが求められることになるであろう。

 私なりにこの原則を捉えるならば(碓井教授と同一ではない)、次に示すような事柄が内容として考えられるであろう。

 第一に、地方公共団体の予算編成である。地方財政法第3条は、第1項において「法令の定めるところに従い、且つ、合理的な基準によりその経費を算定し、これを予算に計上しなければならない」と定め、第2項において「あらゆる資料に基づいて正確にその財源を補そくし、且つ、経済の現実に即応してその収入を算定し、これを予算に計上しなければならない」と規定する。ここにいう「合理的な基準」の具体的な意味について、本来であれば検討を加える必要はあるが、この講義においては控えておく。しかし、予算においては、当然ながら歳入の見積もりがなされる訳で、その際には地方税による収入、地方交付税、地方債、負担金などの収入について予測が立てられるのである。地方税は住民の負担であり、地方交付税も、直接的には国からの交付金であるが、原資は所得税や消費税など、国民の負担である。地方債も、結局のところは現在および将来の住民の負担に帰することになる。そのため、歳入予算を過大に見積もることは許されない。また、歳出予算を決定するに際しても、適正な支出額を算定することなどが求められることとなる。

 第二に、予算の執行などである。地方財政法第4条は、第1項において「地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要且つ最小の限度をこえて、これを支出してはならない」と定め、第2項において「地方公共団体の収入は、適実且つ厳正に、これを確保しなければならない」と定める。碓井教授は、この規定を「最小経費最大効果原則」の現れであると述べるが〈碓井・前掲書11頁〉、これと公金・公財産尊重主義とは全くの別物ではなく、むしろ、公金・公財産尊重主義の一つの表現形態が「最小経費最大効果原則」と捉えるべきではなかろうか。地方税財政法の領域において「最小経費最大効果原則」が提唱される最大の理由は、先にも述べたように、収入源が地方税であれ地方交付税であれ、終局的には国民・住民の負担に帰するべきものであることに求められる。そのために、国民・住民の負担に見合うだけの効果、可能な限りにおいてそれを超える効果が生じなければならないのである。このことは、地方公共団体が保有する財産についても同様に妥当する。地方財政法第8条は「地方公共団体の財産は、常に良好の状態においてこれを管理し、その所有の目的に応じて最も効率的に、これを運用しなければならない」と定めている。

 なお、碓井教授も指摘されるように、地方自治法第2条第14項は「最小経費最大効果原則」を正面から定めている〈碓井・前掲書11頁〉

 しかし、現実の財政運営などをみると、公金・公財産尊重主義、そして「最小経費最大効果原則」がどの程度までに実現されているか、疑問を抱かせるような事例が多い。例えば、情報公開制度の活用などによって明らかになった、いわゆる塩漬け土地問題が典型的である。これは、真正面から地方財政法第8条の規定に反する。およそ適正とは言えないような不当に高い価格により、利用価値の低い、売却価格も低いような土地を購入し、これといった用途のないままに保有されているのである。

 また、入札制度も、地方財政法第4条第1項との関連において問題があるものと思われる。地方自治法第234条第1項は、地方公共団体が契約を行うには、一般競争入札、指名競争入札、随意契約または競売のいずれかに拠ることを定めている。このうち、本来であれば一般競争入札が採用されるべきである(同第2項)。

 一般競争入札以外の方法は、地方自治法施行令第167条で定められる場合に限られる。

 最近でこそ、一般競争入札が用いられる場合が増えつつあるが、公共事業などについて一般競争入札はほとんど利用されず、指名競争入札が多用された。これは、普通地方公共団体の側で、入札に参加しうるための要件を定め〈例えば、工事、製造、販売の実績、従業員の額、資本金の額などがある。業種などによって、要件は異なりうる。また、本社の所在地などを要件とする場合もある(地元優先の指名基準である)〉、業者側の申請についてこの要件に基づいて審査がなされ、格付けなどがなされた上で入札参加資格を認めるというものである〈これが指名ということになる〉。しかし、行政内部はともあれ、この指名の過程などは不透明な部分が多い。しかも、入札参加資格を予め決定しておく訳であるから、参加者(企業)は限定されることになる。このようにすると、業種などによっては談合が生じやすい。それに、一般競争入札よりは、どうしても落札価格が高くなる。

 指名競争入札は、一般競争入札と随意契約の中間に位置するので、公正性と経済性、そして参加の機会の平等という点においては一般競争入札に劣る。しかし、実際には、一般競争入札によると不誠実な者(業者)が参加しやすくなるので公正な競争ができなくなったり、あるいは地方公共団体の側が不測の損害を受けたりするおそれがあること、契約の経費などがかさんでしまうことなどがあげられ、指名競争入札が行われた。実際のところは、一般競争入札にすると、入札者の側が落札予定価格を引き下げる競争を行い、多くの業者が共倒れになる、あるいは、落札業者自身の経営を圧迫すること、などが理由ではないかと思われる。

 (4)基本的人権の尊重

 とくに地方税財政法に限らなくとも、国、地方公共団体を問わず、国民・住民の基本的人権の尊重は、日本国憲法の三大原則の一つであるほどであるから、当然、あらゆる作用に求められるものである。しかし、地方税財政法の分野に独特の問題が存在する。なお、以下は複合的性格を有するものばかりであり、便宜的に一つの側面から捉えている。

 第一に、経済的自由権との関連である。これは、地方分権一括法による地方税法の改正によって規定された法定外目的税、制定の可能性が上昇した法定外普通税の導入の動きが全国各地に広まったことで、大きな問題になりつつある。

 地方税法第261条は都道府県の法定外普通税について、第671条は市町村の法定外普通税について、第733条は法定外目的税について、総務大臣の不同意事由を掲げており、これらに共通する第2号は「地方団体間における物の流通に重大な障害を与える場合」を不同意事由とする。実際のところ、これによる不同意はほとんど存在しないと思われるが、第1号にいう「住民の負担が著しく過重になること」、および第3号にいう「国の経済施策に照らして適当でないこと」については、経済的自由権との抵触という問題が生じうるであろう。特定の業種(事業者)のみに、合理的な範囲を超えると思われる負担を強いる租税を課すことなどが、これに該当しうる。

 横浜市の場外馬券売場課税構想は、地方税法第733号第3号の不同意事由にあたるとされたが、その後、国地方係争処理委員会の勧告が出され、再協議中であった。しかし、結局、2003(平成15)年9月に、横浜市は課税の断念を表明した。

 第二に、受益者負担論との関連である。これは、碓井教授によると生存権や教育を受ける権利などとの関連で問題となるが〈碓井・前掲書13頁〉、それだけではなく、最近では、あらゆる領域で問題とされている。そもそも、財政学の伝統的な理論などによると国の租税については応能負担の原則、地方税は応益負担の原則によるべきである、とされている。地方自治法第10条第2項の規定が、このことを裏付けるとも考えられているが、この規定などから地方税制度の基本構造が一義的に導かれる訳ではない。

 碓井光明『要説地方税のしくみと法』(2001年、学陽書房)33頁は、負担分任原則が地方自治法第10条第2項にも示されているとした上で「同条項は、住民の義務としての基本精神を述べたものであって、具体の税制をリードするだけの規範内容を有しているとは言いがたい」と述べる。

 受益者負担論は、一見すると非常にわかりやすい論であるが、実は不明確な部分が多い。受益に対する負担ということは、当然、受ける利益にいくらかの金銭的な価値があることを前提とする。しかし、それをどのように算定するのか、市場価格が存在するのであれば理解しやすいかもしれないが、その市場価格が適正であると誰が保証しうるのか。

 この点について、岡田正則「税条例と地方税法」『地方税の法的課題(日税研論集第46号)』(2001年)11頁は、利益の「明確な算定可能性は断念されている」と述べる。また、この論文においては、応益原則に対する検討および批判もなされている。

 第三に、平等権との関係である。これには様々な態様があるので、説明にも困難が存在するが、典型的なものを少しばかりあげておく。

 一つめは、国民健康保険などで問題となっている滞納率の上昇である。これは、保険料(税)の設定に際しての問題も存在するかもしれないが、基本的には執行の問題である。やむをえない滞納もあるが、明らかに悪質な滞納もある。現在のところ、有効な手だてがなかなか見つからないのであるが、滞納を放置することは、平等との関連で問題が生じるし、制度の正当性そのものをも失わせる。

 二つめは、外形標準課税である。東京都の、法人事業税の特例としての外形標準課税条例〈銀行業界のうち「資金の総額が5兆円未満の事業年度及び清算中の各事業年度を」除外したものについて、外形標準課税による税率を適用するという趣旨の条例であった〉の効力が裁判において争われ、東京地方裁判所、そして東京高等裁判所が条例を無効とする判決を出したことは、記憶に新しい。この条例には様々な問題点が存在するが、平等権との関連も重要である。

 また、平成15年改正により、法人事業税に導入された付加価値割および資本割は、外形標準課税の一種である。これらは、赤字法人にも課税しうるために法人事業税収入が安定するという長所が存在するものの、この課税方式を採用した場合、あらゆる産業の経営状況を圧迫し、ひいてはその負担が結局のところ消費者に転嫁されることになろう(消費税で証明されている)。また、導入にあたっては、免税制度、課税最低限の設定、最低税額の設定(複数税率の設定)など、中小企業(事業者)への配慮が検討されることになると思われる。しかし、このことには矛盾が潜んでいる。形式的な平等を貫けば、日本の事業者の大部分を占める中小、そして零細企業の大部分が生命を絶たれることになりかねない。逆に、免税制度、課税最低限の設定、最低税額の設定(複数税率の設定)の方法如何によっては、業種間の不平等などを惹起し、税の正当性に問題が生じるであろう。

 付加価値割は、各事業年度における付加価値額を課税標準とするものである(地方税法第72条の12第1号イ)。これは、各事業年度の報酬給与額(同第72条の15に算定方法が規定される)、純支払利子(同第72条の16に算定方法が規定される)および純支払賃借料(同第72条の17に算定方法が規定される)の合計額(これを収益配分額という)と各事業年度の単年度損益(同第72条の18に算定方法が規定される)との合計額として算出される。

 資本割は、各事業年度における資本金等の額を課税標準とするものである(地方税法第72条の12第1号ロ)。これは、各事業年度終了の日における資本金等(法人税法第2条第16号)の額、または連結個別資本金等(同第17号の2)の額である(地方税法第72条の21第1項)。但し、資本金が1000億円を超える法人については、同第4項により、1000億円に、1000億円を超えて5000億円以下の部分についてはその50%を加算し、5000億円を超えて1兆円以下の部分についてはその25%を加算することとされている(資本金が1兆円を超えている場合には1兆円とする)。

 三つめは、法定外普通税や法定外目的税である。導入からしばらくの間、太宰府市歴史と文化の環境税条例については、太宰府市 当局と駐車場業者(太宰府天満宮を含む)との間で深刻な対立があり、業者側が納税の非協力という方針を打ち出していた。その後も、何度か再燃している。この税自体についての検討は機会を改めて行いたいが、憲法第14条との関連において問題が生じるばかりでなく、場合によっては憲法第20条との関連における問題が生じるのではないかと思われる。

 これについては、1980年代の京都市古都保存協力税条例問題を、先例としてあげることができる。京都の観光に打撃を与えたばかりでなく、憲法第14条や第20条に違反するとして裁判にもなった。

 京都市は、1983年、指定社寺の文化財の観賞について観賞者に一回当たり50円を課す条例を制定し、自治大臣の許可(地方税法第669条)を得ようとしていた。仁和寺などの宗教法人(原告)は、この税が宗教行為自体への課税であって布教の自由および信教の自由(観賞者)に対する侵害である、この税が政教分離に違反する、指定社寺のみについてこの税を課すことが平等原則違反であるなどとして訴えた。京都地判昭和59年3月30日行裁例集35巻3号352頁は、この税が観賞者の内心に関係なく一律に課されること、税額が物価水準に比して僅少であり、観賞者の個人的な宗教的信仰の自由を規制・制限するものではない、原告は納税義務者でもなく担税者でもないので原告らの布教活動を制約するものでもない、などの理由で原告敗訴とした。

 宗教的側面自体を否定している訳ではないが、対価を支払って有償の文化財の鑑賞という行為の客観的かつ外形的な側面に担税力、すなわち租税を負担する能力を見出している。

 この税が観賞者の内心に関係なく一律に課されること、という理由には合理性があるとも言いうるが、租税の納付手続を見るならば、観賞者が納税義務者とは言え、実際には消費税のように観賞者は実際の負担者、納税義務者は特定社寺であるとも考えられる。また、課税金額や課税方法によっては信教の自由や布教の自由を侵害しうる。特定社寺のみに課税するには、それなりの合理的な理由を要する。そうでなければ憲法第14条第1項に違反することになる。なお、この税は、結局、ほとんど成果をあげないまま、廃止された。

 この他にも、特定の公共施設の利用などについて、憲法の人権規定に抵触するのではないかと考えられる事例などが多い。

 

 ▲第6版における履歴:第9回として2020年9月5日掲載。

             2022年12月23日、第10回に繰り下げ。

 ▲第5版における履歴:未掲載。

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第2部:国の財政法制度  第7回:国債の法的問題

2020年03月01日 00時00分00秒 | 財政法講義ノート〔第6版〕

 1.財政赤字の現状など

 既に御存知の通り、日本は、国・地方とも巨額の財政赤字を抱えている。

 ほとんどの先進国は、1990年代に財政赤字を縮小させているのであるが、日本だけは逆に拡大させた。2004年から縮小傾向に転じたものの、債務残高の対GDP比の数字が上昇している。

 たとえば、Organization for Economic Cooperation and Development (OECD), General government debt (https://data.oecd.org/gga/general-government-debt.htm)を参照されたい。なお、このページにあるデータは2015年のGDP比によるものである。

 そればかりでなく、ここには統計などを示すことはできないが、地方財政における赤字の幅が極端に大きいことも、他の先進国に例をみない状況となっている。地方財政の現況については第三部にて検討を加えることとするが、いずれにせよ、国債の発行残高も、そして予算のうちの歳入に占める国債への依存度も、年々上昇している。このままでは、財政赤字が深刻化するのみならず、日本政府の償還能力が低下することにより、長期金利の上昇、国際価格の急落などを招くことになりかねない。そればかりでなく、第一次世界大戦後のドイツ、そして第二次世界大戦後の日本が経験したようなハイパー・インフレイションが生じ、国民生活が壊滅する危険性もある。2003年8月に私が熊本県立大学総合管理学部で集中講義「財政法」を担当した頃〈小泉内閣時代。どうでもよい話であるが、私が初めて担当した集中講義でもある〉にはデフレ・スパイラルが懸念されていたが、デフレ・スパイラルの問題が深刻である理由は、止め処のないインフレイションに逆転する可能性が存在するという部分にある。

 

 2.財政赤字、赤字国債に関する歴史的現実

 財政赤字―とくに、国債の発行残高が上昇することによる―の結末がいかなるものであるのか。これについては、歴史的事実から知ることができる。

 第一次世界大戦後のドイツでは、敗戦などの結果、実に1兆倍というハイパー・インフレイションに見舞われ、連邦財政は勿論、国民生活も破綻した。その原因として、当時の帝国政府が抱いていた「短期決戦思考」があげられる。元々、ドイツ帝国時代の末期に、帝国(連邦。Reich)の国家財政は悪化の傾向を示していた。しかも、ドイツの戦費調達における公債の依存度はアメリカやイギリスよりも高く、ドイツは戦勝による他国からの賠償金を頼りに戦争を進めた。戦費を調達するための増税が全くなされなかった訳ではなく、1915年に帝国銀行戦時税が創設され、1917年および1918年にも増税がなされているが、戦況の改善にはつながらず、むしろ、1916年以降に公債の未償還率が上昇していった。このことは、財政赤字、債務の拡大が、国に、そして国民全体に、いかに破壊的な、あるいは破滅的な影響を及ぼすのか、ということを教えてくれる。

