ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

国学院大学法学部「行政法1」の夏期休暇課題について(2)

2015年07月30日 16時00分00秒 | 受験・学校

 7月10日の9時25分29秒付で「国学院大学法学部「行政法1」の夏期休暇課題について(1)」を掲載しましたが、都合により出題内容を公表しなかったため、本日、ここに示します。

 問題:行政行為の効力と取消・無効の区別について、次の点に注意して論じなさい。

 ①効力とされるそれぞれのものの法的根拠をあげること。

 ②必ず、行政行為の効力と国家賠償訴訟との関係について論ずること。

 ③必ず、判例をあげること(いかなる事案についていかなる判断がなされたか。要旨を記すこと)。

 ④行政行為はいかなる場合に無効になると考えるべきかについて述べること。最終的に、あなたがどのように考えるかを、論理的に記すこと。

 〈さしあたりの参考文献として、森稔樹「行政処分の無効」木光・宇賀克也編『行政法の争点』(2014年、有斐閣)38頁。この他、自分で探してみましょう。〉

 ▲字数・枚数:3500字以上とします。

 なお、次の点に注意してください。

 ①パソコン、ワープロでレポートを作成する際には、A4の用紙を使用してください(その他の用紙では受け取れないことがありえます)。また、1行あたりの字数と1頁あたりの行数を明示してください(1頁について40字×40行または40字×30行が望ましいです)。

 ②パソコン、ワープロを使用しない場合には、必ず原稿用紙を使用してください。レポート用紙、ルーズリーフなどを使用した場合には採点しません。また、万年筆かボールペンで記すこと。鉛筆は御遠慮願います(未提出とみなします)。

 ③参考文献を明示してください。なお、六法などの法令集、辞書、判例集などは参考文献にならないので注意してください。

 ▲提出方法

 ①K-SMAPYのレポート提出機能を原則とし、9月25日(金)の22時00分を締め切りとします。

 ②但し、この機能を使えない場合には、9月25日の講義の際に提出していただきます。教卓の上に置いてください(K-SMAPYのレポート提出機能と併用しても結構です)。

 ▲その他の注意

 レポートの提出がない場合には、単位の認定をしません。また、教科書や参考文献、さらにホームページなどの丸写しなどで終わっているものは未提出とみなします。

 自分の力で考え、表現してみましょう。

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留萌線の留萌⇔増毛は2016年秋に廃止されるのか

2015年07月29日 01時08分45秒 | 社会・経済

 1か月前の6月28日18時41分51秒付で「やはり! JR北海道が留萌本線の廃止を検討」という記事を投稿しました。その後、JR北海道は、石北本線の金華駅、上白滝駅、旧白滝駅および下白滝駅、そして室蘭本線の小幌駅について廃止の方針を打ち出したのですが、同社の経営状況からして無人駅の廃止だけでは済まされないであろうということは予想の範囲内です。

 そして、留萌本線について本格的な動きが出始めました。7月28日の6時30分付で、北海道新聞社が「留萌―増毛、来秋にも廃止 JR北海道、地元に協議申し入れへ」(http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/economy/economy/1-0161646.html)として報じており、読売新聞社も同日付で「留萌―増毛間 来秋にも廃止…JR北検討」(http://www.yomiuri.co.jp/hokkaido/news/20150728-OYTNT50028.html)として報じています。

 JR北海道の意向は、最も早ければ2016年の秋に問題の区間を廃止するというものです。同社は、8月上旬に留萌市および増毛町へ、廃止に向けての協議を正式に申し入れるようですが、勿論、既に連絡はなされています。

 「やはり! JR北海道が留萌本線の廃止を検討」でも記したように、留萌本線の輸送密度は北海道のJR路線の中で3番目に低いのですが、留萌⇔増毛の輸送密度がどの程度であるのかはよくわかりません。しかし、国鉄時代からこの区間は盲腸線のような存在であり(国鉄最後の日に廃止されるまで、留萌からは、本線の2倍以上の距離を有した羽幌線が分岐していました)、途中にある瀬越、礼受(れうけ)、阿分(あふん)、信砂(のぶしゃ)、舎熊(しゃぐま)、朱文別(しゅもんべつ)、箸別(はしべつ)のうち、国鉄時代に正規の駅であったのは礼受と舎熊のみであり、他の駅は全て仮乗降場でした(瀬越のみ、国鉄時代に臨時駅に昇格しています)から、乗降客がどれほど少ない区間であったのか、或る程度の想像はできます。2014年度に輸送密度が最も低かったのが札沼線の非電化区間である北海道医療大学⇔新十津川で81人となっていますが、これよりも留萌⇔増毛は低いのでしょうか。

 輸送密度が低い上に大雪、雪崩などという悪条件も重なります。JR東日本の只見線のように、冬期の積雪が延命の要素になっているのかもしれません。自動車交通は雪に弱いからです。しかし、対策費用と利用客数との関係が問題になることは言うまでもありません。

 JRの中でも、路線の廃止、そこまで行かなくとも駅の廃止を進めてきたのがJR北海道です。路線であれば深名線、江差線の木古内⇔江差をすぐに思い出すところでしょう。駅であれば、宗谷本線での多さが目に付きます。おそらく、今後も、少なくとも駅の廃止は続くものと思われます。仮乗降場出自の駅が多く、利用客も僅少または皆無であるという所が多く、普通列車でも通過するような駅が多いからです。どうかすれば通過する普通列車のほうが多いという駅すらあります。こうなると、何のために駅に列車を停め、また駅の施設を維持しているのかがわからなくなります。

 

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行政法講義ノート〔第6版〕に向けての暫時改訂版 第14回 行政契約

2015年07月25日 17時48分32秒 | 行政法講義ノート〔第6版〕に向けての暫時改訂版

 1.行政契約の意義

 行政契約(Verwaltungsvertrag)とは、簡単に言えば、行政主体(国、都道府県、市町村など)が締結する契約のことである。多くの場合に行政主体と私人との間で行われる権利変動の行為形式の一つで、双方行為の性質を有する※。

 ※芝池義一『行政法総論講義』〔第4版補訂版〕(2006年、有斐閣)238頁が指摘するように、行政行為は行政庁の行為とされ、行政契約は行政主体(国、都道府県、市町村など)の行為とされる。なお、芝池義一『行政法読本』〔第3版〕(2013年、有斐閣)183頁を参照。

 現在の行政法学では行政契約または行政上の契約として一括されるが、かつては公法契約と私法契約とに分けられるのが一般的であった。

 公法契約は、その名の通り、公法による契約のことで、公務員の勤務契約、公共用地取得のためになされる土地収用法上の協議などが該当する。なお、行政主体が一方当事者であるから公法契約であるという訳ではないので、注意を要する。

 これに対し、私法契約は、やはり名前の通り、私法(民法など)による契約のことで、物品納入契約、建築請負契約、交通・郵便・電話などの利用関係などが該当する(但し、特別法の規定があれば別である)※。

 ※国または地方公共団体の契約についての第一の参考書として、碓井光明『公共契約法精義』(2005年、信山社)をあげておく。

 実は、行政事件訴訟法第4条・第39条において公法上の当事者訴訟が予定されていることから、公法契約と私法契約との分類が全く無意味ではないものとされている。しかし、両者の区別は困難である。また、公表上の当事者訴訟があまり利用されておらず、民事訴訟と区別しがたい点もある。従って、冒頭に掲げたように行政契約を理解するのが便宜でもあり、妥当であろう。

 行政契約の例としては、次のようなものがあげられる。

 ①都営地下鉄、都営バスなど:事業主体は東京都交通局であり、請負契約(運送契約)ということになる。

 ②官公庁などの建物の建築工事 :民法上の請負契約による。

 ③水道事業 :水道法により、給水契約という方式による。

 ④道路などを建設するための用地取得:ほとんどの場合は民事上の売買契約による(それでも取得できないときに、土地収用法に基づく収用裁決という行政行為が登場する)。

 ⑤開発などの際に納入を要請される負担金:これは、宅地開発要綱などに基づく行政指導の結果として、開発業者などが行政主体に対して支払うものであるが、贈与契約の形をとることとなる。

 また、行政契約でも可能と考えられるものの例をあげておく。

 ⑥補助金の交付 :これは法律の定め方による。一般的に、現行の補助金適正化法は補助金の交付決定を行政行為と位置づけている、と理解されている。

 ⑦公務員の任用(採用): 現在では一般的に相手方の同意を要する行政行為(特許に該当する)と考えられているが、公法上の契約と解する考え方も少数ながら存在する(ちなみに、民間企業の場合、労働基本法によって契約とされている)。

 

 2.行政契約の種類・分類

 行政契約には様々な種類があり、分類の方法も論者によって異なる。以下は、塩野宏『行政法Ⅰ』(第五版補訂版)〔2013年、有斐閣〕189頁以下の分類による。

 ①「準備行政における契約」

 「物的手段を整備する行為」に関する契約のことであり、基本的に民法上の手法が利用される。売買契約や請負契約である※。

 ※芝池義一『行政法総論講義』〔第4版補訂版〕240頁にいう「行政の手段調達のための契約」や「財産管理のための契約」も、塩野教授のいう「準備行政における契約」と同旨と思われるが、「公務員の雇用契約」や「私人への事務の委託の契約」が「行政の手段調達のための契約」に含められている。なお、芝池義一『行政法読本』〔第3版〕184頁の分類も参照。

 但し、土地収用法が利用される場合もあり、会計法・国有財産法・物品管理法・地方自治法というような特別法が適用される場合もある。また、公金の支出を伴うため、入札など、民法上の契約の原理が修正されることがある。従って、契約の締結に際して行政主体の裁量権が問題となる場合がある 。

 (1)国有財産について 国有財産法が適用されることがある。

 (2)契約の締結に際しては、国の場合は会計法、地方公共団体の場合は地方自治法(第234条以下)が適用され、入札という手続がとられる。

 会計法第29条の3第1項は、「契約担当官及び支出負担行為担当官(以下「契約担当官等」という。)は、売買、貸借、請負その他の契約を締結する場合においては、第三項及び第四項に規定する場合を除き、公告して申込みをさせることにより競争に付さなければならない」と定める。また、同第2項は、「前項の競争に加わろうとする者に必要な資格及び同項の公告の方法その他同項の競争について必要な事項は、政令でこれを定める」という規定である。

 これらの規定に示されているのが一般競争入札であり、原則とされている。しかし、実際には原則と例外とが逆転しているような状況であると言いうる。すなわち、同第3項は、「契約の性質又は目的により競争に加わるべき者が少数で第一項の競争に付する必要がない場合及び同項の競争に付することが不利と認められる場合においては、政令の定めるところにより、指名競争に付するものとする」と定め、指名競争入札によることを認めている。この方法は、一応の競争が予定されている点では一般競争入札に近いが、行政主体が予め入札への参加者を指名し、競争相手を限定しているため、常にメンバーが固定されうることとなる。その意味では次の随意契約に近く、談合などの温床となりやすい(実際に、そのように機能してきた)。

