ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

水利地益税の課税団体(4)

2021年01月31日 06時00分00秒 | 法律学

 「水利地益税の課税団体(3)」から1年以上が経過しました。2021年1月の段階でどのようになっているのでしょうか。

 まずは宮城県登米市です。現在も登米市税条例第3章第2節(第152条〜第156条)に、水利地益税に関する規定が存在します。

 次に富山県朝日町です。朝日町税条例については「水利地益税の課税団体(1)」および「水利地益税の課税団体(3)」において述べましたが、現在もそのままです。すなわち、同条例の第3条第2項は「町税として課する目的税は、次に掲げるものとする」として入湯税(第1号)および水利地益税(第2号)を掲げていますが、水利地益税の課税標準、税率、賦課期日などに関する規定は削除されているのです。

 ただ、見落としていた点がありました。同条例の附則(平成29年条例第10号)第3条は「この条例による改正前の朝日町税条例の規定により課し、又は課すべきであつた水利地益税については、なお従前の例による」と定めています。水利地益税は同条例第3章第2節(第152条〜第160条)に定められていたのですが、附則(平成29年条例第10号)第1条第1号が「朝日町税条例第152条から第160条の改正規定」を「平成29年4月1日」から施行する旨を定めており、2017年4月1日に第3章第2節が削除されたということになります。附則第3条からすれば、規定は削除されたが2017年4月1日より前において課税されていたところについては水利地益税の課税が続くということでしょうか。

 続いて岐阜県羽島市です。現在も羽島市税条例第3章第2節(第125条〜第136条)によって水利地益税が課されています。日本の市町村で唯一、都市計画税と水利地益税の双方を課する唯一の市町村であることも変わりません。

 最後に高知県いの町です。いの町税条例第3章第2節(第152条〜第161条)は存続しています。

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令和2年度第3次補正予算が成立した/財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律の一部を改正する法律案

2021年01月29日 00時20分30秒 | 国際・政治

 このブログに「驚きの令和2年度第3次補正予算の案」という記事を掲載しました(2021年1月21日付)。ちょうど一週間、28日に参議院本会議において令和2年度第3次補正予算が成立しました。参議院のサイトに28日付で「令和2年度第3次補正予算議決」という記事(https://www.sangiin.go.jp/japanese/ugoki/r3/210128.html)が掲載されており、また、時事通信社が28日の22時9分付で「3次補正予算が成立 感染・経済対策に21兆円」として報じています(https://www.jiji.com/jc/article?k=2021012801113&g=cov)。

 この予算については、衆議院予算委員会で立憲民主党などから組み替えを求める修正動議がなされましたが否決されています。

 現在発出されている第2回緊急事態宣言の延長も言われる中で(蓋然性は高いということになるでしょう)、2月7日か8日にGo to キャンペーンが再開されるのでしょうか。再開はステージ2にまで下がったら、と西村経済再生担当大臣も1月26日の記者会見において発言しています〔1月27日7時6分付で東京新聞のサイトに掲載されている「『ステージ2』なら再開 西村経済再生担当相『感染が再拡大しないようにする』」(https://www.tokyo-np.co.jp/article/82285)より〕。一方、第2回緊急事態宣言の解除は現在のステージ4からステージ3に下がることが前提であるとも報じられています(「不気味な話」に記しました)。

 ここですぐに、おかしなことに気づかれる方も多いでしょう。

 第一に、第2回緊急事態宣言が2月7日までに解除されず、延長されるならば、Go to キャンペーンは再開されないということです。緊急事態宣言の対象地域でない道県のみ再開するということも考えられなくはないのですが、対象地域である東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、栃木県、岐阜県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県および福岡県において再開されなければ、経済効果は薄いでしょう。

 第二に、仮に第2回緊急事態宣言が2月7日までに解除されたとしても、全都道府県においてステージ4からステージ2まで下がるのであればともあれ、ステージ3に留まる都道府県についてはGo to キャンペーンは再開できないということになります(または一つでもステージ3に留まる都道府県があれば全国一律停止のままかもしれませんが、このあたりは不明です)。こうなると、補正予算で組まれているGo to トラベル関連の1兆311億円、Go to イート関連の515億円、もう一つあげれば観光(インバウンド復活に向けた基盤整備)の650億円のうちの多くの部分は執行されないままに終わるということになりかねません。あくまでも2020(令和2)年度の補正予算であって、基本的に2021年3月末日までに執行されなければなりませんから、未執行の額が多くなるのではないでしょうか。2か月弱で全額を執行することは困難でないかもしれませんが、第2回緊急事態宣言が解除されてGo to キャンペーンが再開され、2月中か3月中にいくつかの都道府県において再び(あるいは初めて)ステージ4に達し、第3回緊急事態宣言が発出されるようになってしまえば、やはり未執行の額は多くなります。

 緊急事態宣言が解除されてもGo to キャンペーンが再開されなければ、何のために補正予算に1兆800億円を超えるGo to キャンペーン関連の予算〔観光(インバウンド復活に向けた基盤整備)の650億円を含めれば1兆1000億円を超えます。この他、関連する予算項目があるかもしれません〕が計上されたのか、訳のわからないことになります。3月には第4次補正予算の案が提出されるのではないかと予想したくなります。