 この点については、さしあたり、拙稿「アルベルト・ヘンゼルの財政調整法理論―ドイツ財政法理論史研究序説―(一)」早稲田大学大学院法研論集81号(1997年)256頁から引用した。詳細は、この拙稿の注に示した文献を参照されたい。また、Albert Hensel, Der Finanzausgleich im Bundesstaat in seiner staatsrechtlichen Bedeutung, 1922, S. 171も参照。

 日本の場合も、第二次世界大戦中に借入金が増大し、赤字国債や戦時国債が濫発された。増税政策も強行されたのであるが、それでも財源が不足する場合に赤字国債や戦時国債を発行し、これへの応募を「半ば強制した」〈杉村章三郎『財政法』〔新版〕(1982年、有斐閣)47頁〉。しかも、これらの国債を公募せずに日本銀行に引き受けさせた。また、日本銀行からの資金借入を行った。このために、日本銀行の手持公債が増加し、日本銀行券の発行高を激増させることとなり、ひいては、敗戦後まもなくの日本経済を崩壊状況に追い込んだ原因となった。

 現在の財政法第4条は、こうした歴史的事実に鑑み、健全財政の原則、赤字公債発行禁止の原則を規定している。それは、何よりも「戦前のわが国において安易に公債の発行による財政運営を許したことが戦争の遂行・拡大を支える一因となったことを反省する」という趣旨に由来するのである〈杉村・前掲書47頁〉

 

 3.国債とは

 財政法第4条は、公債の語を用いており、国債という語を用いない。しかし、旧会計法において用いられていたばかりでなく、現在も通常の用語としては国債という表現のほうがなじみ深いであろう。

 それでは、財政法学において、国債とはいかに定義されるものであろうか。

 端的に言うならば、国債とは国の公債をいう。これに対し、地方公共団体の公債地方債という。そこで、公債とは何かが問題となる。

 公債には広狭の意味が存在する。広義の公債とは、国や地方公共団体などの公権力の主体が歳出財源の調達のために負う金銭債務をいう。しかし、財政法第4条にいう公債は狭義のもので、広義の公債のうち、証券発行を伴うものを指す。

 従って、国債は、国が歳出財源の調達のために負う金銭債務で、証券発行を伴うものである、ということになる。しかし、杉村章三郎博士によれば、これは最狭義の国債である。そこで、杉村博士による定義を参照すると、次のようになる〈杉村・前掲書46頁〉

 広義の国債:「財政上の必要による国の債務で償還期限一年以上の公債および借入金の他、資金繰りの必要による大蔵省証券等の短期証券および一時借入金をも包含する」〈引用文中にある「大蔵省」は、現在の財務省のことである〉。この意味の国債は、国債整理基金特別会計法において用いられる。

 狭義の国債:広義の国債のうち「歳入目的で調達する原則として償還期限一年以上の公債および借入金」をいう。

 最狭義の国債:上述。

 財政法第4条には「公債又は借入金」と示されているので、同条にいう国債は最狭義の国債であると理解してよい。しかし、第4条および第5条において公債と借入金が併記されていること、いずれも金銭債務であって償還の必要性があることからすれば、実質的に両者を一体と考えてもよい。そのため、この講義においては、杉村博士による狭義の国債を中心に概説することとする。

 なお、財政法第4条にいう公債に含まれないものとしては、財務省証券(同第7条)などの政府短期証券、交付国債、出資国債がある。

 交付公債は記名証券であり、農地改革および漁業改革に伴う農地証券および漁業証券、軍人軍属の遺族援護のための遺族国債などがある。また、出資国債は交付国債の一種で、復興金融金庫に対する出資国債が例とされる。なお、実際には、国債および借入金については入札制度が存在し、財務大臣によって入札に参加しうる者が定められる。

 

 4.財税法第4条

 (1)何故、赤字国債発行禁止の原則なのか

 既に記したように、大日本帝国憲法末期の日本においては、赤字国債や借入金の濫発が行われ、破滅的な結果に陥ることとなった。その反省として、財政法第4条において健全財政の原則、赤字国債発行禁止の原則が規定された。

 その由来からして、この規定は憲法の平和主義と浅からぬ関係がある、ということが理解されるであろう。実際、槇重博博士は、この規定を「財政法中最も重要な規定」と評価し、同条に示される赤字国債禁止主義が憲法第9条に規定される平和主義を保障するための手段であると述べている〈槇重博『財政法原論』(1991年、弘文堂)72頁〉

 また、財政赤字、そしてその原因の一つである赤字国債は、世代間の不平等を将来すると指摘される。すなわち、現在の世代にとっては利益となるものであっても将来の世代にとっては不利益となるというのである。これについては議論もあり、財政赤字なり赤字国債なりの全てが将来の世代にとっての負担になる訳ではないという論調も存在し、建設国債などを正当化する理由として主張される。

 しかし、例えば近年の公共事業について批判が寄せられるように、道路や橋梁などの「資産」を建設したとしても、それらの資産の全てが将来の世代に有益であるとは限らない。このことは、赤字国鉄ローカル線の廃止、第三セクターの破綻などで明らかである。不要な「資産」を押しつけられた上に莫大な借金を返さなければならないというのでは、将来の世代にとって過大な負担となる。そればかりか、現在の世代が赤字国債などで利益を得たとしても、償還するのは将来の世代である。簡単に言えば、親が自分の生活のために借金をして、ツケを子供が払うことになる。しかも、その借金なりツケなりが多少なりとも子のためになるのであれば救われる部分もあるが、そうでなく、親の享楽、贅沢のためであるならば、子にとってはただの無駄な支出、否、それに留まらずに有害な重荷にすぎない。

 国家財政についても、基本的な状況は変わらない。そのために、赤字国債の発行を禁止し、世代間の平等を確保する必要がある。

 槇博士は、この点に着目し、財政法第4条が憲法第14条による平等原則を財政の面から保障する規定であるという趣旨を述べている。博士によると、「歳出の財源が、その年度の租税収入によって賄われる場合には、税金はその年度の政府の支出となって、民間経済に還流する」が、「公債を発行するとその元利支払いのために、国債費という支出が必要にな」り、「民間経済には戻ってこないで、特定の階級のもとにとどまる」ことになる。しかも、国債費が増加すると財政赤字も増加するし、国債費は必ず計上されて支出されることになる。こうして、仮に国が豊かになっても国民は耐乏生活を余儀なくされるし、国債の購入層を考慮すると、貧富の格差を増大させる結果に終わることとなる〈槇・前掲書72頁〉

 (2)原則に対する例外

 上述のように、財政法第4条は健全財政の原則、赤字国債発行禁止の原則を定める。これは、同条の由来からして、日本国憲法の三大原則の一つである平和主義を財政の面から担保し、もう一つである基本的人権の尊重、とくに平等権を財政の面から担保する規定であると表現しうる。また、この規定によると、国の歳出財源は基本的に租税により賄うべし、という原則が示されることになる。

 但し、「例外のない原則はない」という格言があるように、これらの原則にも例外がある。財政法第4条第1項ただし書きは、公共事業費、出資金、そして貸付金の財源について、公債や借入金を認容する※。その理由としては、これらの支出が消費的支出ではなく、国の資産を形成するための支出であり、しかも、こうした資産から国民が得られる利益も長期にわたるから、将来の世代に相応の負担を求めてもよい、ということがあげられている〈杉村・前掲書46頁、兵藤広治『財政会計法』(1984年、ぎょうせい)24頁〉

 ※これにより、建設国債を発行することが可能となっている。なお、建設国債という名目での発行を認める例は、先進国においては他にドイツしか見当たらない。

 もっとも、この例外が無制約に許容される訳ではない。財政法第4条第1項ただし書きには「国会の議決を経た金額の範囲内で」という条件が示されている。これを受け、第22条第1号は、予算総則に掲げる事項として「公債又は借入金の限度額」をあげている。

 第4条第1項ただし書きに規定されるもののうち、出資金および貸付金については、比較的に明瞭な概念である。元本や出資金による権利を確保できるし、利子などの収入も予定できる。これに対し、公共事業費の概念は不明瞭である。そのために、第4条第3項は、とくに公共事業費の「範囲については、毎会計年度、国会の議決を経なければならない」と規定し、金額および目的について国会を関与させている(第22条第2号も参照)。ただ、この場合、「建設公債発行額と建設公債発行対象経費支出額との関係については、公債発行収入金を区分経理して対象経費以外の使用は認めないというような個別的対応関係を設ける必要はなく、年度全体として公債発行額が対象経費支出額の範囲内であればよい」と解釈されている〈兵藤・前掲書25頁〉。現実にはそのように運用されているのであろうが、財政民主主義の貫徹という観点からすれば、若干の疑問が残る。

 また、建設国債については、第4条第2項により、償還計画が国会に提出されなければならない。この償還計画は国会の議決事項ではなく、建設公債発行額の範囲が国会にて議決される際の参考資料として扱われている。なお、議案と計画は同時に提出される

 以上は、主に一般会計に関する説明である。第4条の規定は特別会計についても妥当すべきものであるが、特別会計については、個別法に公債や借入金に関する規定が置かれている(ここでは詳細を略す)。

 (3)公債市中消化の原則

 既に記したように、大日本帝国憲法体制末期には、政府が赤字国債や戦時国債を濫発し、これらを日本銀行に引き受けさせた。その結果、激しいインフレイションが発生して敗戦後まもなくの日本経済を崩壊状況に追い込んだ。このため、財政法第5条は、公債を日本銀行に引き受けさせることを禁止した。また、借入金についても、日本銀行からの借り入れを禁止している。市中消化の原則を定めているのである。

 最近も、時折ではあるが、政治家などから日本銀行の公債引き受けなどを強力に主張されることがある。しかし、これは同条に違反するばかりでなく、将来の国民経済、そして国民生活を破綻させることになるであろう。

 但し、この原則にも例外が設けられている。同条ただし書きは「特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内において」日本銀行による公債引き受けなどを許容する(第22条第3号も参照)。この「特別の事由」の意味は判然としないが、金融市場の情勢などが考えられる。これまで、このただし書きが適用された例として、昭和23年度特別会計予算総則、および、昭和23年度以降、日本銀行が保有する公債の借換債を日本銀行が引き受ける形で発行する実例がある。この場合は、日本銀行による通貨供給量の増大が生じない。

 (4)財務省証券の発行および一時借入金

 財政法第7条に規定される。財務省証券も一時借入金も、年度を超える債務ではなく、歳出財源でもない。国庫の資金繰りを円滑に進めるための一時的な融通資金である。このために、第4条ほどの厳格な要件が適用されない。もとより、財政の安定性という点からすれば、この類のものも無制約に認容する訳にはいかない。そこで、財務省証券の発行限度額および一時借入金の最高限度額は、国会の審議事項であり、議決を経る必要がある(第7条第3項、第22条第3号)。

 (5)国債の償還など

 当然のことであるが、国債は、期限の到来とともに償還されなければならない。その方法として、日本では減債基金制度が基本となっている。これは、国債の償還のために、その財源を制度的に確保した上で、これを一般会計と区分した上で経理をし、国債の償還を行うというものである。法律として、国債整理基金特別会計法が存在する。

 

 5.財政法第4条の特例法

 ここまでの説明を読まれた方は、おそらく、財政法第4条が健全財政の原則、赤字国債発行禁止の原則をとっているにもかかわらず、何故に現在の莫大な財政赤字を抱えるまでに至ったのか、と思われるであろう。

 実は、これらの原則は、昭和40年度に破られた。1964(昭和39)年から1965(昭和40)年にかけて、深刻な不況が日本を襲った。山一証券が破綻寸前に陥り、いくつかの大型企業が倒産するという状況の中、税収も落ち込み、景気対策も求められた。そこで「昭和40年度における財政処理の特別措置に関する法律」が制定され、赤字国債の発行が認められることとなった。なお、赤字国債は、こうした特例法によって発行されることから特例国債(公債)とも呼ばれる。

 その後、景気が回復したことなどから、赤字国債は発行されなかったが、1973(昭和48)年の第一次オイルショックによって日本の高度経済成長期が終わり、税収不足に見舞われたため、1975(昭和50)年度以来、ほぼ毎年、財政法第4条の特例法が制定され、赤字国債の発行が続けられてきた。財政法第4条そのものは生かされており、「財政節度の維持という見地」により国会の承認を得るという形をとるが〈兵藤・前掲書27頁〉、本来は緊急措置としての要素を有する特例法が毎年のように議決され、施行されているということは、もはや「財政節度の維持という見地」からしても望ましくない※。しかし、2011(平成23)年度の一般会計予算(当初予算)および一般会計補正予算についても「平成23年度における公債の発行の特例等に関する法律」※※の第2条第1項により、特例公債の発行が認められることとなった。

 ※これに限らず、日本の法制度においては、特例法、特別措置法が多用される傾向にある。財政法第3条の特例に関する法律がそうであるし、租税特別措置法、市町村合併特例法なども代表例としてあげられる。また、地方税法については、附則に実質的な特例法というべき規定が多い。特例法、特別措置法を参照しなければ、実際の制度を理解することができないのである。これは、いたずらに法制度を複雑化し、場合によっては、租税特別措置法のように国民の間に不公平感を生むなど、悪弊を生み、さらには増大させる。必要性を全く認めない訳ではないが、少なくとも長期間にわたって特例法、特別措置法の類に頼ることは、原則を掘り崩し、自らの信頼を失うことになりかねない。

 ※※2011(平成23)年1月24日、第177回国会に法律案が提出された際の名称は「平成23年度における財政運営のための公債の発行の特例に関する法律」であった。同年4月28日、衆議院で「平成23年度における財政運営のための公債の発行の特例等に関する法律案中修正」により、本文に示した名称となっている。この法律が参議院本会議における可決により成立したのは同年8月26日であり、同月30日に法律第106号として公布された。

 さらに、財政法第4条の趣旨が根底から崩されかねない動きが顕在化した。それまでは年度毎に特例法により公債を発行することにしていたのであるが、2012(平成24)年の第181回国会において成立し、同年11月26日に法律第101号として公布された「財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律」※は、複数年度にわたって公債の発行を認める内容となっている。

 ※2012年10月29日、内閣から衆議院に提出された。衆議院において修正の上で可決されたのは同年11月15日であり、参議院において可決されたのは同年11月16日である。

 まず、内閣提出法律案第1号である当初案の前文を掲載しておく。

 

 財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律案

 (趣旨)

 第1条 この法律は、最近における国の財政収支が著しく不均衡な状況にあることに鑑み、平成24年度の一般会計の歳出の財源に充てるため、同年度における公債の発行の特例に関する措置を定めるとともに、平成24年度及び平成25年度において、基礎年金の国庫負担の追加に伴いこれらの年度において見込まれる費用の財源を確保するため、社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律(平成24年法律第68号)の施行により増加する消費税の収入により償還される公債の発行に関する措置を定めるものとする。

 (平成24年度における特例公債の発行等)

 第2条 政府は、財政法(昭和22年法律第34号)第4条第1項ただし書の規定及び次条第1項の規定により発行する公債のほか、平成24年度の一般会計の歳出の財源に充てるため、予算をもって国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行することができる。

 2 前項の規定による公債の発行は、平成25年6月30日までの間、行うことができる。この場合において、同年4月1日以後発行される同項の公債に係る収入は、平成24年度所属の歳入とする。