 同第4項は、「契約の性質又は目的が競争を許さない場合、緊急の必要により競争に付することができない場合及び競争に付することが不利と認められる場合においては、政令の定めるところにより、随意契約によるものとする」と定める。問題は、この随意要件を採用すべき場合としてあげられている要件の解釈であろう。

 また、第5項は、「契約に係る予定価格が少額である場合その他政令で定める場合においては、第一項及び第三項の規定にかかわらず、政令の定めるところにより、指名競争に付し又は随意契約によることができる」と定めている。

 以上の点などに関する判例としては、次のようなものがある(以下の下線などは、全て引用者によるものである)。

 ●最一小判平成18年10月26日判時1953号122頁(Ⅰ−99)

 事案:有限会社Xは、平成10年度まで徳島県の旧木屋平(こやだいら)村〔現在は美馬(みま)市の一部〕が発注する公共工事の指名競争入札に参加していたが、平成11年度から平成16年度まで、旧木屋平村長から公共工事への入札参加者として指名されず、入札に参加することができなかった。この指名回避が違法であるとして、Xは国家賠償請求訴訟を提起した。一審判決(徳島地判平成16年5月11日判自280号17頁)はXの請求を一部認容したが、控訴審判決(高松高判平成17年8月5日判自280号12頁)はXの請求を全面的に退けたため、Xが上告を行った。最高裁判所第一小法廷は、以下のように述べて一部を高松高等裁判所に差戻し、一部を棄却した。

 判旨:地方自治法第234条を受けて同法施行令第167条は「指名競争入札については、契約の性質又は目的が一般競争入札に適しない場合などに限り、これによることができるものと」定めており、「このような地方自治法等の定めは、普通地方公共団体の締結する契約については、その経費が住民の税金で賄われること等にかんがみ、機会均等の理念に最も適合して公正であり、かつ、価格の有利性を確保し得るという観点から、一般競争入札の方法によるべきことを原則とし、それ以外の方法を例外的なものとして位置付けているものと解することができる。また、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律は、公共工事の入札等について、入札の過程の透明性が確保されること、入札に参加しようとする者の間の公正な競争が促進されること等によりその適正化が図られなければならないとし(3条)、前記のとおり、指名競争入札の参加者の資格についての公表や参加者を指名する場合の基準を定めたときの基準の公表を義務付けている。以上のとおり、地方自治法等の法令は、普通地方公共団体が締結する公共工事等の契約に関する入札につき、機会均等、公正性、透明性、経済性(価格の有利性)を確保することを図ろうとしているものということができる」。一方、「木屋平村においては、従前から、公共工事の指名競争入札につき、村内業者では対応できない工事についてのみ村外業者を指名し、それ以外は村内業者のみを指名するという運用が行われて」おり、「確かに、地方公共団体が、指名競争入札に参加させようとする者を指名するに当たり、〔1〕工事現場等への距離が近く現場に関する知識等を有していることから契約の確実な履行が期待できることや、〔2〕地元の経済の活性化にも寄与することなどを考慮し、地元企業を優先する指名を行うことについては、その合理性を肯定することができるものの、〔1〕又は〔2〕の観点からは村内業者と同様の条件を満たす村外業者もあり得るのであり、価格の有利性確保(競争性の低下防止)の観点を考慮すれば、考慮すべき他の諸事情にかかわらず、およそ村内業者では対応できない工事以外の工事は村内業者のみを指名するという運用について、常に合理性があり裁量権の範囲内であるということはできない」。同村では「平成13年度までは、本件資格審査要綱、本件指名基準及び本件運用基準は制定されておらず、本件指名停止等要綱を除いて、指名に関する基準は明定されていなかった。さらに、平成14年4月以降施行された上記の本件資格審査要綱等をみても、本件資格審査要綱において村内業者と村外業者とが定義上区別されているものの、その外に上記のような村内業者で対応できる工事の指名競争入札では村内業者のみを指名するという実際の運用基準は定められておらず、しかも、村内業者とは、木屋平村の区域内に主たる営業所を有する業者をいうとされているにとどまり、主たる営業所あるいは村内業者の要件をどのように判定するのかに関する客観的で具体的な基準も明らかにされていなかった。このような状況の下における木屋平村の上記のような運用は、村内業者で対応できる工事はすべて指名競争入札とした上で、村内業者か否かの判断を適当に行うなどの方法を採ることにより、し意的運用が可能となるものであって、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の定める公表義務に反し、同法及び地方自治法の趣旨にも反するものといわざるを得ない」。このため、Xについて「上記のような法令の趣旨に反する運用基準の下で、主たる営業所が村内にないなどの事情から形式的に村外業者に当たると判断し、そのことのみを理由として、他の条件いかんにかかわらず、およそ一切の工事につき平成12年度以降全く上告人を指名せず指名競争入札に参加させない措置を採ったとすれば、それは、考慮すべき事項を十分考慮することなく、一つの考慮要素にとどまる村外業者であることのみを重視している点において、極めて不合理であり、社会通念上著しく妥当性を欠くものといわざるを得ず、そのような措置に裁量権の逸脱又は濫用があったとまではいえないと判断することはできない」。

 ●最二小判昭和62年3月20日民集41巻2号189頁

 事案:長崎県福江市(現在は五島市)内にあったごみ焼却炉が故障し放置されていたことから、同市は新たにごみ焼却炉を建設することとなった。しかし、実際に企画、立案などにあたった同市の保健衛生課は、設計能力の問題、他の自治体でもほとんど随意契約を採っていたことなどから、競争入札を採るのは適切でないと考え、四社を指名業者とした上でそのうちの一社と随意契約を締結しようとした。四社による技術説明会、見積書の提出を経て、福江市長の職務代理者であったY(被告、被控訴人、上告人。最高裁係属中に死亡)は、四社のうちのA社と契約をすることとし、昭和47年1月30日に随意契約の形でA社と建設請負契約を締結した。建設工事は同年10月20日に竣功し、福江市がA社に対して工事代金を支払った。これに対し、同市の住民X(原告、控訴人、被上告人)がこの随意契約による市の支出を違法とし、住民訴訟を提起した。長崎地判昭和55年6月30日行集31巻6号1361頁はXの請求を棄却したが、福岡高判昭和57年3月4日判時1054号79頁はYの契約締結行為を違法と判断した。Y側が上告し、最高裁判所第二小法廷は福岡高等裁判所判決を破棄し、事件を同裁判所に差し戻した。

 判旨:地方自治法第234条第1項は「普通地方公共団体の締結する契約については、機会均等の理念に最も適合して公正であり、かつ、価格の有利性を確保し得るという観点から、一般競争入札の方法によるべきことを原則とし、それ以外の方法を例外的なものとして位置づけているものと解することができる。そして、そのような例外的な方法の一つである随意契約によるときは、手続が簡略で経費の負担が少なくてすみ、しかも、契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定できるという長所がある反面、契約の相手方が固定化し、契約の締結が情実に左右されるなど公正を妨げる事態を生じるおそれがあるという短所も指摘され得ることから、令一六七条の二第一項は前記法の趣旨を受けて同項に掲げる一定の場合に限定して随意契約の方法による契約の締結を許容することとしたものと解することができる」。

 地方自治法施行令第172条の2第1項にいう「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」は「不動産の買入れ又は借入れに関する契約のように当該契約の目的物の性質から契約の相手方がおのずから特定の者に限定されてしまう場合や契約の締結を秘密にすることが当該契約の目的を達成する上で必要とされる場合など当該契約の性質又は目的に照らして競争入札の方法による契約の締結が不可能又は著しく困難というべき場合がこれに該当することは疑いがないが、必ずしもこのような場合に限定されるものではなく、競争入札の方法によること自体が不可能又は著しく困難とはいえないが、不特定多数の者の参加を求め競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当ではなく、当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても、普通地方公共団体において当該契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定しその者との間で契約の締結をするという方法をとるのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり、ひいては当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合も同項一号に掲げる場合に該当するものと解すべきである。そして、右のような場合に該当するか否かは、契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約締結の方法に制限を加えている前記法及び令の趣旨を勘案し、個々具体的な契約ごとに、当該契約の種類、内容、性質、目的等諸般の事情を考慮して当該普通地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきものと解するのが相当である」。

 ●最三小判昭和62年5月19日民集41巻4号687頁

 事案:大阪府泉南郡東鳥取町(一審係属中に阪南町となる。現在は阪南市の一部)にあったA共有地は、近畿圏の保全区域の整備に関する法律第9条にいう近郊緑地保全区域であり、かつ森林法第25条による保安林の指定がされている区域にあった。しかし、東鳥取町は小学校増改築のための財源を確保する必要に迫られており、A共有地を300万円で売却することとした。最終的に、A共有地についてはYらに売却することとなり、東鳥取町長はYらとの間で、随意契約により、A共有地の売買契約を締結した。これについて、同町の住民らが、本件売却価格が不当に低く、地方自治法第238条の3に違反すると主張し、Yらに対して所有権移転登記の抹消登記手続および未履行の所有権移転登記手続の差止を求めた。一審大阪地判昭和55年6月18日行集31巻6号1334頁は原告の請求を一部認容し、これを大阪高判昭和56年5月20日行集32巻5号818頁も支持したため、阪南町長が上告した。最高裁判所第三小法廷は、大阪高等裁判所判決を破棄し、住民らの請求を棄却した。

 判旨:地方自治法第234条第2項が「指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる」と規定することを受けて同法施行令第167条の2第1項が随意契約による場合を列挙していることから、「右列挙された事由のいずれにも該当しないのに随意契約の方法により締結された契約は違法というべきことが明らかである。しかしながら、このように随意契約の制限に関する法令に違反して締結された契約の私法上の効力については別途考察する必要があり、かかる違法な契約であっても私法上当然に無効になるものではなく、随意契約によることができる場合として前記令の規定の掲げる事由のいずれにも当たらないことが何人の目にも明らかである場合や契約の相手方において随意契約の方法による当該契約の締結が許されないことを知り又は知り得べかりし場合のように当該契約の効力を無効としなければ随意契約の締結に制限を加える前記法及び令の規定の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められる場合に限り、私法上無効になるものと解するのが相当である」。

 ●最三小判平成16年7月13日民集58巻5号1368頁(Ⅰ―5)

 事案:名古屋市は、1989(平成元)年に世界デザイン博覧会を開催した。同市は財団法人世界デザイン協会を設立しており、その会長には名古屋市長が、副会長には市助役が、監事には市収入役が就任した。この博覧会は、当初の予想よりも入場者数が下回り、赤字が予想されたので、博覧会で使用された諸施設や諸物件の売却のための契約が、市と同協会との間で結ばれた。その際、議会の議決を回避するために50の契約に分割されている。これに対し、名古屋市の住民が契約の不当性を主張して、市長、市助役、市収入役、同協会を被告として住民訴訟を提起した。一審判決(名古屋地判平成8年12月25日判時1612号40頁)は、各契約(一部を除く)が民法第108条の類推適用によって無効であると判断し、損害賠償請求、不当利得返還請求を認めた。二審判決(名古屋高判平成11年12月27日判自200号32頁)は、契約については名古屋市議会の議決が行われたことで追認があったとした上で、契約の一部に裁量権の逸脱・濫用があったと認め、同協会の残余財産を限度とする損害賠償責任を認めた。最高裁判所第三小法廷は、名古屋高等裁判所判決の一部を破棄自判、一部を破棄差戻し、一部について上告を棄却し、住民の請求を棄却した。

