ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

第5部:相続税・贈与税 第31回:事業承継税制

2022年11月23日 23時05分00秒 | 租税法講義ノート〔第3版〕

 1.事業承継税制の趣旨

 事業承継税制とは、中小企業の経営者から後継者(子、孫など)へ事業を円滑に承継させるための支援の制度をいう〈さしあたり、石村耕治編『税金のすべてがわかる現代税法入門塾』〔第11版〕(2022年、清文社)383頁[浅野洋、木村幹雄担当]、金子宏『租税法』〔第二十四版〕(2021年、弘文堂)752頁、小池正明『知っておきたい相続税の常識』〔第23版〕(2022年、税務経理協会)261頁を参照。とくに実務家向けの書籍や雑誌掲載記事(「税経通信」、「税務弘報」、「税理」などの)を読むとよい〉

 「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(以下、中小企業経営承継円滑化法)の附則第2条は「政府は、平成20年度中に、中小企業における代表者の死亡等に起因する経営の承継に伴い、その事業活動の継続に支障が生じることを防止するため、相続税の課税について必要な措置を講ずるものとする」と定めていた。これを受ける形で、2009(平成21)年度税制改正により、事業承継税制が導入され、2008(平成20)年10月1日に遡って適用された〔租税特別措置法第70条の7以下、「所得税法等の一部を改正する法律」(平成21年3月31日法律第13号)附則第63条〕。

 その後、2018(平成30)年度税制改正により、事業承継税制の適用要件が大幅に軽減される特例措置が追加された。この特例措置は、2018年1月1日から2027(令和9)年12月31日までの間に相続または贈与により取得する財産に係る相続税または贈与税について適用される)。続いて、2019(平成31=令和元)年度税制改正により、個人事業者の事業用資産に係る相続税の納税猶予制度、および個人事業者の事業用資産に係る贈与税の納税猶予制度が創設された。この納税猶予制度は、2019年1月1日から2028(令和10)年12月31日までの間に相続または贈与により取得する財産に係る相続税または贈与税について適用される。

 さらに、2021(令和3)年度税制改正により、個人事業者の事業用資産に係る相続税・贈与税の納税猶予制度が拡充された(特定事業用資産に、一定の要件を備えた自動車が加えられる)。また、非上場株式等に係る相続税の納税猶予の特例制度の適用対象が拡充された。この特例制度は、後継者が相続開始直前において特定認定承継会社の役員でない場合であっても、被相続人が70歳未満であるとき(改正前は60歳未満)、または後継者が中小企業経営承継円滑化法施行規則に定められた確認を受けた特例承継計画に特例後継者として記載されているときには、特例制度の適用を受けることができる、というものである。

 2021年度税制改正については、自由民主党・公明党「令和3年度税制改正大綱」(2020年12月10日)45頁を参照されたい。

 

 2.相続税に係る事業承継税制 一般措置

 まず、認定承継会社とは、中小企業経営承継円滑化法第12条第1項に定められる認定(円滑化法認定。租税特別措置法第70条の7の2第2項第4号、同第70条の7第2項第4号)を受けた中小企業(同第1号)。その株式は非上場株式である。なお、常時使用従業員が1名以上であること、政令で定める資産保有型会社または資産運用型会社に該当しないこと、風俗営業会社に該当しないこと、などの要件がある。

 ここで、認定承継会社に該当しない資産保有型会社は、総資産の帳簿価額に占める特定資産の帳簿価額の合計額の割合が70%以上である会社をいう。また、認定承継会社に該当しない資産運用型会社は、総収入金額に占める特定資産の運用収入の合計額の割合が75%以上である会社である。

 次に、特定資産とは、有価証券、当該会社が自ら使用していない不動産、ゴルフ会員権、現金預金などをいう。

 事業承継税制の適用を受けるためには、次のような要件がある。

 まず、被相続人については、相続開始前において認定承継会社の代表権を有していた者であり、経営承継相続人等となる者を除く同族関係者と合わせて過半数の議決権を有するとともに筆頭株主であったことなどの要件がある。

 次に、経営承継相続人等については、被相続人から相続または遺贈により、当該認定承継会社の非上場株式等(議決権に制限のないものに限定される)を取得した相続人等(同第3号)。相続開始日の翌日から5か月を経過する日において当該認定承継会社の代表権を有し、同族関係者と合わせて過半数の議決権を有し、相続開始時から相続税の申告期限まで引き続き当該認定承継会社の株式等の全てを有する、などの要件がある。

 ここで、非上場株式等とは「当該株式に係る会社の株式の全てが金融商品取引法第2条第16項に規定する金融商品取引所に上場されていないことその他財務省令で定める要件を満たす株式」(同第70条の2第2項第2号イ)または「合名会社、合資会社又は合同会社の出資のうち財務省令で定める要件を満たすもの」(同ロ)である。

 納税猶予分の相続税額は、当該認定承継会社の非上場株式等の発行済み株式または出資の3分の2までの部分に係る相続税額の80%(同第70条の7の2第2項第5号イに掲げる金額から同ロに掲げる金額を控除することによる)である〈80%とされたのは、個人事業者の場合には事業用宅地等の価額の80%に相当する額が相続税の課税価格から除外されていることと平仄を合わせるためである。金子・前掲書756頁〉結局、発行済株式または出資の総数または総額の約53%が猶予されるということになる。

 経営承継相続人等が被相続人から非上場株式等を相続または遺贈により取得した場合で、相続税法第27条第1項の規定による申告書に租税特別措置法第70条の7の2第1項の適用を受けようとする旨の記載をしたときには、納税猶予分の相続税額に相当する担保を提供した場合に限り、当該承継相続人等の死亡の日まで、納税猶予分の相続税額について納税が猶予される(租税特別措置法第70条の7の2第1項。用語の定義については同第2項も参照)。担保は、国税通則法第50条に定められる担保(公債、社債、土地、建物など。手続は国税通則法施行令第16条による)の他、認定承継会社の非上場株式等も認められる(手続は租税特別措置法施行令第40条の8の2第5項以下に定められる)。非上場株式等の全てが担保として提供された場合には、当該非上場株式等の価額の合計額が当該納税猶予分の相続税額に満たないとしても、租税特別措置法第70条の7の2第1項の適用については当該納税猶予分の相続税額に相当する担保が提供されたものとみなされる(同第6項本文)。

 租税特別措置法第70条の7の2第1項の適用を受けた経営承継相続人等が非上場株式等を所有したまま死亡した場合には、納税猶予分の相続税額が免除される(同第16項第1号)。

 また、経営承継期間〈租税特別措置法第70条の7の2第2項第6号により、同第1項の適用を受ける旨の申告書の提出期限の翌日から5年を経過した日、または経営承継相続人等の死亡の日の、いずれか早い日までの期間と定義される〉の末日の翌日以後に、経営承継相続人等が第70条の7第1項の適用に係る贈与をした場合には「猶予中相続税額のうち、当該贈与に係る特例非上場株式等で同項の規定の適用に係るものに対応する部分の額として政令で定めるところにより計算した金額に相当する相続税」が免除される(同第2号。同第17項以下、租税特別措置法施行令第40条の8の2第44項も参照)。

 なお、経営承継期間内に経営承継相続人が認定承継会社の代表権を有しなくなった場合など、納税猶予期間が打ち切られる場合がある(租税特別措置法第70条の7の2第3項〜第6項、第9項、第10項、第12項、第13項)。

 

 3.相続税に係る事業承継税制 特例措置〈石村編・前掲書384頁において説明されているのは特例措置である。〉

 2018年度税制改正により追加された特例であり、適用期間は2018年1月1日から2027年12月31日までとされる。

 まず、特例認定承継会社は、中小企業経営承継円滑化法第12条第1項の認定(特例円滑化法認定。租税特別措置法第70条の7の5第2項第2号)を受けた中小企業である(同第70条の7の6第2項第2号)。その株式は非上場株式である。

 次に、特例被相続人は、特例認定承継会社の代表権を有していた者である。また、特例経営承継相続人等とは、特例被相続人から相続または遺贈により、当該特例認定承継会社の非上場株式等(議決権に制限のないものに限定される)を取得した相続人等である(同第7号。当該特例認定承継会社が定めた2人または3人まで)。さらに、特例非上場株式等とは、租税特別措置法第70条の2第2項第2号に定められる株式または出資である(同第70条の7の6第2項第5号)。

 納税猶予分の相続税額は、当該特例認定承継会社の非上場株式等の発行済み株式または出資に係る相続税額の全額である(同第1項)。結局、発行済株式または出資の総数または総額の100%が猶予される。

 特例経営承継相続人等が特例被相続人から非上場株式等を相続または遺贈により取得した場合で、相続税法第27条第1項の規定による申告書に租税特別措置法第70条の7の6第1項の適用を受けようとする旨の記載をしたときには、納税猶予分の相続税額に相当する担保を提供した場合に限り、当該承継相続人等の死亡の日まで、納税猶予分の相続税額について納税が猶予される(租税特別措置法第70条の7の6第1項。用語の定義については同第2項も参照)。担保については、租税特別措置法第70条の7の6第4項により、同第70条の7の2第6項が準用される。

 租税特別措置法第70条の7の6第1項の適用を受けた特例経営承継相続人等が非上場株式等を所有したまま死亡した場合には、納税猶予分の相続税額が免除される(同第12項により、同第70条の7の2第16項から第21項までが準用される)。

 特例経営承継期間〈租税特別措置法第70条の7の6第2項第6号により、同第1項の適用を受ける旨の申告書の提出期限の翌日から5年を経過した日、または経営承継相続人等の死亡の日の、いずれか早い日までの期間と定義される〉の末日の翌日以後に、特例経営承継相続人等が第70条の7第1項の適用に係る贈与をした場合には「猶予中相続税額のうち、当該贈与に係る特例非上場株式等で同項の規定の適用に係るものに対応する部分の額として政令で定めるところにより計算した金額に相当する相続税」が免除される(同第70条の7の6第12項)。

 特例措置の適用を受けるためには、2018年4月1日から2024年3月31日までの期間内に「特例承継計画」を作成し、中小企業経営承継円滑化法第12条第1項に規定される認定を受けなければならない。

 特例経営承継期間内に特例経営承継相続人が特例認定承継会社の代表権を有しなくなった場合など、納税猶予期間が打ち切られる場合がある(租税特別措置法第70条の7の6第3項〜第9項による同第70条の7の2第3項〜第13項の準用)。

 特例認定承継会社の事業の継続が困難になったとして政令で定められる一定の場合において、特例経営承継期間の経過後に当該特例認定承継会社の非上場株式の全部または一部の譲渡をするとき、当該特例認定承継会社が合併により消滅するとき、当該特例認定承継会社が株式交換または株式移転により他の株式交換完全子会社等(会社法第768条第1項第1号、同第773条第1項第5号を参照)となったとき、または当該特例認定承継会社が解散をしたときには、税額を再計算のうえ、差額の減免などが行われる(租税特別措置法第70条の7の6第13項〜第20項)。

 

 4.贈与税に係る事業承継税制 一般措置

 まず、認定贈与承継会社は、中小企業経営承継円滑化法第12条第1項の認定を受けた会社のうち、当該会社の常時使用従業員が1人以上であることなど、租税特別措置法第70条の7第2項第1号に掲げられる要件をみたすものである。

 次に、贈与者は、当該認定贈与承継会社の代表権を有していた個人で、租税特別措置法施行令第40条の8第1項に掲げられる要件を全て満たす者である。これに対し、経営承継受贈者は、贈与者から贈与により当該認定贈与承継会社の非上場株式等を取得した個人で、租税特別措置法第70条の7第2項第3号に掲げられる要件(贈与の日において満20歳以上である、贈与の時において認定贈与承継会社の代表権を有している、贈与の日まで引き続き3年以上にわたり認定贈与承継会社の役員などの地位に就いている、など)の全てを満たす者である。

 また、特例受贈非上場株式等は、当該認定承継会社の発行済株式または出資の総数または総額の3分の2に達するまでの部分(政令で定められた部分)である。納税猶予分の贈与税額は、当該認定承継会社の非上場株式等の価額である(同第2項第5号)。

 経営承継受贈者が贈与人から特例非上場株式等を生前贈与により取得した場合で、相続税法第28条第1項の規定による申告書に租税特別措置法第70条の7第1項の適用を受けようとする旨の記載をしたときには、納税猶予分の贈与税額に相当する担保を提供した場合に限り、当該承継相続人等の死亡の日まで、納税猶予分の贈与税額について納税が猶予される(租税特別措置法第70条の7第1項。用語の定義については同第2項も参照)。ここで、担保は、国税通則法第50条に定められる担保(公債、社債、土地、建物など。手続は国税通則法施行令第16条による)の他、認定承継会社の特例非上場株式等も認められる(手続は租税特別措置法施行令第40条の8第3項以下に定められる)。特例非上場株式等の全てが担保として提供された場合には、当該特例非上場株式等の価額の合計額が当該納税猶予分の贈与税額に満たないとしても、租税特別措置法第70条の7第1項の適用については当該納税猶予分の贈与税額に相当する担保が提供されたものとみなされる(同第6項本文)。

 贈与者の死亡の時以前に経営承継受贈者が死亡した場合には、猶予中贈与税額に相当する贈与税が免除される(同第15項第1号)。

 贈与者が死亡した場合には、猶予中贈与税額のうち、当該贈与者が贈与した特例受贈非上場株式等に対応する部分の額として政令で定められた金額に相当する贈与税が免除される(同第2号。租税特別措置法施行令第40条の8第37項も参照)。

 経営贈与承継期間〈租税特別措置法第70条の7の2第2項第6号により、同第1項の適用を受ける旨の申告書の提出期限の翌日から5年を経過した日、または経営承継相続人等の死亡の日の、いずれか早い日までの期間と定義される〉の末日の翌日以後に、経営承継相続人等が第70条の7第1項の適用に係る贈与をした場合には「猶予中贈与税額のうち、当該贈与に係る特例受贈非上場株式等で同項の規定の適用に係るものに対応する部分の額として政令で定めるところにより計算した金額に相当する贈与税」が免除される(租税特別措置法第70条の7第15項第3号。同第16項以下、租税特別措置法施行令第40条の8第38項も参照)。

 経営贈与承継期間内に経営承継相続人が認定承継会社の代表権を有しなくなった場合など、納税猶予期間が打ち切られる場合がある(租税特別措置法第70条の7第3項〜第6項、第11項、第12項)。

 

 5.贈与税に係る事業承継税制 特例措置

 2018年度税制改正により追加された特例であり、適用期間は2018年1月1日から2027年12月31日までとされる。

 まず、特例認定贈与承継会社は、中小企業経営承継円滑化法第12条第1項の認定(特例円滑化法認定)を受けた会社のうち、当該会社の常時使用従業員が1人以上であることなど、租税特別措置法第70条の5第2項第1号に掲げられる要件をみたすものである。

 次に、特例贈与者は、当該特例認定贈与承継会社の代表権を有していた個人で、租税特別措置法施行令第40条の8の5第1項に掲げられる要件を全て満たす者である。これに対し、特例経営承継受贈者は、特例贈与者から贈与により当該特例認定贈与承継会社の非上場株式等を取得した個人で、租税特別措置法第70条の7の5第2項第6号に掲げられる要件(贈与の日において満20歳以上である、贈与の時において当該特例認定贈与承継会社の代表権を有している、贈与の時において当該特例認定贈与承継会社の議決権の過半数を有する、贈与の日まで引き続き3年以上にわたり当該特例認定贈与承継会社の役員などの地位に就いている、など)の全てを満たす者(当該特例認定承継会社が定めた2人または3人まで)である。また、特例受贈非上場株式等は、租税特別措置法第70条の2第2項第2号に定められる株式または出資である(同第70条の7の5第2項第5号)。

 納税猶予分の贈与税額は、当該特例認定承継会社の非上場株式等の発行済み株式または出資に係る相続税額の全額である(同第1項)。結局、発行済株式または出資の総数または総額の100%が猶予される。

 特例経営承継受贈者が特例受贈者から特例非上場株式等を生前贈与により取得した場合で、相続税法第27条第1項の規定による申告書に租税特別措置法第70条の7の5第1項の適用を受けようとする旨の記載をしたときには、納税猶予分の贈与税額に相当する担保を提供した場合に限り、当該特例受贈者の死亡の日まで、納税猶予分の贈与税額について納税が猶予される(租税特別措置法第70条の7の5第1項。用語の定義については同第2項も参照)。