 3 政府は、第1項の議決を経ようとするときは、同項の公債の償還の計画を国会に提出しなければならない。

 4 政府は、第1項の規定により発行した公債については、その速やかな減債に努めるものとする。

 (平成24年度及び平成25年度における年金特例公債の発行等)

 第3条 政府は、財政法第4条第1項の規定にかかわらず、平成24年度及び平成25年度における基礎年金の国庫負担の追加に伴い見込まれる費用(この項の規定により発行する公債に係る平成24年度及び平成25年度における利子の支払に要する費用を含む。)の財源については、当該各年度の予算をもって国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行することができる。

 2 前項の規定により発行する公債及び当該公債に係る借換国債(特別会計に関する法律(平成19年法律第23号)第46条第1項又は第47条の規定により起債される借換国債をいい、当該借換国債につきこれらの規定により順次起債される借換国債を含む。次項において同じ。)についての償還及び平成26年度以降の利子の支払に要する費用の財源は、社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律の施行により増加する消費税の収入をもって充てるものとする。

 3 第1項の規定により発行する公債及び当該公債に係る借換国債(次項において「年金特例公債」という。)については、平成45年度までの間に償還するものとする。

 4 年金特例公債は、特別会計に関する法律第42条第2項の規定の適用については、国債とみなさない。

 附則

 この法律は、公布の日から施行する。

 理由

 最近における国の財政収支が著しく不均衡な状況にあることに鑑み、平成24年度の一般会計の歳出の財源に充てるため、同年度における公債の発行の特例に関する措置を定めるとともに、平成24年度及び平成25年度において、基礎年金の国庫負担の追加に伴いこれらの年度において見込まれる費用の財源を確保するため、社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律の施行により増加する消費税の収入により償還される公債の発行に関する措置を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

 

 注意しておくべき点は、当初案の段階において2012年度中の特例公債の発行、同年度中および2013(平成25)年度中の「年金特例公債」の発行を認める内容となっていたことである。すなわち、この段階において複数年度にわたり公債の発行を認めるものとされていた訳であり、国会の機能という面からすれば、極めて問題の多いものとなったのである。

 以上の内容に対し、衆議院財務金融委員会の審査において修正案が提出された。参考までに掲載しておく。

 

 財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律案に対する修正案

 財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律案の一部を次のように修正する。

 第1条中「鑑み、平成24年度」の下に「から平成27年度までの間の各年度」を加え、「同年度」を「これらの年度」に改める。

 第2条の見出し中「平成24年度」の下に「から平成27年度までの間の各年度」を加え、同条第1項中「次条第1項」を「第4条第1項」に改め、「平成24年度」の下に「から平成27年度までの間の各年度」を、「充てるため、」の下に「当該各年度の」を加え、同条第2項中「平成25年6月30日」を「当該各年度の翌年度の6月30日」に、「同年4月1日」を「当該各年度の翌年度の4月1日」に、「平成24年度」を「当該各年度」に改める。

 第3条を第4条とし、第2条の次に次の一条を加える。

  (特例公債の発行額の抑制)

  第3条 政府は、前条第1項の規定により公債を発行する場合においては、中長期的に持続可能な財政構造を確立することを旨として、各年度において同項の規定により発行する公債の発行額の抑制に努めるものとする。

 附則を附則第1項とし、附則に次の一項を加える。

 2 政府は、平成24年度の補正予算において、政策的経費を含む歳出の見直しを行い、同年度において第2条第1項の規定により発行する公債の発行額を抑制するものとする。

 

 修正案には第3条として公債の発行額を抑制する旨の規定が追加されているものの、努力義務規定である。しかも、当初案においては2012年度における特例公債の発行を認めるに留まっていたのに対し、修正案においては2012年度から2015(平成27)年度までの4年度にわたって公債発行を認める趣旨となっている。他方、「年金特例公債」の発行については修正が加えられていない。

 従来の特例法と同様に「予算をもって国会の議決を経た金額の範囲内」という歯止めはかけられているものの、「第2部:国の財政法制度  第5回:国家予算(2)において述べたように、国会による予算案の審議に関し、修正の権限は理論的にもそれほど広いとは言えず、実際にもその権限が行使されることが少ないため、十分な歯止めと言いうるか否かについては疑問の余地がある。

 しかし、財務省は、以上のような施策を継続する方針を打ち出した。報道〈日本経済新聞2015年7月3日付朝刊5面14版「赤字国債 立法不要継続へ 財務省、3~5年軸に検討」〉によれば、同省は「政治の混乱などで必要な法案が通らずに赤字国債を発行できなくなり、国民生活や地方行政に支障が出る事態を避ける狙い」のために、2015年度までとなっていた措置を2016(平成28)年度以降にも継続する旨の法律案を、2015年度中に開かれる国会に提出するという。

 そして、第190回国会に内閣提出法律案第7号として「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法及び財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律の一部を改正する法律」案が国会に提出され、可決・成立した(平成28年3月31日法律第23号)。この法律による改正後の「財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律」を、参考までに掲載しておく。

 

 (趣旨)

 第1条 この法律は、最近における国の財政収支が著しく不均衡な状況にあることに鑑み、経済・財政一体改革を推進しつつ、平成28年度から平成32年度までの間の財政運営に必要な財源の確保を図るため、これらの年度における公債の発行の特例に関する措置を定めるものとする。

 (定義)

 第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

  一 経済・財政一体改革 我が国経済の再生及び財政の健全化が相互に密接に関連していることを踏まえ、これらのための施策を一体的に実施する取組をいう。

  二 国及び地方公共団体のプライマリーバランスの黒字化 国民経済計算(統計法(平成19年法律第53号)第6条第1項の規定により作成する国民経済計算をいう。)における中央政府及び地方政府のプライマリーバランスの合計額(東日本大震災(平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う原子力発電所の事故による災害をいう。)からの復興のための施策に必要な経費及びその財源に充てられる収入その他の財政の健全性を検証するに当たり当該合計額から除くことが適当と認められる経費及び収入に係る金額を除く。)が零を上回ることをいう。

 (平成28年度から平成32年度までの間の各年度における特例公債の発行等)

 第3条 政府は、財政法(昭和22年法律第34号)第4条第1項ただし書の規定により発行する公債のほか、平成28年度から平成32年度までの間の各年度の一般会計の歳出の財源に充てるため、当該各年度の予算をもって国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行することができる。

 2 前項の規定による公債の発行は、当該各年度の翌年度の6月30日までの間、行うことができる。この場合において、当該各年度の翌年度の4月1日以後発行される同項の公債に係る収入は、当該各年度所属の歳入とする。

 3 政府は、第1項の議決を経ようとするときは、同項の公債の償還の計画を国会に提出しなければならない。

 4 政府は、第1項の規定により発行した公債については、その速やかな減債に努めるものとする。

 (特例公債の発行額の抑制)

 第4条 政府は、前条第1項の規定により公債を発行する場合においては、平成32年度までの国及び地方公共団体のプライマリーバランスの黒字化に向けて経済・財政一体改革を総合的かつ計画的に推進し、中長期的に持続可能な財政構造を確立することを旨として、各年度において同項の規定により発行する公債の発行額の抑制に努めるものとする。

 附則

 この法律は、公布の日から施行する。

 附則(平成25年11月22日法律第76号) 略

 附則(平成28年3月31日法律第23号) 抄

 (施行期日)

 第1条 この法律は、平成28年4月1日から施行する。

 (経過措置)

 第2条 第2条の規定による改正前の財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律(以下この条において「旧特例公債法」という。)第2条第1項及び第2項並びに第3条の規定は、平成28年6月30日までの間、なおその効力を有する。

 2 旧特例公債法第2条第1項(前項の規定によりなおその効力を有するものとされる場合を含む。)の規定により発行した公債については、同条第4項の規定は、なおその効力を有する。

 3 旧特例公債法第4条第3項に規定する年金特例公債については、同条第2項から第4項までの規定は、なおその効力を有する。

 

 6.公債依存度の変遷

 赤字国債の発行残高が増え、バブル崩壊とともに税収の落ち込みが激しくなった1990年代には、何度となく財政構造改革の必要性が叫ばれた。地方分権改革も、財政構造改革との関連において主張されたという部分が大きい。1997(平成9)年度には「財政構造改革の推進に関する特別措置法」が制定された。この法律は歳出面の見直しを中心とするが、第4条において赤字国債の発行残高を減少させるという趣旨を宣言した。これを受ける形で、第6条において国の財政運営に関する当面の方針を定めた。しかし、消費税率の上昇、緊縮財政などにより、回復基調にあったとされる景気が冷え込んだことで、早くも1998(平成10)年には「財政構造改革の推進に関する特別措置法の停止に関する法律」が制定され、「財政構造改革の推進に関する特別措置法」は効力停止状態となっている。

 そして、その後も、予算の歳入全体に占める公債の割合は上昇を続け、平成15年度当初予算においては、公債依存度が44.6%に達した(建設国債と特例公債とを合わせた数字。以下も同じ)。公債依存度については改善の傾向が見られる、という評価が妥当するであろうか。

 平成18年度当初予算における公債依存度:およそ38%(歳入合計はおよそ79兆6860億円、公債金は29兆9730億円)。

 平成19年度当初予算における公債依存度:およそ31%(歳入合計はおよそ82兆9088億781万円、公債金は25兆4320億円)。

 平成21年度当初予算における公債依存度:およそ38%(歳入合計はおよそ88兆5480億132万円、公債金は33兆2940億円)。

 平成21年度第一次補正予算における公債依存度:およそ43%(歳入合計はおよそ102兆4735億5955万円、公債金は44兆1130億円)。

 平成23年度当初予算における公債依存度:およそ49%(歳入合計は92兆4116億1271万5千円、公債金は45兆1080億円)。

 平成23年度第一次補正予算における公債依存度:およそ48%(歳入合計は92兆7166億9416万5千円、公債金は45兆1080億円)。

 平成25年度当初予算における公債依存度:およそ46%(歳入合計は92兆6115億3932万8千円、公債金は42兆8510億円)。

 平成25年度第一次補正予算における公債依存度:およそ44%(歳入合計は98兆0769億6746万6千円、公債金は42兆8510億円)。

 平成26年度当初予算における公債依存度:およそ43%(歳入合計は95兆8823億282万9千円、公債金は41兆2500億円)。

 平成27年度当初予算における公債依存度:およそ38.3%(歳入合計は96兆3419億5097万円、公債金は36兆8630億円)。

 平成28年度当初予算における公債依存度:およそ35.6%(歳入合計は96兆7218億4105万4千円、 公債金は34兆4320億円)。

 平成28年度第一次補正予算における公債依存度:およそ35.6%(歳入合計は96兆7218億4105万4千円、 公債金は34兆4320億円)。

 平成28年度第二次補正予算における公債依存度:およそ37.2%(歳入合計は100兆87億1147万8千円、 公債金は39兆346億円)。

 平成28年度第三次補正予算における公債依存度:およそ38.9%(歳入合計は100兆2220億1147万円、 公債金は3兆1820億円)。

 平成29年度当初予算における公債依存度:およそ35.3%(歳入合計は97兆4547億941万円、 公債金は34兆3698億円)。

 平成29年度補正予算における公債依存度:およそ35.9%(歳入合計は99兆1094億8755万2千円、 公債金は35兆5546億円)。

 平成30年度当初予算における公債依存度:およそ34.5%(歳入合計は97兆7127億6941万1千円、 公債金は33兆6922億円)。

 平成30年度第一次補正予算における公債依存度:およそ34.9%(歳入合計は97兆7127億6941万1千円、 公債金は34兆3782億円)。

 平成30年度第二次補正予算における公債依存度:およそ34.9%(歳入合計は101兆3580億6126万7千円、 公債金は35兆3954億円)。

 平成31年度当初予算における公債依存度:およそ32.2%(歳入合計は101兆4570億9357万円、 公債金は32兆6604億5192万2千円)。

 平成31年度補正予算における公債依存度:およそ35.4%(歳入合計は104兆6516億6506万8千円、公債金は37兆818億5192万2千円)。

 令和2年度当初予算における公債依存度:およそ31.7%(歳入合計は102兆6579億7132万6千円、 公債金は32兆5562億円)。

 (以上の%については小数点第2以下を四捨五入。)

 

 ▲第6版における履歴:2020年3月1日掲載。

 ▲第5版における履歴:「06 国債の法的問題」として、2014年5月17日掲載。

            2015年9月22日修正。

            2016年7月13日修正。

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第2部:国の財政法制度  第6回:国家の決算制度

2020年02月26日 00時00分00秒 | 財政法講義ノート〔第6版〕

 企業会計において、決算は重要な意味を有する。企業の実績を語るものでもあるし、企業が営利を目的とする以上、どの程度の利益が生じたか、どの程度の損失が生じたのかということは、企業の存続にとっても、そして株主の利益にとっても、関心事たらざるをえない。決算に全く注意を払わない企業など、おそらく存在しえないであろうし、仮に存在したとしても長く存続しえないであろう。

 しかし、政府の財政制度に関して記すならば、企業会計とは逆に、これまで、決算は、予算と比較してもあまり関心を持たれなかった。国会でも決算が審査されるのであるが、政治家は決算よりも予算のほうに多大な興味・関心を示す。予算であれば自己の実績や評価につながるが、決算ではそうしたものにつながらないからである。また、一般の公務員も、監査などがあることからすれば決算に全く関心がないという訳でもないが、予算に対してよりも高い関心を抱くような誘因に乏しいのも事実である。そして、このような姿勢が、放漫財政というべき状態を生み出し、巨額の財政赤字に国、地方、そして国民が苦しむ結果を生み出したのである。

 このことを念頭に置き、これからの政治、行政、そして財政を考える際、決算を軽視する訳にはいかない。これまでのような経済成長を前提とした税収の伸びは期待できないし、現在の莫大な財政赤字を念頭に置けば、無駄の少ない財政運営が求められざるをえない。そうなれば、予算よりもむしろ決算が重要視されなければならない。

 もとより、政府会計と企業会計を単純に同一視することは許されない。政府と企業とでは機能も役割も異なるのであるから、最近の風潮にみられるような単純化、同一化は慎まなければならない。しかし、政府会計は、企業会計とは異なり、その主な収入源を国民の租税とするはずのものであり、支出の目的も、国民全体の福利に役立つようなものでなければならないはずのものである。従って、その意味に由来する効率化、しかも企業会計とはおそらく異なる意味での効率化などが求められる。

 こうした問題意識を前提として、国家財政における決算制度について概観していく。

 

 1.決算の意義

 国家財政において、決算とは、一会計年度における国の収入(歳入)および支出(歳出)の実績(予算執行の実績)を、確定的な計数によって表示することを内容とする国家行為である

 地方公共団体の財政においても、ほぼ同じ定義である。

 法的効果を有する予算と異なり、決算そのものには、国家機関を拘束する法的規範性がない〈浅野一郎・河野久編著『新・国会事典―用語による国会法解説―』〔第2版〕(2010年)128頁〉。もっとも、会計検査院の権限が発動されるという意味での効果、および、決算が国会において正当なものとして承認された場合に政府(内閣)の責任を解除するという効果は生じる。しかし、会計検査院の権限の発動については法的効果と言いうるかもしれないが、政府(内閣)の責任の解除については、法的効果と言い難い。

 しかし、決算自体は憲法および実質的意義における財政法によって規律されるし、日本国憲法に規定される国民主権原理に鑑みれば、決算に法的効果がないとしても、無意味であるという訳ではない。