 判旨:「普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表して行う契約締結行為であっても、長が相手方を代表又は代理することにより、私人間における双方代理行為等による契約と同様に、当該普通地方公共団体の利益が害されるおそれがある場合がある。そうすると、普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表して行う契約の締結には、民法108条が類推適用されると解するのが相当である。そして、普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表するとともに相手方を代理ないし代表して契約を締結した場合であっても同法116条が類推適用され、議会が長による上記双方代理行為を追認したときには、同条の類推適用により、議会の意思に沿って本人である普通地方公共団体に法律効果が帰属するものと解するのが相当である」。

 「(事実認定などによれば)デザイン博は市の事業として行われたのであって、市は、第1審被告協会の設立に際し、第1審被告協会(注:財団法人世界デザイン協会)に市の基本的な計画の下でデザイン博の具体的な準備及び開催運営を行うことをゆだねたものと解することも可能であり、両者の間には実質的にみて準委任的な関係が存したものと解する余地がある。そうであるとすれば、市が、第1審被告協会に対し、同協会がデザイン博の準備及び開催運営のために支出した費用のうち、市が同協会にゆだねた範囲の事務を処理するために必要なものであって基本財産と入場料収入等だけでは賄いきれないものを補てんすることは、不合理ではなく、市にその法的義務が存するものと解する余地も否定することができない。そして、上記の点は、本件各契約の締結に裁量権の逸脱、濫用があったか否かを判断する上で、重要な考慮要素となるというべきである。そうすると、デザイン博の準備及び開催運営に関する市と第1審被告協会との関係の実質、第1審被告協会が行ったデザイン博の準備及び開催運営の内容並びにこれに関して支出された費用の内訳を検討しなければ、本件各契約の締結について裁量権の逸脱、濫用があったかどうかを判断することはできないものというべきである」。

 ②「給付行政における契約」

 「特別の規定がない限り、契約方式の推定が働く」が「法律の特別の規定において、契約ではなく、行政行為による権利変動が予定されていることがある点に注意しなければならない」(塩野・前掲書190頁)。

 行政行為とされている例として、補助金適正化法による補助金交付決定、地方自治法第244条の2による公の施設の利用関係、国民年金法第16条、厚生年金保健法第32条がある。介護保険法においては行政行為、行政契約などの複数の行為形式が組み合わされている。

 契約による場合であっても、平等原則が適用され(差別的取り扱いの禁止)、供給義務を課す場合がある。この場合は、契約の解除についても法的な制約が課されることになる。なお、私企業であっても、同じような義務が課される場合がある (電気事業法第18条、電気通信事業法第25条、ガス事業法第16条、水道法第15条)。

 この点で、とくに問題とされてきたのが、水道法第15条第1項にいう「正当の理由」 の解釈である。

 ●最一小判平成11年1月21日民集53巻1号13頁

 事案:福岡県糟屋郡志免(しめ)町は、福岡市に隣接しており、人口が急増していたが、地形の関係などにより、水道の水源を新たに確保することが難しいという状況にあった。このため、志免町は給水規則を改正し、一定の戸数を超える共同住宅などについては給水を拒否するというような規定を置いた。不動産会社のXは同町内にマンションの建設を計画し、420戸分の給水契約を申し込んだが、志免町はこの契約の締結を拒否した。そこで、Xは、この給水拒否が水道法第15条第1項にいう「正当の理由」に該当しないとして出訴した。福岡地判平成4年2月13日判時1438号118頁はXの主張を認めたが、福岡高判平成7年7月19日高民集48巻2号183頁はX敗訴部分を取り消したので、Xが上告した。最高裁判所第一小法廷は、Xの上告を棄却した。

 判旨:水道「法一五条一項にいう『正当の理由』とは、水道事業者の正常な企業努力にもかかわらず給水契約の締結を拒まざるを得ない理由を指すものと解されるが、具体的にいかなる事由がこれに当たるかについては、同項の趣旨、目的のほか、法全体の趣旨、目的や関連する規定に照らして合理的に解釈するのが相当である」。水道法は「市町村を始めとする地方公共団体に対し、水の適正かつ合理的な使用に関し必要な施策を講じなければならず(法二条一項)、当該地域の自然的社会的諸条件に応じて、水道の計画的整備に関する施策を策定、実施するとともに、水道事業を経営するに当たっては、その適正かつ能率的な運営に努めなければならないとの責務を課し(法二条の二第一項)、他方、国民に対しては、市町村等の右施策に協力するとともに、自らも、水の適正かつ合理的な使用に努めなければならないとの責務を課している(法二条二項)」から「市町村は、水道事業を経営するに当たり、当該地域の自然的社会的諸条件に応じて、可能な限り水道水の需要を賄うことができるように、中長期的視点に立って適正かつ合理的な水の供給に関する計画を立て、これを実施しなければならず、当該供給計画によって対応することができる限り、給水契約の申込みに対して応ずべき義務があり、みだりにこれを拒否することは許されないものというべきである。しかしながら、他方、水が限られた資源であることを考慮すれば、市町村が正常な企業努力を尽くしてもなお水の供給に一定の限界があり得ることも否定することはできないのであって、給水義務は絶対的なものということはできず、給水契約の申込みが右のような適正かつ合理的な供給計画によっては対応することができないものである場合には、法一五条一項にいう『正当の理由』があるものとして、これを拒むことが許されると解すべきである」。従って、「水の供給量が既にひっ迫しているにもかかわらず、自然的条件においては取水源が貧困で現在の取水量を増加させることが困難である一方で、社会的条件としては著しい給水人口の増加が見込まれるため、近い将来において需要量が給水量を上回り水不足が生ずることが確実に予見されるという地域にあっては、水道事業者である市町村としては、そのような事態を招かないよう適正かつ合理的な施策を講じなければならず、その方策としては、困難な自然的条件を克服して給水量をできる限り増やすことが第一に執られるべきであるが、それによってもなお深刻な水不足が避けられない場合には、専ら水の需給の均衡を保つという観点から水道水の需要の著しい増加を抑制するための施策を執ることも、やむを得ない措置として許されるものというべきである。そうすると、右のような状況の下における需要の抑制施策の一つとして、新たな給水申込みのうち、需要量が特に大きく、現に居住している住民の生活用水を得るためではなく住宅を供給する事業を営む者が住宅分譲目的でしたものについて、給水契約の締結を拒むことにより、急激な需要の増加を抑制することには、法一五条一項にいう「正当の理由」があるということができるものと解される」。

 この判決と、最二小決平成元年11月8日判時1328号16頁(やはり水道法第15条第1項にいう「正当の理由」が問題となった)とを比較していただきたい。

 また、給付行政については、民間委託が行われることが多いが、その委託も契約によりなされる (最一小判昭和48年12月10日民集27巻11号1594頁を参照)。

 ③「規制行政における契約」

 規制行政において、基本的には行政行為が多用される。また、法律による行政の原理が強く妥当する分野については、行政契約を用いることはできないというのが原則である。 しかし、行政契約を規制行政の場で用いることが全く不可能であるという訳ではない。

 (1)公害防止協定

 規制行政における行政契約の典型例の一つとして、公害防止協定がある。これは、元々、国の環境保護法などが不十分であった時代に、大気汚染などの拡大を防止するため、関係企業と締結したものである。現在は法的拘束力を認める見解が有力である(通説化していると評価するほうが妥当かもしれない)。

 ●最二小判平成21年7月10日判時2058号53頁(Ⅰ−98)

 事案:産業廃棄物処理業者Y(被告・控訴人・被上告人)は、平成元年、福岡県知事に対し、宗像(むなかた)郡福間町の領域において廃棄物処理施設(本件処理施設)を設置する旨を届け出て、その施設の使用を開始した※。福間町とYは、平成7年7月26日に本件処理施設に関する公害防止協定を締結した。その内容は、施設の規模を定め、使用期限を平成15年12月31日までとし(但し、それ以前に一定の埋め立て容量に達した場合にはその期日まで)、第12条においてYが上記期限を超えて産業廃棄物の処分を行ってはならない旨が定められていた。同年、Yは県知事に対して本件処理施設の規模を拡張する旨の変更許可申請を行い、10月に変更許可を受けた。Yは平成10年1月にも変更許可申請を行い、同年3月に変更許可を受けている。これらの変更許可による処理施設の拡張によって公害防止協定で定められた規模を上回ることとなり、平成10年9月に両者は改めて公害防止協定を締結したが、使用期限については変更されなかった。平成15年12月31日を過ぎても、Yは本件処理施設を使用していたので、福間町が期限の経過を理由としてYの本件処分施設使用の差止を求める訴訟を提起した(なお、一審の段階で福間町は津屋崎町と合併し、福津市となったので、同市が本件の原告の地位を承継した)。福岡地判平成18年5月31日判自304号45頁は福津市の請求を認容したが、福岡高判平成19年3月22日判自35頁が福津市の請求を棄却したので、同市が上告した。最高裁判所第二小法廷は、次のように述べて福岡高等裁判所判決を破棄し、同裁判所に差し戻した。

 ※ 平成3年に法律が改正され、産業廃棄物処理施設の設置については都道府県知事の許可を必要とすることとされた。本件では改正法附則により、Yが県知事の許可を受けたものとみなされた。

 判旨:産業廃棄物処理法第1条、第14条、第15条などの規定は「知事が、処分業者としての適格性や処理施設の要件適合性を判断し、産業廃棄物の処分事業が廃棄物処理法の目的に沿うものとなるように適切に規制できるようにするために設けられたものであり、上記の知事の許可が、処分業者に対し、許可が効力を有する限り事業や処理施設の使用を継続すべき義務を課すものではないことは明らかである。そして、同法には、処分業者にそのような義務を課す条文は存せず、かえって、処分業者による事業の全部又は一部の廃止、処理施設の廃止については、知事に対する届出で足りる旨規定されているのであるから(14条の3において準用する7条の2第3項、15条の2第3項において準用する9条3項)、処分業者が、公害防止協定において、協定の相手方に対し、その事業や処理施設を将来廃止する旨を約束することは、処分業者自身の自由な判断で行えることであり、その結果、許可が効力を有する期間内に事業や処理施設が廃止されることがあったとしても、同法に何ら抵触するものではない」。従って、本件の公害防止協定第12条が「知事の許可の本質的な部分にかかわるものではな」く、福岡県産業廃棄物処理施設の設置に係る紛争の予防及び調整に関する条例第15条が「予定する協定の基本的な性格及び目的から逸脱するものでもない」から、公害防止協定第12条の「法的拘束力を否定することはできない」。