 野党が衆議院予算委員会でどのような修正案を出したのかがよくわからないのですが、「驚きの令和2年度第3次補正予算の案」においてあげておいた項目および数字を改めて見ると「新型コロナウイルス感染症セーフティネット強化交付⾦(⽣活困窮者⽀援・⾃殺対策等):140億円」となっており、これは少ないのではないかと思いました。共同通信社のサイトに28日17時28分付で掲載された「孤独問題の担当大臣に田村氏? 首相、コロナ渦で突然任命」(https://this.kiji.is/727440173035274240?c=39546741839462401)という記事が掲載されており、28日の参議院予算委員会において国民民主党の伊藤議員による質疑に対し、内閣総理大臣は田村厚生労働大臣が「新型コロナウイルス禍で増える自殺など『孤独問題』を担当する閣僚」であると答弁した旨が書かれていました。閣議で決めておかなかったのかと驚きましたが、とくに女性の自殺が増えているという状況を考えるならば、対策などは必要です。予算の額の多寡が問題であるという訳ではありませんが、COVID-19が社会に与えた影響を考えるならば、COVID-19への対策は十二分に行わなければならないでしょう。

 国家予算においてGo toがこれだけ重視されたのは、2020+1の五輪も大きな一因になっていることでしょう。しかし、開催できるのでしょうか。2020年の一時期のプロ野球、大相撲、競馬などと同じく無観客で行うという案もあるそうですが、感染対策として十分であるかどうかは疑わしいですし、国内の競技大会ではないのですから選手団を派遣しない国も多くなるでしょう。どなたかの冗談をお借りするなら史上初の無選手五輪ということになるかもしれません。これは強烈な冗談です。

 パンデミックは何年か続くのが通例です。今回も同様でした。 

 ※※※※※※※※※※

 ここで話題を変えて、第204回国会に内閣提出法律案第4号の「財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律の一部を改正する法律案」を取り上げておきます。

 財政法第4条第1項は「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる」と定めています。この規定から、建設国債の発行は認められるが赤字国債の発行は認められないということになります。しかし、実際には1975年度以来、ほぼ毎年度、赤字国債が発行され続けています。財政法第4条の特例法が制定されているからです。このブログの「財政法講義ノート」〔第6版〕の「第2部:国の財政法制度 第7回:国債の法的問題」において記したように、長らく毎年度、特例法が制定されていたのですが、2012(平成24)年の第181回国会において成立し、同年11月26日に法律第101号として公布された「財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律」により、現在は複数年度にわたって公債の発行が認められています。

 今回の改正案は、次のようになっています。

 まず、現行法の2016年度から2020年度までとなっているところを2021年度から2025年度までに改めます。要は延長です。

 次に、財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律第2条を改めます。改正案では「この法律において『経済・財政一体改革』とは、我が国経済の再生及び財政の健全化が相互に密接に関連していることを踏まえ、これらのための施策を一体的に実施する取組をいう。」とされています。

 ちなみに、現行の第2条は、柱書が「この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる」、第1号が「経済・財政一体改革 我が国経済の再生及び財政の健全化が相互に密接に関連していることを踏まえ、これらのための施策を一体的に実施する取組をいう。」、第2号が「国及び地方公共団体のプライマリーバランスの黒字化 国民経済計算(統計法(平成19年法律第53号)第6条第1項の規定により作成する国民経済計算をいう。)における中央政府及び地方政府のプライマリーバランスの合計額(東日本大震災(平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う原子力発電所の事故による災害をいう。)からの復興のための施策に必要な経費及びその財源に充てられる収入その他の財政の健全性を検証するに当たり当該合計額から除くことが適当と認められる経費及び収入に係る金額を除く。)が零を上回ることをいう。」となっています。

 さらに、改正案では第4条の「平成32年度までの国及び地方公共団体のプライマリーバランスの黒字化」を「同項に定める期間が経過するまでの間、財政の健全化」に改めることとされています。このままではわかりにくいので、現行の第4条と改正後の第4条を並べておきます。

 改正前の第4条:「政府は、前条第1項の規定により公債を発行する場合においては、同項に定める期間が経過するまでの間、財政の健全化に向けて経済・財政一体改革を総合的かつ計画的に推進し、中長期的に持続可能な財政構造を確立することを旨として、各年度において同項の規定により発行する公債の発行額の抑制に努めるものとする。」

 改正後の第4条:「政府は、前条第1項の規定により公債を発行する場合においては、平成32年度までの国及び地方公共団体のプライマリーバランスの黒字化に向けて経済・財政一体改革を総合的かつ計画的に推進し、中長期的に持続可能な財政構造を確立することを旨として、各年度において同項の規定により発行する公債の発行額の抑制に努めるものとする。」

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ひつじでんしゃ 横浜高速鉄道Y000系デハY012+クハY002

2021年01月28日 20時18分00秒 | 写真

以前、このブログに「うしでんしゃ 横浜高速鉄道Y000系デハY013+クハY003」を掲載しました。今回はその続編のようなものですが、中途半端な写真になってしまいました。

 「ひつじでんしゃ」は、横浜高速鉄道Y000系デハY012+クハY002に羊のラッピングを施したものです。2020年3月29日から運行しています(運行する時間などについては、東急のサイトに掲載されています)。