 決算は、国家財政における収入(歳入)および支出(歳出)の事後的審査、すなわち国会の事後的監督を受ける。これによって、当該年度の予算執行が適正に行われたか否かが判断され、将来の財政計画の形成や後年度の予算の編成についての監視も行われるということになるのである。これにより、予算の適正な執行が行われたか、すなわち、違法または不当な執行がなされなかったか、予算において意図された効果が発揮されたか、ということが調査されることになるのである。

 ただ、前述のように、実際にそのようなことが行われているか否かについては、少なからぬ疑問が生じる。それは、決算が、結局のところは収入(歳入)および支出(歳出)の事後報告にすぎず、事後審査を受けたとしても収入(歳入)および支出(歳出)の是正(場合によっては効果の否定)がなされる訳ではないからである。財政民主主義を徹底させるという観点に立つならば、決算の意味についての再検討が必要となるのではなかろうか。

 

 2.決算の作成手続など

 予算の編成に際して各省各庁の長が概算要求(歳出などの見積もり)をしていることからすれば、修正などを受けつつも基本的にはその要求に応じて配賦された予算がどのように支出されたか、などの報告をなす必要があるのは当然である。

 また、予算の執行は当該年度に限られるが、実際には会計年度の末日である3月31日までに収入支出の原因が発生すると、それが当該年度の収入支出として扱われるため、翌会計年度の一定期間まで、当該年度の収納や支払いについて整理をしなければならない。これを出納整理という。

 ここで、予算決算及び会計令の規定を引用しておくこととする。

 

 (歳入金の収納期限)

 第三条 出納官吏又は出納員において毎会計年度所属の歳入金を収納するのは、翌年度の四月三十日限りとする。

 (歳出金の支出期限)

 第四条 支出官において毎会計年度に属する経費を精算して支出するのは、翌年度の四月三十日限りとする。ただし、国庫内における移換のためにする支出又は会計法第二十条第一項の規定により歳出金に繰替使用した現金の補てんのためにする支出については、翌年度の五月三十一日まで、小切手を振り出し又は国庫金振替書若しくは支払指図書を発することができる。

 (歳出金の支払期限)

 第五条 出納官吏又は出納員において毎会計年度所属の歳出金を支払うのは、翌年度の四月三十日限りとする。

 (返納金の戻入期限)

 第六条 会計法第九条但書の規定により支出済となつた歳出金の返納金を、支払つた歳出の金額に戻入するのは、翌年度の四月三十日限りとする。

 (日本銀行における受入れ及び支払の期限)

 第七条 日本銀行において毎会計年度所属の歳入金を受け入れるのは、翌年度の四月三十日限りとする。ただし、次に掲げる場合においては、翌年度の五月三十一日まで、受入れをすることができる。

  一 出納官吏からその収納した歳入金の払込みがあつたとき

  二 市町村その他の法令の規定により歳入金の収納の事務の委託を受けた者からその領収した歳入金の送付があつたとき

  三 国庫内において移換による歳入金の受入れをするとき

  四 印紙をもつてする歳入金納付に関する法律第三条第五項の規定による納付金の受入れをするとき

 2 日本銀行において毎会計年度所属の歳出金を支払うのは、翌年度の五月三十一日限りとする。

 こうして、出納整理が済まされると、各省各庁の長は、毎会計年度、その所管する歳入および歳出の決算報告書並びに国の債務に関する計算書、そして継続費決算報告書を、翌会計年度の7月31日までに財務大臣に送付する(財政法第37条第1項・第3項、予算決算及び会計令第20条。会計法第1条も参照)。これを受けて、財務大臣が歳入予算明細書と同一の区分に基づいて歳入決算明細書を作成する(財政法第37条第2項)。また、財務大臣は、歳入決算明細書および歳出決算報告書に基づき、歳入歳出の決算を作製する(第38条第1項)。この際、第38条第2項に掲げられた諸事項を明らかにする必要がある。

 なお、予算と決算が一致することは、たしかに望ましいことであるし、原則としてそうでなければならないが、実際には過不足が生じる。

 このうち決算上の剰余金については、財政法第6条および第41条により規律を受ける。両者の文言は類似しているので区別が付きにくく、理解に困難を来しかねないのであるが、第41条の場合の剰余金を歳計剰余金といい、第6条の場合の剰余金を純剰余金という。

 まず、歳計剰余金が存在する場合には、翌年度の歳入に繰り入れることとされる。しかし、純剰余金は歳計剰余金と同一ではなく、歳計剰余金から、予算決算及び会計令第19条などにより、翌年度に繰り越した歳出予算の財源に充てるべき金額、地方交付税法に規定される地方交付税交付金の決算額の超過額※(同令附則により、空港整備事業費等財源、道路整備費財源などが示されている)などを控除して得られた額とされており、純剰余金の2分の1以上は翌々会計年度までに公債または借入金の償還財源に充てられる(財政法第6条)。

 ※予算決算及び会計令第19条第2号の文言は、地方交付税交付金そのものである。

 これに対し、決算上、不足額が生じる場合については、財政法に規定がない。そこで、高度経済成長期が終了してしばらく経った1970年代後半に、決算調整資金に関する法律が制定された。この法律に従い、決算の上で不足額が発生した場合には、決算調整資金から、マイナスとなっている純剰余金が0になるために必要な額を一般会計歳入に組み入れることになっている。逆に、純剰余金から公債または借入金の償還財源に充てられた分を控除して得られた差額は、予算により、決算調整資金に繰り入れることが認められる。また、特別の必要な場合には、予算により、一般会計から決算調整資金への繰り入れが認められ、さらに、国債整理基金からの決算調整資金への繰り入れも認められる。

 

 3.決算の審査(会計検査院)

 こうして作製された決算は、閣議に提出されて決定されるが、これで直ちに国会に提出されるのではなく、「内閣は、歳入歳出決算に、歳入決算明細書、各省各庁の歳出決算報告書及び継続費決算報告書並びに国の債務に関する計算書を添附して、これを翌年度の十一月三十日までに会計検査院に送付しなければならない」。これは、憲法第90条第1項を受けて規定されることである。会計検査院による決算の審査(検査)は、国会による審査(審議)の前に行われる。

 会計検査院は、「第1部:日本国憲法における、財政に関する基本的原則  第2回:財政民主主義において述べたように、日本国憲法の下で内閣から完全に独立している唯一の行政機関である。これは、決算を検査する際の独立性を強く保障するためであるものと理解される※。組織および権限については会計検査院法に定められる。

 ※憲法の文言からは必ずしも明らかでないように読み取りうるのであるが、学説などにおいて、会計検査院が内閣から完全に独立していることに関し、異論はない。また、杉村章三郎『財政法』(1982年、有斐閣)140頁は、会計検査院が国会や内閣、そして裁判所と並ぶ憲法上の機関であると理解した上で「憲法の改正なくしては最高機関である国会すらもこの機関の廃止変更(名称の変更を含む)はできないことを意味するものであり、またその主要な権限である決算審査についても立法機関は同様の拘束を受けることとなる」と述べ、会計検査院の独立性を説明する。独立性は、会計検査院法第1条において改めて規定されている。なお、財政法第18条および第19条も参照。

 会計検査院は、3人の検査官により構成される検査官会議と事務総局によって組織される(会計検査院法第2条)。長は検査官の互選に基づいて、内閣により任命する(第3条)。また、検査官の任命は内閣が行うのであるが、その際には両議院の同意が必要となり、天皇の認証も必要である(第4条第1項・第4項)。検査官の任期は原則として7年であり、再任は1回のみ許される(第5条第1項)。事務組織については第12条以下および会計検査院規則に定められ、国家行政組織法の適用はない。

 検査官の定年は満65歳である(会計検査院法第5条第3項)。この他、第4条第3項、第6条および第7条に該当する場合には退官または失職するが、その他の場合においてはその意に反して職を失うことはない(第8条)。

 権限は、憲法第90条第1項に定められているところを基礎とし、会計検査院法第20条以下に定められている事柄について行使される。

 なお、会計検査院法第38条により、会計検査院は独自の規則制定権を有する。

 主要な権限は、会計検査(これは常時行われるものとされる)および会計経理の監督であり、会計検査は正確性、合理性、経済性、効率性および有効性などの関連からなされることとなっている(第20条第2項および第3項)。なお、会計検査は、国の収入支出の決算に対する確認であり、単なる調査報告ではない(第21条)。なお、この確認は、決算を確定させるものではない。

 会計検査院の検査権限は、第22条各号に掲げられているものに及ぶ。これをみると、国の会計のみならず、国が補助金などを交付し、または貸付金などの形で財政援助を与えているもの(すなわち、国の相手方)の会計、国が資本金の一部を出資する法人の会計などにも及んでいる。また、日本放送協会(NHK)など、特別法によって会計検査院の検査を受けることとされるものも存在する。

 実際の検査については、第23条各号に掲げられた会計経理の検査を、自らの意により、または内閣の請求により行うことができるし、職員を派遣して実地における検査を行うこともできる(第25条)。また、帳簿、書類または報告の提出を求め、関係者への質問をなし、または出頭なども求めることもできる(第26条)。さらに、検査を進めるうちに会計経理について法令に違反し、または不当である事項が存在すれば、直ちに意見を表示し、または適宜の措置を求めることができ、是正改善の処置をさせることもできる(第34条)。検査の結果、法令や制度、または行政について改善を必要とする事項があると判断した場合には、主務官庁などの関係機関の責任者に意見を述べ、または改善の処置を要求することもできる(第36条。なお、第37条も参照)。

 検査を行った後に、会計検査院は検査報告を作成する。その際には、第29条の各号に規定される事項(いずれも重要である)を掲記しなければならない。そして、この検査報告が、決算とともに内閣に送付される。なお、会計検査が決算に対する確認であり、検査の結果として違法または不当な部分が発見されたとしても、それを無効としたり取り消したりすることはできないし、仮に会計検査院がそのようなことを行ったとしても、法的には無意味である〈勿論、他の行政機関に対して是正を求める、というような意味は認められる〉。もっとも、会計事務職員に関する懲戒処分の要求をなす権限があること(第31条)、あるいは、犯罪行為があると認められる場合の検察官への通告義務があること(第33条)に鑑みれば、全く無意味であるとも言い切れない。

 内閣は、会計検査院の検査報告を受け取った後、各省各庁の長に回付される。また、内閣は、この検査報告について、国会に対する説明書を作成する。これは、国会における決算の審議の際に参考資料としての意味を有し、検査報告に対して実際に各省各庁がいかなる是正措置などを講じたのか、または、各省各庁がいかなる意見を有するか、などの説明が内容とされる。

 なお、会計検査院については、日本財政法学会編『会計検査院(財政法叢書27)』(2011年、全国会計職員協会)所収の論文も参照されたい。

 4.決算の審議(国会)

 こうして、会計検査院の検査報告とともに、決算が内閣から国会に提出されることとなる。憲法第90条第1項は「次の年度」としか定めていないが、財政法第40条第1項は「翌年度開会の常会において国会に提出するのを常例とする」と定める。「常例」であるから、必ず「常会」に提出しなければならないというものではない。

 なお、この時に国会に提出されるのは歳入歳出決算であるが、歳入決算明細書、各省各庁の歳出決算報告書および継続費決算報告書並びに国の債務に関する計算書が添附されることとなる(同第2項)。また、財政法以外の法律により、添附を義務づけられる書類もいくつか存在している。

 予算と異なり、決算については衆議院の先議権や議決における優越がない。内閣は、衆議院、参議院のどちらを先にして提出してもよく、同時に提出してもよい。

 また、予算と異なるもう一つの点として、大日本帝国憲法時代以来、決算は国会における報告案件であり、審議案件とされない、という慣行がある(憲法や財政法、そして国会法などに規定が存在しない)。これが、政治家などが決算にそれほどの関心を抱かないことの原因であると考えられる。しかも、決算の審議―前述のように、実際には報告案件に過ぎないが、ここでは審議の語を使用しておく―は、衆議院、参議院で全く別に行われており、国会の議決と言っても、実際には各院の議決が出されるにすぎず(議決がなされても他院への送付はない)、仮に審議未了になったとしても、次の通常国会または臨時国会に提出される必要はないとされているし、会期不継続の原則を適用するか否かも国会の判断に委ねられるとされている〈浅野・河野編著・前掲書129頁、兵藤広治『財政会計法』(1984年、ぎょうせい)108頁〉

 しかし、このような取り扱いは、予算と比較してもあまりに軽すぎ、国会における審議の意義を失わせることにならないのであろうか。この点について、杉村章三郎博士は「決算についてはその審査が会期中に終了しなかった場合にも会期不継続の原則が適用されない」と述べた上で「決算は審議未了となっても一般の議案と異なり次の国会までに修正を加えられるべきものではないし、またこれを提出するかを政府が任意に決しうるものでもなく必ず国会の審議を受けなければならないものであるから、一度提出された決算は審議未了となっても次の会期において継続審議されるべきである」と述べる〈杉村・前掲書151頁〉。私も、この説のほうが妥当であると考えている。

 もっとも、仮にいずれかの院が決算を否決したとしても、それまでになされた歳入歳出の効力に変更がなされる訳ではない。そのため、決算を国会における審議案件とせず、報告案件に留めるという取り扱いはやむをえないものかもしれない。ただ、決算の重要性が軽視されているという印象はぬぐえない。根本的な再検討の時期に来ていると考えたい。

 朝日新聞2011年2月11日付朝刊4面14版に掲載された「08年度決算 やっと決議」という記事は、2008年度決算が2011年2月14日に行われる参議院決算委員会でようやく議決される予定であると報じている(参議院の本会議でない点にも注意)。この記事によると、2008年度決算が国会に提出されたのは2009年11月であり、2010年の通常国会で審議されるはずであったが、当時の鳩山由紀夫内閣総理大臣の辞任によって審議が打ち切られている。また、同年秋の臨時国会でも審議されたが、閣僚の問責決議案が可決されたことで審議が止まった、という。しかも、2008年度予算が自由民主党・公明党の連立政権の下で編成され、執行されたことから、現在の与党である民主党が消極的であったとも書かれている。これが本当のことであれば、政権与党としては問題のある態度であると評価せざるをえないし、与野党を問わず、いかに決算が軽んじられてきたかを示す好例であるとも言いうるであろう。

 なお、各院には決算委員会が置かれており、決算についても、本会議の前に決算委員会において「審査」が行われる。そして、本会議において決算の承認または不承認の決定が行われることとなる。

 

 ▲第6版における履歴:2020年2月26日掲載。

 ▲第5版における履歴:「05 国家の決算制度」として、2014年5月17日掲載。

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第2部:国の財政法制度  第5回:国家予算(2)

2020年02月24日 00時00分00秒 | 財政法講義ノート〔第6版〕

 4.予算の種類、編成

 予算書は、日本の公文書の中で最も難解なものとも評されるもので、その全ての内容を理解しうる者は、予算の作成・編成に関わるほんの数人である、と言われるほどである。私も、第201回国会(常会)の会期中である2020(令和2)年1月20日に衆議院へ提出された令和2年度予算を参照したが、次に示すように、頁数は膨大である。

 まず、「令和2年度一般会計予算」は、PDFファイルで1117頁分(表紙、目次および索引の部分を含む。以下同じ)である。しかも、その大半を「令和2年度一般会計予算参照書」、とくに「令和2年度一般会計各省各庁予定経費要求書等」が占める。

 次に、「令和2年度特別会計予算」は、PDFファイルで509頁分である。

 これらに、129頁分の「令和2年度政府関係機関予算」、1208頁分の「財政法第28条等による令和2年度予算参考書類」が加わる。他にも参考資料が存在する。

 基本的には、いかなる事項にいくらだけの歳出予算が認められるのかを理解できるようになっているが、項の箇所に省庁が、目の箇所に費目が書かれているだけで、細目はわからない。大枠だけが国会で決定されればよいというように割り切るならば、それも一つの考え方である。しかし、中身に入る前に、その量に圧倒され、読み切ることは難しいかもしれない。