 この最高裁判所第二小法廷判決により、公害防止協定の法的拘束力が判例においても承認されたと言える。但し、次の点には注意を要する。

 ・契約としての公害防止協定に違反したという理由により刑罰を科したりすることはできない。行政契約には、そこまでの法的拘束力を認めることができないため、契約にこの趣旨の条項を盛り込むことは許されない。契約に違反した者に対して刑罰を科そうとするのであれば、法律の根拠を必要とする。

 ・公害防止協定において職員の立入検査権や操業の一時停止などの措置を規定することについては、実例が存在するようであるが、契約によって公権力の行使の場を生み出すことになり、法律による行政の原理から逸脱する。やはり、法律の根拠を必要とする。

 (2)開発協力金・開発負担金の納付契約

 これは宅地開発許可の際に要請される契約であり、規制行政における行政契約の典型例の一つでもある。地方公共団体が要綱に従って行政指導を行い、相手方の協力によって実現するというのがこれまでの一般例であった。

 (3)公用負担契約

 公用負担契約とは、私人の土地の上に公共施設を設置する場合の契約であり、やはり規制行政における行政契約の典型例の一つである。土地の所有者である私人の承諾を受けた上で契約を締結し、所有権について公用目的を達成する限りにおける制約を課することになる。

 ④「行政主体間の契約」

 冒頭に記したように、行政契約は、多くの場合に行政主体と私人との間で締結されるものであるが、行政主体間で締結されることもある。やはり、いくつかの種類がある。

 まず、民事法の契約である場合が存在する。例として、国有財産である土地を地方公共団体に売却する場合(払い下げ)をあげることができる。

 次に、行政主体間における事務の委託(事務委託)が存在する。一般的な規定として地方自治法第252条の14があり、個別分野の例として学校教育法第40条第1項がある。

 なお、今回の主題から外れるが、この他、地方公共団体の事務を共同で処理する方法がある。地方自治法には、組合(第284条)、協議会(第252条の2)、委員会などの共同設置(第252条の7)などが規定されている(契約ではなく、合同行為※という性格を有する)。

 ※合同行為とは、公益法人の設立などにみられるように、複数の当事者が同一の目的・利益のために行う法的行為のことである。

 

 3.行政契約と法律の根拠

 行政契約に法律の根拠が必要か否かは、一概に言うことができない。場合を分けた上で考察をなす必要がある。ここでは、上述の分類に従い、検討を進める。

 ①「準備行政における契約」

 基本的に民法の法理論が適用されるので、個別の契約について法律の根拠は必要とされない。但し、国有財産や公有財産の管理については特別の法律が存在する (国有財産法など)。

 ②「給付行政における契約」

 これについても一概に言えないが、補助金交付契約については原則として法律の根拠を必要とするという考え方がある。但し、 補助金交付は行政行為により行われることが多い。

 ③「規制行政における契約」

 基本的には行政行為によることになるが、契約が許される場合(例、公害防止協定)には、法律の根拠は不要であると解されている。これに対し、宅地開発許可の際に要請される開発協力金・開発負担金の納付契約のようなものについては、法律の根拠が必要であると考えられている。

 ④「行政主体間の契約」

 まず、民事法の契約による場合には、法律の根拠は必要とされない。但し、国有財産法、会計法、地方自治法などによる規律をうけることとなる。

 次に、事務委託は、民法上の委託とは意味を異にし、事務処理の権限が全て受託者に移る。すなわち、法律による権限配分に変動を及ぼすことになる。このため、法律の根拠を必要とする。

 

 4.行政契約と訴訟

 行政契約を裁判で争う場合には、原則として、民事訴訟か公法上の当事者訴訟による こととなる。抗告訴訟は行政庁の「処分」を争うものであり、行政契約は「処分」に該当しないからである。しかし、形式的行政処分として、法律の規定により取消訴訟によらなければならない場合があり、さらに、取消訴訟を提起する前に行政不服審査を経なければならない場合もある

 

 5.Private Finance Initiative (PFI)

 これは、元々イギリス法の制度であり、公共施設の設置・管理を、設計から管理に至るまで民間事業者に一括して委ねる方式である(従来は、建設、管理などが分断的な形で委託されていた)。 日本においては、 民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(平成11年法律第117号)が制定され、この法律に基づいてPFIが行われることとなる。但し、この法律においては「準備行政における契約」および「給付行政における契約」の領域のみが対象とされている。

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行政法講義ノート〔第6版〕に向けての暫時改訂版 第8回 行政裁量論(その2)

2015年07月23日 12時01分18秒 | 行政法講義ノート〔第6版〕に向けての暫時改訂版

 (「その1」はこちら。)

 4.裁量の逸脱(踰越)と濫用

 勿論、裁量といえども無制約に認められる訳ではない。行政庁が裁量権を逸脱し、または濫用した場合には、違法となる。従って、「自由裁量」行為であっても、裁量権の逸脱・濫用があった場合には、これを裁判所が違法なものとして取り消すことができる。行政事件訴訟法第30条は、このことを確認的に規定している。

 このことから、前述の自由裁量は、少なくとも純粋な形のそれは、現行の法体系において認められえない、ということになる。

 判例においては、逸脱と濫用が明確に区別されていないが、敢えて区別するなら、裁量権の逸脱は、法律によって画定された裁量権の限界を超えていると認められる場合のことであり、裁量権の濫用とは、(表向きは)裁量権の範囲に留まってはいるが、(実は)恣意的に、著しく不公正な行為を行った場合のことである。

 

 5.裁量に対する統制―司法審査における裁量の扱われ方―その1

 裁量に対する司法審査の方法として、大別すれば、裁量の実体的側面を審査する場合と手続的側面を審査する場合とがある。まず、実体的側面を審査する場合を概観する。

 (1)重大な事実誤認

 これは当然のことであり、裁量行為に限られるものではないが、国公立大学において或る学生に懲戒に該当する事実がないのに懲戒として退学処分にすることは、裁量権の逸脱と評価される。

 ●最三小判昭和29年7月30日民集8巻7号1501頁

 判旨:「大学の学生に対する懲戒処分は、教育施設としての大学の内部規律を維持し教育目的を達成するために認められる自律的作用にほかならない。そして、懲戒権者たる学長が学生の行為に対し懲戒処分を発動するに当り、その行為が懲戒に値するものであるかどうか、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶべきかを決するについては、当該行為の軽重のほか、本人の性格および平素の行状、右行為の他の学生に与える影響、懲戒処分の本人および他の学生におよぼす訓戒的効果等の諸般の要素を考量する必要があり、これらの点の判断は、学内の事情に通ぎようし直接教育の衝に当るものの裁量に任すのでなければ、適切な結果を期することができないことは明らかである。それ故、学生の行為に対し、懲戒処分を発動するかどうか、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶかを決定することは、その決定が全く事実上の根拠に基かないと認められる場合であるか、もしくは社会観念上著しく妥当を欠き懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えるものと認められる場合を除き、懲戒権者の裁量に任されているものと解するのが相当である。」(下線は引用者による。以下の黄色マーカーなども同じ。)

 ●最大判昭和53年10月4日民集32巻7号1223頁

 判旨:「処分が違法となるのは、それが法の認める裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限られるのであり、また、その場合に限り裁判所は当該処分を取り消すことができるものであつて、行政事件訴訟法三〇条の規定はこの理を明らかにしたものにほかならない。」

 「法が処分を行政庁の裁量に任せる趣旨、目的、範囲は各種の処分によつて一様ではなく、これに応じて裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつたものとして違法とされる場合もそれぞれ異なるものであり、各種の処分ごとにこれを検討しなければならないが、これを出入国管理令二一条三項に基づく法務大臣の「在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由」があるかどうかの判断の場合についてみれば、右判断に関する前述の法務大臣の裁量権の性質にかんがみ、その判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限り、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつたものとして違法となるものというべきである。したがつて、裁判所は、法務大臣の右判断についてそれが違法となるかどうかを審理、判断するにあたつては、右判断が法務大臣の裁量権の行使としてされたものであることを前提として、その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により右判断が全く事実の基礎を欠くかどうか、又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により右判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるかどうかについて審理し、それが認められる場合に限り、右判断が裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつたものとして違法であるとすることができるものと解するのが、相当である。」

 ●最一小判平成18年9月14日判時1951号39頁

 事案:第二東京弁護士会に所属する弁護士Xは、土地の賃貸借契約の更新拒絶を受けて明渡交渉を依頼されたが、解決金の一部を受領したにもかかわらず虚偽の報告を行い、独断で明渡について再交渉を行い、追加の立退料を受領したにもかかわらず秘匿していた、などの理由により、弁護士法第56条第1項にいう「品位を失うべき非行」に当たるとして、業務停止3か月の懲戒処分を受けた。Xは、同第59条に基づいてY(日本弁護士連合会)に審査請求を行ったが、Yは棄却裁決を下した。そこで、Xはこの裁決の取消を求めて出訴した。一審東京高判平成14年12月1日判例集未登載はXの請求を認容したので、Yが上告した。最高裁判所第一小法廷は、一審判決を破棄し、Xの請求を棄却した。

 判旨:「懲戒の可否、程度等の判断においては、懲戒事由の内容、被害の有無や程度、これに対する社会的評価、被処分者に与える影響、弁護士の使命の重要性、職務の社会性等の諸般の事情を総合的に考慮することが必要である。したがって、ある事実関係が「品位を失うべき非行」といった弁護士に対する懲戒事由に該当するかどうか、また、該当するとした場合に懲戒するか否か、懲戒するとしてどのような処分を選択するかについては、弁護士会の合理的な裁量にゆだねられているものと解され、弁護士会の裁量権の行使としての懲戒処分は、全く事実の基礎を欠くか、又は社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り、違法となるというべきである。

 ▲以上の判決では「全く事実の基礎を欠く」という文言(基準?)が示されている。

 ●最三小判平成18年2月7日民集60巻2号401頁(Ⅰ-77。呉市学校施設使用不許可事件)

 事案:X(原告、被控訴人、被上告人)は、広島県内の公立小中学校等に勤務する教職員によって組織された職員団体である。Xは、呉市内の中学校において1999年11月13日および14日に第49次広島県教育研究集会を行うこととし、同年9月に同中学校長に対して口頭で体育館の使用許可を申し出た。同校長は一旦了承したが、呉市教育委員会委員長が以上の事実を知り、同校長を呼び出して協議し、使用許可を出さないことを決定した。Xは使用許可申請書を同市教育委員会に提出していたが、同年10月31日付で同市教育委員会は学校施設使用不許可決定通知書をXに対して交付した。その理由として、会場となる予定の中学校およびその周辺の学校や地域に混乱を招いて児童生徒に教育上悪影響を与え、学校教育に支障を来すことが予想される、とされた。Xは、呉市(被告、控訴人、上告人)に対して損害賠償を請求する訴訟を提起した。

 広島地判平成14年3月28日民集60巻2号443頁はXの請求を一部認め、広島高判平成15年9月18日民集60巻2号471頁も前掲広島地判を支持したため、呉市が上告したが、最高裁判所第三小法廷は上告を棄却した。