 その上で、当該特例贈与者が死亡した場合には、贈与税が免除され、特例経営承継受贈者が当該特例受贈者から特例非上場株式等を相続または遺贈により取得したものとみなされる(相続税に移行することとなる。同第70条の7の7第1項)。さらに、当該特例経営承継受贈者が死亡するまで相続税の納税が猶予され、当該特例経営承継受贈者が死亡することにより、相続税も免除される(同第70条の7の8)。

 なお、担保については、租税特別措置法第70条の7の5第4項により、同第70条の7の2第6項が準用される。

 

 ▲第3版における履歴:2022年11月23日掲載。

 ▲第2版における履歴:「28 事業承継税制」として、2017年12月4日掲載。

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講義内容を公開します 酒税 2022年版その2

2022年07月15日 00時00分00秒 | 租税法講義ノート〔第3版〕

 3.酒税の納税義務者

 酒税の納税義務者は、国内で製造された酒類、輸入酒類のいずれに該当するかに応じて異なる。

 国内で製造された酒類については、酒類の製造者が納税義務者である。納税義務の成立時期は、製造者が酒類を製造場から「移出」した時点である(酒税法第6条第1項、国税通則法第15条第2項第7号)。「移出」は、酒類を流通過程に置くために製造場から他の場所へ移すことを意味するので、売買、贈与、交換、占有移転などの別を問わない〈判例とともに、金子・前掲書854頁を参照。〉

 一方、国外で製造された輸入酒類については、酒類引取者(酒類を保税地域から引き取る者)が納税義務者である。納税義務の成立時期は、保税地域から引き取る時点である(酒税法第6条第2項、国税通則法第15条第2項第7号)。

 この他、酒税の納税義務については、注意しなければならない規定が存在する。

 まず、酒税法第6条の3第1項は酒類等の移出が行われたものとみなす場合を定める。例えば、酒類が製造場において飲用されたとき(同第1号)、酒類等製造免許が取り消された場合などにおいて酒類が製造場に現存するとき(同第2号。同第3号も参照)、酒類が滞納処分や強制執行などの手続により換価されたとき(同第4号)である(以上については同第4項も参照)。また、同第3項は「酒類等が保税地域において飲用される場合には、その飲用者が飲用の時に当該酒類等をその保税地域から引き取るものとみなす」と定める。

 次に、同第6条の4は収去酒類について非課税とする旨を定める。

 収去酒類とは、食品衛生法第28条第1項に基づいて臨検検査等が行われる際に無償で収去された酒類、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」第69条第4項および第6項に基づいて立入検査等が行われる際に無償で収去される酒類をいう。

 そして、最も注意しなければならない規定ともいえるのが、次に示す同第43条である。

 「(みなし製造)

 第43条 酒類に水以外の物品(当該酒類と同一の品目の酒類を除く。)を混和した場合において、混和後のものが酒類であるときは、新たに酒類を製造したものとみなす。ただし、次に掲げる場合については、この限りでない。

 一 清酒の製造免許を受けた者が、政令で定めるところにより、清酒にアルコールその他政令で定める物品を加えたとき。

 二 清酒又は合成清酒の製造免許を受けた者が、当該製造場において清酒と合成清酒とを混和したとき。

 三 連続式蒸留焼酎と単式蒸留焼酎との混和をしたとき。

 四 ウイスキーとブランデーとの混和をしたとき。

 五 酒類製造者が、政令で定めるところにより、その製造免許を受けた品目の酒類(政令で定める品目の酒類に限る。)と糖類その他の政令で定める物品との混和をしたとき(前各号に該当する場合を除く。)。

 六 政令で定める手続により、所轄税務署長の承認を受け、酒類の保存のため、酒類にアルコールその他政令で定める物品を混和したとき(前各号に該当する場合を除く。)。

 2 前項の場合において、酒類に炭酸ガス(炭酸水を含む。)の混和をした酒類の品目は、この法律で別に定める場合を除き、当該混和前の酒類の品目とする。

 3 第1項第1号の規定の適用を受けて、清酒にアルコールその他の物品を加えた酒類は、清酒とみなす。

 4 第1項第6号の規定の適用を受けて、酒類にアルコールその他の物品の混和をした酒類は、当該混和前の品目の酒類とみなす。

 5 第1項の規定にかかわらず、酒類の製造場以外の場所で酒類と水との混和をしたとき(政令で定める場合を除く。)は、新たに酒類を製造したものとみなす。この場合において、当該混和後の酒類の品目は、この法律で別に定める場合を除き、当該混和前の酒類の品目とする。

 6 連続式蒸留機によつて蒸留された原料用アルコールと連続式蒸留焼酎との混和をしてアルコール分が36度未満の酒類としたときは、新たに連続式蒸留焼酎を製造したものとみなす。

 7 単式蒸留機によつて蒸留された原料用アルコールと単式蒸留焼酎との混和をしてアルコール分が45度以下の酒類としたときは、新たに単式蒸留焼酎を製造したものとみなす。

 8 第1項、第2項及び第5項の規定にかかわらず、リキュールと水又は炭酸水との混和をしてエキス分2度未満の酒類としたときは、新たにスピリッツを製造したものとみなす。

 9 前各項に規定する場合を除くほか、酒類と他の物品(酒類を含む。)との混和に関し、必要な事項は、政令で定める。

10 前各項の規定は、消費の直前において酒類と他の物品(酒類を含む。)との混和をする場合で政令で定めるときについては、適用しない。

11 前各項の規定は、政令で定めるところにより、酒類の消費者が自ら消費するため酒類と他の物品(酒類を除く。)との混和をする場合(前項の規定に該当する場合を除く。)については、適用しない。

12 前項の規定の適用を受けた酒類は、販売してはならない。」

 例えば、自宅で梅酒を作るとする。梅酒は焼酎に梅などを混和して作るものであるから、焼酎からリキュールに変わることとなり、「新たに酒類を製造した」とみなされることとなるはずであるが、同第11項および酒税法施行令第50条第14項により、自宅で梅酒を作る場合には「新たに酒類を製造した」とみなされない。但し、あくまでも自家消費に留まらなければならず、他人に販売してはならない(酒税法第43条第12項、同第56条第1項第4号)。同様のことは料理店などの経営者が営業場において提供する梅酒についても妥当する(同第10項、租税特別措置法第87条の8)。

 次に、自宅でハイボールを作るとする。ハイボールはウイスキーに炭酸水を混和して作るものであるから、酒税法第43条第2項によってウイスキーとして扱われることとなるが「新たに酒類を製造した」とみなされることとなるはずである。しかし、この場合も同第11項によって「新たに酒類を製造した」とみなされない。自家消費に留まらなければならないことは梅酒の場合と同様である。また、カクテルの種類によっては酒税法第43条および酒税法施行令第50条第14項に違反するおそれもあるので、注意されたい。自家消費であるから何でもよいという訳ではないのである。

 一方、ショットバーで提供されるハイボールを店員が作り、客に提供した場合は、酒税法第43条第10項および酒税法施行令第50条第13項が適用されるため、「新たに酒類を製造した」とみなされない。カクテルについても同様である。但し、あくまでも「酒場、料理店その他酒類を専ら自己の営業場において飲用に供することを業とする者がその営業場において消費者の求めに応じ、又は酒類の消費者が自ら消費するため、当該混和をするとき」に限られる。

 

 4.酒類の製造、販売に関する免許制度

 酒税法は、酒類等(酒類、酒母またはもろみ)を製造しようとする者、販売しようとする者に対し、製造場または販売場ごとに所轄税務署長の免許〈行政法学における許可に該当する。〉を受けなければならない旨を規定する。この免許制度は酒税の徴収確保のためであり、「酒税の円滑な転嫁及び検査取締り上の要請等を目的として採用された」〈富川・前掲書151頁。これに対し、金子・前掲書852頁は「国民の健康と衛生の維持ならびに酒税の保全のため」と説明する。〉

 〔1〕酒類製造免許

 酒税法第7条第1項は、「酒類を製造しようとする者は、政令で定める手続により、製造しようとする酒類の品目(第3条第7号から第23号までに掲げる酒類の区分をいう。以下同じ。)別に、製造場ごとに、その製造場の所在地の所轄税務署長の免許(以下「製造免許」という。)を受けなければならない。ただし、酒類の製造免許を受けた者(以下「酒類製造者」という。)が、その製造免許を受けた製造場において当該酒類の原料とするため製造する酒類については、この限りでない」と定める。免許の効力が対象(物)および場所の面において制約を受けていることに注意されたい。

 また、同第2項は、1つの製造場における1年間の製造見込数量を、種類ごとに定めている。製造免許を受ける際には、この製造見込数量を超えることが求められる。

 酒類製造免許を受けずに酒類を製造した者には刑事罰が科される(同第54条)。

 〔2〕酒母またはもろみの製造免許

 酒母またはもろみを製造しようとする者についても、やはり製造場ごとに製造免許を受けなければならない(同第8条)。但し、酒類製造業者が製造場において酒類の製造のように供するために酒母またはもろみを製造する場合など、除外事由もある(同第1号〜第3号)。

 酒母またはもろみの製造免許を受けずに酒母またはもろみを製造した者には刑事罰が科される(同第54条)。

 〔3〕酒類販売業免許

 酒類販売業、酒類販売代理業、酒類販売媒介業のいずれかを営もうとする者は、販売場ごとにその販売場の所在地(販売場を設けない場合には住所地)を所轄する税務署長の免許を受けなければならない。但し、酒類製造業者が製造場において酒類の販売業を営む場合、および「酒場、料理店その他酒類をもつぱら自己の営業場において飲用に供する業」については酒類販売業免許が不要である(同第9条第1項。同第2項および同第3項も参照)。

 なお、酒類販売業免許は大きく酒類小売業免許および酒類卸売業免許に大別され、さらに酒類小売業免許は3種類、酒類卸売業免許は8種類に分けられる〈富川・前掲書153頁。〉

 酒類販売業免許を受けないで酒類を販売した者には刑事罰が科される(同第56条第1項第1号)。

 〔4〕上記各種免許の要件

 上記各種免許の申請者が酒税法第10条各号のいずれかに該当する場合には、税務署長は申請者に対して免許を与えないことができる。列挙事由をみると、酒税法の規定に違反したことによって免許等を「取り消され」てから一定の期間を経過していない者、滞納処分を受けてから一定の期間を経過していない者、一定の事由による刑の執行が終わってから一定の期間を経過していない者などが多いが、「正当な理由がないのに取締り上不適当と認められる場所に製造場又は販売場を設けようとする場合」(同第9号)、「酒類の製造免許又は酒類の販売業免許の申請者が破産手続開始の決定を受けて復権を得ていない場合その他その経営の基礎が薄弱であると認められる場合」(同第10号)、「酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため酒類の製造免許又は酒類の販売業免許を与えることが適当でないと認められる場合」(同第11号)、「酒類の製造免許の申請者が酒類の製造について必要な技術的能力を備えていないと認められる場合又は製造場の設備が不十分と認められる場合」(同第12条)があげられている。

 この他、上記各種免許の「取消し」については同第12条ないし第14条を、製造場または販売場の移転の許可については同第16条を、製造業または販売業の廃止については同第17条を、販売場を設けていない酒類販売業者の住所の移転については同第18条を、酒類製造業または酒類販売業の相続については同第19条を参照していただきたい。

 〔5〕免許制度と憲法

 ●最一小判平成元年12月14日刑集43巻13号841頁(「どぶろく裁判上告審判決」)

 事案:千葉県の某町に居住するX(被告人)は、所轄税務署長から清酒製造免許を受けることなく、自宅で清酒を製造した。これが酒税法第7条に違反するとして、原料を収税官吏に差し押さえられた上、起訴された。Xは、酒類製造免許制度が酒の自己消費を規制するものであって憲法第13条に違反するなどと主張したが、一審判決(千葉地判昭和61年3月26日判時1187号157頁)はXを罰金刑に処す旨の判決を下し、控訴審判決(東京高判昭和61年9月29日高刑集39巻4号357頁)もXの控訴を棄却した。最高裁判所第一小法廷もXの上告を棄却した。

 判旨:酒税法第7条第1項および同第54条第1項は「自己消費を目的とする酒類製造であっても、これを放任するときは酒税収入の減少など酒税の徴収確保に支障を生じる事態が予想されるところから、国の重要な財政収入である酒税の徴収を確保するため、製造目的のいかんを問わず、酒類製造を一律に免許の対象とした上、免許を受けないで酒類を製造した者を処罰することとしたものであり」(最二小判昭和30年7月29日刑集9巻9号1972頁を参照)、「これにより自己消費目的の酒類製造の自由が制約されるとしても、そのような規制が立法府の裁量権を逸脱し、著しく不合理であることが明白であるとはいえず、憲法31条、13条に違反するものでない」(最大判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁、最一小判昭和35年2月11日集刑132号219頁を参照)。

 ●最三小判平成4年12月15日民集46巻9号2829頁

 事案:東京都内のX株式会社は、昭和49年7月30日に所轄税務署長に対して酒類販売業免許の申請をしたが、所轄税務署長は昭和51年11月24日付で免許拒否処分を行った。これは、X株式会社が酒税法第10条第10号(「酒類の製造免許又は酒類の販売業免許の申請者が破産者で復権を得ていない場合その他その経営の基礎が薄弱であると認められる場合」)に該当することが理由とされたものである。X株式会社は免許拒否処分の取消を求めて出訴した。一審判決(東京地判昭和54年4月12日税資105号46頁)はX株式会社の請求を認容したが、控訴審判決(東京高判昭和62年11月26日判時1259号30頁)は所轄税務署長の控訴を容れてX株式会社の請求を棄却したため、X株式会社が上告した。最高裁判所第三小法廷は上告を棄却した。

 判旨:①「酒税が、沿革的に見て、国税全体に占める割合が高く、これを確実に徴収する必要性が高い税目であるとともに、酒類の販売代金に占める割合も高率であったことにかんがみると、酒税法が昭和13年法律第48号による改正により、酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のために、このような制度を採用したことは、当初は、その必要性と合理性があったというべきであり、酒税の納税義務者とされた酒類製造者のため、酒類の販売代金の回収を確実にさせることによって消費者への酒税の負担の円滑な転嫁を実現する目的で、これを阻害するおそれのある酒類販売業者を免許制によって酒類の流通過程から排除することとしたのも、酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという重要な公共の利益のために採られた合理的な措置であったということができる。その後の社会状況の変化と租税法体系の変遷に伴い、酒税の国税全体に占める割合等が相対的に低下するに至った本件処分当時の時点においてもなお、酒類販売業について免許制度を存置しておくことの必要性及び合理性については、議論の余地があることは否定できないとしても、前記のような酒税の賦課徴収に関する仕組みがいまだ合理性を失うに至っているとはいえないと考えられることに加えて、酒税は、本来、消費者にその負担が転嫁されるべき性質の税目であること、酒類の販売業免許制度によって規制されるのが、そもそも、致酔性を有する嗜好品である性質上、販売秩序維持等の観点からもその販売について何らかの規制が行われてもやむを得ないと考えられる商品である酒類の販売の自由にとどまることをも考慮すると、当時においてなお酒類販売業免許制度を存置すべきものとした立法府の判断が、前記のような政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理であるとまでは断定し難い。」

 ②酒税法第10条第10号は「免許の申請者が破産者で復権を得ていない場合その他その経営の基礎が薄弱であると認められる場合に、酒類販売業の免許を与えないことができる旨を定めるものであって、酒類製造者において酒類販売代金の回収に困難を来すおそれがあると考えられる最も典型的な場合を規定したものということができ、右基準は、酒類の販売免許制度を採用した前記のような立法目的からして合理的なものということができる。また、同号の規定が不明確で行政庁のし意的判断を許すようなものであるとも認め難い。そうすると、酒税法9条、10条10号の規定が、立法府の裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理であるということはできず、右規定が憲法22条1項に違反するものということはできない。」

 なお、同旨の判決として、最一小判平成10年3月26日判時1639号36頁、最三小判平成14年6月4日判時1788号160頁などがある。

 

 5.酒税の課税標準および税率

 酒税の課税標準は、酒税法第22条第1項により、酒類の製造場から移出された、または保税地域から引き取られた酒類の数量であるとされる。但し、「粉末酒に係る数量の計算は、その重量を基礎として政令で定める方法により行う」(同第2項)。このことから、酒税は従量税である。