 そのようなものであるから、国会において予算案が審議されるとは言え、その程度がどのようなものであるか、疑わしいとも言いうる。国会が有する予算審議権は、行政権に対する統制権限の中で最も重要なものであるが、実際には予算案についての審議が行政権に対する有効な統制になっているのかと問われるならば、積極的に肯定的意見(解答)をなすことは難しい。これは、地方財政についても同様である。場合によっては、地方議会のほうが根深い問題なのかもしれない。

 いずれにせよ、予算がいかなる構成により、いかなる内容を盛り込むものであるかを知ることは、様々な意味において必要である。

 

 〔1〕予算の種類

 (1)一般会計予算と特別会計予算

 既に示したように、内閣によって提出される予算案は、一般会計予算、特別会計予算、政府関係機関予算および「財政法第28条による予算参考書類」から構成される。それぞれは別個の議案であり、特別会計予算については全てが一つにまとめられた上で、国会に議案として提出される。このうち、純粋な政府予算案は一般会計予算と特別会計予算であり、財政法第13条第1項もこの区別を行う。

 「第2部:国の財政法制度  第3回:財政法の構造と原理 財政法に示された財政の原則」において述べたように、財政法の諸原則の一つとして会計統一の原則がある。本来であれば、全体的な財政状況を容易に把握するためにも、歳出および歳入が単一の会計の下に置かれ、統一的に管理・経理されることが望ましいのであるが、実際には、一般会計予算と特別会計予算とに区分されている。

 財政法第13条第2項は「国が特定の事業を行う場合、特定の資金を保有してその運用を行う場合その他特定の歳入を以て特定の歳出に充て一般の歳入歳出と区分して経理する必要がある場合に限り、法律を以て、特別会計を設置するものとする」と規定する。また、特別会計については、財政法の規定に対する特例を定めることができる(同第45条)。現在、17種類の特別会計が存在し、それぞれについて法律が定められている。これらは、企業的な事業、投資的な事業、資金運用的な事業などからなり、一般予算および決算と同様に現金主義を採用するもの、企業会計と同様に発生主義を採用するものなどが混在している。

 ●ここで、令和2年度特別会計予算目録による特別会計を概観しておく。番号などは、便宜上、私が付したものである。

 A.内閣府、総務省及び財務省所管

  1.交付税及び譲与税配付金

 B.財務省所管

  2.地震再保険(繰越明許費計上)(国庫債務負担行為計上)

  3.国債整理基金

  4.外国為替資金(繰越明許費計上)(国庫債務負担行為計上)

 C.財務省及び国土交通省所管

  5.財政投融資(繰越明許費計上)(国庫債務負担行為計上)

 D.内閣府、文部科学省、経済産業省及び環境省所管

  6.エネルギー対策(繰越明許費計上)国庫債務負担行為計上)

 E.厚生労働省所管

  7.労働保険(繰越明許費計上)(国庫債務負担行為計上)

 F.内閣府及び厚生労働省所管

  8.年金(繰越明許費計上)(国庫債務負担行為計上)

 G.農林水産省所管

  9.食料安定供給(繰越明許費計上)(国庫債務負担行為計上)

  10.国有林野事業債務管理

 H.経済産業省所管

  11.特許(繰越明許費計上)(国庫債務負担行為計上)

 I.国土交通省所管

  12.自動車安全(繰越明許費計上)(国庫債務負担行為計上)

 J.国会、裁判所、会計検査院、内閣、内閣府、復興庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省及び防衛省所管

  13.東日本大震災復興(繰越明許費計上)(国庫債務負担行為計上)

 また、「財政法第28条による予算参考書類」は、その名の通り、第28条各号に規定される、国会に予算案を提出する際に添付すべき書類である。一般会計予算と特別会計予算は別個に議案として提出されるし、特別会計予算には13種類の特別会計についての案が一括して提出される。一般会計予算と特別会計予算との間、特別会計とされるものの間、そして一特別会計の各勘定間において繰り入れが行われるなど、重複する場合もあるので、それを差し引いての予算純計を出す必要がある。これは、第3号に規定される調書として提出される。この他、歳入予算明細書(第1号)、「各省各庁の予定経費要求書等」(第2号)、などが提出される。

 そして、政府関係機関予算は、財政法に規定がないものの、沖縄振興開発金融公庫の予算及び決算に関する法律※第4条第2項、同第7条、株式会社日本政策金融公庫法第30条第2項、同第33条、独立行政法人国際協力機構法第18条第4項、同第21条などの規定により、国会の議決を経る必要があるものをいう※※。これらの場合、企業会計の原則などが採用されているが、政府からの借入金などによって運営されることからすれば、国会の議決を経るとされているのは当然であろう。

 ※この法律は、平成19年法律第58号による改正までは「公庫の予算及び決算に関する法律」という名称であり、国民生活金融公庫、住宅金融公庫、農林漁業金融公庫、中小企業金融公庫、公営企業金融公庫および沖縄振興開発金融公庫を規律していた。この他、政府関連予算として国会の議決を経る機関として、中小企業総合事業団信用保険部門、日本政策投資銀行および国際協力銀行が存在した。

 ※※独立行政法人国際協力機構の経理は、独立行政法人国際協力機構法第13条に規定される業務に係る勘定(一般勘定)と有償資金協力業務に係る勘定(有償資金協力勘定)とに経理を区分することとなっている(同第17条)。このうち、有償資金協力勘定について「収入及び支出の予算を作成し、主務大臣を経由して、これを財務大臣に提出しなければならない」とされる(同第18条第1項)。

 (2)当初予算(本予算)と補正予算

 この区別は、度々耳にするものであろう。財政法に規定されるのは当初予算(本予算)である。これは、言うまでもなく、前年度中に内閣から国会に提出され、国会の議決を経て、当該年度の当初から施行されるものである。一会計年度に生じるはずの全歳入および全歳出を網羅するものであり、これが変更を受けることなく執行されるのが原則であるし、そうであることが望ましい。

 しかし、予算作成後に、何らかの事情が変化し、やむをえず、予算の追加または変更をしなければならない場合が生じうる。このようなときに、当初予算を変更せずに執行することが不可能になり、さらに国政が停滞しては困ることになる。

 そこで、財政法第29条は、補正予算の作成および提出を内閣に認めている。但し、常に作成および提出をなしうるとするのでは、当初予算(本予算)の意味を失わせてしまうので、第29条は、次の場合にのみ補正予算の作成および提出を認める。

 「法律上又は契約上国の義務に属する経費の不足を補うほか、予算作成後に生じた事由に基づき特に緊要となつた経費の支出(当該年度において国庫内の移換えなどにとどまるものを含む。)又は債務の負担を行なうため必要な予算の追加を行なう場合」(第1号):この場合は、義務費の不足、および予算作成後の事情の変化に限られている。なお、ここで「特に緊要となつた」とあるが、その判断は内閣に委ねられている。

 「予算作成後に生じた事由に基づいて、予算に追加以外の変更を加える場合」(第2号):当初予算(本予算)を作成した後に生じた事由により、歳出予算の金額を減らすこと、繰越明許費を減額すること、国庫債務負担行為の金額を減らすこと、などの必要がある場合に、補正予算が認められる。

 なお、第29条の規定は歳出予算の変更を想定しており、歳入予算の補正については定めていない。しかし、歳入予算が歳入(収入)の見積もりにすぎないとは言え、公債発行額を増額する場合などについては、予算の補正が必要であろう。

 作成および提出の手続は、当初予算(本予算)に準ずる。勿論、当初予算(本予算)の国会提出時期(前年度の1月中を常例としている)に関する第27条の適用などはない。このこともあり、また、国会法第59条ただし書きの存在もあって、当初予算(本予算)が成立する前であっても補正予算の提出は可能と理解されている〈兵藤広治『財政会計法』(1984年、ぎょうせい)55頁〉

 (3)当初予算(本予算)と暫定予算

 上述のように、財政法第27条は、当初予算(本予算)について国会提出時期の常例を前年度の1月中としており、前年度内に国会の議決を経て成立することとなっている。しかし、これまでにも、国会の審議状況により※、例えば、国会が予算を否決した場合に、前年度内に予算が成立しないことが何度かあった。また、衆議院が解散している場合には、当然ながら予算の審議を行いえないので、予算が成立しない。稀に、予算案が前年度内に内閣から国会に提出されないこともありうる。

 ※直近の例では平成27年度予算があげられるが、ここでは平成24年度予算について触れておく。第180回国会は、本来ならば補正予算を処理する必要があったが召集が遅れた。また、衆議院と参議院とで多数党が異なるという政治状況などが原因となり、平成24年度予算(当初予算)の審議が遅れた(衆議院においては可決されたものの、参議院では予算委員会における審議が終わらずに平成23年度が終了した)。このため、1998(平成10)年度以来14年ぶりに暫定予算が編成されることとなり(朝日新聞2012年3月24日付朝刊9面14版掲載の「復興特会も暫定予算編成 一般会計は3兆円台後半 政権方針」を参照)、平成24年度暫定予算は、3月30日の衆参両院の本会議において可決・成立した(朝日新聞2012年3月31日付朝刊4面14版掲載の「暫定予算 14年ぶりに成立」、日本経済新聞2012年3月31日付朝刊2面14版の「暫定予算が成立」も参照)。

 なお、平成24年度予算(当初予算)は、2012年4月5日の午後に成立した。同日に行われた参議院予算委員会においてこの予算案は否決され、同院本会議においても否決された。両院協議会も開かれたが意見がまとまらなかったため、憲法第60条第2項に従うこととなった(朝日新聞2012年4月5日付夕刊2面4版掲載の「今年度予算、午後成立 4月ずれ込み14年ぶり」、朝日新聞2012年4月6日付朝刊7面14版掲載の「96.7兆円 成立 今年度予算」を参照)。

 当該年度予算が成立しない場合、大日本帝国憲法第71条に規定されていたように、前年度の予算を執行するということも考えられる。しかし、「第1部:日本国憲法における、財政に関する基本的原則  第1回:財政および財政法」において述べたように、理念的にみれば財政民主主義の否定につながりかねないし、故意に法律の執行を妨害することにもつながるなど、国会の立法権を実質的に否定することにもなりかねない。

 但し、私自身は「或る程度」という留保を付すものの、大日本帝国憲法第71条を評価する。三権分立の趣旨からして、行政権から立法権への牽制として、また、国家の円滑な運営を図るためにも、この種の事柄を憲法の規定に盛り込むことは必要であると考えられるのである。

 日本国憲法には、予算不成立の場合に関する規定が存在しないが、現実的な問題として、予算が不成立になった場合には、当該年度の国政が完全に運営不能となる。「第1部:日本国憲法における、財政に関する基本的原則  第1回:財政および財政法」において述べたように、日本国憲法の欠陥の一つである、と評価してよい。それはともあれ、当初予算が成立しない場合には、とりあえず、応急措置を行わなければならない。その応急措置が暫定予算であり、財政法第30条に規定されている。

 暫定予算は「一会計年度のうちの一定期間に係る」もので「必要に応じて」作成され、提出されるものであり(第1項)、作成および提出は、当初予算(本予算)と同様に内閣の専権事項である。しかし、暫定予算であっても、国会に提出されるということは、国会の議決を経なければ成立しないということである。従って、国会の審議状況によっては暫定予算すら成立しないまま、新会計年度に移行するということもありうる。このような場合に関する規定は財政法などにも存在しないが、これまで何度か生じ、一種の空白状態が生じたことがある。

 暫定予算は、既に述べたところから明らかであるように、応急措置としての性格を有する。そのため、内容は必要かつ最小限のものに留められるべきであろう。しかし、場合によっては、当初予算(本予算)に計上すべきである新規施策に係る経費も暫定予算に計上する必要があろう。公債発行も、やむをえない場合には認められざるをえない。

 当初予算(本予算。財政法第30条第2項にいう「当該年度の予算」)が成立すれば、暫定予算は失効する。これは当然のことである。そして、暫定予算に基づいて支出や債務の負担がなされた場合には、当初予算(本予算)からなされたものとみなされる(同項)。これも当然のことである。

 なお、暫定予算は、通常であれば歳出超過型の予算となる※。本来、このような予算は財政法第12条によって禁じられるのであるが、暫定予算は、あくまでも当初予算(本予算)が成立するまでの予算であり、当初予算(本予算)が成立すれば失効する、すなわち、実質的には当初予算(本予算)に吸収されるのであるから、当初予算(本予算)に重大な影響を与えるようなものでなければ、歳出超過型であってもとくに問題はない。

 ※平成24年度一般会計暫定予算も歳出超過型予算となっていた(歳入118億3672万円、歳出3兆6104億9637万8千円)。平成27年度一般会計暫定予算も同様である(歳入262億8907万5千円、歳出5兆7592億9003万5千円)。

 

 〔3〕予算の内容

 財政法第16条は、予算を、予算総則、歳入歳出予算(同第24条により、予備費も含めることができる)、継続費、繰越明許費および国庫債務負担行為から構成されるものと定義する。中心となるのは歳入歳出予算である。

 (1)予算総則

 財政法第22条に定められるものであり、文字通り、当該年度予算の総則としての意義を有する。一般会計予算にも特別会計予算にも、予算総則が設けられる。

 予算総則には、歳入歳出予算、継続費、繰越明許費および国庫債務負担行為に関する総則的な規定が置かれ、ここで、総額などが示される。そして、公債または借入金の限度額、公共事業費の範囲、日本銀行の公債の引き受けまたは借入金の借り入れの限度額、財務省証券の発行および一時借入金の借り入れの最高額、国庫債務負担行為の限度額、予算の執行に関し必要な事項、などが規定される。なお、特別予算の場合には弾力条項が置かれ、収入が増加した場合に支出も増加するようになっている。なお、この場合、具体的な支出目的が規定されていないなど、予備費と異なった特徴がみられる〈詳細は、兵藤・前掲書61頁を参照〉

 とくに、予算の執行に関し必要な事項は、予算全体を運用するに際して国会の議決を受けるべき事柄が多く掲載されている(実際に、予算書を参照していただきたい)。

 また、特別会計の予算総則には財政投融資計画に関する規定も置かれる。それは、財政投融資の中身が特別会計の予算と関連するからである。

 (2)歳入歳出予算

 予算書で甲号と称される歳入歳出予算は、予算の中心あるいは本体である。財政法第23条および第31条第2項、そして予算決算及び会計令第14条によると、歳入歳出予算は次のように区分される。

 収入(歳入)について

  部局等の組織の別(財務省のうち、歳入事務を部分的に管理するもの。主管)

   部(性質に応じて。例、租税及び印紙収入)

    款(例、租税)

     項(例、所得税)

      目(財政法に規定がない)

 支出(歳出)について

  所管官庁および部局等の組織の別(●●省、●●本省というように定められる)

   項(目的に応じて)

    目(財政法に規定がない)

     目の細分(財政法に規定がない)

 歳出予算の目の区分と各目の細分については、各省各庁の長と財務大臣との協議によって定められ(予算決算及び会計令第14条第2項)、その他は財務大臣によって定められる(同第1項)。

 いずれも、部・款・項については予算に計上されて国会の議決の対象となるが、目および目の細分については、財政法第28条に定められる予算に添付する参考書類に掲げられ、審議の参考となるに留められている。このため、部・款・項を立法科目といい(議定科目と言われることもある)、目および目の細分を行政科目という。