 判旨:「学校施設は、一般公衆の共同使用に供することを主たる目的とする道路や公民館等の施設とは異なり、本来学校教育の目的に使用すべきものとして設置され、それ以外の目的に使用することを基本的に制限されている(学校施設令1条、3条)ことからすれば、学校施設の目的外使用を許可するか否かは、原則として、管理者の裁量にゆだねられているものと解するのが相当である。」

 「管理者の裁量判断は、許可申請に係る使用の日時、場所、目的及び態様、使用者の範囲、使用の必要性の程度、許可をするに当たっての支障又は許可をした場合の弊害若しくは影響の内容及び程度、代替施設確保の困難性など許可をしないことによる申請者側の不都合又は影響の内容及び程度等の諸般の事情を総合考慮してされるものであり、その裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討しその判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法となるとすべきものと解するのが相当である。」

 ▲この判決の黄色マーカーの部分は、後に扱う判断過程審査に関わる部分であり、下線の部分は重大な事実誤認に関する部分である。

 ●最一小判平成18年11月2日民集60巻9号3249頁(Ⅰ-79。小田急高架化訴訟)

 事案:東京都知事(被上告参加人)は、平成5年2月1日付で、都市計画法第21条第2項・第18条第1項に基づき「東京都市計画都市高速鉄道第9号線」を変更し、小田急小田原線の喜多見駅付近から梅ヶ丘駅付近までの区間を複々線化し、さらに成城学園前付近を堀割式とする以外は高架式とする旨の都市計画を告示した。これに対し、沿線住民らは、周辺地域に与える影響や事業費の面で問題のある複々線化・高架化を採用したことが違法であるとして、この都市計画などを認可した建設省関東地方整備局長を被告として、訴訟を提起した。東京地判平成13年10月3日判時1764号3頁は沿線住民らの請求を認容したが、東京高判平成15年12月18日訟月50巻8号2322頁が原判決を取り消し、請求を棄却した。最高裁判所第一小法廷は、沿線住民らの上告を棄却した。

 判旨:「都市計画法は、都市計画について、健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと等の基本理念の下で(2条)、都市施設の整備に関する事項で当該都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため必要なものを一体的かつ総合的に定めなければならず、当該都市について公害防止計画が定められているときは当該公害防止計画に適合したものでなければならないとし(13条1項柱書き)、都市施設について、土地利用、交通等の現状及び将来の見通しを勘案して、適切な規模で必要な位置に配置することにより、円滑な都市活動を確保し、良好な都市環境を保持するように定めることとしているところ(同項5号)、このような基準に従って都市施設の規模、配置等に関する事項を定めるに当たっては、当該都市施設に関する諸般の事情を総合的に考慮した上で、政策的、技術的な見地から判断することが不可欠であるといわざるを得ない。そうすると、このような判断は、これを決定する行政庁の広範な裁量にゆだねられているというべきであって、裁判所が都市施設に関する都市計画の決定又は変更の内容の適否を審査するに当たっては、当該決定又は変更が裁量権の行使としてされたことを前提として、その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合、又は、事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと、判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解するのが相当である。」

 ▲この判決の黄色マーカーの部分は、後に扱う判断過程審査に関わる部分であり、下線の部分は重大な事実誤認に関する部分である。

 ▲以上の二判決では「重要な事実の基礎を欠く」、「基礎とされた重要な事実に誤認がある」となっており、「全く」→「重要な」と変化している。

 もっとも、既に述べたように、事実認定に裁量の余地を認めるべきではない。それにもかかわらず、重大な事実誤認が裁量権行使の違法事由とされることについては、次のように考えるべきであろう。事実認定は法律に定められる要件に該当するか否かの判断を左右する。従って、事実誤認により、例えば行政庁が誤って裁量権があるものと考えて判断をなすことにより、違法な結論が導かれうる。換言すれば、事実誤認は法律要件該当性の判断を左右するので、裁量権の逸脱・濫用につながりうるのである。

 (2)目的違反(動機違反)

 裁量は、授権(法律)規定の趣旨・目的に沿わなければならないのであり、問題となっている行政行為の根拠規定によってカヴァーされない目的のために裁量権を行使することは許されない。

 ●最二小判昭和48年9月14日民集27巻8号925頁

 事案:原告は広島県内の公立学校長の職にあった。しかし、被告(広島県教育委員会)は、昭和34年2月21日付で、原告が学校の予算執行その他の職務執行に関し、しばしば職務上の上司の職務上の命令に違反する等校長としての適格性を欠くものと認められるとして、地方公務員法第28条第1項第3号に基づき、原告を公立学校教員教諭に降任する旨の分限処分を行った。原告は、これを違法として広島県人事委員会に審査請求を行ったが、同委員会の裁決を経ることなく、原告は分限処分の取消を求めて出訴した。広島地判昭和41年7月12日行集17巻7・8号792頁は原告の請求を認め、広島高判昭和43年6月4日民集27巻8号1061頁は被告の控訴を棄却した。最高裁判所第二小法廷は、広島高等裁判所判決を破棄し、事件を同裁判所に差し戻した。

 判旨:「分限処分については、任命権者にある程度の裁量権は認められるけれども、もとよりその純然たる自由裁量に委ねられているものではなく、分限制度の上記目的と関係のない目的や動機に基づいて分限処分をすることが許されないのはもちろん、処分事由の有無の判断についても恣意にわたることを許されず、考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮して判断するとか、また、その判断が合理性をもつ判断として許容される限度を超えた不当なものであるときは、裁量権の行使を誤つた違法のものであることを免れないというべきである。そして、任命権者の分限処分が、このような違法性を有するかどうかは、同法(注:地方公務員法)八条八項にいう法律問題として裁判所の審判に服すべきものであるとともに、裁判所の審査権はその範囲に限られ、このような違法の程度に至らない判断の当不当には及ばないといわなければならない」。

 ▲この判決では、一般論ではあるが裁量行為が違法であると判断される場合が列挙されている。

 ・制度の目的と無関係の目的や動機に基づいて裁量行為が行われた場合

 ・処分事由の有無の判断について恣意に渡っている場合

 ・考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮して判断した場合

 ・判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えた不当なものである場合

 ●東京地判昭和44年7月8日行裁例集20巻7号842頁

 Xは、北京・上海日本工業展覧会の実施団体で、電子工業関係の製品などを出品するため、貨物の輸出承認の申請を行った。これに対し、通商産業大臣は、対共産圏輸出統制委員会(ココム)の申し合わせで輸出を制限された物資に該当するとして不承認の処分を行った。Xは、この処分により出品が不可能になったとして国家賠償を請求した。東京地方裁判所は、国家賠償の請求を棄却したが、本件の不承認処分が輸出貿易管理令第1条第6号の趣旨を逸脱するものであるとして違法であると認定した。

 ※対共産圏輸出統制委員会(Coordinating Committee for Export to Communist Area)は、共産圏諸国(東側諸国)に対する戦略物資や技術の輸出を禁止・制限することを目的として、1949年に発足した協定機関であり、本部はパリに置かれていた。日本の他、北大西洋条約機構加盟国(アイスランドを除く)が加盟していた。1994年に解体されている。

 ●最二小判昭和53年6月16日刑集32巻4号605頁(Ⅰ―72)

 被告会社は、某県公安委員会に個室付公衆浴場の営業許可を申請した。しかし、この計画を知った某町は、個室付公衆浴場の予定地である場所から200mも離れていない場所に児童遊園を設置するために県知事に認可を申請し、被告会社への営業許可よりも早い日に認可を得た。被告会社は個室付公衆浴場を開業したため、風俗営業等取締法違反に問われて起訴された。最高裁判所第二小法廷は、被告会社を無罪とする判決を言い渡した。この判決において、本件の児童遊園の設置が専ら被告会社の営業を規制(阻止)することを目的としており、これを受け入れた認可は行政権の濫用にあたる、とされている。判旨は妥当と思われるが、芝池義一『行政法総論講義』〔第4版補訂版〕(2006年、有斐閣)82頁は疑念を示している。

 (3)信義則違反

 信義誠実の原則は、行政権の裁量行使に対する歯止めともなりうる。

 ●最三小判平成8年7月2日判時1578号51頁

 事案:外国籍のX(被上告人)は、日本国籍の女性と結婚して日本への上陸を許可された。Xは妻と別居したが、やはり在留許可を得ていた。しかし、妻がXとの間の婚姻無効確認訴訟を提起し、その訴訟の係属中に、法務大臣Y(上告人)はXの意に反して在留資格を短期滞在に変更して許可を行った。そして、この訴訟の控訴審判決が確定した後に、YはXの在留期間更新申請に対して不許可とする処分を行った。なお、この処分の後、妻はXを相手に離婚請求訴訟を提起している。

 判旨:「『短期滞在』の在留資格で本邦に在留する外国人から在留期間の更新申請がされた場合において、上告人は、通常であれば、当該外国人につき、『短期滞在』の在留資格に対応する出入国管理及び難民認定法別表第一の三下欄の活動を引き続き行わせることを適当と認めるに足りる相当の理由があるかどうかを判断すれば足り、他の在留資格に対応する活動を行わせることを適当と認めるに足りる相当の理由があるかどうかについて考慮する必要のないことは、一応所論のとおりである」が、本件の場合は、Xが「本邦における在留を継続してきていたが」YがXの「本邦における活動は、もはや日本人の配偶者の身分を有する者としての活動に該当しないとの判断の下に、被上告人の意に反して、その在留資格を同法別表第一の三所定の『短期滞在』に変更する旨の申請ありとして取り扱い、これを許可する旨の処分をし、これにより、被上告人が『日本人の配偶者等』の在留資格による在留期間の更新を申請する機会を失わせたものと判断されるのであ」り、Xの「活動は、日本人の配偶者の身分を有するものとしての活動に該当するとみることができないものではない」。そのため、Xの「在留資格が『短期滞在』に変更されるに至った右経緯にかんがみれば、上告人は、信義則上、『短期滞在』の在留資格による被上告人の在留期間の更新を許可した上で、被上告人に対し、『日本人の配偶者等』への在留資格の変更申請をして被上告人が『日本人の配偶者等』の在留資格に属する活動を引き続き行うのを適当と認めるに足りる相当の理由があるかどうかにつき公権的判断を受ける機会を与えることを要したものというべきである。」

 (4)平等原則違反

 ●最二小判昭和30年6月24日民集9巻7号930頁

 米供出個人割当通知の違法性が争われた事件で、最高裁判所第二小法廷は、結論として原告(上告人)の請求を認めなかったが、一般論として「行政庁は、何等いわれがなく特定の個人を差別的に取扱いこれに不利益を及ぼす自由を有するものではなく、この意味においては、行政庁の裁量権には一定の限界があるものと解すべきである」と述べている。

 (5)比例原則違反

 これを明示する判決も存在する。最三小判昭和52年12月20日民集31巻7号1101頁は、比例原則との関係において疑問が出されている。結局のところ、「社会通念上著しく妥当性を欠く」という言葉の意味が明確でないためである。