 そのため、税率も数量を単位として定められる。同第23条は、酒類の種類に応じて1㎘あたりの税率を次のように定める。

 ①発泡性酒類:155,000円(同第1項第1号)。

 但し、「発泡性酒類のうちその他の発泡性酒類」は100,000円(同第2項)。

 ②醸造酒類:100,000円(同第1項第2号)。

 ③蒸留酒類:200,000円が基本である(アルコール分が20度であることを前提としている)。アルコール分が21度以上である場合には、200,000円に、1度毎に10,000円を加えた金額である(同第3号)。但し、ウイスキー、ブランデーおよびスピリッツでアルコール分が37度未満であれば370,000円(同第3項)。

 ④混成酒類:200,000円が基本である(アルコール分が20度であることを前提としている)。アルコール分が21度以上である場合には、200,000円に、1度毎に10,000円を加えた金額とする(同第4号)。但し、次に掲げるものは別に定められる。

 ・合成清酒:100,000円(同第4項第1号)。

 ・みりん:20,000円(同第2号)。

 ・雑酒(みりんに類似する酒類として政令で定められるもの):20,000円(同号)

 ・甘味果実酒およびリキュール:120,000円を基本とし、アルコール分が13度以上である場合には、120,000円に、1度毎に10,000円を加えた金額とする(同第3号)。

 ・粉末酒:390,000円(同第4号)。

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講義内容を公開します 酒税 2022年版その1

2022年07月14日 01時00分00秒 | 租税法講義ノート〔第3版〕

 0.はじめに

 酒税(法)に関する参考書として、さしあたり、次のものをあげておく。

 石村耕治編『税金のすべてがわかる現代税法入門塾』〔第9版〕(2018年、清文社)414頁〈第10版(2020年)および第11版(2022年)には酒税などに関する記述がないので注意されたい。また、租税法の教科書で酒税法に関する説明の記述がある者は非常に少ない。〉

 金子宏『租税法』〔第二十四版〕(2021年、弘文堂)852頁以下

 三木義一編『よくわかる税法入門』〔第16版〕(2022年、有斐閣)275頁以下

 富川泰敬『令和3年版図解酒税』(2021年、大蔵財務協会)

 なお、酒税法は税理士試験の科目の1つであるため、複数の受験予備校から参考書が刊行されている。しかし、酒税法の受験者は少ないようである。

 この他の受験科目は会計学科目(簿記論および財務会計論)ならびに租税法科目(所得税法、法人税法、相続税法、消費税法、国税徴収法、住民税、事業税および固定資産税)である。会計学科目はいずれも必須である。租税法科目からは3科目を選択することとなるが、所得税法または法人税法を必ず選択しなければならない。

 

 1.酒税の概要

 〈以下、説明の都合により、これまで講義で扱ってきた消費税については「消費税」と記す。〉

 酒税は国税であり、間接税の一種である消費税(消費課税)のうちの間接消費税に属する。但し、名称が示すように個別消費税であり、この点において「消費税」および地方消費税と異なる。

 課税の根拠となる法律は酒税法である。この法律も度々改正されているが、講義の趣旨に従い、消費税法施行以後に限定して特に重要な改正について述べておく。

 まず、1989(平成元)年度税制改正である。消費税法の施行により、国税・地方税を問わず、物品税など多くの税目が廃止されたが、酒税、たばこ税などは残された。しかし、酒類や煙草〈一般的な紙巻き煙草の他に、加熱式煙草、葉巻、刻み煙草(パイプや煙管を使うもの)などを含む。なお、日本の法律では平仮名で「たばこ」と記されるには「消費税」も課されるため、二重課税ではないかという疑問が根強い。

 また、1989年度税制改正における酒税法の改正の背景には、1986年7月に、酒税法に規定される税率の格差について当時のヨーロッパ共同体(EC; European Community)諸国から「関税及び貿易に関する一般協定」(GATT; General Agreement on Tariffs and Trade)第23条に基づく協議の要請がなされ、翌年11月10日採択のパネル報告でGATT第3条に違反すると判断された事実がある。そこで、従価税制度および級別制度の廃止など、大きな改正が行われた。但し、焼酎とその他の蒸留酒との税率の格差などの問題は残された。

 従価税とは、消費税などのように課税物件の価額を課税標準とする租税をいう。

 級別制度とは、清酒やウイスキーにおいて採用されていたもので、アルコール度数に応じて酒類を特級、一級などと分類し、その分類に応じた税率を設定するものである。

 次に2006(平成18)年度税制改正である。改正前の酒類は10種類とされていたが、改正後は4種類にまとめられた。

 そして2017(平成29)年度税制改正である。この改正においては、酒類間の税負担の公平という観点から税率が見直された。

 なお、2020(令和2)年度以降の税制改正における改正は次の通りである。

 ①2020年度

 ・「酒類の製造免許に係る最低製造数量基準について、輸出するために清酒を製造しようとする者が清酒の製造免許を申請した場合には、最低製造数量基準(現行:60 ㎘)を適用しない」〈「令和2年度税制改正の大綱(令和元年12月20日閣議決定)」(以下、令和2年度政府税制改正大綱)70頁。2021年4月1日以後の申請に係る免許につき適用される。〉

 ・「酒類の製造免許等の承継制度について、酒類の製造免許等を承継することができる者の範囲に、事業譲渡によりその事業の全部を承継した者を加える」〈令和2年度政府税制改正大綱70頁。2020年4月1日以後に行われる事業譲渡につき適用される。〉

 ・「酒類の製造免許等の申請書について、住民票の写しの添付を不要とする」〈令和2年度政府税制改正大綱70頁。2021年4月1日以後に提出される申請書につき適用される。

 ・「酒類の品目等の表示義務について、一定の原料用アルコールについては、品目の表示を泡盛とすることを可能とする」〈令和2年度政府税制改正大綱70頁。

 ②2021(令和3)年度

 ・「ビールに係る酒税の税率の特例措置の適用期限を2年延長する」〈「令和3年度税制改正の大綱(令和2年12月21日閣議決定)」(以下、令和3年度政府税制改正大綱)72頁。〉

 ・「沖縄県産酒類に係る酒税の軽減措置の適用期限を1年延長する」〈令和3年度政府税制改正大綱78頁。〉

 ・東日本大震災の「被災酒類製造者が移出する清酒等に係る酒税の税率の特例措置の適用期限を2年延長する」〈令和3年度政府税制改正大綱95頁。〉

 ③2022(令和4)年度

 ・「消費税の仕入税額控除の要件として保存することとされている輸入許可書等及び輸出免税の要件として保存することとされている輸出許可書等の範囲に、これらの書類に係る電磁的記録を含めることとする」とともに、「酒税、たばこ税、揮発油税、石油ガス税及び石油石炭税における輸出免税の適用に当たって必要となる帳簿の記載について、輸出許可書等に係る電磁的記録に基づいて記載できることとする」〈「令和4年度税制改正の大綱(令和3年12月24日閣議決定)」(以下、令和4年度政府税制改正大綱)60頁。〉

 ・「ウイスキー又はブランデーに類似するスピリッツに係る製造時の酒税の承認制度を見直し、誤認防止のための要件を設けた上、移出時の承認制度とするとともに、その承認における着色度に関する制限を撤廃する」〈令和4年度政府税制改正大綱60頁。2023年4月1日以降に承認を受けるスピリッツについて適用される。〉

 ・沖縄県産の「単式蒸留焼酎に係る酒税の軽減措置について、軽減割合を、その前年度の県内課税移出数量が200㎘を超え1,300㎘以下の場合にあっては、令和6年5月15日から令和8年5月14日までの間は30%、令和8年5月15日から令和11年5月14日までの間は20%、令和11年5月15日以後は10%とし、その前年度の県内課税移出数量が1,300㎘を超える場合にあっては、令和6年5月15日から令和8年5月14日までの間は25%、令和8年5月15日から令和11年5月14日までの間は15%、令和11 年5月15日以後は5%とし、その適用期限を令和14 年5月14日まで延長した上、廃止する」〈令和4年度政府税制改正大綱60頁。沖縄県産の単式蒸留焼酎とは泡盛のことである。〉

 ・沖縄県産の「単式蒸留焼酎以外の酒類に係る酒税の軽減措置について、軽減割合を令和5年10月1日以後は15%とし、その適用期限を令和8年9月30日まで延長した上、廃止する」〈令和4年度政府税制改正大綱61頁。〉

 

 2.酒税法による酒類の定義

 〔1〕酒類の定義および種類

 酒税法第1条は、酒税の課税物件が酒類であることを明定する。その上で、同第2条第1項は、酒類を「アルコール分1度以上の飲料(薄めてアルコール分1度以上の飲料とすることができるもの(アルコール分が90度以上のアルコールのうち、第7条第1項の規定による酒類の製造免許を受けた者が酒類の原料として当該製造免許を受けた製造場において製造するもの以外のものを除く。)又は溶解してアルコール分1度以上の飲料とすることができる粉末状のものを含む。)をいう」と定義する。この定義から、アルコール分が1%以上の飲料であれば酒類とされることがわかる。

 但し、アルコール分が90%以上であるものは、酒類の原料として製造されるものを除き、酒税法ではなくアルコール事業法の適用対象となる。 また、同第2項は酒類を発泡性酒類、醸造酒類、蒸留酒類および混成酒類に分類する。

 〔2〕四種の酒類

 (1)発泡性酒類(酒税法第3条第3号)

 発泡性酒類はビール(同イ)、発泡酒(同ロ)、「その他の発泡性酒類」(アルコール分が11度未満のもの。同ハ)とされる。

 (2)醸造酒類(同第4号)

 醸造酒類は、清酒(同イ)、果実酒(同ロ)、「その他の醸造酒」(同ハ)とされる。

 (3)蒸留酒類(同第5号)

 蒸留酒類は、連続式蒸留焼酎(同イ)〈2006年の税制改正までは焼酎甲類と言われていた。〉、単式蒸留焼酎(同ロ)〈2006年の税制改正までは焼酎乙類と言われていた。〉、ウイスキー(同ハ)、ブランデー(同ニ)、原料用アルコール(同ホ)、スピリッツ(同ヘ)とされる。

 (4)混成酒類(同第6号)

 混成酒類は、合成清酒(同イ)、みりん(同ロ)、甘味果実酒(同ハ)、リキュール(同ニ)、粉末酒(同ホ)、雑種(同ヘ)とされる。

 〔3〕それぞれの品目の定義

 酒税法第3条第7号以下において定義されている(第27号は便宜上取り上げている)。

 清酒(第7号):「次に掲げる酒類でアルコール分が22度未満のものをいう。

 イ 米、米こうじ及び水を原料として発酵させて、こしたもの

 ロ 米、米こうじ、水及び清酒かすその他政令で定める物品を原料として発酵させて、こしたもの(その原料中当該政令で定める物品の重量の合計が米(こうじ米を含む。)の重量の100分の50を超えないものに限る。)

 ハ 清酒に清酒かすを加えて、こしたもの」

 合成清酒(第8号):「アルコール(次号の規定(アルコール分に関する規定を除く。)に該当する酒類(水以外の物品を加えたものを除く。)でアルコール分が36度以上45度以下のものを含む。第15号ハ及び第16号ロ並びに第8条第3号を除き、以下同じ。)、焼酎(連続式蒸留焼酎又は単式蒸留焼酎をいい、水以外の物品を加えたものを除く。第11号において同じ。)又は清酒とぶどう糖その他政令で定める物品を原料として製造した酒類(当該酒類の原料として米又は米を原料の全部若しくは一部として製造した物品を使用したものについては、米(米を原料の全部又は一部として製造した物品の原料となつた米を含む。)の重量の合計が、アルコール分20度に換算した場合の当該酒類の重量の100分の5を超えないものに限る。)で、その香味、色沢その他の性状が清酒に類似するもの(アルコール分が16度未満でエキス分が5度以上であることその他の政令で定める要件を満たすものに限る。)をいう。」

 連続式蒸留焼酎(第9号):「アルコール含有物を連続式蒸留機(連続して供給されるアルコール含有物を蒸留しつつ、フーゼル油、アルデヒドその他の不純物を取り除くことができる蒸留機をいう。次号イ及び第43条第6項において同じ。)により蒸留した酒類(これに水を加えたもの及び政令で定めるところにより砂糖(政令で定めるものに限る。)その他の政令で定める物品を加えたもの(エキス分が2度未満のものに限る。)を含み、次に掲げるものを除く。)で、アルコール分が36度未満のものをいう。

 イ 発芽させた穀類又は果実(果実を乾燥させ若しくは煮つめたもの又は濃縮させた果汁を含み、なつめやしの実その他政令で定めるものを除く。以下この条において同じ。)を原料の全部又は一部としたもの〈製法によってウイスキー、スピリッツ、ブランデーのいずれかに分類される。〉

 ロ しらかばの炭その他政令で定めるものでこしたもの〈スピリッツに分類されるウォッカ。〉

 ハ 含糖質物(政令で定める砂糖を除く。)を原料の全部又は一部としたもので、そのアルコール含有物の蒸留の際の留出時のアルコール分が95度未満のもの〈スピリッツに分類されるラム酒やテキーラが該当する。〉

 ニ アルコール含有物を蒸留する際、発生するアルコールに他の物品の成分を浸出させたもの〈スピリッツに分類されるジン。〉

 単式蒸留焼酎(第10号):「次に掲げる酒類(これらに水を加えたものを含み、前号イからニまでに掲げるものに該当するものを除く。)でアルコール分が45度以下のものをいう。

 イ 穀類又は芋類、これらのこうじ及び水を原料として発酵させたアルコール含有物を連続式蒸留機以外の蒸留機(以下この号及び第43条第7項において「単式蒸留機」という。)により蒸留したもの〈芋焼酎、麦焼酎、米焼酎。〉

 ロ 穀類のこうじ及び水を原料として発酵させたアルコール含有物を単式蒸留機により蒸留したもの〈泡盛。〉

 ハ 清酒かす及び水若しくは清酒かす、米、米こうじ及び水を原料として発酵させたアルコール含有物又は清酒かすを単式蒸留機により蒸留したもの

 ニ 砂糖(政令で定めるものに限る。)、米こうじ及び水を原料として発酵させたアルコール含有物を単式蒸留機により蒸留したもの〈黒糖焼酎〉

 ホ 穀類又は芋類、これらのこうじ、水及び政令で定める物品を原料として発酵させたアルコール含有物を単式蒸留機により蒸留したもの(その原料中当該政令で定める物品の重量の合計が穀類又は芋類(これらのこうじを含む。)の重量を超えないものに限る。)〈ごま焼酎、しそ焼酎〉

 ヘ イからホまでに掲げる酒類以外の酒類でアルコール含有物を単式蒸留機により蒸留したもの(これに政令で定めるところにより砂糖(政令で定めるものに限る。)その他の政令で定める物品を加えたもの(エキス分が2度未満のものに限る。)を含む。)」

 みりん(第11号):「次に掲げる酒類でアルコール分が15度未満のもの(エキス分が40度以上であることその他の政令で定める要件を満たすものに限る。)をいう。

 イ 米及び米こうじに焼酎又はアルコールを加えて、こしたもの

 ロ 米、米こうじ及び焼酎又はアルコールにみりんその他政令で定める物品を加えて、こしたもの

 ハ みりんに焼酎又はアルコールを加えたもの ニ みりんにみりんかすを加えて、こしたもの」

 ビール(第12号):「次に掲げる酒類でアルコール分が20度未満のものをいう。

 イ 麦芽、ホップ及び水を原料として発酵させたもの

 ロ 麦芽、ホップ、水及び麦その他の政令で定める物品を原料として発酵させたもの(その原料中麦芽の重量がホップ及び水以外の原料の重量の合計の100分の50以上のものであり、かつ、その原料中政令で定める物品の重量の合計が麦芽の重量の100分の5を超えないものに限る。)

 ハ イ又はロに掲げる酒類にホップ又は政令で定める物品を加えて発酵させたもの(その原料中麦芽の重量がホップ及び水以外の原料の重量の合計の100分の50以上のものであり、かつ、その原料中政令で定める物品の重量の合計が麦芽の重量の100分の5を超えないものに限る。)」

 果実酒(第13号):「次に掲げる酒類でアルコール分が20度未満のもの(ロからニまでに掲げるものについては、アルコール分が15度以上のものその他政令で定めるものを除く。)をいう。

 イ 果実又は果実及び水を原料として発酵させたもの〈ワイン。〉

 ロ 果実又は果実及び水に糖類(政令で定めるものに限る。ハ及びニにおいて同じ。)を加えて発酵させたもの

 ハ イ又はロに掲げる酒類に糖類を加えて発酵させたもの

 ニ イからハまでに掲げる酒類にブランデー、アルコール若しくは政令で定めるスピリッツ(以下この号並びに次号ハ及びニにおいて「ブランデー等」という。)又は糖類、香味料若しくは水を加えたもの(ブランデー等を加えたものについては、当該ブランデー等のアルコール分の総量(既に加えたブランデー等があるときは、そのブランデー等のアルコール分の総量を加えた数量。同号ハにおいて同じ。)が当該ブランデー等を加えた後の酒類のアルコール分の総量の100分の10を超えないものに限る。)