 東急のサイトに掲載されている「こどもの国線で大人気の『うしでんしゃ』に新たな仲間が加わります! 見た目が丸ごとひつじのラッピング電車『ひつじでんしゃ』を運行します」(2020年3月19日付)には「東急電鉄株式会社(以下、東急電鉄)、社会福祉法人こどもの国協会、および株式会社雪印こどもの国牧場(以下、こどもの国牧場)は、こどもの国(神奈川県横浜市青葉区)の魅力を発信し、より多くの方にお越しいただくため、2020年3月29日(日)から、こどもの国牧場の羊をイメージしたラッピング電車『ひつじでんしゃ』を運行します。また、2020年3月末までの運行を予定していた『うしでんしゃ』も好評につき、継続して運行することを決定しました」と書かれています。

 Y000系は3編成6両が製造されました。現在、ラッピングを施されていないのはデハY011+クハY001の編成のみです。

 
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権利能力、意思能力、行為能力

2021年01月27日 11時30分00秒 | 法律学

 時折、法学部の法律学科の学生でも権利能力、意思能力および行為能力について正確に理解していない者がおります。

 代理制度についての簡単な試験問題を出すと、毎年のようにこれらの3つを取り違えているとしか思えないような答案が見つかるのです。

 民法総則や法学の教科書を読み、しっかりと理解しましょう。

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弘南鉄道への財政支援/JR北海道への支援策

2021年01月25日 00時00分00秒 | 社会・経済

 今回は二題です。「鉄道関係二題」でも同じようなことを行っており、今回も北海道と青森県を取り上げますが、順番は逆になります。

 

 このブログで二度、弘南鉄道を取り上げました(「弘南鉄道の大鰐線が廃止されるか」および「鉄道関係二題」)。東急線に乗り慣れた者としては一度乗りに行きたいのですが、このCOVID-19の状況では難しいことも承知しています。二度目の非常事態宣言が延長される可能性(いや、蓋然性)が高いと言える状況なので、早くて今年の5月以降になるだろうと考えていますが、2021年中に弘前市へ行こうかと考えています。

 このようなことを書いたのは、朝日新聞社のサイトに2021年1月24日9時付で「弘南鉄道の支援拡大 沿線の4市村、路線の維持に 青森」という記事が掲載されているからです(https://digital.asahi.com/articles/ASP1R6QJLP1QULUC00P.html)。

 財政支援は、1月22日に弘前市長が明らかにしたことで、弘前駅から黒石駅までの路線である弘南線の線路、車両整備費などの一部を、2021年度から10年間、同線の沿線自治体(弘前市、黒石市、平川市、田舎館村)が負担するというものです。詳細は2020年度内に決めるようです。

 弘南線は2016年度まで黒字路線でした。そのために、一度も黒字になったことがないと言われる大鰐線を維持することもできたのです。しかし、弘南線が赤字では社内補塡もできません。

 記事には何時からということが書かれていませんが、弘南鉄道は設備整備費の補助を国、青森県、沿線市町村が分担して行ってきたそうです。そして、これまで補助されていなかった事項についても補助の対象にするとのことです。

 また、弘前市長は、1月22日に要望書を青森県知事へ手渡しました。これは弘前圏域8市町村によるもので、内容は弘南線への財政支援、国の補助率引き上げに向けた働きかけです。

 弘南線でも存続問題が発生しているようであれば、大鰐線はさらに厳しい状況に追い込まれていることは想像がつきます。歴史的経緯により、両線は弘前市を通っているにも関わらず、接続をしていません。これも原因の一つなのかとも考えるのですが、よくわかりません。

 ちなみに、弘南鉄道において現在使われている旅客輸送用車両は全て東急東横線などを走っていた初代7000系で、やはり東急東横線などを走っていた初代6000系も大鰐線の津軽大沢駅に留置されているのですが定期運用などはされていないようです。

 

 そして北海道へ飛びます。朝日新聞社のサイトに2021年1月24日10時30分付で「北海道が観光列車取得し無償貸与 JR北に異例の支援策」という記事が掲載されています(https://www.asahi.com/articles/ASP1R6W0NP1RIIPE00J.html)。読んでみて「これが有効な支援策なのか?」と思ったのですが、とりあえずは紹介しておきます。

 1月23日に北海道知事が「異例の支援策」を明らかにしました。JR北海道が導入する予定の観光列車用車両を、北海道高速鉄道開発という第三セクターが取得した上で、道がJR北海道に貸し付けるというものです。既に国は2021年度から3年度間で1302億円ほどの支援策を示しており、北海道も支援策を示した、という訳です。北海道高速鉄道開発は道内の鉄道路線の施設や車両を貸し付ける会社で、北海道やJR北海道が出資しています。宗谷本線などの高速化、札沼線(桑園〜北海道医療大学)の電化も手掛けており、設備を保有してJR北海道に貸し付けているので、今回の支援策は範囲を拡大したということになります。