 ●(公務員の懲戒処分)最一小判平成24年1月16日判時2147号127頁①および②

 事案:複数の事件について審理が行われ、判決が下されたが、事案はほぼ共通する。すなわち、原告らは、卒業式、入学式、創立30周年記念式典などにおける国歌斉唱の際に起立斉唱を行わなかった、国歌斉唱の際のピアノ伴奏を拒否した、国歌斉唱の開始前または途中で退席したなどの理由で、東京都教育委員会から3か月の停職処分、1か月の停職処分、1か月分について1割の減給処分などを受けた。これらの処分の妥当性が争われた訳である。

 判旨:最高裁判所第一小法廷は、以下のように述べ、一部の懲戒処分については違法であると判断した(便宜上、二つの判決をまとめた)。

 「公務員に対する懲戒処分について、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の上記行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定する裁量権を有しており、その判断は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に、違法となるものと解される」〔前掲最三小判昭和52年12月20日、最一小判平成2年1月18日民集44巻1号1頁(Ⅰ-54。伝習館高校事件)を参照〕。本件のような事例において「不起立行為に対する懲戒において戒告を超えてより重い減給以上の処分を選択することについては、本件事案の性質等を踏まえた慎重な考慮が必要となるものといえる」のであり、「不起立行為に対する懲戒において戒告、減給を超えて停職の処分を選択することが許容されるのは、過去の非違行為による懲戒処分等の処分歴や不起立行為の前後における態度等(以下、併せて「過去の処分歴等」という。)に鑑み、学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から当該処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的な事情が認められる場合であることを要すると解すべきであ」り、「過去2年度の3回の卒業式等における不起立行為による懲戒処分を受けていることのみを理由に同上告人に対する懲戒処分として停職処分を選択した都教委の判断は、停職期間の長短にかかわらず、処分の選択が重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠き、上記停職処分は懲戒権者としての裁量権の範囲を超えるものとして違法の評価を免れないと解するのが相当である」。

 また、「減給処分は、処分それ自体によって教職員の法的地位に一定の期間における本給の一部の不支給という直接の給与上の不利益が及び、将来の昇給等にも相応の影響が及ぶ」ことなどに鑑みれば、減給処分を選択することが許されるのは「学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から当該処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的な事情が認められる場合であることを要すると解すべきであ」り、「例えば過去の1回の卒業式等における不起立行為等による懲戒処分の処分歴がある場合に、これのみをもって直ちにその相当性を基礎付けるには足りず、上記の場合に比べて過去の処分歴に係る非違行為がその内容や頻度等において規律や秩序を害する程度の相応に大きいものであるなど、過去の処分歴等が減給処分による不利益の内容との権衡を勘案してもなお規律や秩序の保持等の必要性の高さを十分に基礎付けるものであることを要するというべきであ」り、本件については「学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から、なお減給処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的な事情があったとまでは認め難いというべきである」。

 (6)国民の権利・自由

 憲法により国民に認められる権利や利益を不当に侵害することは許されない。

 ●最二小判平成8年3月8日民集50巻3号469頁(Ⅰ―84)

 事案:神戸高専事件などとも言われ、憲法判例としても有名な事件である。公立の工業高等専門学校において、体育実技として剣道が必修科目とされていた。原告らは信仰上の理由から履修を拒否し、代替措置を申し入れたが受け入れられず、体育の成績も認定されなかった。学校長は原告らを原級留置処分とし、結局は退学処分とした。原告らはこれらの処分の取消を求めて出訴したが、神戸地判平成5年2月22日行集45巻12号2108頁および神戸地判平成5年2月22日行集行集45巻12号2134頁は原告らの請求を棄却した。これに対し、大阪高判平成6年12月22日行集45巻12号2069頁は原告らの請求を認容したため、学校長が上告した。最高裁判所第二小法廷は、上告を棄却した。

 判旨:「高等専門学校の校長が学生に対し原級留置処分又は退学処分を行うかどうかの判断は、校長の合理的な教育的裁量にゆだねられるべきものであり、裁判所がその処分の適否を審査するに当たっては、校長と同一の立場に立って当該処分をすべきであったかどうか等について判断し、その結果と当該処分とを比較してその適否、軽重等を論ずべきものではなく、校長の裁量権の行使としての処分が、全く事実の基礎を欠くか又は社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り、違法であると判断すべきものである」〔前掲最三小判昭和29年7月30日、最三小判昭和49年7月19日民集28巻5号790頁(Ⅰ-7)、前掲最三小判昭和52年12月20日を参照〕。しかし、本件各処分により学生が受ける不利益は極めて大きいものであり、言句らが「それらによる重大な不利益を避けるためには剣道実技の履修という自己の信仰上の教義に反する行動を採ることを余儀なくさせられるという性質を有するものであったことは明白である」から、学校長は「前記裁量権の行使に当たり、当然そのことに相応の考慮を払う必要があったというべきである」。結局、「信仰上の理由による剣道実技の履修拒否を、正当な理由のない履修拒否と区別することなく、代替措置が不可能というわけでもないのに、代替措置について何ら検討することもなく、体育科目を不認定とした担当教員らの評価を受けて、原級留置処分をし、さらに、不認定の主たる理由及び全体成績について勘案することなく、二年続けて原級留置となったため進級等規程及び退学内規に従って学則にいう『学力劣等で成業の見込みがないと認められる者』に当たるとし、退学処分をしたという上告人の措置は、考慮すべき事項を考慮しておらず、又は考慮された事実に対する評価が明白に合理性を欠き、その結果、社会観念上著しく妥当を欠く処分をしたものと評するほかはなく、本件各処分は、裁量権の範囲を超える違法なものといわざるを得ない」。

 私は、この判決の妥当性に疑問を持っているが、憲法学および行政法学の評価は高い。なお、注意しなければならないのは、あくまでも学校長の裁量権行使について逸脱・濫用が認められたのであって、裁量権そのものが否定された訳ではない、ということである。

 ●大阪地判昭和59年7月19日行裁例集35巻5号2037頁

 在日外国人に対する法務大臣の特別在留許可拒否処分について、原告が日本において長期間にわたり築き上げた生活を奪うことになり、妻子の生存にも重大な影響を与える場合に、裁量権の逸脱・濫用があるとして違法と判断した。本件の場合、原告が外国人であるとはいえ、出生から出訴当時まで日本に生活の基盤を置いていた、という事情がある。この点に注意しておきたい。

 (7)義務の懈怠

 国家賠償関係の判決において見られる基準であり、裁量収縮論と関係する。裁量収縮論とは、行政庁に裁量が認められている場合であっても、一定の場合においては、その裁量の幅が小さくなり、一定の行為をなすことを義務づけられるという理論である。但し、日本においては裁量権消極的濫用論が一般的に採用される。

 

 5.裁量に対する統制―司法審査における裁量の扱われ方―その2

 学説においては、行政権の裁量行使に対する司法審査の在り方として、行政庁の判断形成過程(の合理性)に対する司法審査が注目されている。これは、行政庁がなすべき具体的な比較考量・価値考量の場面において、

 ・考慮すべき要素・価値を正しく考量したか、

 ・考慮すべきでない事項、または過大に評価すべきでない事項を不適切に考量していないか、

という観点から司法審査を行う方法である。考慮すべき事項を考慮しない場合、または考慮において評価や判断を誤った場合には、行政庁の裁量権行使を違法とする理由となる訳である。

 今回取り上げた判決では、前掲最三小判平成18年2月7日、前掲最一小判平成18年11月2日、前掲最二小判昭和48年9月14日および前掲最二小判平成8年3月8日が判断形成過程に着目しているところである。私見によれば、判断過程に対する審査は、実体的審査において目的違反(動機違反)を理由として裁量行為を違法と断定する場合と類似し、その場合の変種といいうるのではないかと考えられる。

 ●東京地判昭和38年12月25日行集14巻12号2255頁(群馬中央バス事件一審判決)

 事案 後に紹介する最一小判昭和50年5月29日民集29巻5号662頁の一審判決である。X(バス会社)は営業路線の延長を求めて免許を申請した。東京陸運局長は聴聞を行い、運輸審議会に諮問した。同審議会も公聴会を開き、原告や利害関係人などの意見を聴取して、Xの申請を却下すべしとする答申を陸運局長に対して行った。これを受け、陸運局長は却下処分をした。これに対し、Xは訴願を提起せずに直ちに出訴した。東京地方裁判所はXの請求を認めた。

 判旨:「行政庁が国民の権利自由の規制にかかる処分をするにあたつて、現行法制上なんらの手続規定がなく、またはこれが簡略なものであつて、いかなる手続を採用するかを一応行政庁の裁量に委ねているようにみえる場合でも、この点に関する行政庁の裁量権にはなんらの制約がないものと解することはできない。(中略)また、この種の処分が行政庁の裁量判断に基づいて行われる場合、処分の掌に当る行政庁は、法の趣旨からして本来考慮に加うべからざる事項を考慮(以下本件において、これを「他事考慮」という。)して処分を行つてはならないことは当然であるから、行政庁は、できるかぎり他事考慮を疑われることのないような手続によつて処分を実施する義務があり、この点においても、いかなる手続を採用すべきかについての行政庁の裁量権には制約があるのであつて、国民は、他事考慮を疑われることのないような手続によつて処分を受くべき手続上の保障を享有するものといわねばならない」。

 ●東京高判昭和48年7月13日行裁例集24巻6・7号533頁(日光太郎杉事件控訴審判決)

 事案:栃木県知事は、国道の拡幅のためにX(日光東照宮)の境内地について土地収用法第16条による事業認定を建設大臣に申請した。この事業によると、日光の名木太郎杉などが伐採されることになるのであるが、建設大臣は事業認定を行った。これに対し、Xが事業認定や収用裁決などの取消しを求めて出訴した。宇都宮地判昭和44年4月9日行集20巻4号373頁はXの請求を認容した。東京高等裁判所もXの請求を認めた。

 判旨:「土地収用法第20号第3号にいう『事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものであること』という要件は、その土地がその事業の用に供されることによつて得らるべき公共の利益と、その土地がその事業の用に供されることによつて失なわれる利益(この利益は私的なもののみならず、時としては公共の利益をも含むものである。)とを比較衡量した結果前者が後者に優越すると認められる場合に存在するものであると解するのが相当である。そうして、控訴人建設大臣の、この要件の存否についての判断は、具体的には本件事業認定にかかる事業計画の内容、右事業計画が達成されることによつてもたらされるべき公共の利益、右事業計画策定及び本件事業認定に至るまでの経緯、右事業計画において収用の対象とされている本件土地の状況、その有する私的ないし公共的価値等の諸要素、諸価値の比較衡量に基づく総合判断として行なわるべきものと考えられる」。そして、「この点の判断が前認定のような諸要素、諸価値の比較考量に基づき行なわるべきものである以上、同控訴人がこの点の判断をするにあたり、本来最も重視すべき諸要素、諸価値を不当、安易に軽視し、その結果当然尽すべき考慮を尽さず、または本来考慮に容れるべきでない事項を考慮に容れもしくは本来過大に評価すべきでない事項を過重に評価し、これらのことにより同控訴人のこの点に関する判断が左右されたものと認められる場合には、同控訴人の右判断は、とりもなおさず裁量判断の方法ないしその過程に誤りがあるものとして、違法となるものと解するのが相当である」。本件の場合は「本件土地付近のもつかけがいのない文化的諸価値ないしは環境の保全という本来最も重視すべきことがらを不当、安易に軽視し、その結果右保全の要請と自動車道路の整備拡充の必要性とをいかにして調和させるべきかの手段、方法の探究において、当然尽すべき考慮を尽さず」、「オリンピツクの開催に伴なう自動車交通量増加の予想という、本来考慮に容れるべきでない事項を考慮に容れ」、「暴風による倒木(これによる交通障害)の可能性および樹勢の衰えの可能性という、本来過大に評価すべきでないことがらを過重に評価した」ことで「その裁量判断の方法ないし過程に過誤があり、これらの過誤がなく、これらの諸点につき正しい判断がなされたとすれば、控訴人建設大臣の判断は異なつた結論に到達する可能性があつたものと認められる」。