 ホ イからニまでに掲げる酒類に政令で定める植物を浸してその成分を浸出させたもの」

 甘味果実酒(第14号):「次に掲げる酒類で果実酒以外のものをいう〈ヴェルモット、ポートワイン、シェリー酒など。〉

 イ 果実又は果実及び水に糖類を加えて発酵させたもの

 ロ 前号イ若しくはロに掲げる酒類又はイに掲げる酒類に糖類を加えて発酵させたもの

 ハ 前号イからハまでに掲げる酒類又はイ若しくはロに掲げる酒類にブランデー等又は糖類、香味料、色素若しくは水を加えたもの(ブランデー等を加えたものについては、当該ブランデー等のアルコール分の総量が当該ブランデー等を加えた後の酒類のアルコール分の総量の100分の90を超えないものに限る。ニにおいて同じ。)

 ニ 果実酒又はイからハまでに掲げる酒類に植物を浸してその成分を浸出させたもの若しくは薬剤を加えたもの又はこれらの酒類にブランデー等、糖類、香味料、色素若しくは水を加えたもの」

 ウイスキー(第15号):「次に掲げる酒類(イ又はロに掲げるものについては、第9号ロからニまでに掲げるものに該当するものを除く。)をいう。

 イ 発芽させた穀類及び水を原料として糖化させて、発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの(当該アルコール含有物の蒸留の際の留出時のアルコール分が95度未満のものに限る。)〈モルトウイスキー(大麦を使用するもの)。〉

 ロ 発芽させた穀類及び水によつて穀類を糖化させて、発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの(当該アルコール含有物の蒸留の際の留出時のアルコール分が95度未満のものに限る。)〈グレーンウイスキー(トウモロコシ、ライ麦などを使用するもの)。〉

 ハ イ又はロに掲げる酒類にアルコール、スピリッツ、香味料、色素又は水を加えたもの(イ又はロに掲げる酒類のアルコール分の総量がアルコール、スピリッツ又は香味料を加えた後の酒類のアルコール分の総量の100分の10以上のものに限る。)」

 ブランデー(第16号):「次に掲げる酒類(イに掲げるものについては、第9号ロからニまでに掲げるものに該当するものを除く。)をいう。

 イ 果実若しくは果実及び水を原料として発酵させたアルコール含有物又は果実酒(果実酒かすを含む。)を蒸留したもの(当該アルコール含有物又は果実酒の蒸留の際の留出時のアルコール分が95度未満のものに限る。)

 ロ イに掲げる酒類にアルコール、スピリッツ、香味料、色素又は水を加えたもの(イに掲げる酒類のアルコール分の総量がアルコール、スピリッツ又は香味料を加えた後の酒類のアルコール分の総量の100分の10以上のものに限る。)」

 原料用アルコール(第17号):「第9号又は第10号の規定(アルコール分に関する規定を除く。)に該当する酒類(水以外の物品を加えたものを除く。)でアルコール分が45度を超えるものをいう。」

 発泡酒(第18号。2023年9月30日までの定義):「麦芽又は麦を原料の一部とした酒類(第7号から前号までに掲げる酒類及び麦芽又は麦を原料の一部としたアルコール含有物を蒸留したものを原料の一部としたものを除く。)で発泡性を有するもの(アルコール分が20度未満のものに限る。)をいう。」

 発泡酒の製法はビールと同様であるが、麦芽の重量の比率が50%未満であるか、果実や香味料の使用量が麦芽の重量の5%を超えると発泡酒となる。輸入品の「ビール」の中には、日本の酒税法に照らせば発泡酒として扱われるものも少なくない。また、日本の「地ビール」として発売されるものにも発泡酒として扱われるものが存在する。

 発泡酒(第18号。2023年10月1日からの定義):「次に掲げる酒類(第7号から前号までに掲げる酒類を除く。)で発泡性を有するもの(アルコール分が20度未満のものに限る。)をいう。

 イ 麦芽又は麦を原料の一部とした酒類(麦芽又は麦を原料の一部としたアルコール含有物を蒸留したものを原料の一部としたものを除く。)

 ロ イに掲げる酒類以外の酒類で、ホップ又は財務省令で定める苦味料を原料の一部としたもの

 ハ イ又はロに掲げる酒類以外の酒類で、香味、色沢その他の性状がビールに類似するものとして政令で定めるもの」

 【★イは従来通りであり、ロとハが新たに加えられた。これにより、「新ジャンル」は、2023年9月30日まではその他の醸造酒またはリキュールとして扱われるが、2023年10月1日からは発泡酒として扱われることとなる。】

 その他の醸造酒(第19号):「穀類、糖類その他の物品を原料として発酵させた酒類(第7号から前号までに掲げる酒類その他政令で定めるものを除く。)でアルコール分が20度未満のもの(エキス分が2度以上のものに限る。)をいう。」〈どぶろく、マッコリなど。〉

 スピリッツ(第20号)「第7号から前号までに掲げる酒類以外の酒類でエキス分が2度未満のものをいう。」

 リキュール(第21号):「酒類と糖類その他の物品(酒類を含む。)を原料とした酒類でエキス分が2度以上のもの(第7号から第19号までに掲げる酒類、前条第1項に規定する溶解してアルコール分1度以上の飲料とすることができる粉末状のもの及びその性状がみりんに類似する酒類として政令で定めるものを除く。)をいう。」〈カシス、カンパリなど。また、梅酒はリキュールに分類される。〉

 粉末酒(第22号):「前条第1項に規定する溶解してアルコール分1度以上の飲料とすることができる粉末状の酒類をいう。」

 雑酒(第23号):「第7号から前号までに掲げる酒類以外の酒類をいう。」

 酒母(第24号):「酵母で含糖質物を発酵させることができるもの及び酵母を培養したもので含糖質物を発酵させることができるもの並びにこれらにこうじを混和したもの(製薬用、製パン用、しようゆ製造用その他酒税の保全上支障がないものとして財務省令で定める用途に供せられるものを除く。)をいう。」

 もろみ(第25号):「酒類の原料となる物品に発酵させる手段を講じたもの(酒類の製造の用に供することができるものに限る。)で、こし又は蒸留する前のもの(こさない又は蒸留しない酒類に係るものについては、主発酵が終わる前のもの)をいう。」

 こうじ(第26号):「でん粉質物その他政令で定める物品にかび類を繁殖させたもの(当該繁殖させたものから分離させた胞子又は浸出させた酵素を含む。)で、でん粉質物を糖化させることができるものをいう。」

 保税地域(第27号):「関税法(昭和29年法律第61号)第29条(保税地域の種類)に規定する保税地域をいう。」

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第2部:所得税法 第16回:所得税法における税額の計算

2022年05月19日 07時00分00秒 | 租税法講義ノート〔第3版〕

 1.概説

 「12 収入金額と必要経費」の冒頭において、課税総所得金額の算出の仕方を説明した。なお、分離課税の対象となる退職所得については課税退職所得金額、山林所得については課税山林所得金額という。

 ここから税額を計算する訳であるが、基本的な手順は次のとおりである。

 まず、課税総所得金額、課税退職所得金額および課税山林所得金額に税率を乗じる。税率は所得税法第89条に規定されている。この規定を読めばわかるように、所得税の税率は累進税率である。この税率には度々変更が加えられているが、現在〔2005(平成27)年1月1日以降〕においては次のとおりである。なお、簡易計算法で示す。

 ・課税総所得金額が195万円以下の場合:5%

 ∴(課税総所得金額)×5%=(所得税額)

 ・課税総所得金額が195万円を超え330万円以下の場合:10%

 ∴(課税総所得金額)×10%-97,500円=(所得税額)

 課税総所得金額が330万円を超え695万円以下の場合:20%

 ∴(課税総所得金額)×20%-427,500円=(所得税額)

 ・課税総所得金額が695万円を超え900万円以下の場合23%

 ∴(課税総所得金額)×23%-636,000円=(所得税額)

 ・課税総所得金額が900万円を超え1800万円以下の場合:33%

 ∴(課税総所得金額)×33%-1,536,000円=(所得税額)

 ・課税総所得金額が1800万円を超え4000万円以下の場合:40%

 ∴(課税総所得金額)×40%-2,796,000円=(所得税額)

 ・課税総所得金額が4000万円を超える場合:45%

 ∴(課税総所得金額)×45%-4,796,000円=(所得税額)

 次に、課税総所得金額、課税退職所得金額および課税山林所得金額に税率を乗じて得られた額から税額控除を行う。こうして、最終的な納税額が決定される。

 税額計算についても特例が存在する。その代表が平均課税である〈山林所得に対する課税(五分五乗方式)も平均課税の一種である〉。これは、変動所得および臨時所得について認められるものである。

 所得の中には、定期的に生じるとしても年によって変動が激しいものがある。これを変動所得という。第2条第1項第23号は、漁獲から生じる所得や著作権の使用料に係る所得を変動所得の例として掲げており、所得税法施行令第7条の2は、他に海苔の採取やはまち、真珠(貝)などの養殖から生ずる所得、原稿料、作曲料をあげている。

 また、所得の中には臨時に生じるものもある。一時所得もその例であると考えることもできるが、上述のように、所得税法における一時所得は、営利を目的とする継続的な行為から生じた所得でない一時的な所得であり、役務や資産の譲渡の対価としての性質を有しないものである。そのため、役務の提供を約束することによって得られる契約金などの一時的な所得は該当しない。しかし、超過累進税率を採用すると、或る年について著しく納税負担が増えることになる。そのため、所得税法第2条第1項第24条は、契約金など臨時に発生する所得を臨時所得として区別している。詳細は所得税法施行令第8条に定められている。

 変動所得および臨時所得は、或る年度に集中して生じることが多い。そのため、所得税法第90条により、およそ5年間にわたり平準化することとされている。これが平均課税である。同条によると、居住者の或る年度の総所得金額のうち、第1号に規定される、変動所得および臨時所得の合計金額(平均課税対象金額)が2割以上を占める場合には、課税総所得金額から平均課税対象金額の5分の4に相当する金額を控除して得られた金額をその年の課税総所得金額とみなして計算して得られた税額と、第2号に規定される、課税総所得金額に相当する金額から調整所得金額―第1号によって得られた課税総所得金額から平均課税対象金額の5分の4に相当する金額を控除して得られる―を控除して得られた金額に、第1号によって得られた金額の調整所得金額に対する割合を乗じて得られた金額をそれぞれ算出し、その合計額を所得税額とするものである。

 

 2.所得控除と税額控除

 所得税法に規定される控除には、所得控除と税額控除の二種類がある。いずれも、納税負担を軽減するためのものであるが、双方には相違点も多い。とくに、行われる段階が異なるので、混同しないように注意が必要である。

 所得控除は、前章において触れたように、所得金額から一定の金額を控除するもので、第72条以下の規定に列挙される控除である。第86条の基礎控除も所得控除の一種であり、他に配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除などがある。納税義務の有無の判断や計算などの際などに簡便であるという利点もあるが、高額所得者に有利となるという問題点もある。

 これに対し、税額控除は、課税総所得金額(など)に税額を乗じて得られた算出税額から一定の金額を控除するもので、第92条および第95条に定められるものである(配当控除、外国税額控除)。所得税法制定時からしばらくの間は種類が多かったが、所得控除に切り替えられたものが多いため、現在は政策的見地によるものしか残っていない〈その代表が、負担軽減措置法第6条および地方税法附則第40条に定められた定率控除であった〉

 

 3.累進税率

 税率についての一般的な説明は「02 課税要件」において行った。第89条に定められる税率は、比例税率ではなく、累進税率であるが、単純累進税率(課税)ではなく、課税標準を多段階に区分した上で段階ごとに逓次に高い税率を適用する超過累進税率(課税)を採用する。

 同第1項は「その年分の課税総所得金額又は課税退職所得金額をそれぞれ次の表の上欄に掲げる金額に区分してそれぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率を乗じて計算した金額」と記している。この表現は少々わかりにくいが、単純累進税率ではなく、超過累進税率を採用するという趣旨である。

 単純累進税率とは、課税標準が大きくなるにつれて、その全体に従って単純に高い税率を適用するというものである。計算が楽であるし、直感的にわかりやすいので、多くの人々は所得税の税率を単純累進税率であると誤解している。しかし、次のような欠陥があり、不合理な結果が生じるため、単純累進税率は採用されていない。例に従って説明する。

 A、Bの2017年度の課税総所得金額が、それぞれ195万円、196万円であるとする。所得税法第89条の表を参照すると、上の欄には195万円以下、195万円を超え330万円以下と出ている。Aの課税総所得金額は195万円なので、そのまま税率を適用すると、

 1,950,000×0.05=97,500

となるから、Aが納付すべき所得税額は9万7500円であり、手許に残る金額は185万2500円となる。

 次にBの課税総所得金額は196万円なので、単純に、195万円を超え330万円以下の場合の税率を適用すると、

 1,960,000×0.1=196,000

となるから、Bが納付すべき所得税額は19万6000円であり、手許に残る金額は176万4000円となる。

 ここで計算した結果を比較していただきたい。課税総所得金額は、BのほうがAより1万円多いだけであるが、納税を済ませた後に手許に残る金額は、逆にAのほうがBより8万8500円も多い。課税総所得金額が多いほうが、手許に残る額が少なくなるという不合理な結果を生じているのである。

 そこで、このような結果を生じさせないために、超過累進税率を採用している。まず、課税標準を多数の段階に区分する。この段階を課税段階、または所得段階という。そして、上の段階に進むに従い、逓次に高い税率を適用する、というものである。各段階に適用される税率を段階税率という。

 先ほどのA、Bの例を使い、超過累進税率によって計算してみる。甲の場合は先ほどと同じであるが、乙の場合が異なる。再び、所得税法第89条の表を参照した上で、次のように計算する。

 まず、196万円を同表に従って区分する。そうすると、最初の195万円までの部分と、195万1円から196万円までの部分とに分かれる。この「それぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率を乗じて計算」するのである。実際には、既に示したように速算表(簡易計算法)があり、それに具体的数字を当てはめれば計算ができるようになっているが、ここでは、超過累進税率の基本を理解するため、まずは第89条に忠実な計算を行うこととする。

 1,950,000×0.05=97,500

 (1,960,000-1,950,000)×0.1=10,000×0.1=1,000

となるから、結局、Bの納税額は9万8500円となる。Bが納税を済ませた後に手許に残る金額は186万1500円となるから、単純累進税率であれば生じる不合理な結果には至らない。

 同じように、2017年の課税総所得金額が350万円である丙の例で計算してみる。表の上の欄には、195万円以下、195万円を超え330万円以下、330万円を超え695万円以下と出ている。そこで、350万円をこれらに区分する。そうすると、

 ①最初の195万円までの部分

 ②195万1円から330万円までの部分

 ③330万1円から350万円までの部分

に分かれる。この「それぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率を乗じて計算」するのであるから、

 ①の部分1,950,000×0.05=97,500

 ②の部分:(3,300,000-1,950,000)×0.1=1,350,000×0.1=135,000

 ③の部分:(3,500,000-3,300,000)×0.2=200,000×0.2=40,000

 これらを合計すると、97,500+135,000+40,000=272,500

 27万2,500円が税額控除前の納税額であり、税額控除の適用がなければ最終的な納税額となる。

 最後に、課税総所得金額が1000万円であるとする。やはり所得税法第89条に従うと、表の上の欄には195万円以下、195万円を超え330万円以下、330万円を超え695万円以下、695万円を超え900万円以下、900万円を超え1800万円以下の金額と出ている。そこで、1000万円をこれらに区分する。そうすると、

 ④最初の195万円までの部分

 ⑤195万1円から330万円までの部分

 ⑥330万1円から695万円までの部分

 ⑦695万1円から900万円までの部分

 ⑧900万円を超えて1000万円までの部分

に分かれる。やはり「それぞれの金額に同表の下欄に掲げる税率を乗じて計算」するのであるから、

 ④の部分:1,950,000×0.05=97,500

 ⑤の部分:(3,300,000-1,950,000)×0.1=1,350,000×0.1=135,000

 ⑥の部分:(6,950,000-3,300,000)×0.2=3,650,000×0.2=730,000

 ⑦の部分:(9,000,000-6,950,000)×0.23=2,050,000×0.23=471,500

 ⑧の部分:(10,000,000-9,000,000)×0.33=1,000,000×0.33=330,000

 これらを合計すると、176万4000円となる。これが税額控除前の納税額であり、税額控除の適用がなければ最終的な納税額となる。

 ■速算表(簡易計算法)の種明かし

 「課税総所得金額が195万円を超え330万円以下」を例として計算例を示す。

 課税総所得金額をa円(但し、195万円<a≦330万円)とすると、

 1,950,000×0.05+(a-1,950,000)×0.1=97,500+0.1a-195,000=0.1a-97,500

 他の税率についても同様に計算すればよい。

 