 それにしても、どうして観光列車なのかと思ったのですが、JR北海道が2020年度か2021年度に40億円ほどを、しかも2種類を導入する予定であったということです。定期の旅客用車両で老朽化しているものが多いのだからそちらを更新するほうが先だろう、観光列車を増強してもそれほど集客力が増大しないだろう、定期の運用に使う車両がひどければサービスは低下するから乗客はさらに減るだろう、などと考えられるのですが、逆に定期の利用は減るだけ減ったから観光列車を新しくするしかない、ということなのかもしれません(これは相当に末期的な話ですが)。また、観光列車は宗谷本線や石北本線などの利用促進策として考えられているようです。

 観光列車以外の補助策はどうなのか。北海道、沿線自治体の財政負担が増えることになるものと予想されるので、支援策に含まれていないようです。

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いつまで走るか 元TOQ BOX号 その2

2021年01月24日 00時35分00秒 | 写真

 2020系への置き換えが進んでいる8500系ですが、2021年1月の時点ではまだ何編成かが運用されています。しかし、2021年か2022年には東急線から姿を消すことでしょう。今回は「いつまで走るか 元TOQ BOX号 その1」でも取り上げた8634Fを再び取り上げます。

 こちらは下り側(中央林間側)の先頭車(10号車)のデハ8500形8534号です。デハ8800形(9号車)とユニットを組みます。

 8500系は、1975年にデビューしてから田園都市線(当時は大井町〜すずかけ台。)で4両編成、間もなく5両編成となりましたが、東横線では6両編成→7両編成→8両編成、新玉川線(現在は田園都市線の渋谷〜二子玉川)では6両編成でした。増備とともに新玉川線・田園都市線で編成が組み替えられ、1980年代に新玉川線・田園都市線で10両編成となり、東横線で運行されていた車両も田園都市線に移りました。このため、編成中の各車両の末尾が揃っていません。東急で編成中の車両の末尾が揃うようになったのは9000系からです。

 8500系の10両編成は、1号車→10号車の順にデハ8600形・デハ8700形・サハ8900形・デハ8800形・デハ8700形・デハ8800形・デハ8700形・サハ8900形・デハ8800形・デハ8500形となっています。

 こちらは上り側(渋谷側)の先頭車(1号車)のデハ8600形8634号です。デハ8700形(2号車)とユニットを組みます。8631F以降は軽量車体ですので、この編成も軽量車体となっています。なお、東急初の軽量ステンレス車である8090系は、1980年に東横線でデビューしましたが、2013年5月に大井町線での運用を終え、東急線から引退しています。

 8634Fは、現在、1号車→10号車の順にデハ8634・デハ8778・サハ8967・デハ8894・デハ8789・デハ8886・デハ8790・サハ8968・デハ8887・デハ8534となっています。

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第22回 即時強制

2021年01月23日 00時00分00秒 | 行政法講義ノート〔第7版〕

 1.即時強制と即時執行

 即時強制とは、義務の履行を強制するためにではなく、目前急迫の行政法規違反の状態を排除する必要上、義務を命ずる余裕のない場合、または、性質上義務を命じることによっては目的を達成しがたい場合に、直接、私人の身体または財産に実力を加え、これによって行政上の目的を実現することをいう。

 但し、上記の定義の中には行政機関による情報・資料収集活動も含まれている。塩野宏教授が指摘するように、即時強制の定義には「強制隔離・交通遮断のように、それ自体行政目的の実現にかかる制度」と「臨検検査、立入りの観念にみられるような行政調査の手段」とが含まれているのである〈塩野宏『行政法』〔第六版〕(2015年、有斐閣)277頁〉

 行政法学においては、即時執行という概念が用いられることもある。即時執行とは、即時強制から行政機関による情報・資料収集活動を除外したものをいう。従って、即時執行は「相手方に義務を課すことなく行政機関が直接に実力を行使して、もって、行政目的の実現を図る制度」に限定される塩野・前掲書277頁

 即時強制、即時執行のいずれについても、法律の根拠を必要とする。

 

 2.実力を加える対象

 即時強制(即時執行)により、実力を加える対象の例をあげておこう。

 まず、身体である。例として、後に取り上げる警察官職務執行法第3条ないし第5条などをあげることができる。

 次に、家宅・事業所などである。例として、警察官職務執行法第6条、国税犯則取締法第2条などをあげることができる。

 そして、財産である。例として、銃砲刀剣類所持等取締法第11条などをあげることができる。

 

 3.警察官職務執行法が定める即時強制の例

 現行法においては、行政上の強制執行と異なり、即時強制(即時執行)に関する一般法と言うべき法律は存在しない。ここでは、即時強制(即時執行)を多く定める警察官職務執行法を概観しておくこととする。

 ・個人の生命・身体・財産の保護:保護措置(第3条)。24時間が限度とされるが、延長許可も認められる。

 ・避難などの危害防止:「警告」→「引き留め」・「避難」。第4条に認められた権限である。措置は公安委員会に報告される。他の公的機関に共助が求められる。

 ・犯罪の予防・制止:第5条。生命・身体の危険または財産の重大な侵害を生ずるおそれがある場合に、犯罪を制止できる。

 ・立入権限:第6条により認められた権限である。

 ・武器の使用:第7条。但し、人に危害を加えることができるのは刑事訴訟法第213条・第210条、警察官職務執行法第7条、刑法第36条・第37条の場合に限定される。

 その他にも、行政法令の定める即時強制が存在する(例.消防法第1条)。個々の国民・住民の生命・身体の保護その他公衆衛生上の理由によるもの、風俗警察上の規制権限を行使するためのものなどがある。立入権限は、国税犯則取締法第2条・第3条、労働基準法第101条など、認める法令も多い。