 なお、歳入歳出予算には予備費が設けられる。憲法第87条を受け、財政法第24条により、「予見し難い予算の不足に充てるため」に計上されうるものである。この場合は具体的な使途が定められていないのであるが、形式的に歳出予算に入れられ、所管が財務省、項が予備費とされることとなる。

 (3)継続費

 予算書においては乙号と称される。継続費については「第1部:日本国憲法における、財政に関する基本的原則  第1回:財政および財政法」および「第2部:国の財政法制度  第3回: 財政法の構造と原理 財政法に示された財政の原則」において解説を加えたので、意味などについてはそちらを参照していただきたい。なお、これについても、部局等の区分、項の区分は財務大臣によって定められ(予算決算及び会計令第14条第1項)、目の区分および各目の細分は、各省各庁の長と財務大臣との協議によって定められる(同第2項)。

 (4)繰越明許費

 予算書においては丙号と称される。繰越明許費については「第2部:国の財政法制度  第3回: 財政法の構造と原理 財政法に示された財政の原則」において解説を加えた。

 (5)国庫債務負担行為

 国の債務負担行為については、いかなるものであっても国会の議決が必要である。国庫債務負担行為は、財政法第15条第1項・第2項において定義されるものである(同第5項)。

 このうち、第1項の国庫債務負担行為は、法律に基づく債務負担、歳出予算の金額、もしくは継続費の総額の範囲における債務負担以外のものとされている。これは少々わかりにくい規定であるが、法律に基づく場合など、上記に列挙されるものであれば、当初から債務を負担する権限が与えられていることになるのである。しかし、そうでない場合は、国会に、その権限を付与するように議決を求めなければならないのである。当該年度中に債務負担行為が行われるが実際における経費の支出が翌年度に行われる場合などに、この方法が採用される。

 これに対し、第2項の国庫債務負担行為は、災害復旧など緊急の必要がある場合のものとされている。これについては、毎会計年度、国会が議決した金額の範囲内で認められる。

 以上、解説を加えたが、前述のように、実際に予算書を読んでみていただきたい。

 

 〔3〕予算の編成

 既に述べたように、予算案の作成権および提案権は内閣に専属する(憲法第73条第5号、第86条。内閣法第5条も参照)。予算書には、国会、裁判所そして会計検査院の予算案も示されているが、これらについても、最終的な作成権および提案権は内閣に専属する(財政法第17条第1項も参照)。しかし、予算の作成の全過程を内閣が行う訳ではない。実際には、予算案が作成される過程において各国家機関が関与する。この、予算案が作成され、国会に提出されるまでの過程を予算の編成という。

 当該年度の予算案は、前年度に編成されることとなる。財政法には規定されていないが、毎年、夏頃に翌年度予算案への概算要求について、閣議での了解がなされる。ここで、概算要求枠と言われる限度枠(いわゆるシーリング)などが定められている。

 これを受け、財政法第17条に規定されるように、各国家機関の長は、歳入、歳出、継続費、繰越明許費および国庫債務負担行為の見積もりに関する書類を作製する。そして、国会(衆議院および参議院)、最高裁判所長官そして会計検査院長は、この書類を8月31日までに内閣に送付する。その後、財務大臣に「回付」される(予算決算及び会計令第8条)。内閣総理大臣および各省大臣は、やはり8月31日までにこの書類を財務大臣に送付する(同条)。

 そして、財務大臣は、送付を受けた見積もりを検討した上で調整をなし、概算の原案を作製する。この原案が閣議に提出され、その決定を受けることとなる(財政法第18条)。ここでなされる概算の原案作成は、実際のところはかなり大きな影響をもつものである。法的には、見積もりの検討、調整、そして概算の原案は、特段の効力を有する訳ではない。しかし、財務省主計局(実際に担当する部署)は、各省各庁から示された概算要求書(見積もりのこと)について説明を求めたり、査定を行ったりする。その査定の結果が概算の原案につながる。そして、12月に閣議が行われ、予算編成方針の決定、そして財務省原案の内示が行われる。その後に、年末恒例の復活折衝が行われる。最終的には大臣折衝になるが、実質的には次官級折衝の段階が重要であると言われる。

 なお、財務大臣による調整などについては、とくに第18条第2項および第19条の規定が存在する。国会、裁判所および会計検査院については、第18条第1項の決定をするに際し、歳出の概算について衆議院議長、参議院議長、最高裁判所長官および会計検査院長の意見を聞かなければならず(同第2項)、歳出の見積もりを減額する場合には、詳細を歳入歳出予算に付記し、国会が増額修正をしようとする場合に必要な財源を明記しなければならない(第19条)。これは、三権分立主義(会計検査院については憲法上の独立性)を保障するためのものである。

 概算が決定されると、財務大臣は歳入予算明細書を作製し(第20条第1項)、衆議院議長、参議院議長、最高裁判所長官、会計検査院、内閣総理大臣、そして各省大臣に概算を通知する(予算決算及び会計令第9条第1項)。これを受けて、これらの機関の長や大臣は、その概算の範囲内において予定経費要求書、継続費要求書、繰越明許要求書および国庫債務負担行為要求書を作製し、財務大臣に送付しなければならない(同第2項)。財務大臣は、これらを基にして予算を作成し、閣議の決定を経る(第21条)。これで、予算案が作成されたということになるのである。

 

 〔4〕予算の審議、執行

 (1)予算案の提出

 財政法第21条に定められた閣議において予算案が決定された場合、直ちに国会に提出されることとなる。財政法第27条によると「内閣は、毎会計年度の予算を、前年度の一月中に、国会に提出するのを常例とする」。この規定は、通常国会(憲法や法律では「常会」)が毎年1月中に召集されることを常例とする国会法第2条の規定に対応するものである。

 財政法第27条は、おそらくは平成3年度に改正されたと思われるが、改正前は「前年度の十二月中」とされていた。しかし、実際には、12月中に提出されたことはほとんどない。また、その時も「常例」とされていたにすぎない。

 法律案と異なり、予算案については、先に衆議院に提出されなければならない(憲法第60条第1項)。これに伴い、予算関連法案も先に衆議院に提出されることが多い。なお、国会法第58条は「内閣は、一の議院に議案を提出したときは、予備審査のため、提出の日から五日以内に他の議院に同一の案を送付しなければならない」と規定するため、予算案については参議院にも予備審査のために送られることとなる。

 (2)予算案の審議

 予算案の審議は、基本的に国会法の規定に基づくものである。そこで、国会法の諸規定に基づきつつ、予算の審議過程を概観する。

 国会法などには規定がないが、内閣総理大臣の施政方針演説に続き、財務大臣による財政演説が行われる。ここで予算の概要が示される。これは、衆議院、参議院に共通する。

 衆議院議長は、国会法第56条第2項に従い、衆議院予算委員会(第41条第2項第14号)に付託する。よく指摘されるように、予算などについての実質的な審議は、本会議においてではなく、予算委員会において行われる。予算案についても「真に利害関係を有する者又は学識経験者から意見を聴く」ために公聴会が行われる。第51条第2項により、公聴会の開催は必須とされる。そして、予算委員会の議決(第47条によれば「審査」)を経た後、本会議に予算案が送られ、審議される。衆議院本会議で可決されれば、参議院に送られ(国会法第83条を参照)、ほぼ同様の手続を経ることとなる(参議院予算委員会は第41条第3項第13号)。参議院本会議で可決されれば、予算が成立する。しかし、衆議院本会議で可決されていれば、参議院本会議での否決は必ずしも予算の不成立を意味しない(なお、国会法第83条の2第3項を参照)。憲法第60条第2項に定められるように、国会法第85条に規定される両院協議会を開催しても意見が一致しない場合、または、衆議院が可決した予算案を参議院が受け取ってから30日以内(休会中を除く)に議決がなされない場合には、衆議院の議決により、予算が成立することとなる。

 予算案の審議について、以前から問題とされているのが、修正権の範囲である。具体的には、減額修正の可否および程度、増額修正の可否および程度である。これについては、既に予算の法的性格との関連にて述べたが、ここで補足をしておく。

 予算案の修正というが、問題となるのは歳出予算、継続費、および国庫債務負担行為の修正である。とくに、歳出予算についてはどこまで増額修正が可能なのかという問題が生じうる。この点について、予算法律説は、予算を法律と考えるために無制約の修正が可能であると考え、予算法形式説(予算法規範説)よりも修正権を広く認めることになると主張する。しかし、前述のように、これは傾向的なものであって論理必然的なものではない。

 日本国憲法の下においては、減額修正、増額修正のいずれも、それ自体としては認める。実定法上も、国会法第57条の2が予算修正の動議を、第57条の3が予算増額修正の動議を規定するのであるから、(両規定の関係はあまり明確なものと言えないのであるが)国会に減額修正権および増額修正権が認められているのは明らかである。問題はその範囲であるが、結局のところ、内閣の予算作成権および提出権との関係を重視し、均整のとれた解釈をせざるをえないであろう。

 宍戸常寿「法秩序における憲法」安西文雄他『憲法学の現代的論点』〔第2版〕(2009年、有斐閣)43頁は「権力分立の観点からは国会の予算修正権の論点も重要であるが、『統治プログラム』としての重要性からすれば、予算作成権が内閣にあるからといって修正権を否定・限定すべきでないことはもちろん(中略)予算案作成過程への国会の一定の関与を制度化することも、許されると解すべきであろう」と述べる。

 減額修正については、一定の制約があるという説もあるが、無制約と解するのが妥当であろう〈杉村・前掲書116頁〉。その理由として、日本国憲法が財政民主主義を採ること、憲法第60条の解釈から国会に予算の否決権があることは明らかであること、そして、大日本帝国憲法第67条に相当する規定が日本国憲法に存在しないことをあげることができる。

 これに対し、増額修正の範囲については議論が分かれており、学説上は今も決着をみていない。

 無制約説を採る見解の例として、長尾一紘『日本国憲法』〔第3版〕(1997年、世界思想社)509頁を参照。なお、同書第4版(2011年、世界思想社)においては両説が簡潔に紹介されているのみである。

 既に述べたように、私は、予算案の作成権限および提出権限が内閣にあることからして、国会の予算修正権が内閣の権限を害する程度までに行使されることは許されない、と解する。1977(昭和52)年に出された政府統一見解も同じ説である。減額修正は、単に或る項目の削減を目的とするが、増額修正の場合は性格が異なる。場合によっては新たな費目(項目)を作り出すのであり、それに応じた法律案の提出なども必要とされる。場合によっては大幅な法律の改廃などが行われることになるが、この点をどのように考えるのか。また、いかに国会の議決があるとは言え、国民の負担をいたずらに増やす結果につながりかねないような予算の増額を無制約に認めることは、国政運営を困難に陥れることにもなりかねない。

 国会法第57条の2が、予算の修正の動議に衆議院議員であれば50人以上、参議院議員であれば20人以上の賛成を求めていること、および、第57条の3が予算増額修正の動議について内閣が意見を述べる機会を規定しているのは、内閣の予算作成権および提出権を尊重するための規定であろう。なお、地方自治法第97条第2項は、地方議会に予算の増額修正権を認めているが、ただし書きにおいて「普通地方公共団体の長の予算の提出の権限を侵すことはできない」と定めている。

 (3)予算の執行

 予算が成立したからと言って、直ちに予算に定められた支出を行いうる訳ではない。そこで、歳入歳出予算、継続費および国庫債務負担行為について予算の配賦が行われる。これは、財政法第31条第1項によって内閣の権限とされている。この際、国会において議決された予算の項は目に区分されることになる。配賦が行われた場合には、財務大臣が会計検査院長に通知しなければならない。

 配賦の後に予算が執行されることになるが、その際には、支出負担行為が行われ、それから支払いが行われることになる。それらについて、公共事業費など、財務大臣が指定するもの(毎年度の告示による)について、財務大臣が実施計画を承認することにより、支出負担行為が認められることになる(財政法第34条の2、予算決算及び会計令第18条の4、会計法第12条を参照)。

 なお、支出負担行為は、財政法第34条の2によって「国の支出の原因となる契約その他の行為」と定義されるものである。

 支払いについては、支払い計画の承認という手続が求められる。これは同第34条に規定されるもので、各省各庁の長が、配賦予算に基づいて支出担当事務職員ごとに支出の所要額を定め、支払いの計画に関する書類を作成し、財務大臣に送付した上でその承認を経なければならないこととなる。財務大臣が「国庫金、歳入及び金融の状況並びに経費の支出状況等を勘案して、適時に、支払の計画の承認に関する方針を出し、閣議の決定を経なければならない」とされている(同第2項)。

 予算を執行する際には、第33条第1項により、原則として、移用(部局間における融通または部局内での項間における融通)、流用(各目間での融通)は禁じられる。しかし、全く認められないというのでは、かえって執行に不都合を生じる場合があるため、予算決算及び会計令第17条、および財政法第33条第1項ただし書き・第2項に規定される手続を経て、移用や流用などが可能となる。このうち、移用については、予め国会の議決を経た上で財務大臣の承認を得る必要がある。これに対し、流用については財務大臣の承認のみでよい。

 なお、財政法には規定されていないが、移替えという制度が存在する。これは部局間の間で行われるもので、或る部局に計上されている金額を別の部局に移した上で執行させるというものである。予算総則において示されている。

 繰越については、既に述べた。

 予備費については、第35条第1項により、財務大臣が管理することとされている。各省各庁の長が予備費の使用を必要と認める場合には、その理由、金額および積算の基礎を明示した調書を作製した上で財務大臣に送付しなければならず(第2項)、財務大臣は、調整をした上で予備費使用書を作製し、原則として閣議の決定を求めることとされている(第3項)。そして、実際に支弁された予備費については、各省各庁の長が調書を作製し、財務大臣に送付しなければならず(第36条第1項)、財務大臣は総調書を作製し、内閣が総調書などを国会に提出して承諾を求めることとされている(第2項および第3項)。

 

 ▲第6版における履歴:2020年2月24日掲載。

 ▲第5版における履歴:「04 国家予算」として、2014年4月1日掲載。

            2014年5月17日修正。

            2016年6月28日修正。

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第2部:国の財政法制度  第4回:国家予算(1)

2020年02月23日 11時37分00秒 | 財政法講義ノート〔第6版〕

 1.予算とは何か

 国であれ、地方公共団体であれ、公的な団体は、その任務を計画的に、かつ能率的に遂行することを求められる。また、国民主権国家において、国家の収入(歳入)および支出(歳出)は、主権者たる国民の予測を可能とし、監督を可能とするようなものでなければならない。こうした要請に応えるために、予算が存在し、法的な規律を受けるのである。

 もっとも、憲法など、日本の法制度において用語法に少々の混乱もみられる。例えば、憲法第60条第1項は衆議院の「予算」先議権を定めるが、この条文にいう「予算」は予算案のことであり、国会の議決によって成立する予算ではない。憲法第73条第5号および第86条にいう「予算」も予算案のことである。法律案と法律とを区別する憲法が予算については予算案との区別をなしていないことについては、予算案の作成権および提出権が内閣にあること、法律と予算とが法的性質において異なること、などが理由として考えられる。以下、必要に応じて予算案と予算とを区別して用いる。

 憲法は、予算について直接的な定義を規定していない。しかし、日常的な用語としても、予算が一定期間の収入および支出の見込み、ないし計画である、と理解されているはずである。国の予算もまさにそれである。すなわち、予算とは、国の一会計年度における収入(歳入)および支出(歳出)を見積もったものであり、歳入および歳出を系統的に、かつ計数的に表示した計画のことをいう。