 4.復興特別所得税

 2011(平成23)年12月2日、法律第117号として東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法(東日本大震災復興財源特別措置法)が公布され、一部の規定を除いて即日施行された。この法律により、復興特別所得税および復興特別法人税が創設されており(第1条を参照)、復興特別所得税については課税の対象が「平成二十五年から平成四十九年までの各年分の所得」とされている(同第9条)。

 復興特別所得税の課税標準は、個人の「その年分の基準所得税額」(同第12条)および法人の基準所得税額(同第26条)である。ここで基準所得税額とは、所得税法などの「所得税の税額の計算に関する法令の規定により計算した所得税の額」をいう(同第10条)。そして、復興特別所得税の税額は、「その年分の基準所得税額に」2.1%の税率を乗じて得られた金額である(個人については同第13条。なお、同第14条以下も参照。法人については同第27条)。

 なお、復興特別法人税については「19 法人税額の計算、および同族会社に対する法人税など(および復興特別法人税)」を参照されたい。

 

 ▲第3版における履歴:2022年5月19日掲載。

 ▲第2版における履歴:「13    所得税法における税額の計算(および復興特別所得税」として、2011年3月16日掲載。

            2012年8月6日補訂。

            2012年8月8日修正。

            2013年10月17日補訂。

            2017年10月18日修正。

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メモ:「AとBとの合計額」の読み方

2022年03月04日 01時16分15秒 | 租税法講義ノート〔第3版〕

 2021年度の講義のために準備していたメモのファイルを基にして、掲載しておきます。

 

 租税法の条文においては、よく「AとBとの合計額」という表現が用いられる。意味はA+B=合計額ということである。

 しかし、「AとBとの合計額」という表現が登場すると、Aに該当する部分は短く、Bに該当する部分は長すぎるという場合が非常に多いため、Bに該当する部分を読んで意味がわからなくなるという方も少なくなかろう。例は後に示すとして、ここでは読み方を解説する。

 どなたかの著作で述べられていたと記憶しているが、とかく租税法の条文は難解になりがちである。いや、悪文と評価してよい。租税特別措置法がその代表であろう。無理矢理に一つの段落(つまり一つの項)、一つの文章に落ち着けようとするため、文章が長くなり、括弧、さらに二重括弧が多用される。息が長すぎる文章であるとも言える。難解な哲学書もかくやと思われる奇怪な文章ばかりが目立つ。

 このように記すと、「これだから租税法は……!」などという声が飛んできそうである。私も、時折、講義の後に受ける質問などでそのように言われる。だから、私は「制度、条文を作った人が悪い」と答えることもある(冗談ではなく、本気である。勿論、私の説明が下手であることを否定はしない)。

 文句ばかり書いては何も始まらないので、本題である。租税法の条文を読む際には、或る文字に注目すれば理解しやすくなる。こういう場合が多い。今回の「Aとの合計額」が代表例である。まずは太字の箇所に注目しよう。「Aと」という部分を見つけたら、必ず、その後に「との」がある。だいぶ先にあるかもしれないが、とにかく「との」を見つけていただきたい。

 「と」、「との」が見つかれば、「と」の前がA、「と」と「との」との間はいかに長くともBであるということがわかる。こうして「Aとの合計額」の意味がわかり、A+B=合計額として計算を進めればよい。

 それでは、所得税法の規定を例にして、解いてみることとしよう。

 例1.給与所得控除の計算方法

 以下、収入金額をXとする。

 ①X≦1,800,000の場合

 所得税法第28条第⒊項第1号は「収入金額が百八十万円以下である場合」であれば給与所得控除の金額は「当該収入金額の百分の四十に相当する金額から十万円を控除した残額(当該残額が五十五万円に満たない場合には、五十五万円)」であると定める。

 同号には「と」→「との」の関係が見当たらない。したがって、

 給与所得控除額=0.4X-100,000≧550,000

 ②1,800,000<X≦3,600,000の場合

 同第2号は「収入金額が百八十万円を超え三百六十万円以下である場合」であれば給与所得控除の金額は「六十二万円当該収入金額から百八十万円を控除した金額の百分の三十に相当する金額との合計額」であると定める。

 ここで「と」(下線部)→「との」(下線部)の関係を見つけることができる。そうすれば「と」の前の赤字の部分がAで、「と」と「との」との間にある青字の部分がBであることがわかるであろう。先程も記したところからおわかりかもしれないが、Bが長くなっているのは租税法の常である。それでも「と」→「との」の対応関係がわかれば「AとBとの合計額」の形になってこともすぐにわかる。したがって、

 給与所得控除額=620,000+0.3 (X-1,800,000)

  ③3,600,000<X≦6,600,000の場合

 同第3号は「収入金額が三百六十万円を超え六百六十万円以下である場合」であれば給与所得控除の金額は「百十六万円当該収入金額から三百六十万円を控除した金額の百分の二十に相当する金額との合計額」であると定める。

 ここでも「と」(下線部)→「との」(下線部)の関係を見つけることができる。やはり「と」の前の赤字の部分がAで、「と」と「との」との間にある青字の部分がBであることがわかり、「AとBとの合計額」の形になってこともすぐにわかる。したがって、

 給与所得控除額=1,160,000+0.2(Y-3,600,000)

 ④6,600,000<X≦8,500,000の場合

 同第4号は「収入金額が六百六十万円を超え八百五十万円以下である場合」であれば給与所得控除の金額は「百七十六万円当該収入金額から六百六十万円を控除した金額の百分の十に相当する金額との合計額」であると定める。

 ここでも「と」(下線部)→「との」(下線部)の関係を見つけることができる。やはり「と」の前の赤字の部分がAで、「と」と「との」との間にある青字の部分がBであることがわかり、「AとBとの合計額」の形になってこともすぐにわかる。したがって、

 給与所得控除額=1,760,000+0.1(X-6,600,000)

  ⑤X>8,500,000の場合

 同第5号は「収入金額が八百五十万円を超える場合」であれば給与所得控除の金額は195万円であると定める。説明の必要も何もないが、第28条第⒊項第1号もあげたので記した。

 例2.退職所得控除の計算方法

 以下、勤続年数をYとする。

 ①Y≦20の場合

 所得税法第30条第3項第1号は「政令で定める勤続年数(以下この項及び第六項において「勤続年数」という。)が二十年以下である場合」であれば退職所得控除額は「四十万円に当該勤続年数を乗じて計算した金額」であると定める。

 これは特に難しい訳でもない。単に退職所得控除額=400,000Y であるというにすぎない。

 ②Y>20

 同第2号は「勤続年数が二十年を超える場合」であれば退職所得控除額は「八百万円と七十万円に当該勤続年数から二十年を控除した年数を乗じて計算した金額との合計額」と定める。

 ここでは赤字、青字、下線という加工をしないので、退職所得控除額の算出方法を条文から見出していただきたい。

 退職所得控除額=8,000,000+700,000×(Y−20)

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メモ:n分n乗方式

2022年03月03日 23時35分00秒 | 租税法講義ノート〔第3版〕

 2021年度の講義のために準備していたメモのファイルを、少々手を加えた上で掲載しておきます。

 

 n分n乗方式は、課税方式の一つである。ここで、nは正の整数を意味する。

 この方式においては、次のように税額を計算する。

 ①各種所得の計算の方法に従い、課税総所得金額(など)を算出する。

 ②算出した所得金額をnで割り、その金額に税率を乗じる。

 nで分割するからn分という。

 ③②で得られた金額にnをかけ、税額を算出する。

 nを乗ずるのでn乗という。数学の2乗(例、32)、3乗(例、33)などと混同しないこと。

 例1 二分二乗方式 

 Aの課税総所得金額が300万円であるとする。

 上記②に従って計算すると、 3,000,000÷2=1,500,000

 この金額に所得税法第89条第1項に規定される税率を乗じると、 1,500,000×0.05=75,000

 この金額を2倍すると150,000円という所得税額を得られる。

 仮に二分二乗方式を採らないと、所得税額は202,500円となる。

 (∵3,000,000×0.1-97,500=202,500)

 

 例2 五分五乗方式

 Bの課税総所得金額が1,000万円であるとする。

 上記②に従って計算すると、 10,000,000÷5=2,000,000

 この金額に所得税法第89条第1項に規定される税率を乗じると、 2,000,000×0.1-97,500=102,500

 この金額を5倍すると512,500円という所得税額を得られる。

 仮に五分五乗方式を採らないと、所得税額は1,764,000円となる。

 (∵10,000,000×0.33-1,536,000=1,764,000)

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暫定版 印紙税その2

2022年02月14日 00時00分00秒 | 租税法講義ノート〔第3版〕

 6.印紙税の課税標準および税率

 印紙税の課税標準は文書の数である。

 また、税率は、別表第一の各号による課税文書の区分に応じ、「同表の課税標準及び税率の欄に定めるところによる」(印紙税法第7条)。

 ここで、第1号文書、第2号文書、第7号文書、第8号文書および第17号文書について税率をみていくこととする。

 (1)第1号文書の税率

 ①契約金額の記載のある契約書の場合

 契約金額が1万円未満のもの:非課税

 契約金額が10万円以下のもの:税率(一通につき。以下同じ)は200円

 契約金額が10万円を超え50万円以下のもの:税率は400円

 契約金額が50万円を超え100万円以下のもの:税率は1,000円

 契約金額が100万円を超え500万円以下のもの:税率は2,000円

 契約金額が500万円を超え1000万円以下のもの:税率は1万円

 契約金額が1000万円を超え5000万円以下のもの:税率は2万円

 契約金額が5000万円を超え1億円以下のもの:税率は6万円

 契約金額が1億円を超え5億円以下のもの:税率は10万円

 契約金額が5億円を超え10億円以下のもの:税率は20万円

 契約金額が10億円を超え50億円以下のもの:税率は40万円

 契約金額が50億円を超えるもの:税率は60万円

 ②契約金額の記載のない契約書の場合:一通につき200円

 (2)第2号文書の税率

 ①契約金額の記載のある契約書の場合

 契約金額が1万円未満のもの:非課税

 契約金額が100万円以下のもの:税率(一通につき。以下同じ)200円

 契約金額が100万円を超え200万円以下のもの:税率は400円

 契約金額が200万円を超え300万円以下のもの:税率は1,000円

 契約金額が300万円を超え500万円以下のもの:税率は2,000円

 契約金額が500万円を超え1000万円以下のもの:税率は1万円

 契約金額が1000万円を超え5000万円以下のもの:税率は2万円

 契約金額が5000万円を超え1億円以下のもの:税率は6万円

 契約金額が1億円を超え5億円以下のもの:税率は10万円

 契約金額が5億円を超え10億円以下のもの:税率は20万円

 契約金額が10億円を超え50億円以下のもの:税率は40万円

 契約金額が50億円を超えるもの:税率は60万円

 ②契約金額の記載のない契約書の場合:一通につき200円

 (3)第7号文書の税率

 一通につき4,000円

 (4)第8号文書の税率

 一通につき200円

 (5)第17号文書の税率

 ①売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書で受取金額の記載のある場合

 契約金額が5万円未満のもの:非課税

 契約金額が100万円以下のもの:税率(一通につき。以下同じ)は200円

 契約金額が100万円を超え200万円以下のもの:税率は400円

 契約金額が200万円を超え300万円以下のもの:税率は600円

 契約金額が300万円を超え500万円以下のもの:税率は1,000円

 契約金額が500万円を超え1000万円以下のもの:税率は2,000円

 契約金額が1000万円を超え2000万円以下のもの:税率は4,000円

 契約金額が2000万円を超え3000万円以下のもの:税率は6,000円

 契約金額が3000万円を超え5000万円以下のもの:税率は1万円

 契約金額が5000万円を超え1億円以下のもの:税率は2万円

 契約金額が1億円を超え2億円以下のもの:税率は4万円

 契約金額が2億円を超え3億円以下のもの:税率は6万円

 契約金額が3億円を超え5億円以下のもの:税率は10万円

 契約金額が5億円を超え10億円以下のもの:税率は15万円

 契約金額が10億円を超えるもの:税率は20万円

 ② ①以外の受取書の税率

 200円(一通につき)

 

 7.印紙税の納付など(「2.印紙税の例(領収書)」も参照

 5つの方法があるが、(1)の方法が原則である。

 (1)課税文書に収入印紙を貼り付け、その文書と収入印紙の彩紋とにかけて消印をする。

 参照 印紙税法より

 第8条 課税文書の作成者は、次条から第12条までの規定の適用を受ける場合を除き、当該課税文書に課されるべき印紙税に相当する金額の印紙(以下「相当印紙」という。)を、当該課税文書の作成の時までに、当該課税文書にはり付ける方法により、印紙税を納付しなければならない。

 2 課税文書の作成者は、前項の規定により当該課税文書に印紙をはり付ける場合には、政令で定めるところにより、当該課税文書と印紙の彩紋とにかけ、判明に印紙を消さなければならない。

 第22条 次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

  一 第8条第1項の規定による相当印紙のはり付けをしなかつた者

  二 第11条第4項又は第12条第5項の規定による申告書をその提出期限までに提出しなかつた者

  三 第16条の規定に違反した者

  四 第18条第1項又は第2項の規定による帳簿の記載をせず、若しくは偽り、又はその帳簿を隠匿した者

 第23条 次の各号のいずれかに該当する者は、30万円以下の罰金に処する。

  一 第8条第2項の規定に違反した者

  二 第11条第3項又は第12条第3項の規定による表示をしなかつた者

  三 第17条第1項の規定による申告をせず、又は同条第2項の規定による届出をしなかつた者

 (2)課税文書に「税印」を押捺する。「税印」は右のような印である(印紙税法施行規則別表第三)。

 参照 印紙税法より

 第9条 課税文書の作成者は、政令で定める手続により、財務省令で定める税務署の税務署長に対し、当該課税文書に相当印紙をはり付けることに代えて、税印(財務省令で定める印影の形式を有する印をいう。次項において同じ。)を押すことを請求することができる。

 2 前項の請求をした者は、次項の規定によりその請求が棄却された場合を除き、当該請求に係る課税文書に課されるべき印紙税額に相当する印紙税を、税印が押される時までに、国に納付しなければならない。

(3)印紙税納付計器を使用して納付する(条文の引用の箇所にある2つの写真データは、印紙税法施行規則別表第四に示された印紙税納付計器による納付印である)。

 参考 印紙税法より

 第10条 課税文書の作成者は、政令で定めるところにより、印紙税納付計器(印紙税の保全上支障がないことにつき、政令で定めるところにより、国税庁長官の指定を受けた計器(第16条及び第18条第2項において「指定計器」という。)で、財務省令で定める形式の印影を生ずべき印(以下「納付印」という。)を付したものをいう。以下同じ。)を、その設置しようとする場所の所在地の所轄税務署長の承認を受けて設置した場合には、当該課税文書に相当印紙をはり付けることに代えて、当該印紙税納付計器により、当該課税文書に課されるべき印紙税額に相当する金額を表示して納付印を押すことができる。

 2 前項の承認を受けて印紙税納付計器を設置する者は、政令で定めるところにより、同項の税務署長の承認を受けて、その者が交付を受ける課税文書の作成者のために、その交付を受ける際、当該作成者が当該課税文書に相当印紙をはり付けることに代えて、当該印紙税納付計器により、当該課税文書に課されるべき印紙税額に相当する金額を表示して納付印を押すことができる。

 3 第1項の承認を受けた者は、前2項の規定により印紙税納付計器を使用する前に、政令で定めるところにより、第1項の税務署長に対し、当該印紙税納付計器により表示することができる印紙税額に相当する金額の総額を限度として当該印紙税納付計器を使用するため必要な措置を講ずることを請求しなければならない。