 

 4.行政上の強制執行(とくに直接強制)との違い

 行政上の強制執行とおよび即時強制(即時執行)には、行政権による実力行使を認めるという面において共通する点がある。とくに、行政上の強制執行の一種としての直接強制と即時強制(即時執行)は、外観上酷似しており、見分けが付きにくいこともある塩野・前掲書279頁注(2)や櫻井敬子・橋本博之『行政法』〔第6版〕(2019年、弘文堂)180頁にあげられている、道路交通法に違反する放置車両の移動の例を参照。そればかりか、即時強制・即時執行が直接強制の代替として用いられる傾向にあるとも言われる。

 しかし、行政上の強制執行と即時強制(即時執行)は、概念上において全く異なるものであり、次のように整理することができる。各自で表を作成し、まとめてみることをおすすめする。

 ・行政上の強制執行は、私人の側に履行義務が存在することを前提とする。これに対し、即時強制(即時執行)は、私人の側に履行義務が存在することを前提としない。

 ・行政上の強制執行は、法律のみを根拠としうる(代執行が条例を根拠としうるのは、行政代執行法第2条により、法律の委任を受ける場合に認められるためである。直接強制については法律に限定される)。これに対し、即時強制(即時執行)は、条例を根拠としうる(法律による委任がない場合についても同様である)。

 ・行政上の強制執行には、一応の一般法として行政代執行法がある(強制徴収については国税徴収法がある)。これに対し、即時強制(即時執行)に関する一般法は存在しない。

 

 5.即時強制(即時執行)の処分性

 法律に基づいて実施する身柄の拘束、物の領置という例から明らかであるように、即時強制(即時執行)は、行政機関が行う事実行為の中でも、強制的に人の自由を拘束し、継続的に受忍義務を課す作用である。従って、即時執行(即時強制)は公権力の行使にあたる行為であり、処分性を有する。これに不服があれば、行政不服申立て・行政訴訟の手続で救済を求めなければならない(参照、行政不服審査法第2条第1項)。なお、この場合、出訴機関の制限を認めて、その起算点を身柄などの拘束時間とみるべきか、拘束時間が継続している間は、出訴期間とは無関係に随時不服申立てないし抗告訴訟を提起できるとすべきか、争いがある。

 

 ▲第7版における履歴:2021年1月20日掲載。

 ▲第6版における履歴:2015年10月20日掲載(「第19回 行政上の義務履行確保、行政罰、即時強制」として)。

                                    2017年10月26日修正。

            2017年12月20日修正。

            2018年7月23日修正。

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第21回 行政罰

2021年01月22日 00時00分00秒 | 行政法講義ノート〔第7版〕

 1.行政罰の定義

 行政罰とは、行政法上の義務違反に対して、過去の行為に対する制裁として科せられる罰の総称である。 ここにいう義務は、法令によって科せられる場合と、法令に基づく行政行為によって科せられる場合とがある。

 行政上の強制執行は、現に存在している義務違反に対して将来的に行われるものであり、または、将来の或る時点において存在しうる義務違反に対して、さらにその先の時点において行われるものである。強制執行は、義務違反に対する制裁としての性格を持たない(仮に持つとしても、行政罰ほど濃厚ではない)。むしろ、義務違反者に義務を履行させること、それが実現されなかった場合には行政主体が自ら義務の内容を実現するか第三者に実現させることを主眼としている。

 これに対し、行政罰は、過去の行為に対する制裁であり、義務違反の状態を是正させる、あるいは自ら是正するという性格はない。仮にあるとしても、強制執行より薄い。

 行政罰は、性質によって行政刑罰と秩序罰とに分けられる。

 

 2.行政刑罰

 行政刑罰とは、刑法に刑名のある罰のことである。すなわち、刑法第9条に規定される刑罰が適用されることとなる(多くの場合、懲役と罰金である)。

 行政法学や刑法学においては、行政犯(法定犯)と刑事犯(自然犯)との区別が語られる。行政犯は、行政処罰を科せられる義務違反(非行)のことであり、通説的見解によると、行政犯の行為それ自体は反道義性や反社会性を有しないが、その行為が行政目的のためになす命令・禁止に反することによって反道義性や反社会性を有するに至るということになる。

 もっとも、このような区別は絶対的なものではない。例えば道路交通法に定められる右側通行・左側通行の別のように、当初は行政犯だったものが刑事犯として扱われるようになっているというものもある。

 行政刑罰については、以前、刑法総則の適用の有無が争われていた。これは、行政刑罰と刑法第8条との関係として議論されていたのである。有力説は、刑法第8条但し書きなどの明文で定められる場合以外に、刑法総則の適用について特別の扱いをすべきであると主張する。この立場は、過失犯などについて、行政刑罰の特殊性を強調する。しかし、刑事罰と行政刑罰との区別が相対的であることからして、行政刑罰に特殊性を強く認めなければならないということの根拠はない。また、明文の規定があれば別として、存在しない場合に、刑法総則の規定と異なる扱いをするならば、刑法の明確性の原則に抵触するおそれがある。従って、行政刑罰についても、刑法第8条に定められた原則に従うべきであると考えるのが妥当である(通説・判例)。