 これまで、収入、支出、歳入および歳出という用語を、この講義においても何度となく使用してきたが、整理のため、ここで、これらの意味について言及しておく。

 財政法第2条は、収入、支出、歳入および歳出のそれぞれについて、定義を示している。

 収入とは「国の各般の需要を充たすための支払の財源となるべき現金の収納」であり(第1項前段)、「他の財産の処分又は新らたな債務の負担により生ずるものをも」含む(第2項前段)。この規定から、国の予算においては現金主義が採られていることも理解されよう。この点が、発生主義を採る企業会計と異なり、一部の財政法学者などから批判を受けるところでもある。なお、念のために記しておくが、ここにいう現金は、租税は勿論、課徴金、国債なども含む。

 支出とは「国の各般の需要を充たすための現金の支払」であり(第1項後段)」、「他の財産の取得又は債務の減少を生ずるものをも」含む(第2項後段)。

 なお、第3項により、「会計間の繰入その他国庫内において行う移換によるものも」収入および支出に含まれることとなっている。

 そして、第4項により「歳入とは、一会計年度における一切の収入をいい、歳出とは、一会計年度における一切の支出をいう」と定義される。

 また、予算は、国の財政高権を発動するための根拠となる形式とも言える。すなわち、予算は、内閣がその執行になすに際して国会から権限を付与されるために必要なものであり、国(厳密に言えば内閣であろう)が各国家機関に、予定されている歳出金額の範囲内において支出を行う権限を付与するために必要なものである。

 見方によっては、予算は内閣などの行政機関による財政高権の発動に対する国会の同意であるとも考えられる。租税法律主義は、元来、かような思考方法に基づくものである。

 財政法第16条は、予算を、予算総則、歳入歳出予算(第24条により、予備費も含めることができる)、継続費、繰越明許費および国庫債務負担行為から構成されるものと定義する。中心となるのは歳入歳出予算である。

 杉村章三郎『財政法』〔新版〕(1982年、有斐閣)77頁は、歳入歳出予算を狭義の予算と位置づけ、第16条に規定される予算を広義の予算と位置づける。

 

 2.予算の効力など

 憲法学の教科書においては、通常、予算の法的性格に関する議論、予算に関する国会の審議権の範囲などが紹介される程度である。しかし、効力などを度外視する訳にもいかない。予算の法的性格とも関連する事項であるが、便宜上、先に効力などについて述べる。

 憲法第73条第5号および第86条に規定されるように、予算案の提出権限は内閣のみが有する。しかし、予算となるためには国会の議決が必要である。これが成立要件であり、効力要件でもある。法律と異なり、予算を最後に議決した院の議長から内閣に送付されるに留まる(国会法第65条第1項。なお、憲法第60条第2項を参照)。

 後に予算の法的性格に関して検討を加えるが、そこにおいて述べるように、日本国憲法は、予算と法律とを、形式的にも、そして実質的にも区別している。そのため、両者の取り扱い、そして効力などが異なることになる。

 法律の場合、規定の性格は雑多なので一概に言えないのであるが、公布され、施行されることにより、国民の権利や自由に大きな影響を与える。すなわち、本来ならば国民が有する権利や自由が制約され、もしくは、新たな義務が課され、または、新たに権利や自由が設定され(確認され)、義務が免除される、というようなことが生じる。行政組織法のように、国民の権利や自由に直接の影響を及ぼさないこともあるが、行政行為などをなす権限を特定の機関に与える、などの規定などは、間接的ながら影響を及ぼすことになる。

 これに対し、予算は、基本的に国民の権利や自由に直接的な影響を与えるものではない。予算が国民の納税義務などを確定する訳ではないからである。既に述べたように、予算は、国の一会計年度における収入(歳入)および支出(歳出)を見積もったものであり、歳入および歳出を系統的に、かつ計数的に表示した計画である。そして、国会は、予算により、内閣に執行権限を与えるものである。従って、予算は、国会と内閣との間において効力を発生し、内閣を通じて国家機関を拘束するものであるが、範囲はそこに留まる

 そして、性質上、歳入予算と歳出予算とでは効力が異なる。

 まず、歳出予算について記すならば、各国家機関は、予定されている歳出金額の範囲内において支出を行う権限を付与され、かつ、その範囲内において支出することを義務づけられる(財政法第31条を参照)。しかも、仮に歳出金額の範囲内であっても、予算の各項目に定める目的以外のもののために支出することは禁じられる(同第32条)。また、省庁の各部局等について定められた金額や経費の金額については、原則として各部局間または各項間にて移用をなすことができない(同第33条)※。さらに、予備費が認められている場合であっても、それを実際に使用するためには、国会の議決または承諾などを必要とする(同第36条)。

 ※同第33条によって移用が全く認められない、という訳ではない。しかし、移用をなす際は、事前に国会の議決を必要とする。従って、予算において認められなければならない。

 歳入予算の場合は、歳出予算と異なる部分がある。それは、歳入予算が見積もりにすぎない点に由来する。例えば、租税収入である。これについては、歳入金額の範囲内における徴収に留まることが望ましいとも言えるのであるが、予算と租税法とが別物であることからすれば、予算に示された歳入金額の範囲を超えることが直ちに違法であるとは言えないであろう。逆に、租税収入が、予算に示された歳入金額に充たない場合であっても、それが直ちに違法と評価される訳でもない。仮にそのような場合になったとしても、租税法の規定を無視してまで、予算に示された歳入金額に達するまで徴税をすることは、それこそ租税法律主義に違反し、許されないこととなる。しかも、このような場合には、課税処分などの形で国と私人との間に具体的な法律関係が生じているため、違法な課税処分であるとして裁判にて争いうることとなる。

 しかし、歳出予算と同様に考えることが可能であり、かつ、歳出予算と同様に考えるべき場合もあろう。とくに、国債の発行がそうである。財政法第2条の規定から明らかなように、国債による資金調達は収入とされているが、これは、とりもなおさず債務を負うことに他ならない訳であるから、予定された歳入金額の範囲を超えることは許されない、と考えるべきであろう。また、国有財産の処分についても同様であると思われる。

 

 3.予算の法的性格

 諸外国の例をみると、予算も法律の形式をとることが多い。例えば、ドイツ連邦共和国基本法第110条によると、連邦の全収入および全支出が計上された予算案(Haushaltsplan)は、会計年度が始まる前に(複数会計年度にまたがる場合は、最初の会計年度が始まる前に)、予算法律(Haushaltsgesetz)によって確定されることとなっている。予算を法律の形式とする例は、アメリカ合衆国憲法第1条第9節第7号、オーストラリア連邦憲法第54条、フランス共和国憲法第47条にもみられる。それだけではなく、ドイツの場合は予算が形式的に法律であるが、アメリカやイギリス、そしてフランスでは、予算は形式的にも実質的にも法律なのである手島孝『憲法解釈二十講』(1980年、有斐閣)245頁

 イギリスの場合、憲法典が存在しないが、慣習法として、予算は法律の形式をとることとなっている。これが、他のヨーロッパ諸国に広まったのである小嶋和司「日本財政制度の比較法史的分析」『憲法と財政制度』(1988年、有斐閣)3頁を参照

 しかし、日本国憲法は、大日本帝国憲法を引き継ぎ、予算と法律とを区別している。管見の限りではあるが、先進国においては他に例がない。このように異質な扱いとなったのは、大日本帝国憲法制定の際、プロイセンにおける憲法争議の経験に学んだことに由来する、と言われているが、日本国憲法が引き継いだ理由は明確でない。このことが、日本において、予算の法的性格に関する議論を生み出す原因になったようである。

 この点については、小嶋・前掲6頁を参照。この論文は、プロイセン憲法争議の解説、そして明治期日本の立法への影響などを分析しており、有益である。

 予算の法的性格については、学説上、概ね、次の三説に分けることができる。

 (1)予算行政措置説

 既に過去の学説となっており、現在、支持する者は皆無であると思われる。少し細分するならば、訓令説と承認説とが存在する。訓令説は、予算を、天皇から各行政機関に与える訓令であると理解する。承認説は、予算を、議会が国に対して(大日本帝国憲法の下では天皇に対して)行う歳出の承認であると理解する。かように、両説の構成は異なるのであるが、予算を法的規範と捉えず、単なる行政措置として理解する点において共通する。従って、予算の法的拘束力を否定することとなる。しかし、これでは財政民主主義と合致しない。日本国憲法の下において両説を採りえないのは当然である。

 (2)予算法形式説(予算法規範説)

 日本国憲法の下においては通説となっている。この説によると、予算は、一種の法規範であり、国会の議決を経て制定される、国法の一形式である。国会の議決によって制定されるという点においては法律と同様なのであるが、法律と異なるものと考えるのである。

 この説が広く支持される理由は、主に、日本国憲法の構成に存する。諸規定から明らかなように、法律と予算とでは、提案権の所在が異なり、審議および議決の方式も異なる。また、既に述べたように、法律と予算とでは、その効力範囲も異なる。予算は、基本的に国家そのもの、より精確に記すなら国会と内閣との間において効力を発生し、内閣を通じて国家機関を拘束するものであるが、範囲はそこに留まる。また、日本の場合、歳入に関しては永久税主義が採用されている各租税法律は1年限りの効力とされていない。そのために、歳入予算は単なる見積もりとならざるをえない。これに対し、予算は、憲法の諸規定からも明らかであるように、会計年度毎に提出され、審議され、成立するのである。これらの点に鑑みれば、予算を法律と同視できない。

 (3)予算法律説

 これは、日本国憲法制定以後になってから有力に主張されるものである。既に述べたように、ドイツ、アメリカ、オーストラリア、フランスなどでは、予算が法律の形式によって定められる。予算法律説は、おそらくこの点に着目し、日本国憲法の下においても予算は法律であると理解するのである。

 この説は、次のように述べて予算法形式説(予算法規範説)を批判する。

 第一に、日本国憲法には予算の効力が明記されていない。そのため、効力について予算と法律とを区別する必要がない。

 第二に、憲法第7条第1号において、天皇の国事行為としての公布に予算があげられていないが、そのことを理由として予算の公布を不要と解するのは財政民主主義に反する。

 第三に、予算と法律との間に矛盾が生じる場合に、予算法形式説(予算法規範説)によるといかなる解決がなされるべきかという問題が生じる。予算法律説によれば、予算も法律なのであるから、こうした矛盾は起こりえない。予算の中に租税法規の改正法案を含めてしまえばよいからである。

 第四に、予算法形式説(予算法規範説)によると、国会の予算修正権に限界が生じ、その範囲についての論議が生じるが、予算法律説であれば、そうした論議は生じない。

 しかし、これらの主張について、杉村博士は「根本的に予算の本質として予算が法規範性を有することの本質の問題と、わが国憲法上予算が制度的にどのように位置づけられているのかという形式の問題を混同するものである」と批判する杉村・前掲書97頁。同書91頁も参照。私も、同じように考えている。予算法形式説(予算法規範説)の立場からすれば、予算法律説については、次のように批判しうるであろう。

 第一の点については、明らかに憲法の諸規定を無視した議論である、と評さざるをえない。憲法第86条によれば、予算は「毎会計年度」作成され、国会に提出され、国会の議決を受けなければならない。憲法は会計年度について明示していないが、第52条において通常国会が「毎年一回」召集されることからすれば、会計年度が一年とされているのは明らかである。従って、憲法が、予算の効力を1年としていることは明白である。これに対し、法律については同様の規定が存在しない。

 杉村・前掲書97頁は、「法律および予算の効力については憲法の個々の条文から解釈されるべきであって、予算が法律であるかどうかということから一律にその効力が決まるものではない」と述べる。趣旨は理解できるが、やや不明確な論述である。

 第二の点については、予算法律説の主張にも一理あるが、予算の公布を不要とすることが直ちに財政民主主義に反するのか、疑問がある。財政民主主義は国会による財政高権の統制に主眼が置かれるのであって、天皇の国事行為とは関係のないことであると言いうる。逆に、わざわざ天皇の国事行為に予算の公布を含めることは、国事行為あるいは公的行為の拡大につながる。憲法学は、こうしたことを望ましいものと考えていないはずである。

 第三の点については、予算法律説を採用したから予算と法律との矛盾が生じないと断言しうるのか、という疑問を投げかけておきたい。勿論、こうした矛盾(不一致とも表現しうる)は、全くありえない訳ではないが、生じないのが望ましい。しかし、そもそも、法律にも時限法律があるように、法律予算説であっても予算の効力などについては法律で規定せざるをえない。そうなると、予算たる法律と別の法律との矛盾が生じる可能性もある。

 また、予算法律説によると、或る法律が制定されたがそれを執行するための予算案が国会において否決された場合、その法律は予算によって廃止されることになるのであろうか※。後法は前法を破る、などの成文法の一般原則からすれば、肯定せざるをえない。しかし、このように解した場合、予算の効力が一会計年度限りであるとすれば(そのように理解するしかないが)、多くの法律は非常に不安定な状態に置かれることとなる。また、合理的理由もないのにこのような効果を認めるとするならば、立法権の自殺的行為にならないのであろうか。

 ※宍戸常寿「法秩序における憲法」安西文雄他『憲法学の現代的論点』〔第2版〕(2009年、有斐閣)43頁は、「仮に予算を『法律』と呼ぶとしても、それは『政治のルール』(60条、73条5号)の定めに基づき、内閣の予算(案)作成権、衆議院先議権・衆議院の議決の優越が認められ、一会計年度の効力しかもたないという、特殊な『法律』である」とした上で、予算法律説について「予算の所管事項の捉え方や予算と法律との間に前法・後法関係を想定しうるかどうかの問題である」と述べる。

 逆に、或る事項についての法律が存在していなかったが新たにその事項を執行するための予算案が国会において可決された場合、予算によって新たな法律が制定されたことになるのであろうか。予算法律説の主張からすれば、これについても肯定せざるをえない。しかし、予算は、あくまでも歳入(収入)および歳出(支出)の根拠になるだけであって、具体的な作用(行為)の根拠となる訳ではない。或る行政事務について予算が決定されたとしても、例えば、その行政事務を担当し、予算を執行する機関が存在しなければ、予算が法律であったとしても、遵守されえない法律になるであろう。あるいは、予算によってそうした機関が設置されるのであるとしても、具体的な事務の所掌範囲(管轄範囲)や、他の機関との関係などが自動的に決定される訳ではないであろう。それに、予算が、例えば行政行為の根拠規定になるというのは、どう考えてもおかしい。予算の中に行政行為の具体的な根拠規定を置く、というのであれば話は別であるが、立法技術などの観点からすれば、これは非常に困難なことであろう。予算とは別に、行政作用法などの根拠規定を置かざるをえないのである。

 第四の点については、たしかに、予算法律説の主張にも肯首しうる部分がある。国会の予算修正権は、なるべく広く解釈するほうが、財政民主主義の趣旨にも合致する。しかし、予算法律説のほうが予算法形式説(予算法規範説)よりも国会の予算修正権を広く認めやすいとは言え、それは傾向的なものであり、論理必然的なものではない、と言えないであろうか長尾一紘『日本国憲法』〔第3版〕(1997年、世界思想社)510頁も同旨。同書の第4版(2011年、世界思想社)には、この点に関する記述がない。予算法律説であっても、予算修正権の範囲は、結局のところ、国会法その他の法律によって決定せざるをえない。逆に、予算法形式説(予算法規範説)であっても、予算修正権の範囲を広く解することも可能なのである長谷部泰男『憲法』〔第5版〕(2011年、新世社)349頁は、端的にこのことを指摘している