 ●最二小判平成18年9月4日訟月54巻8号1585頁(林試の森事件)

 事案:建設大臣は、旧都市計画法第3条に基づき、「東京都市計画公園第23号目黒公園」(後に「東京都市計画公園第5・5・25号目黒公園」に変更)に関する都市計画の決定(本件都市計画決定)を行い、昭和32年12月21日付で告示した。この公園は林業試験場(農林省の附属機関)の跡地を利用したものであり、都市計画法第4条第5項に定められる都市施設である。本件都市計画決定は、林業試験場の南門の位置に目黒公園の南門を設けるとしており、この南門と区道との接続部分として原告らの所有に係る土地を本件公園の区域に含むとしていた。東京都が原告らの所有地に南門と区道との接続部分を整備することを内容とする認可の申請を行い、建設大臣は認可を行って平成8年12月2日付で告示した。これに対し、原告らがこの認可の取消を求めて出訴した。東京地判平成14年8月27日訟月49巻1号325頁は原告らの請求を認めたが、東京高判平成15年9月11日訟務月報50巻4号1334頁は被告の控訴を容れて原告らの請求を棄却した。最高裁判所第二小法廷は、東京高等裁判所判決を破棄し、事件を同裁判所に差し戻した(なお、差戻の後に訴えが取り下げられている)。

 判旨:「都市施設は,その性質上,土地利用,交通等の現状及び将来の見通しを勘案して,適切な規模で必要な位置に配置することにより,円滑な都市活動を確保し,良好な都市環境を保持するように定めなければならないものであるから,都市施設の区域は,当該都市施設が適切な規模で必要な位置に配置されたものとなるような合理性をもって定められるべきものである。この場合において,民有地に代えて公有地を利用することができるときには,そのことも上記の合理性を判断する一つの考慮要素となり得ると解すべきである」。一方、「原審は,南門の位置を変更し,本件民有地ではなく本件国有地を本件公園の用地として利用することにより,林業試験場の樹木に悪影響が生ずるか,悪影響が生ずるとして,これを樹木の植え替えなどによって回避するのは困難であるかなど,樹木の保全のためには南門の位置は現状のとおりとするのが望ましいという建設大臣の判断が合理性を欠くものであるかどうかを判断するに足りる具体的な事実を確定していないのであって,原審の確定した事実のみから,南門の位置を現状のとおりとする必要があることを肯定し,建設大臣がそのような前提の下に本件国有地ではなく本件民有地を本件公園の区域と定めたことについて合理性に欠けるものではないとすることはできないといわざるを得ない」。また、「樹木の保全のためには南門の位置は現状のとおりとするのが望ましいという建設大臣の判断が合理性を欠くものであるということができる場合には,更に,本件民有地及び本件国有地の利用等の現状及び将来の見通しなどを勘案して,本件国有地ではなく本件民有地を本件公園の区域と定めた建設大臣の判断が合理性を欠くものであるということができるかどうかを判断しなければならないのであり,本件国有地ではなく本件民有地を本件公園の区域と定めた建設大臣の判断が合理性を欠くものであるということができるときには,その建設大臣の判断は,他に特段の事情のない限り,社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものとなるのであって,本件都市計画決定は,裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法となるのである」。

 

 6.裁量に対する統制―司法審査における裁量の扱われ方―その3

 もう一つの司法審査の方法として、行政行為に至る手続に対する審査(純粋な手続的コントロール)がある。行政手続が公正であれば、行政決定も公正であると考えることができるであろう。逆に、行政手続が不公正なものであれば、その結果として得られる行政決定も不公正なものとなる蓋然性は非常に高い。

 ●最一小判昭和46年10月28日民集25巻7号1037頁(個人タクシー事件、Ⅰ―125)

 事案:行政手続法の制定に大きな影響を与えた判決として有名なものである。Xは新規の個人タクシー営業免許を申請した。陸運局長Yはこれを受理し、聴聞を行ったが、道路運送法第6条に規定された要件に該当しないとして申請を却下する処分を行った。Xは、聴聞において自己の主張と証拠を十分に提出する機会を与えられなかったなどとして出訴した。東京地判昭和38年9月18日行集14巻9号1666頁はXの請求を認め、東京高判昭和40年9月16日行集16巻9号1585頁も原告の請求を認めた。最高裁判所第一小法廷も原告の請求を認め、本件の審査手続に瑕疵があったとしてYの申請却下処分を違法と判断した。

 判旨:「本件におけるように、多数の者のうちから少数特定の者を、具体的個別的事実関係に基づき選択して免許の許否を決しようとする行政庁としては、事実の認定につき行政庁の独断を疑うことが客観的にもつともと認められるような不公正な手続をとつてはならないものと解せられる」。道路運送法第6条は「右六条は抽象的な免許基準を定めているにすぎないのであるから、内部的にせよ、さらに、その趣旨を具体化した審査基準を設定し、これを公正かつ合理的に適用すべく、とくに、右基準の内容が微妙、高度の認定を要するようなものである等の場合には、右基準を適用するうえで必要とされる事項について、申請人に対し、その主張と証拠の提出の機会を与えなければならないというべきである。免許の申請人はこのような公正な手続によつて免許の許否につき判定を受くべき法的利益を有するものと解すべく、これに反する審査手続によつて免許の申請の却下処分がされたときは、右利益を侵害するものとして、右処分の違法事由となるものというべきである」。

 ●最一小判昭和50年5月29日民集29巻5号662頁(群馬中央バス事件、Ⅱ―126)

 事案:これも、行政手続法の制定に大きな影響を与えた判決として有名なものである。前掲東京地判昭和38年12月25日を参照。なお、東京高判昭和42年7月25日行集18巻7号1014頁はXの請求を棄却している。最高裁判所第一小法廷もXの請求を棄却した。

 判旨:「一般に、行政庁が行政処分をするにあたつて、諮問機関に諮問し、その決定を尊重して処分をしなければならない旨を法が定めているのは、処分行政庁が、諮問機関の決定(答申)を慎重に検討し、これに十分な考慮を払い、特段の合理的な理由のないかぎりこれに反する処分をしないように要求することにより、当該行政処分の客観的な適正妥当と公正を担保することを法が所期しているためであると考えられるから、かかる場合における諮問機関に対する諮問の経由は、極めて重大な意義を有するものというべく、したがつて、行政処分が諮問を経ないでなされた場合はもちろん、これを経た場合においても、当該諮問機関の審理、決定(答申)の過程に重大な法規違反があることなどにより、その決定(答申)自体に法が右諮問機関に対する諮問を経ることを要求した趣旨に反すると認められるような瑕疵があるときは、これを経てなされた処分も違法として取消をまぬがれないこととなるものと解するのが相当である。そして、この理は、運輸大臣による一般乗合旅客自動車運送事業の免許の許否についての運輸審議会への諮問の場合にも、当然に妥当するものといわなければならない」。

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2009年12月、神戸を歩く(6)

2015年07月22日 00時00分57秒 | 旅行記

 神戸に2泊3日ということで行きましたが、最終日の朝を迎えました。南京町からも近いメリケンパークへ行ってみることとしました。2009年12月27日、日曜日の朝であるためなのか、あまり人が多くありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〔2012月3月15日から21日まで、「待合室」第469回として掲載。一部を修正。〕

 〔これまで、「或る人」、「待ち合わせていた人」、「一緒に歩いている人」と記してきました。現在の私の妻のことです。当時はまだ結婚していなかったのでした。〕

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2009年12月、神戸を歩く(5)

2015年07月21日 00時00分25秒 | 旅行記

喫茶店「にしむら」を出て、我々は北へ歩きます。坂を登り続け、いよいよ、北野町のメインとも言うべき場所に入ります。異人館が立ち並ぶ観光名所です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 北野町を歩き通してから元町に戻ります。私は、神戸市中央区は元町の近く、南京町の入口に宿泊しています。

 夜、再び三宮に行きました。私と一緒に歩いている人が、阪急三宮駅の北側にある有名な茜屋珈琲店に入ろうと言うので、入ってみました。この店の名前は東京で聞いたこと、いや、見かけたことがあります。車を運転しながらではありますが、駒沢通りで駒沢公園を通り抜けて深沢不動前交差点に着く前、ハウジングセンターやバッティングセンターがある辺りに、茜屋珈琲店があったはずです。

 神戸は阪急三宮駅の北側にあるこの喫茶店は、かなりお客の多い店で、我々が入った時には満席でした。クラシック音楽が流れる喫茶店の上がカラオケ屋というのも妙なものですが、雑居ビルとはそういうものでしょう。

 ホテルに戻る時、元町を通りましたので、撮影してみました。あまり上手く撮れていませんが、御容赦を。

 

 

〔2012年3月10日から15日まで、「待合室」第468回として掲載。一部を修正。なお、撮影日は2009年12月26日です。〕

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2009年12月、神戸を歩く(4)

2015年07月20日 00時00分12秒 | 旅行記

 2009年12月26日、我々は、南京町の入口の隣という場所にあるホテルから旧居留地、神戸市役所を通り、三宮駅を抜けて歩き続けました。一緒に歩いている人が、ぜひとも北野町へ行ってみたいと言うのです。よく考えると、神戸市を何度か訪れている私も、北野町を歩いたことがなかったのでした。そこで、北野町へ向かいます。

 三宮駅の北口から程なく、登り坂になります。いかにも神戸という感じの地形です。その途中、道路にこんなプレートが設けられていました。Jの大文字に良く似ているテナーサクソフォンを上手く取り入れたデザインになっています。この辺りでジャズフェスティヴァルでもやっていたのかどうかわかりませんが、歩いている限りでは、私が愛聴するジャズ、とくに50年代のハードバップや60年代のモードジャズなどとは違うような気がします。街並みの雰囲気が、ドイツのどこかの街と少しばかり似ているからでもあります。

 ちなみに、上の写真は、大東文化大学法学部法律学科で私が担当する専門演習(ゼミナールのことです)の募集用シラバスに使用しました。

 三宮駅の北側から、長い坂が続きます。北野坂に入っていました。趣のある街並みですが、長く生活を続けるには少々厳しい環境かもしれません。クリスマスの翌日であったせいか、所々にまだ飾りつけが残っています。