 刑法総則の適用の有無に関する争いは、過失犯の扱いにも関係する。上記有力説は、明文の規定がない場合であっても過失犯を罰しうるとする立場をとるのであるが、刑法第38条第1項の規定に反する。罪刑法定主義の原則からすれば、行政犯であっても、原則として故意犯のみが罰せられ、過失犯は明文の規定がなければ罰せられない、と理解すべきである(最一小判昭和48年4月19日刑集27巻3号399頁も参照)。

 但し、行政刑罰に全く特殊性がないという訳ではない。

 第一に、両罰規定がある。これは、法人の代表者、法人または本人の代理人、使用人その他従業者の違反行為について、行為者の他に、その法人または本人をも罰する規定のことである。業務主の監督上の過失を推定することもある。このような規定は刑法典に存在しない。

 そもそも、刑法典には法人を処罰する旨の規定が存在しない。

 第二に、白地刑罰法規(空白刑法) がある。これは、法律自体において、法定刑だけは明確に定められているが、刑罰を科せられる行為(すなわち、犯罪の構成要件)の具体的内容の全部または一部が、他の法律、命令などに委任されているもの をいう。

 広義では補充規範が同一法律中あるいは他の法律によって規定されている場合も含むが、狭義では、狭義の法律以外の命令または行政処分に基づく場合をいう。

 刑法典中には第94条(中立命令違背罪)のみが存在するが、行政刑罰には非常に多い。

 白地刑罰法規は、犯罪の構成要件の具体的な内容を他の規定に委任するものであるため、憲法第73条第6号但書との関連で問題となる。白地刑罰法規が合憲たるためには、いかなる基準で具体的な違反事実を定めるかの大枠を法律自体で示すことが必要となる(例.政令325号事件に関する最大判昭和28年7月22日刑集7巻7号1562頁)。また、最大判昭和49年11月6日刑集28巻9号392頁(猿払事件)は、国家公務員法第102条第1項・第110条第1項第19号・第102条の委任による人事院規則14-7を違憲でないと判断した。これに対し、少数意見は、刑事罰の対象となる行為と懲戒罰の対象となる行為を何ら区別せずに包括的委任をなすことを違憲としている。

 行政刑罰の手続は、原則として刑事訴訟法による。 しかし、例外として簡易手続が定められることがある。例として、簡易裁判所にて行われる交通事件即決裁判手続(交通事件即決裁判手続法)、国税局長・税務署長による通告処分(国税通則法第157条および第158条、関税法第138条第1項)、および警察本部長による交通事件犯則行為処理手続〔反則金制度。道路交通法第125条以下〕がある。このうち、通告処分および交通事件犯則行為処理手続は、犯罪の非刑罰的処理として論じられることがある。但し、通告を受けた者がこれに従わないときや、反則金納付の通告を受けた者が一定の期間の経過後も反則金を納付しなかった場合には、正規の刑事訴訟手続がとられることになる。

 

 3.秩序罰

 秩序罰は、行政刑罰とは異なり、純粋な行政処罰であって、過料を科する行政処罰のことをいう。

 なお、道路交通法第125条~第132条に規定される「反則金」も行政処罰であるといえる。

 「通常の行政上の秩序罰」は、非訟事件手続法に従って地方裁判所が科すものである。但し、他の法令に別段の定めがある場合(例、住民基本台帳法第44条第2条)は簡易裁判所により科せられる。

 「地方公共団体の条例・規則違反に対する科罰」は、地方自治法第231条の3(など)に従って、地方公共団体の長が科す。期間内に納めない者については強制徴収を行うことができる。

 行政刑罰と秩序罰は、一応、別個の性質を有するものである。しかし、実際には、行政刑罰と秩序罰とを併科しうる旨を定める法律の規定が多い。そこで、刑法第39条に違反するか否かが問題となる。

 ●最二小判昭和39年6月5日刑集18巻5号189頁

 事案:この事件の被告人らは、別の裁判で住居侵入等被告事件の証人として出廷し、宣誓を行ったが、裁判官からの尋問に対し、正当な理由がないのに証言を拒んだ。そのため、被告人らは刑事訴訟法第160条による過料に処された。その後、同第161条違反として起訴された。第一審は被告人らに免訴を言い渡したが、第二審は第一審判決を破棄し、事件を差し戻す判決を下した。そのため、被告人らが上告したが、最高裁判所第二小法廷は上告を棄却した。

 判旨:刑事訴訟法第160条は「訴訟手続上の秩序を維持するために秩序違反行為に対して(中略)科せられる秩序罰としての過料を規定したものであり」、同第161条は「刑事司法に協力しない行為に対して通常の刑事訴訟手続により科せられる刑罰としての罰金、拘留を規定したものであって、両者は目的、要件及び実現の手続を異にし、必ずしも二者択一の関係にあるものではなく併科を妨げないと解すべきであ」る。これらの規定は憲法第31条および第39条後段に違反しない。

 