 4 前項の請求をした者は、同項の表示することができる金額の総額に相当する印紙税を、同項の措置を受ける時までに、国に納付しなければならない。

 5 第1項の承認を受けた者が印紙税に係る法令の規定に違反した場合その他印紙税の取締り上不適当と認められる場合には、税務署長は、その承認を取り消すことができる。

 6 税務署長は、印紙税の保全上必要があると認めるときは、政令で定めるところにより、印紙税納付計器に封を施すことができる。

 7 第1項又は第2項の規定により印紙税に相当する金額を表示して納付印を押す方法について必要な事項は、財務省令で定める。

 (4)課税文書について、所轄税務署長の承認を受けて金銭で納付する。その場合には、課税文書に一定の表示をするとともに、翌月末日を期限として納税申告書を所轄税務署長に提出しなければならない。「2.印紙税の例(領収書)」において示した「駅の自動券売機で乗車券などを購入した時に発行される領収書」がこの例である。

 参考 印紙税法より

 (書式表示による申告及び納付の特例)

 第11条 課税文書の作成者は、課税文書のうち、その様式又は形式が同一であり、かつ、その作成の事実が後日においても明らかにされているもので次の各号の一に該当するものを作成しようとする場合には、政令で定めるところにより、当該課税文書を作成しようとする場所の所在地の所轄税務署長の承認を受け、相当印紙のはり付けに代えて、金銭をもつて当該課税文書に係る印紙税を納付することができる。

  一 毎月継続して作成されることとされているもの

  二 特定の日に多量に作成されることとされているもの

 2 前項の承認の申請者が第15条の規定により命ぜられた担保の提供をしない場合その他印紙税の保全上不適当と認められる場合には、税務署長は、その承認を与えないことができる。

 3 第1項の承認を受けた者は、当該承認に係る課税文書の作成の時までに、当該課税文書に財務省令で定める書式による表示をしなければならない。

 4 第1項の承認を受けた者は、政令で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した申告書を、当該課税文書が同項第1号に掲げる課税文書に該当する場合には毎月分(当該課税文書を作成しなかつた月分を除く。)をその翌月末日までに、当該課税文書が同項第2号に掲げる課税文書に該当する場合には同号に規定する日の属する月の翌月末日までに、その承認をした税務署長に提出しなければならない。

  一 その月中(第1項第2号に掲げる課税文書にあつては、同号に規定する日)に作成した当該課税文書の号別及び種類並びに当該種類ごとの数量及び当該数量を税率区分の異なるごとに合計した数量(次号において「課税標準数量」という。)

  二 課税標準数量に対する印紙税額及び当該印紙税額の合計額(次項において「納付すべき税額」という。)

  三 その他参考となるべき事項

 5 前項の規定による申告書を提出した者は、当該申告書の提出期限までに、当該申告書に記載した納付すべき税額に相当する印紙税を国に納付しなければならない。

 6 第1項第1号の課税文書につき同項の承認を受けている者は、当該承認に係る課税文書につき同項の適用を受ける必要がなくなつたときは、政令で定める手続により、その旨を同項の税務署長に届け出るものとする。

 ▲第3項にいう「表示」の例が「2.印紙税の例(領収書)」にある「駅の自動券売機で乗車券などを購入した時に発行される領収書」の「印紙税申告納付につき渋谷税務署承認済」である。これは印紙税法施行規則別表第五第2号によっている(縦書きであれば第1号による)。

 (5)預貯金通帳等に係る一括納付

 参考 印紙税法より

 (預貯金通帳等に係る申告及び納付等の特例)

 第12条 別表第一第18号及び第19号の課税文書のうち政令で定める通帳(以下この条において「預貯金通帳等」という。)の作成者は、政令で定めるところにより、当該預貯金通帳等を作成しようとする場所の所在地の所轄税務署長の承認を受け、相当印紙の貼付けに代えて、金銭をもつて、当該承認の日以後の各課税期間(4月1日から翌年3月31日までの期間をいう。以下この条において同じ。)内に作成する当該預貯金通帳等に係る印紙税を納付することができる。

 2 前項の承認の申請者が第15条の規定により命ぜられた担保の提供をしない場合その他印紙税の保全上不適当と認められる場合には、税務署長は、その承認を与えないことができる。

 3 第1項の承認を受けた者は、当該承認に係る預貯金通帳等に、課税期間において最初の付込みをする時までに、財務省令で定める書式による表示をしなければならない。ただし、既に当該表示をしている預貯金通帳等については、この限りでない。

 4 第1項の承認を受けた場合には、当該承認を受けた者が課税期間内に作成する当該預貯金通帳等は、当該課税期間の開始の時に作成するものとみなし、当該課税期間内に作成する当該預貯金通帳等の数量は、当該課税期間の開始の時における当該預貯金通帳等の種類ごとの当該預貯金通帳等に係る口座の数として政令で定めるところにより計算した数に相当する数量とみなす。

 5 第1項の承認を受けた者は、政令で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した申告書を、課税期間ごとに、当該課税期間の開始の日から起算して一月以内に、その承認をした税務署長に提出しなければならない。

  一 当該承認に係る預貯金通帳等の課税文書の号別及び当該預貯金通帳等の種類並びに当該種類ごとの前項に規定する政令で定めるところにより計算した当該預貯金通帳等に係る口座の数に相当する当該預貯金通帳等の数量及び当該数量を当該号別に合計した数量(次号において「課税標準数量」という。)

  二 課税標準数量に対する印紙税額及び当該印紙税額の合計額(次項において「納付すべき税額」という。)

  三 その他参考となるべき事項

 6 前項の規定による申告書を提出した者は、当該申告書の提出期限までに、当該申告書に記載した納付すべき税額に相当する印紙税を国に納付しなければならない。

 7 第一項の承認を受けている者は、当該承認に係る預貯金通帳等につき同項の適用を受ける必要がなくなつたときは、政令で定めるところにより、その旨を同項の税務署長に届け出るものとする。

 ▲第3項にいう「表示」は印紙税法施行規則別表第五第1号または同第2号による。すなわち、「(4)課税文書について、所轄税務署長の承認を受けて金銭で納付する」場合と同じである。

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暫定版 印紙税その1

2022年02月13日 13時10分00秒 | 租税法講義ノート〔第3版〕

 1.流通税

 流通税とは、権利の取得や移転など、取引に関する様々な事実、事実行為や法律行為を対象(課税物件)として課される租税をいう。例として、印紙税、登録免許税、とん税、特別とん税、不動産取得税、自動車取得税があげられる。また、事実または事実行為を課税物件とする流通税の例が印紙税であり、法律行為を課税物件とする流通税の例が不動産取得税である。

 とん税および特別とん税を流通税と位置づけるのは、金子宏『租税法』〔第二十四版〕(2021年、弘文堂)17頁である。これに対し、石村耕治編『税金のすべてがわかる現代税法入門塾』〔第10版〕(2020年、清文社)12頁は個別消費税と位置づける。

 

  2.印紙税の例(領収書)

  印紙税(法)について説明を行う前に、具体的な例を見ていただくこととしよう。いずれも、少々古いが2018年に講義担当者が取得した領収書・受領証の写真データである。

    

 まずは郵便局の振込用紙の右側にある「振替払込請求書兼受領証」(これが領収書として扱われることも多い)である。左側の写真データは「振替払込請求書兼受領証」の表面である(「ご依頼人」欄の住所の部分のみ加工した)。これは印紙税法別表第一第17号の1文書に該当するので課税文書(後述)となる。

 次に右側の写真データである。これは「振替払込請求書兼受領証」の裏面である。受領金額(受取金額)が86,400円であり、これは5万円以上100万円の金額であるから、青い円で囲まれた部分が示すように200円の収入印紙が貼られている。さらに、収入印紙と、それが貼られていない部分とに跨がって「渋谷中央街郵便局長印」の消印が押されている。

 印紙税(法)では、収入印紙も重要であるがそれ以上に消印が重要である。印紙税法第8条第2項によって領収書等の発行者は消印を押すことが義務付けられており、この消印を押さなかったならば、同第23条第1号により、30万円以下の罰金に処せられる。

 次に、駅の自動券売機で乗車券などを購入した時に発行される領収書である。

 このようなものは、印紙税法第11条第1項にいう「課税文書のうち、その様式又は形式が同一であり、かつ、その作成の事実が後日においても明らかにされているもの」であり、しかも同第1号にいう「毎月継続して作成されることとされているもの」であるから、「課税文書の作成者」〔この例では東京急行電鉄株式会社(現在の東急電鉄株式会社)〕は「当該課税文書を作成しようとする場所の所在地の所轄税務署長」(この例では渋谷税務署長)の承認を受けて、印紙の貼り付けではなく、金銭によって印紙税を納付することが認められる。

 なお、この例そのものにおいて印紙税は非課税である(受取金額が5万円未満であるため)。5万円以上の乗車券(定期券など)を購入した場合、家電量販店で5万円以上の品物を購入した場合などに特に大きな意味を持つこととなる。領収書・レシートの類をよく見てみるとよい。

 ▲クレジットカード払いで物品を購入した場合で、領収書にクレジットカード利用に関する記載があるときには、金銭などの受領の事実がないことにより、印紙税は課税されない。これに対し、領収書にクレジットカード利用に関する記載がないときには、印紙税が課税される。

 

 3.印紙税の課税根拠

 印紙税の課税根拠として、契約書など、印紙税法に定められる課税文書は各種の経済取引を表現するものであるから、担税力の間接的表現である、と説明される〈金子・前掲書873頁〉

 

 4.印紙税の納税義務者

 印紙税の納税義務者は、印紙税法第3条第1項により、同法別表第一の課税物件の欄に掲げる文書(但し、同第5条によって非課税とされる文書を除く)を作成した者である。また、同第3条第2項は、一つの課税文書を複数の者が共同で作成した場合には、その者らが課税文書について連帯して印紙税を納税する義務がある旨を定める。

 また、同第4条は課税文書の作成とみなす場合を定める。例えば、約束手形または為替手形(印紙税法別表第一第3号に掲げるもの)で手形金額の記載のないものに手形金額の補充を行った者は、補充をした時に約束手形または為替手形を作成したものとみなされる(同第4条第1項)。別表第一第18号から第20号までに定められた課税文書(預貯金の通帳など)を1年以上にわたって継続して使用する場合には、その課税文書を作成した日から1年を経過した日以後に最初の付け込みをした時点においてその課税文書を新たに作成したものとみなされる(同第4条第1項)。いわゆるみなし規定なので、同条各項に定められた行為を行った者は印紙税の納税義務者として扱われる。

 他方、国、地方公共団体および別表第二に掲げられる法人(国立大学法人、日本赤十字社、日本年金機構など)は、印紙税の納税義務者ではない(同第5条第2号)。また、同第3号により、別表第三の上欄に掲げられる文書を作成した、別表第三の下欄に掲げられる者は、印紙税の納税義務者ではない。

 

 5.印紙税の課税物件

 印紙税法第2条は、「別表第一の課税物件の欄に掲げる文書には、この法律により、印紙税を課する」と定める。また、印紙税法基本通達第2条は、「法に規定する『課税文書』とは、課税物件表の課税物件欄に掲げる文書により証されるべき事項(以下『課税事項』という。)が記載され、かつ、当事者の間において課税事項を証明する目的で作成された文書のうち、法第5条《非課税文書》の規定により印紙税を課さないこととされる文書以外の文書をいう」と定める。

 これらの規定からは、印紙税の課税要件が文書そのものであると読みとりうるし、一般的にもそのように言われるが、厳密に言えば、納税義務者が別表第一に掲げる文書を作成すること(事実行為)が印紙税の課税物件である。従って、課税物件とされる文書を作成すれば、その基となる契約などの法律行為の効力とは無関係に課税要件は充足されてしまう〈金子・前掲書874頁。鳥飼重和(著)・日本経営税務法務研究会(編)『法的思考が身に付く実務に役立つ印紙税の考え方と実践』(2017年、新日本法規)35頁も「契約書があれば、契約どおりの取引が実行されなくても、課税文書であることに変わりはありません」と説明する〉。すなわち、経済取引そのものに課税されるという訳ではない。また、注意していただきたいのは、印紙税法が契約書などの文書の作成を義務付けていないことである鳥飼・前掲書35頁。山端美德・野川悟志『間違うと痛い!! 印紙税の実務Q&A 4646答』(2018年、大蔵財務協会)9頁〉

 文書が課税文書にあたるか否か、例えば、契約書として作成された文書が課税文書としての契約書に該当するか否かが問題となることがありうる。そこで、印紙税法基本通達第3条第1項は、「文書が課税文書に該当するかどうかは、文書の全体を一つとして判断するのみでなく、その文書に記載されている個々の内容についても判断するものとし、また、単に文書の名称又は呼称及び形式的な記載文言によることなく、その記載文言の実質的な意義に基づいて判断するものとする」と定める。また、同第2項は、「前項における記載文言の実質的な意義の判断は、その文書に記載又は表示されている文言、符号を基として、その文言、符号等を用いることについての関係法律の規定、当事者間における了解、基本契約又は慣習等を加味し、総合的に行うものとする」と定める。印紙税法基本通達は法令でなく行政規則たる通達に過ぎないから国民に対する法的拘束力を有しないが、解釈の基準を示すものとして重要である。

 文書が印紙税法に定められる課税文書であるためには、たとえば契約書に示されるべき「重要事項」、すなわち契約が成立するために通常必要とされる事項が記載されていなければならない。そこで、印紙税法基本通達別表第二は、「重要事項」を契約書の類型ごとに一覧表として示している(同第12条、同第17条、同第18条および同第38条も参照)。

 前述のように、印紙税法第2条は印紙税の課税物件を別表第一に示された文書とする。同法の「別表第一 課税物件表(第2条―第5条、第7条、第11条、第12条関係)」は、第1号〜第20号として課税文書を限定列挙する(「課税物件表の適用に関する通則」も参照)。一部を抜粋しておく(表記を変更した箇所がある。また、定義の一部も省略した)。

 第1号文書:「1 不動産、鉱業権、無体財産権、船舶若しくは航空機又は営業の譲渡に関する契約書」

 「2 地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書」

 「3 消費貸借に関する契約書」

 「4 運送に関する契約書(傭船契約書を含む。)」

 第2号文書:「請負に関する契約書」。この「請負」は「職業野球の選手、映画の俳優その他これらに類する者で政令で定めるものの役務の提供を約することを内容とする契約」が含まれる。

 第7号文書:「継続的取引の基本となる契約書(契約期間の記載のあるもののうち、当該契約期間が三月以内であり、かつ、更新に関する定めのないものを除く。)」

 「継続的取引の基本となる契約書」の定義は「特約店契約書、代理店契約書、銀行取引約定書その他の契約書で、特定の相手方との間に継続的に生ずる取引の基本となるもののうち、政令で定めるもの」。

 第8号文書:「預貯金証書」

 第17号文書:領収書のこと。大別すると次の二種となる。

 第17号の1文書=「売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書」:次のように定義される。

 「資産を譲渡し若しくは使用させること(当該資産に係る権利を設定することを含む。)又は役務を提供することによる対価(手付けを含み、金融商品取引法(昭和23年法律第25号)第2条第1項(定義)に規定する有価証券その他これに準ずるもので政令で定めるものの譲渡の対価、保険料その他政令で定めるものを除く。以下「売上代金」という。)として受け取る金銭又は有価証券の受取書をいい、次に掲げる受取書を含む。

 イ 当該受取書に記載されている受取金額の一部に売上代金が含まれている金銭又は有価証券の受取書及び当該受取金額の全部又は一部が売上代金であるかどうかが当該受取書の記載事項により明らかにされていない金銭又は有価証券の受取書

 ロ 他人の事務の委託を受けた者(以下この欄において「受託者」という。)が当該委託をした者(以下この欄において「委託者」という。)に代わつて売上代金を受け取る場合に作成する金銭又は有価証券の受取書(銀行その他の金融機関が作成する預貯金口座への振込金の受取書その他これに類するもので政令で定めるものを除く。ニにおいて同じ。)

 ハ 受託者が委託者に代わつて受け取る売上代金の全部又は一部に相当する金額を委託者が受託者から受け取る場合に作成する金銭又は有価証券の受取書

 ニ 受託者が委託者に代わつて支払う売上代金の全部又は一部に相当する金額を委託者から受け取る場合に作成する金銭又は有価証券の受取書」

 「資産の譲渡」の対価の例:物品の売上対価、不動産の売却代金

 「資産の使用」の対価の例:土地建物の賃貸料、貸付金の利息、リース料

 「役務の提供」の対価の例:請負代金、運送料

 第17号の2文書=「金銭又は有価証券の受取書で1に掲げる受取書以外のもの」

 例、借入金の受取書、敷金の受取書、預貯金の受取書、各種会費の受取書

 文書の中には、二つ以上の性格(印紙税法などでは「所属」)を有するものがある。その扱い方については、印紙税法別表第一の冒頭にある「課税物件表の適用に関する通則」の2および3に示された原則により、第1号〜第20号のいずれに「所属」するかが決められることとなる。実際には、印紙税法基本通達第10条・第11条に従って決めていくこととなる。以下、同第11条に示される例をあげておく。