 一緒に歩いている人は、神戸を初めて訪れた、と言います。その人も私もコーヒーを愛飲するのですが、神戸に来たらぜひとも喫茶店めぐりをしたいと言われ、私は少々困惑しました。私自身はコーヒーの種類などに全くこだわらないからです。それに、どのような店であれ、コーヒー1杯の値段は安くありませんし、どのような基準で値段がつけられているのかよくわかりません。それを言ったらおしまいという部分もあるのですが、ファストフード店などでの飲食代を考えると、喫茶店でのコーヒーの値段は高すぎます。これは、たとえばケーキセットやトーストセットにも言えることです。他の店に行けば、同じくらいの値段で定食を楽しむこともできたりします。

 「ここに入ってみたい」、一緒に歩いている人がそう言いました。有名な喫茶店だそうですが、私は全く知りませんでした。もっとも、どこの都市へ行くにせよ、私はあまり食堂、喫茶店、飲み屋などを調べたりしません。そもそも旅行ガイドの類をあまり読みませんし、グルメにもそれほど関心はありません。既に40代に入って久しいのですが、グルメ志向になったら年をとった証拠、若い人はそういうものにこだわらない、というのが私の持論でもあります。ただ、ここは同行している人にも合わせなければなりません。雰囲気のある喫茶店なので入ってみることとしました。

こんな感じの庭があるといいな、と思いました。ふと、私の実家の、何十年も前の庭のことを思い出しました。上の写真にあるような感じではなく、もっと雑然としてはいましたが。

午前中、こんな喫茶店でひと時を過ごすのもいいものです。コーヒーも美味く、満足しました。さすが、コーヒーと洋菓子では有名な神戸ならでは、といったところです。

もっとも、喫茶店ということでは、田園都市線の沿線も負けてはおりません。二子新地駅付近や高津駅付近には、非常に美味しく、しかも雰囲気の良い喫茶店がいくつかあるのです。

 

〔2011年12月3日から10日まで、「待合室」第454回として掲載。一部を修正。〕

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2009年12月、神戸を歩く(3)

2015年07月19日 00時00分03秒 | 旅行記

 旧居留地から東に向かい、歩き続けると、加納町6丁目にある神戸市役所に着きます。地下鉄海岸線の三宮・花時計前駅に近い場所にあります。コースは違うものの旧居留地・大丸前駅から三宮・花時計前駅まで歩いたことになりますが、両駅の間はそれほど離れておらず、この程度で「歩いたなどとは何事だ?」と言われるかもしれません。勿論、我々にとってはまだ歩き始めでありまして、これから三宮駅周辺、元町駅周辺などを歩き周ろうと考えているのです。

神戸市役所の建物です。いつ建てられたのかわかりませんが、この辺りではかなり目立ちます。周囲は公園となっています。

 

 「阪神大震災の記憶」と名づけられたモニュメントがあります。時計は5時46分を指しています。つまり、地震が発生した時刻です。1995年1月17日、私はこの大災害をテレビで知りました。NHKは勿論、東京の民放各局も、この地震による災害の報道を続けていました。今も鮮明に思い出します。

 ここにあるマリーナ像と時計は1976年につくられています。その時からここにあり、1995年1月17日に倒れたのでした。神戸市は、とくに長田区や兵庫区の被害が大きかったようで、テレビ番組でも両区が大きく取り上げられています。中央区ですとポートアイランドの液状化現象が大きく報じられていたと記憶しています。

 我々がここに来たのは2009年12月26日でした。勿論、およそ1年3ヵ月後、2011年3月11日14時46分の大地震のことなど、知る由もありません。

 1995年1月17日、私はテレビで兵庫県南部地震のことを知りました。朝、東京のどこのテレビ局を入れても、神戸市などの惨状が報じられていたのです。しかし、報道に比べて、当時の村山内閣の動きはあまりに遅いものでした。

 さらに歩いていくと、花時計があります。神戸市役所2号館に太陽光発電システムがあり、花時計もそのシステムによって動いているとのことです。ただ、いつも疑問に思うのですが、太陽光発電はいったいどれだけの省エネルギー効果を持つのでしょうか。

これが花時計です。この角度のためなのか、花時計のデザインの意味がわかりにくいのですが、神戸市章でしょうか。何かの顔でしょうか。

 

〔2011年9月22日から28日まで、「待合室」第443回として掲載。一部を修正。〕

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2009年12月、神戸を歩く(2)

2015年07月18日 00時00分05秒 | 旅行記

 南京町の入口の隣という場所にあるホテル東急ビズフォート神戸元町(現在の神戸元町東急REIホテル)に泊まり、2009年12月26日の朝を迎えました。朝食はホテルでとります。それから、昨日待ち合わせをした人と、神戸市中央区を歩いて見ることとしました。予定のコースは、旧居留地→神戸市役所→三宮駅→北野町です。

 大丸神戸店の裏に旧居留地が広がっています。当時の建物がそのまま残っている、というような所は見当たらなかったのですが、上手く雰囲気を残している、という感じがします。1995年1月17日の兵庫県南部地震の際はどうであったのでしょうか。

 歩道に置かれている花壇(プランター)です。神戸に居留地が置かれたのは1868年のことです。前年、つまり1867(慶応3)年に現在の兵庫区で開港しており、現在の中央区に居留地が置かれたという訳です。1900(明治33)年、居留地制度は廃止されました。神戸市の市街地は、元々は兵庫区から始まっており、現在の東海道本線の大阪~神戸が開通すると同時に神戸駅周辺、現在の阪神電鉄本線が開業し、さらに現在の阪急電鉄神戸本線が延長されることによって三宮が神戸市の中心街となります。旧居留地のすぐそばが中心となった訳です。

  ちなみに、神戸市の中央区は1980年に葺合区と生田区が合併して誕生しました。日本国憲法施行の下、関東地方で行政区の合併の例はないのですが(横浜市と川崎市には、合併と逆の分区の例があります)、関西地方では神戸市中央区の他、大阪市中央区(東区と南区が合併)の例があります。

 

 ○○筋というと、すぐに思い出すのは大阪市ですが、神戸市にも御覧のように明石町筋、京町筋などがあります。但し、正式の住居表示などとはなっていないようです(明石町、京町などはありますが)。また、神戸市の市街地全体に「筋」がある訳でもないようです。

 私の経験に基づいて思う所では、日本で最も道がわかりやすい都市は大阪市と札幌市です(京都市は、わかりやすさの点では大阪市および札幌市に比べて落ちます)。大阪市の場合は、少なくともメインとなる通りについては南北に通る道が「筋」(例、御堂筋、四ツ橋筋、谷町筋、堺筋)、東西に通る道が「通」(中央通、土佐堀通、長堀通)となっているので、非常にわかりやすいのです(大阪市でタクシーの運転手にも尋ね、確認しました)。また、札幌市の中心部の場合は「北1条西2丁目」(札幌市役所の住所)というようになっており、交差点には「南4西5」などと書かれています。

 神戸市の場合は大阪市と同じような言い方なのですが、「筋」と「通」の使い分けについてはよくわかりません(大阪市と同じではないかと推測しますが)。何度か神戸市を訪れていますが、神戸市でも「筋」という表現があることを知ったのは、2009年12月に訪れてからです。大阪市の場合は、御堂筋、谷町筋、四ツ橋筋、堺筋および今里筋が地下鉄の路線名になっているほどで、「筋」の存在は全国的にも有名ですが、神戸市の場合は、地元の人を除けば「知る人ぞ知る」ではないかと思われます。

少し東に歩いて浪花町筋です。有名ブランドと思われる名前を冠した店舗などが並んでいました。

消火栓の蓋ですが、神戸市らしいというか、洒落たデザインです。

我々は、神戸市役所のすぐそばにある花時計に向かって歩きます。土曜日の朝であるためなのか、車も人も少ないのですが、平日の朝などは人通りが多いのでしょう。

 

〔2011年7月20日から27日まで、「待合室」第428回として掲載。一部を修正。〕

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2009年12月、神戸を歩く(1)

2015年07月17日 09時45分46秒 | 旅行記

 季節外れもよいところですが、2009年12月25日から27日まで、神戸市に滞在しました。その時の写真を掲載しておきます。

  デジタルカメラで撮影した写真のデータだけはたくさんあるのですが、ここに取り上げるとなると話が少し違ってきます。失敗作もあります。文章が思い浮かばないような写真もあります。ストックはたくさん用意しておいたほうがよいのですが、時間が経過すると記憶が薄れてくることもあるでしょう。様々なことを考えながら、写真を選択していくしかないのです。

 2009年12月25日、私は新横浜駅から新幹線に乗り、神戸へ向かいました。或る人と会う約束をしており、新神戸駅で待ち合わせをしたのですが、時間にかなりの余裕があったので(というより、余裕を持たせるようなスケジュールを組んだのですが)、新神戸から神戸市営地下鉄西神・山手線に乗り、終点の西神中央まで行きました。駅前は典型的なニュータウンの中心地という感じであり、起点の新神戸駅より多くの人が行き交っていました。

 上の写真は西神中央駅で撮影した1000形です。1977年、最初の区間として新長田⇔名谷が開業しましたが、その時から現在まで西神・山手線を走り続けています。開業当時の車両が現在も、廃車されることなく運用されている訳です。行先の谷上は北神急行電鉄北神線の終点です。

 1000形の運転台です。関東地方のJRや大手私鉄ではまず見かけないブレーキハンドル(右側の大きなレバー)が目を引きます。

 西神・山手線は新神戸~西神中央の路線ですが、正式には新神戸~新長田が山手線(「やまのてせん」ではなく「やまてせん」です)、新長田~名谷(みょうだに)が西神線、そして名谷~西神中央が西神延伸線となっています。この3路線が一体となって運営されているのです。そして、新神戸から北神線に乗り入れます。

 地下鉄で新神戸駅に戻り、待ち合わせていた人と会いました。三宮へ出て、元町の東側、大丸神戸店の近くにあるホテルに泊まります。地下鉄海岸線の旧居留地・大丸前駅のそばで、南京町の入口の隣です。部屋が広く、なかなか居心地の良いホテルです。チェックインを済ませ、少し休んでから、夜の三宮から旧居留地にかけての辺りを歩いて見ることとしました。

 大丸神戸店の前の交差点から北側の山々を見ると、御覧のように、港町神戸らしい碇の模様が明るく灯されていました。最初は京都のように火を起こしているのかと思ったのですが、すぐにそうではなく、電飾であることがわかりました。これは碇山(錨山とも記す)にあります。

 碇山右側には神戸市の市章の電飾が出るのですが、そちらは市章山という別の山にある電飾です。残念ながら、市章の電飾は撮影していません。

 

〔2011年7月13日から20日まで、「待合室」第427回として掲載。一部を修正。なお、文中のホテルは、ホテル東急ビズフォート神戸元町、現在の神戸元町東急REIホテルです。〕

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