 ▲第7版における履歴:2021年1月20日掲載。

 ▲第6版における履歴:2015年10月20日掲載(「第19回 行政上の義務履行確保、行政罰、即時強制」として)。

                                    2017年10月26日修正。

            2017年12月20日修正。

            2018年7月23日修正。

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驚きの令和2年度第3次補正予算の案

2021年01月21日 20時00分00秒 | 国際・政治

 たまたま、日刊ゲンダイのサイトに掲載されている、高野孟さんによる「永田町の裏を読む 徹底した補償も盛り込まれていない間抜けな補正予算案」(2020年1月21日付)を目にしました。1月18日に召集された第204回国会に提出されている「令和2年度補正予算(第3号)」(これが正式な名称です)について、高野さんは野党議員の口を借りる形で酷評されています。

 これよりかなり前のことになりますが、2020年12月26日付でダイヤモンド・オンラインに掲載された室伏謙一さんの「危機感不在の呆れた第3次補正予算案、菅政権『国民のために働く』はどこへ」では、「結論からいえば、新型コロナ不況対策には全くなっていない。なぜそう言えるのか?」と書かれており、2020年12月8日の閣議決定「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」を引き合いに出して「これは、過去20年以上にわたって行ってきたインフレ対策にしかならない構造改革という間違いをまだまだ繰り返すことになる。それどころか今回の『コロナ禍』という惨事に便乗して『ショックドクトリンを進めます』と言っているに等しい」、「今なすべきは、さまざまな影響を受けている全産業を守ること、国民の生活を下支えすること、そしてデフレ下で需要が決定的に不足しているところに有効な需要を創出すること、そのための手厚い公共投資である(民間投資はその先である)」とも述べられています。

 果たして、「令和2年度補正予算(第3号)」その内容はどのようなものでしょうか。

 実は、この「令和2年度補正予算(第3号)」は2020年12月15日の臨時閣議で決定されたものです。つまり、閣議決定から国会への提出まで1か月ほどの期間が経過している訳です。1月7日に発出された緊急事態宣言の内容は反映されていないであろうと誰しもが思うでしょう。その通りです。都合上、「第一 一般会計予算の補正」のみ引用しますが、財務省のサイトに掲載されている、国会での審議のために提出された資料によれば、次のようになっています。

 

 第一 一般会計予算の補正

 1 歳出の補正額

 (歳出の追加額)

  (1)新型コロナウイルス感染症の拡大防止策:4兆3581億円

  (2)ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現:11兆6766億円

  (3)防災・減災、国土強靱化の推進など安全・安心の確保:3兆1414億円

  (1)〜(3)の小計:19兆1761億円

  (4)その他の経費:252億円

  (5)地方交付税交付金:2兆6339億円

   ①税収減に伴う一般会計の地方交付税交付金の減額の補塡:2兆2118億円

   ②地方法人税の税収減に伴う地方交付税原資の減額の補塡:4221億円

  (1)〜(5)の合計:21兆8353億円

 (歳出の修正減少額)

  (1)新型コロナウイルス感染症対策予備費の減額:△1兆8500億円

  (2)既定経費の減額:△2兆3463億円

  (1)および(2)の小計:△4兆1963億円

  (3)地方交付税交付金の減額:△2兆2,118億円

  (1)〜(3)の合計:△6兆4082億円

 (歳出の追加額)および(歳出の修正減少額)の合計:15兆4271億円

 

 億円が単位となっているため、合計が合わない箇所があります。

 いかがでしょうか。高野孟さんが酷評するのもわかる内容と言えないでしょうか。財務大臣が特別定額給付金を支給しないと表明するのも宜なるかなというところです。

 財務省のサイトには「令和2年度補正予算(第3号)の概要」というカラーの資料も掲載されています。これを見ると、次のようになっています。

 