 例① 不動産及び債権売買契約書

 不動産売買契約書(第1号文書)+債権売買契約書(第15号文書)=第1号文書

 例② 工事請負及びその工事の手付金の受取事実を記載した契約書

 工事請負契約書(第2号文書)+手付金の受け取り事実を記載した契約書(第17号文書)=第2号文書

 例③ 売掛金800万円のうち600万円を領収し、残額200万円を消費貸借の目的とすると記載された文書

 600万円を領収したという部分(第17号の1文書)+200万円を消費貸借の目的とすると記載された部分(第1号文書)=第17号の1文書

 例④ 機械製作及びその機械の運送契約書で、それぞれの事項に関する金額を区分することができないもの

 機械製作の契約書(第2号文書)+機械運送契約書(第1号文書)=第1号文書

 例⑤ 機械の製作費が20万円、その機械の運送料が10万円と記載されている文書

 課税事項ごとの契約金額が区分されており、機械の製作費が運送料を超えているので、第2号文書となる(第2号文書に示される金額>第1号文書に示される金額)

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暫定版 登録免許税

2022年01月14日 00時00分00秒 | 租税法講義ノート〔第3版〕

 1.登録免許税とは

 登録免許税は、登記、登録、特許、免許、許可、認可、認定、指定および技能証明(以下、登記等とまとめて記すことがある)について課される国税である(登録免許税法第2条)。

 登録免許税の課税物件、課税標準および税率は、全て登録免許税法別表第一に示されている(同第2条および同第9条も参照)。別表第一の第1号から第160号まで課税物件が列挙されており、それぞれについて課税標準および税率が定められている訳である。

 登録免許税の性質については、登録免許税を手数料などと捉える見解と、手数料などではなく租税であると捉える見解がある。後者は、登録や登記による利益に担税力が見いだされると考えるのである。

 ●東京地判昭和38年11月28日行集14巻11号1936頁

 事案:昭和35年4月7日に司法修習を終えたXは、同日、東京弁護士会経由で日本弁護士連合会に対し弁護士名簿への登録の請求を行った。Xは同日に弁護士名簿に登録されたが、日本弁護士会連合会に対して登録料5000円(同会則第23条)を納付したものの、当時の登録税法第7条が定める新規登録のための登録税3000円を納付しなかった。日本弁護士連合会は納付を求めたが、Xは登録税法第7条が無効であるなどと主張し、納付義務がないことの確認を求めて出訴した。その際に、Xは登録税について「税金というよりはむしろ受益者負担の原則に従う手数料としての性格しか有しないのが現状である」とも主張している。

 判旨:東京地方裁判所は、Xの請求のうち、登録税法第7条の無効確認に係る部分を却下し、その他の部分を棄却した。

 ①「わが国の現行法制上、裁判所は、特定の者の間の具体的な法律関係についての争訟につき裁判するに際し、前提問題としてその適用が問題となる法令の有効無効を判断し、有効とみればその法令を適用し無効とみればその適用を拒否する権限を有しまたそうすべき職責を有するが、それが直接個人の具体的な権利義務に影響を与えない限り、法令自体の効力を裁判の対象とすることは許されないと解すべきである。(中略)登録税法第7条は、単に所定の登録の請求をする者に登録税を納付すべき義務を定めただけであるから、同条が直接原告の具体的な権利義務に影響を与えるものでないことは明白であり、しかも原告は登録税を納付することなくすでに弁護士名簿に登録されたというのであるから、もし追徴措置がとられる虞があれば本件におけるように登録税法第7条の無効を前提とする登録税納付義務の不存在確認の訴を提起し、またもし将来具体的に徴収処分がなされたときまたは原告が登録申請等具体的な申請をした場合に登録税不納付を理由に却下されるようなことがあつたときは、これらの処分に対する抗告訴訟を提起し、これらの訴訟において前提問題として登録税法第7条の無効を主張するという方法によれば足りるのである」。

 ②「登録税の廃止についてはもとより法律によることを必要とするところ、現行弁護士法の制定に伴い、この点につき何らの立法措置がとられていないのであるから、登録税法第7条の規定を死文化したものとみることができないことは明らかであり、従前国の行政機関が取り扱つてきた弁護士登録を日本弁護士連合会に行わせることとした現行弁護士法の施行と同時に、弁護士登録についての国の課税権は消滅したとか日本弁護士連合会へ委譲されたとかいうXの主張は根拠がない」。

 ③「登録税は登録を申請する者が登録をうけた場合それにより何らかの利益を享受するであろうことに着眼して国の財政収入の目的から課される一種の租税であつて単なる手数料ではなく、登録税法第7条の定める登録税債権が成立するためには、弁護士名簿への登録という事実が存在すれば足り、その登録が国の本来の行政機関によりなされたことは必要でないと解すべきであるから、弁護士登録が日本弁護士連合会によつて行われるようになつた今日でも、弁護士登録という事実の存する限り課税の根拠が失われたということはできない」。

 ④「登録税は、登録に関する書類に収入印紙を貼付して納付するのが原則であるが、一定の場合には現金をもつて納付することが許されている(登録税法第17条、第17条の2第2項、同法施行規則第1条、第2条参照)。そこで、登録申請者としては通常登録申請書に登録税額相当の収入印紙を貼付して申請すれば納付義務を履行したことになるのであり、また現金納付の場合にも一定の書式の納付書を当該登録税額に相当する現金に添えて最寄の日本銀行本店または代理店等に納付すればよいのである(登録税法施行規則第2条ノ規定ニ依ル登録税ノ納付ニ関スル件-昭和20・10・11大蔵省令第85号等参照)。したがつて、弁護士名簿登録についての登録税につき登録機関等の印紙消印の権限ないし義務についての法規が明確でないことがあるにしても、そうだからといつて徴収機関がないとか納付方法がないとかいうことはできない」。

 〔Xは控訴したが、東京高判昭和39年3月19日税務訴訟資料38号178頁は控訴を棄却した。また、最一小判昭和42年8月24日税資48号368頁もXの上告を棄却した。〕

 

 2.登録免許税の納税義務者

 登録免許税法第3条前段は、登録免許税の納税義務者を「登記等を受ける者」とする。この「登記等を受ける者」が複数存在する場合には、それらの者が「連帯して登録免許税を納付する義務を負う」(同後段)。連帯納付義務を負う場合の例としては、AとBが建物を共有しており、両者が連名で保存登記をするとき(建物を新築した時などに行う)、所有権移転登記(登記権利者と登記義務者の両者が連帯納税義務を負う)をあげることができる。

 一方、同第4条第1項は「国及び別表第二に掲げる者が自己のために受ける登記等については、登録免許税を課さない」とする。また、同第2項は「別表第三の第一欄に掲げる者が自己のために受けるそれぞれ同表の第三欄に掲げる登記等(同表の第四欄に財務省令で定める書類の添附があるものに限る旨の規定がある登記等にあつては、当該書類を添附して受けるものに限る。)については、登録免許税を課さない」とする。

 さらに、やや特殊とも言えるが、同第6条第1項は「外国政府が当該外国の大使館、公使館又は領事館その他これらに準ずる施設(次項において「大使館等」という。)の敷地又は建物に関して受ける登記については、政令で定めるところにより、登録免許税を課さない」と定める。但し、同項の規定が適用されるのは「同項の外国が、その国において日本国の大使館等の敷地又は建物に関する登記若しくは登録又はこれらに準ずる行為について課する租税を免除する場合に限」られる(同第2項)。

 

 3.登録免許税の課税物件

 前述のように、登録免許税の課税物件は登録免許税法第2条および同別表第一に示される。但し、同第5条、同第7条に定められる事項については非課税である。また、租税特別措置法にも非課税や免税が定められている。

 

 4.登録免許税の課税標準および税率

 登録免許税の課税標準および税率は、原則として別表第一に定められるところによる(登録免許税法第9条)。なお、登録免許税の税額は、納税義務の成立と同時に確定する(自動確定方式。国税通則法第15条第3項第5号)。

 また、登録免許税法第10条第1項は、別表第一に掲げられる不動産等の登記または登録の場合における課税標準としての価額を「当該登記又は登録の時における不動産等の価額」(不動産については「所有権以外の権利その他処分の制限」がないものとした場合の価額」)とする(同第2項以下も参照)。

 税率については是非とも別表第一を参照していただきたいが、ここでは多くの特例のうち、若干のものを取り上げておく。

 ①2023(令和5)年3月31日までに土地の売買による所有権移転登記をする場合については税率が1000分の15に、所有権の信託登記については1000分の3に軽減される(租税特別措置法第72条第1項。仮登記については同第2項および同第3項を参照)。

 ②2022年3月31日までに新築された住宅を売買によって取得して所有権移転登記をする場合については、その住宅が耐火建築物または準耐火建築物であるなど一定の要件を充たす場合に限り、税率が1000分の3に軽減される(同第73条)。

 ③中古住宅についても②と同様の特例がある(同条)。

 ④2022(令和4)年3月31日までに新築された住宅の所有権保存登記については、その住宅が耐火建築物または準耐火建築物であるなど一定の要件を充たす場合に限り、税率が1000分の1.5に軽減される(租税特別措置法第72条の2)。また、2022年3月31日までに新築された特定認定長期優良住宅または認定低炭素系住宅の所有権保存登記についても、一定の要件を充たすことにより税率が1000分の1(一戸建ての特定認定長期優良住宅については1000分の2)に軽減される(特定認定長期優良住宅については同第74条、認定低炭素系住宅については同第74条の2)。

 ⑤2022年3月31日までに、宅地建物取引業者による改修工事が行われた中古住宅で一定の要件を充たすものを取得して所有権移転登記をする場合には、税率が1000分の1に軽減される(同第74条の3)。

 ちなみに、登記簿の表題登記は別表第一に掲げられていないため、登録免許税が課せられない。

 また、登録免許税法第15条は「別表第一に掲げる登記又は登録に係る課税標準の金額を計算する場合において、その全額が1000円に満たないときは、これを1000円とする」と定める。

 一方、仮登記がなされている不動産について、その仮登記に基づいて「所有権の保存若しくは移転の登記、地上権、永小作権、賃借権若しくは採石権の設定、転貸若しくは移転の登記、信託の登記又は相続財産の分離の登記を受ける場合」の登録免許税の税率は、同第17条第1項に従い、別表第一第1号(12)イ〜ホに定められた税率欄に示された割合から第17条第1項表下欄に定められた割合を控除して得られた割合とされる。

 さらに、同第4項は「地上権、永小作権、賃借権若しくは採石権の設定の登記がされている土地又は賃借権の設定の登記がされている建物について、その土地又は建物に係るこれらの権利の登記名義人がその土地又は建物の取得に伴いその所有権の移転の登記を受けるときは、当該登記に係る登録免許税の税率は、別表第一第1号(二)の税率欄に掲げる割合に100分の50を乗じて計算した割合とする」と定める。

 

 5.登録免許税の納付など

 登記等を受ける者は、原則として「当該登記等につき課されるべき登録免許税の額に相当する登録免許税を国に納付し、当該納付に係る領収証書を当該登記等の申請書にはり付けて当該登記等に係る登記官署等に提出しなければならない」(登録免許税法第21条)。但し「課されるべき登録免許税の額が3万円以下である場合その他政令で定める場合には、当該登録免許税の額に相当する金額の印紙を当該登記等の申請書にはり付けて登記官署等に提出することにより、国に納付することができる」(同第22条)。この他、納付については同第23条以下の規定を参照されたい。

 登録免許税の納付の期限は、同第27条第1号により、原則として「当該登録免許税の納付の基因となる登記等を受ける時」である(同第2号に注意すること)。また、登記等について納付されるべき登録免許税の全部または一部が納付されていない事実を登記機関が知ったときは、遅滞なく、納税地を所轄する所轄税務署長に通知しなければならない(同第28条第1項。同第2項も参照)。また、登記機関の通知を受けた場合などに該当するのであれば、税務署長が登録免許税を徴収する(同第29条)。 

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暫定版 不動産取得税

2022年01月13日 00時00分00秒 | 租税法講義ノート〔第3版〕

 1.不動産取得税の課税主体など

 不動産取得税は道府県税である。すなわち、不動産取得税の課税主体は都道府県である(以下、法律に合わせて道府県と記す)。また、不動産取得税は法定税であり、かつ普通税である(地方税法第4条第2項第4号)。

 

 2.不動産取得税の課税物件(課税客体)

 不動産取得税の課税客体(課税物件)は不動産の取得である。

 注意しなければならないのは、課税客体が不動産そのものでもなければ不動産の所有でもないことである。この点において、課税物件が固定資産(土地、家屋および償却資産)であり、固定資産の所有に着目して課される固定資産税と異なる。

 また、不動産の取得が課税客体とされていることから、不動産取得税の位置づけについては、流通税とする見解〈金子宏『租税法』〔第二十四版〕(2021年、有斐閣)17頁および876頁〉と資産課税とする見解〈石村耕治編『税金のすべてがわかる現代税法入門塾』〔第10版〕(2020年、清文社)12頁〉とに分かれる。

 ここで、不動産は土地および家屋とされる(地方税法第73条第1号)。次に、土地は「田、畑、宅地、塩田、鉱泉地、池沼、山林、牧場、原野その他の土地をいう」(同第2号)、家屋は「住宅、店舗、工場、倉庫その他の建物をいう」(同第3号)とされる。また、住宅は「人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分で、政令で定めるものをいう」(同第4号)とされる。

 以上につき、「地方税法の施行に関する取扱いについて(道府県税関係)」(平成22年4月1日総税都16号。以下、取扱通知)は次のように説明する。

 土地には、立木その他土地の定着物が含まれない〔同第5章2(1)〕。

 家屋は、固定資産税にいう家屋、または不動産登記法にいう家屋と同じ意味である。「屋根及び周壁を有し、 土地に定着した建造物であって、その目的とする用途に供しうる状態にあるものをいう」〔同第5章2(2)。なお、同ア〜エを参照〕。

 住宅には別荘が含まれない。また、家屋の一部が「人の居住の用に供する」ものであっても、別荘以外であればよい〔同第5章2(3)〕。

 

 3.不動産取得税の納税義務者

 地方税法第73条の2により、不動産取得税の納税義務者は次に掲げるものとされる。

 〔1〕不動産の取得者(同第1項)

 取得者は個人、法人の別を問わない。なお、取得については、取扱通知において次のように説明されている。

 ・「不動産の取得とは、有償であると無償であるとを問わず、またその原因が売買、交換、贈与、寄附、法人に対する現物出資、建築、公有水面の埋立、干拓による土地の造成等原始取得、承継取得の別を問わない」〔同第5章3(1)〕。

 ・「法人が組織変更し、又は人格なき社団が法人格を取得した場合には、不動産について実質的な 所有権の移転があったものとは認められないことから、課税対象とはならない」〔同第5章3(2)〕。

 ・「不動産の取得の時期は、契約内容その他から総合的に判断して現実に所有権を取得したと認められるときによるものであり、所有権の取得に関する登記の有無は問わない」〔同第5章3(3)。なお、同ただし書きも参照〕。また、実際には登記に基づいて不動産取得税の課税が行われることが多い〈山形富夫『税務の基礎からエッセンスまで 主要地方税ハンドブック』(2017年、清文社)171頁。鵜野和夫『不動産の評価・権利調整と税務土地・建物の売買・賃貸からビル建設までのコンサルティング』〔令和3年10月改訂〕(2021年、清文社)267頁も参照〉

 〔2〕家屋が新築された場合

 不動産取得税の課税客体は不動産の取得であるから、いつ取得がなされたかが重要である。家屋が新築された場合について、地方税法第73条の2第2項は、次のように定める。

 第一に、当該家屋について最初の使用が行われた日に、当該家屋の取得があったものとみなされる。すなわち、当該家屋の所有者が取得者とみなされる。

 第二に、当該家屋が使用されることなく他人に譲渡された場合には、その譲渡が行われた日に当該家屋が取得されたものとみなされる。すなわち、当該家屋の譲受人が取得者とみなされる。

 第三に、当該家屋が新築された日から6か月が経過して、なお当該家屋について最初の使用または譲渡が行われない場合には、当該家屋が新築された日から6か月を経過した日において家屋の取得があったものとみなされ、当該家屋の所有者が取得者とみなされる。