 そればかりか、予算法律説は、憲法において予算案の作成権限および提出権限が内閣にあるということを軽視していないであろうか。

 国会法第57条の2は予算修正の動議を、第57条の3は予算増額修正および内閣の意見陳述を規定する。国会による予算修正権が認められている訳である。問題はその範囲であるが、いかに予算修正権が認められるとは言え、予算案の作成権限および提出権限が内閣にあることからすれば、国会の予算修正権が内閣の権限を害する程度にまで行使されることは、許されないと解するべきではないか。

 以上から、私は、日本国憲法の下において予算法形式説(予算法規範説)が妥当であると考える。予算法律説は、憲法の構造からして問題があるし、その他にも難点が多く、また、不明確な部分もあり、妥当でないと考える。

 なお、手島・前掲書248頁は、基本的に予算法律説の枠組みを採用する「特殊法律説」を提唱する。これは、予算を、とくにそのように呼ぶ法律の一種とするものである。

 

 ▲第6版における履歴:2020年2月23日掲載。

 ▲第5版における履歴:2014年4月1日掲載。

            2014年5月17日修正。

            2016年6月28日修正。

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第2部:国の財政法制度  第3回:財政法の構造と原理 財政法に示された財政の原則

2019年11月16日 00時00分00秒 | 財政法講義ノート〔第6版〕

 第一部において日本国憲法における財政の基本原則を概観したが、今回は、財政法における諸原則を概観することとする。以下に掲げるのは、いずれも財政会計上の原則であり、財政法や会計法に拠ることとなる。なお、第三部において扱う地方税財政法の領域にも共通する部分が存在するので、そのような部分については、ここで取り上げることとする。

 

 1.会計年度独立の原則

 国や地方公共団体には会計年度がある。これは、財政活動を規制し、その実績を明確にするために設けられる。すなわち、財政活動における収入と支出との対応関係を明確にするために設けられる。

 会計年度は、基本的に1年である。戦時中、軍事費特別会計が戦争終結までの期間を一会計年度としたこともあるが、基本的には1年が妥当であろう。あまり長期にわたると、収入と支出との対応関係が不明確になるおそれが高くなるからである。

 この意味において、複数年度予算の設定には疑問なしとしない。会計年度を1年と規定したとしても、実質的には複数年にわたる一会計年度を設けることになりかねないからである。もとより、毎年、会計検査院(監査委員)、国会(議会)、さらに国民(住民)によるチェックがなされるのであれば、長期的視野を備えた制度として評価しうる。

 会計年度の始期と終期をいかに定めるかは、各国によって異なるし、立法政策の問題であると言いうる。財政法第11条は、始期を4月1日とし、終期を翌年3月31日とする。

 会計年度独立の原則は、既に示したように、憲法第86条において示される原則である。そして、これは予算単年度主義を示すものでもある。このことは、憲法第52条(通常国会の召集)および第90条(決算)からも明らかである。

 財政法第12条も、この原則を明示する。また、第42条本文は「繰越明許費の金額を除く外、毎会計年度の歳出予算の経費の金額は、これを翌年度において使用することができない」と定め、当該年度の経費が翌年度の経費の支出に流用されないようにしている。また、翌年度に予算の剰余が発生することを見越して歳出を執行するようなことがあってはならないという意味を持つ。この他、会計法第1条第1項は「一会計年度に属する歳入歳出の出納に関する事務は、政令の定めるところにより、翌年度7月31日までに完結しなければならない」と定め、第9条本文も「出納の完結した年度に属する収入その他予算外の収入は、すべて現年度の歳入に組み入れなければならない」と定める。

 しかし、この原則を厳格に貫き通すことによって、かえって財政運営が困難になることもある。そこで、例外が定められている。

 第一が、既に第一部において取り上げた継続費である。財政法第14条の2は「国は、工事、製造その他の事業で、その完成に数年度を要するものについて、特に必要がある場合においては、経費の総額及び年割額を定め、予め国会の議決を経て、その議決するところに従い、数年度にわたつて支出することができる」と定める(第1項)。継続費は最高で5箇年度までとされる。また、継続費については、年割額の逓次繰越も認められている(第43条の2)。

 重森暁・鶴田廣巳・植田和弘編『Basic現在財政学』〔第3版〕(2009年、有斐閣)30頁[横田茂執筆]は、継続費および国家債務負担行為を「多年度予算の制度である」と評価した上で、「それらは国会の議決の対象となってはいるが、単年度の歳出規模を小さく表すことにより予算の全体を隠し、後年度における軍事費や公共事業費の膨張を図る政府の財政的操作の手段となることに注意しなければならない」と述べる。

 第二が、第42条本文にも規定される繰越明許費である。これは、第14条の3において定義されるもので、歳出予算に示された経費のうち、年度内に支出を終わらないと認められるものについては、国会の議決を経た上で翌年度に繰り越す経費のことである。この場合には、第43条に従い、各省庁の長が繰越計算書を作製し、財務大臣の承認を得ることによって繰越明許費を使用することができる。なお、使用した場合に、事項毎に財務大臣および会計検査院に通知することも義務づけられている。

 第三が、第42条ただし書きに規定される事故繰越である。これは、予算に示されている経費のうち、「避け難い事故」の故に年度内に支出を終わらせられないものについて認められる。この場合も、第43条に従った手続を必要とする。

 第四が、前年度剰余金の受け入れである。第41条は、歳入歳出の決算の上で剰余が生じたときに、その剰余を翌年度の歳入に繰り入れることを規定する。

 第五が、過年度収入および返納金戻入である。会計法第9条本文は「出納の完結した年度に属する収入その他予算外の収入は、すべて現年度の歳入に組み入れなければならない」と定めている。過年度に属する収入であっても、現実には異なる年度に収納されることがある。そのために、現実に収納された年度の歳入に含めるのである。但し、支出済みとなっている歳出について返戻金が出た場合には、政令(予算決算及び会計令第6条など)の規定に従い、その歳出の金額に戻入することができる(会計法第9条ただし書き)。

 第六が、過年度支出である。会計法第27条本文は「過年度に属する経費は、現年度の歳出の金額からこれを支出しなければならない」と規定する。これも、過年度に属する支出であっても現実には異なる年度に支出されることがあるために、現実に支出された年度の歳入をあてるというものである。なお、ただし書きにより、「その経費所属年度の毎項金額中不要となつた金額を超過してはならない」という制約が付けられる。

 第七が、財政法第44条に規定される特別資金の保有である。これは、個別の法律により認められるもので、一般会計に属する資金として、国税収納金整理資金、決算調整資金、経済基盤強化資金などがあり、特別会計に属する資金(基金)として、消費的資金、準備的資金、などがある。なお、地方自治法第241条は、基金の保有を認める。

 

 2.会計統一の原則

 国の歳入および歳出を管理・経理する際には、当然、全体的な財政状況を容易に把握できなければならない。このためには、歳出および歳入が単一の会計の下に置かれ、統一的に管理・経理されることが望ましい。会計統一の原則は、かような要請を行うものである。

 仮に、特定の事項に基づいて得られた歳入が、特定の事項に関する歳出にあてられるとなると、各行政分野の会計が独立することとなる。このようになると、国の財政が統一されなくなり、見通しもきかなくなる。そして、計画性のない財政となるおそれがある。

 そこで、後に取り上げる総計予算主義を明示する財政法第14条は、歳入歳出の全てを予算に編入することを求めている。しかし、第13条第1項が一般会計と特別会計の区別を設けていることは、会計統一の原則に対する例外が認められるということである。特定の収入支出を一般の収入支出と区別して経理をなすほうが能率的でかつ合理的である場合もある、と説明される。もっとも、この場合であっても、無制約に例外が認められるならば、国の財政がひどくわかりにくくなり、各分野の裁量あるいは恣意性を助長することになりかねない。そこで、第13条第2項は「国が特定の事業を行う場合、特定の資金を保有してその運用を行う場合その他特定の歳入を以て特定の歳出に充て一般の歳入歳出と区分して経理する必要がある場合に限り、法律を以て、特別会計を設置するものとする」ことを明示する。特別会計の設置に国会を関与させ、監視させる趣旨であると理解できる。

 それにしても、特別会計を規定する法律の数は多い。また、特別会計については、財政法の規定に対する特例を定めることができる(第45条)。

 

 3.統一的収支の原則

 これは、会計統一の原則と深い関係を有する原則であり、歳入、歳出のそれぞれを統一的に整理し、取り扱うことにより、歳入全体から歳出を行うべきであって、個別の歳入から個別の歳出に充てるべきではない、とする原則である。会計法第2条は、この原則を明示するものである。また、会計統一の原則と異なり、統一的収支の原則は、特別会計についても適用される。

 

 4.総計予算主義の原則

 完全性の原則とも言われる。これも、憲法第86条から導き出される原則で、財政法第14条に規定される。また、会計法第2条の規定も、この原則と関係する。

 歳入および歳出は、それぞれ別個に、総額を計上しなければならず、全ての収入、全ての支出は、予算に計上されなければならない。これによって、予算における一切の収支を明らかにし、予算の全体像を明瞭にすること、国会、さらに国民による監督を容易にすること、予算執行の責任の所在を明確にすることが期待されるのである。

 これは、企業会計において採られる純計予算主義(原額計上主義)と対峙する。純計予算主義の場合は、収入と支出との差額を予算に計上することになる。利益の取得などに重心を置くのであれば、純計予算主義のほうが望ましいのであろうが、財政については、総計予算主義のほうが望ましいのである。但し、特別会計などで純計予算主義を採用すべき場合もある。

 なお、この総計予算主義から派生する原則として、ノン・アフェクタシオンの原則がある。近代国家において、租税は国家財政の支出全体に向けられるものとされる。これは、総計予算主義の原則などから導かれる。そして、原則的に、特定の租税収入を予算中の特定の支出項目に充てることは許されない〈拙稿「地方目的税の法的課題」日税研論集46号『地方税の法的課題』(2001年、日本税務研究センター)280頁による〉。これがノン・アフェクタシオンの原則である。

 しかし、この原則は、とくに法律によって特定の租税について使途を限定することを妨げるものではない。こうした例外として、目的税、特定財源がある。

 特定財源とは、普通税でありながら使途が限定されているもの、税以外の収入で使途が限定されているものをいう。

 とくに、近年、地方分権改革との関連において、ノン・アフェクタシオンの原則に対する例外としての目的税に対する評価が高まっている。その理由として、行政サーヴィスと負担者との間における受益関係が明確であることなどがあげられている。受益者負担論の観点からの再評価なのであるが、これについては、別に拙稿において批判的に検討したので、詳細はそちらを参照していただきたい。

 拙稿・前掲282頁を参照。ここで簡単に記すと、受益者負担の概念を安易に拡大させていること、応益負担を単純に強調していると考えられること、使途目的の限定が財政の弾力性などを失わせるおそれがあること、などが私の批判の骨子である。なお、同「地方消費税法再考―地方税財政権の観点から―」税制研究55号(2009年)95頁も参照。

 

 5.課徴金等法律主義

 これは租税法律主義の延長線にある原則と言いうるもので、財政法第3条に規定されている。課徴金は、手数料、使用料、納付金、罰金、科料、裁判費用などからなるが、行政権に基づくものとしては手数料、使用料、納付金などが該当する。国民から徴収する金銭負担であるという点においては、租税と共通する。また、専売価格や事業料金についても、価格が市場において決定されるものではないので、課徴金と類似する部分もあるし、国民の負担などを考慮するならば、法律の規定により、または国会の議決により決定することが望ましい。このために、第3条は法律主義を採るのである。

 なお、憲法第84条に関連する租税の定義については、第一部において取り上げた。

 しかし、第一部において述べたように、財政法第3条は昭和23年の「財政法第三条の特例に関する法律」により適用が停止(あるいは修正)されており、実質的には適用例が存在しない。

 

 6.国費分担法律主義

 財政法第10条は「国の特定の事務のために要する費用について、国以外の者にその全部又は一部を負担させるには、法律に基かなければならない」と定める。これも、租税法律主義の延長線にある原則であり、負担金や寄付金などにも法律主義を及ぼすものである。

 杉村章三郎『財政法』〔新版〕(1982年、有斐閣)70頁は「国費分賦法律主義」と表現する。

 しかし、第10条は、現在まで一度も施行されていない※。これは財政法の規定において唯一の例である。未施行の理由としては、国費分担法律主義を徹底すると「国の財政が膨張する懸念があり、漸進的に立法措置を講ずるほうが適当と判断されたこと」があげられる※※。

 ※財政法附則第1条は、同法第3条、第10条および第34条の施行日を政令で定める旨を規定する。このうち、第3条は昭和23年4月政令第86号により、1948(昭和23)年4月16日から施行された。また、第34条は、昭和22年10月政令第218号により、1947(昭和22)年10月21日から施行された。しかし、第10条の施行に関する政令は、現在に至るまで存在しない。従って、第10条は現在も未施行のままである。

 ※※兵藤広治『財政会計法』(1984年、ぎょうせい)43頁による。また、杉村・前掲書71頁は、同条の文言が「極めてあいまいであるため、財政法の他の規定が施行されているにもかかわらず今日なお施行されないのも故なしとしない」と評価する。

 もっとも、寄付金については「官公庁における寄付金等の抑制について」という、昭和23年1月30日の閣議決定が存在する。これは、寄付金が半強制的な性質を帯びる場合が多く、「国民に過重の負担を課し、行政措置の公正に疑惑を生ぜしめる恐れがあるなどの弊害がある」が故に、諸経費を寄付金などで賄うことを極力慎むこと、寄付金の募集を厳禁すること、自主的寄付の場合においても割り当ての方法を採らず、しかも「主務大臣が弊害の恐れがないと認めたもの」のみ受け入れること、などが要請されている。

 槇重博『財政法原論』(1991年、弘文堂)74頁を参照。なお、槇博士は、この閣議決定について「財政法10条に基づいて法律で定めるべきものであった」と述べる。

 施行されていないとは言え、この条文には解釈上の問題があるので、触れておく。

 第一に「国の特定の事務」である。これは不明確であるが、杉村博士は「国の一般行政事務を遂行するに当たって特別な施設をなす場合とか(例えば国立大学の建設に当たり図書館や運動施設を設ける場合)あるいは特殊の国家事業を営む場合(例えば国立美術館を設けたり、原子力の基本事業を営む場合)」と理解する〈杉村・前掲書73頁〉。ただ、このように理解すると、受益者負担との関係が問題となるが、受益者に求める負担についても法律主義を定めるものであるということなのであろう。

 第二に「国以外の者」である。これについて、私人を指すことは間違いないが、問題は地方公共団体が含まれるか否かである。当然に地方公共団体を含むという説もあるが、杉村博士は「地方公共団体に対して国の経費を負担させるについて法律主義を採ることは憲法92条の規定からも推定され、国と地方公共団体との財政関係については地方財政法に詳細、明確な方針が定められており敢て財政法の規定を要しない」として、私人に限定して解する〈杉村・前掲書71頁〉。どちらが正しいかはにわかに断定しがたいが、実務的な解釈は、地方公共団体を含めるものである。

 第三に「費用の負担」である。負担金を徴収する場合、強制的に寄付金を集める場合が含まれるとして、私人などに無償で事務を行わせる場合が含まれるか否かが問題となる。含まれると理解する説が多いようであるが、法律に基づいて私人などに行為義務が課される場合(所得税の源泉徴収事務などが該当する)には、「社会通念上合理的と認められる範囲」内の費用負担については、別に法律による措置は不要である、と理解されている〈杉村・前掲書72頁、兵藤・前掲書43頁〉。すなわち、国が、私人に無償で事務を行わせ、私人に生じた費用については、基本的に国が補償する必要はない、ということになる。

 

 ▲第6版における履歴:2019年11月16日掲載。

 ▲第5版における履歴:2014年4月1日掲載。

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