 第四に、独立行政法人都市再生機構、地方住宅供給公社または宅地建物取引業者が家屋の注文者であり、当該家屋が新築に係る請負契約に基づいて請負人から注文者に譲渡された場合には、その譲渡の後に最初の使用または譲渡が行われた日において家屋が取得されたものとみなされ、当該家屋の所有者または譲受人が取得者とみなされる。

 〔3〕家屋の改築

 改築によって当該家屋の価格が増加した場合には、当該改築が家屋の取得とみなされる(同第3項)。この場合には、当該改築による「価格」の増加分が課税標準とされる(同第73条の13第2項)。

 ここで改築は、同第73条第8号によって「家屋の壁、柱、床、はり、屋根、天井、基礎、昇降の設備その他家屋と一体となつて効用を果たす設備で政令で定めるものについて行われた取替え又は取付けで、その取替え又は取付けのための支出が資本的支出と認められるものをいう」と定義される。なお、取扱通知取扱通知第5章2(4)ウによると「その取り替え又は取付けのための支出が資本的支出と認められるもの」とは「家屋の本来の耐用年数を延長させるようなもの」や「価額を増加させるもの」を意味する。

 なお、地方税法には家屋の移築および移設に関する規定が存在しないが、取扱通知第5章にはそれぞれについて説明がなされている。このうち、移築は、家屋を解体し、それを材料として他の場所に同一の構造で再建することをいう。厳密に言えば、移築は新築に該当するが「負担の均衡上改築の場合に準じてその移築により増加した価格を課税標準として課税することが適当である」とされる〔取扱通知第5章2(5)〕。一方、移設は「家屋を原型のまま他の場所に移転すること」で、「不動産の取得には含まれない」(同)。

 〔4〕家屋の増築

 増築は、地方税法第73条第7号によって「家屋の床面積又は体積を増加することをいう」と定義される。増築が行われた場合、その増築された部分について取得があったものとみなされ(同第73条の2第3項および第1項を参照)、その増加部分の「価格」が課税標準とされる(同第73条の13第1項を参照)。

 〔5〕高さが60メートル以下の区分所有建物等(例;分譲マンション)の場合

 建物の区分所有等に関する法律第2条第3項に規定する専有部分の取得があった場合には、当該専有部分の属する家屋(共有部分も含む)の「価格」を、専有部分の床面積の割合により按分して得た額に相当する価格の家屋の取得があったものとみなされる(地方税法第73条の2第4項)。

 〔6〕居住用超高層建築物の場合

 居住用超高層建築物は、建築基準法第20条第1項第1号に規定する建築物(高さが60メートルを超える建築物)であり、複数の階に人の居住の用に供する専有部分を有し、かつ、当該専有部分の個数が2個以上のものである。

 居住用超高層建築物の専有部分の取得があった場合には、当該専有部分の属する居住用超高層建築物(共用部分とされた附属の建物を含む)の価格を「人の居住の用に供する専有部分」とそれ以外の専有部分とに区分し、それぞれの床面積が当該居住用超高層建築物の全専有部分の床面積の合計に対する割合により按分して得られた額に相当する家屋の取得があったものとみなされる(地方税法第73条の2第5項)。

 〔7〕区分所有建物等の共用部分のみの建築があった場合

 共有部分に係る区分所有者が「当該建築に係る共用部分の価格を建物の区分所有等に関する法律第14条第1項から第3項までの規定の例により算定した専有部分の床面積の割合(居住用超高層建築物に係る共用部分のみの建築があつた場合には、前項各号に定める専有部分の床面積の当該居住用超高層建築物の全ての専有部分の床面積の合計に対する割合)により按分して得た額に相当する価格の家屋を取得したものとみな」される(地方税法第73条の2第6項)。すなわち、この場合には管理者等に課されるのではなく、区分所有者に課されることとなる。

 〔8〕家屋の造作その他の附帯設備の扱い方

 例えばビルに設置されているエレベーターや空調設備は、家屋の造作その他の附帯設備であり、建築物の効用を高めるものである。一般的には、家屋の主体構造部と附帯設備の設置者または所有者は一致する。しかし、貸しビルなどにおいては、主体構造部の所有者と附帯設備の設置者が異なり、附帯設備の設置者が所有権を留保している場合が少なくない。

 そこで、地方税法第73条の2第7項は、家屋の主体構造部と一体となって家屋として効用を果たしている附帯設備について、主体構造部の取得者以外の者が附帯設備を取り付けたものであっても、主体構造部の取得者が附帯設備に属する部分も併せて当該家屋を取得したものとみなされる旨を定める。

 この場合には、まず、主体構造部の取得者が納税通知書の交付を受け、その交付を受けた日から交付を受けた日から30日以内に、附帯設備に属する部分の取得者と協議をする。次に、主体構造部の取得者が、道府県に対し、不動産取得税の課税標準となるべき価額のうち附帯設備に属する部分の取得者が所有する部分の価額を申し出る。これを受けて、道府県は、附帯設備に属する部分の取得者に対して不動産取得税を課する。一方、道府県は、主体構造部の取得者に課した不動産取得税の税額から、附帯設備の取得者に課した不動産取得税の税額に相当する額を減額する(なお、同第8項〜第10項も参照)。

 〔9〕土地区画整理法による土地区画整理事業、または土地改良法による土地改良事業が施行される土地について仮換地または一時利用地の指定がなされた場合

 当該仮換地または一時利用地について使用し、または収益することができることとなった日の以後に、当該仮換地または一時利用地に対応する従前の土地の取得があったときに、当該従前の土地の取得者が取得者とみなされ、不動産取得税が課される(地方税法第73条の2第11項)。

 〔10〕土地区画整理事業の施行者が管理する保留地予定地等

 次のいずれかの場合に、保留地予定地等である土地の取得があったものとみなされ、当該土地を取得することとされている者が取得者とみなされる(同第12項)。

 ①土地区画整理事業の施行者以外の者が、当該土地区画整理事業に係る換地処分の公告がある日までの間当該保留地予定地等である土地について使用し、または収益することができること、および同日の翌日に当該施行者が取得する当該保留地予定地等である土地を取得することを目的とする契約が締結された場合。

 ②同日の翌日に土地区画整理組合の参加組合員が取得する当該保留地予定地等である土地について、当該参加組合員が使用し、または収益することができることを目的とする契約が締結された場合。

 

 4.不動産取得税の納税義務者とならないもの(人的非課税)

 地方税法第73条の3第1項は「道府県は、国、非課税独立行政法人、国立大学法人等及び日本年金機構並びに都道府県、市町村、特別区、地方公共団体の組合、財産区、合併特例区及び地方独立行政法人に対しては、不動産取得税を課することができない」と定める。

 また、同第2項は「不動産取得税は、皇室経済法(昭和22年法律第4号)第7条に規定する皇位とともに伝わるべき由緒ある物である不動産については、課することができない」と定める〈規定の仕方からすれば物的非課税とも読み取りうるが、山形・前掲書178頁に倣い、ここでは人的非課税としておく。但し、疑問は残る〉

 

 5.不動産取得税の課税客体とならないもの(物的非課税)

 他の税目についても言いうることであるが、不動産取得税の物的非課税は、人的非課税と比較しても非常に広範囲にわたる。そこで、若干の例のみをあげておく。

 (1)地方税法第73条の4(見出しは「用途による不動産取得税の非課税」)

 第1項第2号:「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法(昭和26年法律第126号)第3条に規定する境内建物及び境内地(旧宗教法人令(昭和20年勅令第719号)の規定による宗教法人のこれに相当する建物及び土地を含む。)

 同第3号:「学校法人又は私立学校法第64条第4項の法人(以下この号において「学校法人等」という。)がその設置する学校において直接保育又は教育の用に供する不動産(第4号の4に該当するものを除く。)、学校法人等がその設置する寄宿舎で学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条の学校又は同法第124条の専修学校に係るものにおいて直接その用に供する不動産、公益社団法人若しくは公益財団法人、宗教法人又は社会福祉法人がその設置する幼稚園において直接保育の用に供する不動産(同号に該当するものを除く。)及び公益社団法人若しくは公益財団法人で職業能力開発促進法(昭和44年法律第64号)第24条の規定による認定職業訓練を行うことを目的とするもの又は職業訓練法人で政令で定めるもの若しくは都道府県職業能力開発協会がその職業訓練施設において直接職業訓練の用に供する不動産並びに公益社団法人又は公益財団法人がその設置する図書館において直接その用に供する不動産及び公益社団法人若しくは公益財団法人又は宗教法人がその設置する博物館法第2条第1項の博物館において直接その用に供する不動産」

 同第4号:「社会福祉法人(日本赤十字社を含む。次号から第4号の7までにおいて同じ。)が生活保護法第38条第1項に規定する保護施設の用に供する不動産で政令で定めるもの」

 同第7号:「公益社団法人又は公益財団法人で学術の研究を目的とするものがその目的のため直接その研究の用に供する不動産」

 同第38号:「特定建設線(全国新幹線鉄道整備法(昭和45年法律第71号)第4条第1項に規定する基本計画に定められた同項に規定する建設線のうち政令で定めるものをいう。)の同法第6条第1項に規定する建設主体として同項の規定により国土交通大臣が指名した法人が同法第9条第1項の規定による国土交通大臣の認可を受けた当該特定建設線の工事実施計画に係る同法第2条に規定する新幹線鉄道の鉄道事業法(昭和61年法律第92号)第8条第1項に規定する鉄道施設の用に供する不動産で政令で定めるもの」

 同第3項:「道府県は、公共の用に供する道路の用に供するために不動産を取得した場合における当該不動産の取得又は保安林、墓地若しくは公共の用に供する運河用地、水道用地、用悪水路、ため池、堤とう若しくは井溝の用に供するために土地を取得した場合における当該土地(保安林の用に供するために取得した土地については、森林の保健機能の増進に関する特別措置法(平成元年法律第71号)第2条第2項第2号に規定する施設の用に供する土地で政令で定めるものを除く。)の取得に対しては、不動産取得税を課することができない。」

 ②同第73条の5(見出しは「土地開発公社の不動産の取得に対する不動産取得税の非課税」)

 ③同第73条の6(見出しは「土地改良事業の施行に伴う換地の取得等に対する不動産取得税の非課税」)

 ④同第73条の7(見出しは「形式的な所有権の移転等に対する不動産取得税の非課税」)

 同第1号:「相続(包括遺贈及び被相続人から相続人に対してなされた遺贈を含む。)による不動産の取得」

 同第2号:「法人の合併又は政令で定める分割による不動産の取得」

 同第2号の2:「法人が新たに法人を設立するために現物出資(現金出資をする場合における当該出資の額に相当する資産の譲渡を含む。)を行う場合(政令で定める場合に限る。)における不動産の取得」

 同第2号の3:「共有物の分割による不動産の取得(当該不動産の取得者の分割前の当該共有物に係る持分の割合を超える部分の取得を除く。)」

  ⑤地方税法附則第10条:適用期限が定められている。

 

 6.不動産取得税の課税標準

 不動産取得税の課税標準に関する原則は、地方税法第73条の13に定められている。

 まず、不動産を取得した場合には、その取得時における不動産の「価格」である(同第1項)。すなわち、不動産取得時の適正な時価であり、固定資産税および都市計画税と同じ意味である。

 次に、「家屋の改築をもつて家屋の取得とみなした場合に課する不動産取得税の課税標準は、当該改築に因り増加した価格とする」(同第2項)。

 以上に対する例外(換言すれば特例)も多く定められているが、ここでは同第73条の14を参照する。

 例外1:「住宅の建築(新築された住宅でまだ人の居住の用に供されたことのないものの購入を含むものとし、政令で定めるものに限る。)をした場合における当該住宅の取得に対して課する不動産取得税の課税標準の算定については、一戸(共同住宅、寄宿舎その他これらに類する多数の人の居住の用に供する住宅(以下不動産取得税において「共同住宅等」という。)にあつては、居住の用に供するために独立的に区画された一の部分で政令で定めるもの)について1200万円を価格から控除するものとする」(同第73条の14第1項)。

 例外2:「共同住宅等以外の住宅の建築(新築された住宅でまだ人の居住の用に供されたことのないものの購入を含む。以下この項及び第4項において同じ。)をした者が、当該住宅の建築後一年以内にその住宅と一構となるべき住宅を新築し、又はその住宅に増築した場合には、前後の住宅の建築をもつて一戸の住宅の建築とみなして、前項の規定を適用する」(同第2項)。

 例外3:「個人が自己の居住の用に供する耐震基準適合既存住宅(既存住宅(新築された住宅でまだ人の居住の用に供されたことのないもの以外の住宅で政令で定めるものをいう。第73条の24第3項において同じ。)のうち地震に対する安全性に係る基準として政令で定める基準(第73条の27の2第1項において「耐震基準」という。)に適合するものとして政令で定めるものをいう。第73条の24第2項及び第3項において同じ。)を取得した場合における当該住宅の取得に対して課する不動産取得税の課税標準の算定については、一戸について、当該住宅が新築された時において施行されていた地方税法第73条の14第1項の規定により控除するものとされていた額を価格から控除するものとする」(同第3項)。

 なお、例外1および例外3について「第1項及び前項の規定は、当該住宅の取得者から、当該道府県の条例で定めるところにより、当該住宅の取得につきこれらの規定の適用があるべき旨の申告がなされた場合に限り適用するものとする。この場合において、当該住宅が、住宅の建築後一年以内に、その住宅と一構となるべき住宅として新築された住宅であるとき、又はその住宅に増築された住宅であるときは、最初の住宅の建築に係る住宅の取得につき、第1項の規定の適用があるべき旨の申告がなされていたときに限り、適用するものとする」(同第4項)。

 この他、公営住宅などを譲渡された者、不動産を収用されて補償金(または移転補償金)を受けた者、公共事業を行う者に不動産を譲渡した者、など多くの例について特例が定められている(同第5項〜第14項。また、地方税法附則第11条なども参照)。

 既に述べたように、不動産取得税の課税標準は取得時の「価格」であるが、この「価格」をどのように決定するのであろうか。地方税法第73条の21は、不動産の「価格」が固定資産課税台帳に登録されている場合とそうでない場合とに分けて定める。

 まず、当該不動産の「価格」が固定資産課税台帳に登録されている場合には、当該「価格」によって不動産取得税の課税標準となるべき「価格」を決定する(同第1項本文)。但し、増築、改築、損壊、地目の変換などがあった場合にはこの限りでない(同項ただし書き)。

 次に、当該不動産の「価格」が固定資産課税台帳に登録されていない場合には、固定資産評価基準(同第388条第1項)により、不動産取得税の課税標準となるべき「価格」を決定する(同第73条の21第2項。同第1項ただし書きに該当する場合も同様である)。

 なお、宅地と評価される土地の取得が2024年3月31日までの間に行われた場合に限り、不動産取得税の課税標準は当該土地の「価格」の2分の1の額とする特例がある(同附則第11条の5第1項)。

 

 7.不動産取得税の税率

 原則として、不動産取得税の標準税率は4%である(地方税法第73条の15)。但し、次のような例外がある。

 第一に、2024年3月31日までの間に住宅または土地の取得が行われた場合の標準税率は3%である(同附則第11条の2第1項)。住宅以外の家屋については原則通り4%であることに注意されたい。

 第二に、例外2:免税点←不動産取得税が課されない。

 土地の取得:10万円未満であれば非課税

 家屋の取得のうち、建築に係るもの=一戸(マンションなどについては独立した一区画)につき23万円未満であれば非課税

 家屋の取得のうち、建築に係るもの以外のもの=一戸(マンションなどについては独立した一区画)につき12万円未満であれば非課税

 (以上、地方税法第73条の15の2第1項。同第2項も参照。)

 

 8.不動産取得税の減免措置

 ①「住宅の用に供する土地の取得に対する不動産取得税の減額」(同第73条の24)

 一定の事由に該当する場合に、150万円が減額される。

 ②「耐震基準不適合既存住宅の取得に対する不動産取得税の減額等」(同第73条の27の2)

 但し、取得から6か月以内に耐震改修を行い、耐震基準に適合する旨の証明を受けることが要件となる。

 ③「被収用不動産等の代替不動産の取得に対する不動産取得税の減額等」(同第73条の27の3)

 ④地方税法附則第11条の4に規定される減免措置(いずれも適用期限がある)

 心身障害者を多数雇用する事業所の事業主が助成金を受けて取得する事業用施設、サービス付き高齢者住宅の敷地の用に供する土地、宅地建物取引業者が回収工事対象住宅を取得して改修した上で個人に譲渡した場合などについて、減免措置がなされる。

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