 ●新型コロナウイルス感染症の拡⼤防⽌策:4兆3581億円

 1.医療提供体制の確保と医療機関等への⽀援:1兆6447億円

  ・ 新型コロナウイルス感染症緊急包括⽀援交付⾦(病床や宿泊療養施設等の確保等):1兆3011億円

  ・ 診療・検査医療機関をはじめとした医療機関等における感染拡⼤防⽌等の⽀援:1071億円

  ・医療機関等の資⾦繰り⽀援:1037億円

  ・⼩児科等の医療機関等に対する診療報酬による⽀援:71億円

  ・その他

 2.検査体制の充実、ワクチン接種体制等の整備:8204億円

  ・ 新型コロナウイルスワクチンの接種体制の整備・接種の実施:5736億円

  ・PCR検査・抗原検査の実施等:672億円

  ・その他

 3.知⾒に基づく感染防⽌対策の徹底:1兆7487億円

  ・ 新型コロナウイルス感染症対応地⽅創⽣臨時交付⾦:1兆5000億円

  ・ 東京オリンピック・パラリンピック競技⼤会の延期に伴う感染症対策等事業:959億円

  ・その他

 4.感染症の収束に向けた国際協力:1444億円

  ・アフリカ、中東、アジア・⼤洋州地域への国際機関等を通じた⽀援:792億円

  ・その他

 ●ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現:11兆6766億円

 1.デジタル改⾰・グリーン社会の実現:2兆8256億円

  ・地⽅団体のデジタル基盤改⾰⽀援:1788億円

  ・ マイナンバーカードの普及促進:1336億円

  ・ ポスト5G・Beyond5G(6G)研究開発⽀援:1400億円

  ・カーボンニュートラルに向けた⾰新的な技術開発⽀援のための基⾦の創設:2兆円

  ・ グリーン住宅ポイント制度の創設:1094億円

 2.経済構造の転換・イノベーション等による⽣産性向上:2兆3959億円

  ・ 中⼩・⼩規模事業者等への資⾦繰り⽀援:3兆2049億円

  ・ 地⽅創⽣臨時交付⾦(「再掲」となっていますが、「新型コロナウイルス感染症対応地⽅創⽣臨時交付⾦」のことでしょう。このことから、地方創生臨時交付金が必ずしも「新型コロナウイルス感染症対応」のためとは限らないことがうかがえます。)

  ・Go To トラベル:1兆311億円

  ・Go To イート:515億円

  ・雇⽤調整助成⾦の特例措置:5430億円

  ・緊急⼩⼝資⾦等の特例措置:4199億円

  ・ 観光(インバウンド復活に向けた基盤整備):650億円

  ・不妊治療に係る助成措置の拡充:370億円

  ・⽔⽥の畑地化・汎⽤化・⼤区画化等による⾼収益化の推進:700億円

  ・新型コロナウイルス感染症セーフティネット強化交付⾦(⽣活困窮者⽀援・⾃殺対策等):140億円

  ・その他

 ●防災・減災、国⼟強靱化の推進など安全・安⼼の確保:3兆1414億円

 1.防災・減災、国⼟強靱化の推進:2兆936億円

  ・防災・減災、国⼟強靱化の推進(公共事業):1兆6532億円

  ・その他

 2.自然災害からの復旧・復興の加速:6337億円

  ・災害復旧等事業費:6057億円

  ・災害等廃棄物処理:106億円

  ・その他

 3.国⺠の安全・安⼼の確保:4141億円

  ・⾃衛隊の安定的な運⽤態勢の確保:3017億円

  ・その他

 

 以上はあくまでも概要であり、詳細が示されている訳ではありませんが、新型コロナウイルス感染症に関する費用の割合が少ないことがわかります。「補正予算の追加歳出」は合計で19兆1761億円とされていますから、「新型コロナウイルス感染症の拡⼤防⽌策」が占める割合は22%か23%程度であるということになります。これでPCR検査などが進むのだろうかと疑わざるをえませんし、医療施設などへの支援としては少なすぎるのではないかと考えられます。

 一方、「ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現」は11兆6766億円であり、60%ほどになります。私は、たとえば「地⽅団体のデジタル基盤改⾰⽀援」にあてる予算などを必要と考えています。コロナ後を考えること自体は必要であると思うのです。しかし、どう見ても「今必要か?」、「本予算ならともあれ、補正予算に入れるべき事柄か?」、「そもそも継続すべき事業なのか?」と首を傾げるものがあります。その典型がGo To トラベルへの1兆311億円、Go To イートへの515億円です。「令和2年度補正予算(第3号)」の閣議決定日の前日、つまり2020年12月14日に、2020年12月28日から2021年1月11日まで停止することが発表されていました。しかも、東京、大阪、名古および札幌については先行していました。おまけに、停止期間が2月7日まで延長されています。延長はともあれ、12月15日の時点においてGo to キャンペーンの実施は困難であることが予想されえた訳です。2020年11月25日から12月16日までの「勝負の3週間」(日付が誤っているかもしれません)に象徴されるように感染者数が激増した時期とも重なっていました。

 ここで思い出していただきたいのが、2020年4月7日、緊急事態宣言発出の時です。この日、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策〜国民の命と生活を守り抜き、経済再生へ」(以下、4月7日緊急経済対策)が閣議決定されました。4月7日緊急経済対策においては中小・小規模事業者に対する「持続化給付金」や「生活に困っている世帯に対する新たな給付金〔生活支援臨時給付金(仮称)〕」が盛り込まれました。生活支援臨時給付金は、世帯主の2020年2月〜6月のうちの任意の月における月間収入が「新型コロナウイルス感染症発生前に比べて減少し、かつ年間ベースに引き直すと個人住民税均等割非課税水準となる低所得世帯」または「新型コロナウイルス感染症発生前に比べて大幅に減少(半減以上)し、かつ年間ベースに引き直すと個人住民税均等割非課税水準の2倍以下となる世帯等」に対し、1世帯あたりで30万円を給付する、というものでした(4月7日緊急経済対策23頁によります)。

 しかし、生活支援臨時給付金は与野党を含め広く国民から批判を浴びました。そこで、4月7日緊急経済対策は4月20日の閣議において変更されることが決定されました。「全国全ての人々への新たな給付金」として一人当たり一律10万円の「特別定額給付金」を設けることとなったのです。これを受ける形で、2020年4月27日に「令和2年度補正予算(第1号)」が国会に提出されて、29日に衆議院本会議において全会一致で可決、30日に参議院本会議において起立多数で可決されたのです。

 このように考えると、第204回国会に提出される前に「令和2年度補正予算(第3号)」を組み替えることは可能であったのではないでしょうか。年末年始を挟んでいたとはいえ、新規感染者は増え続け、医療も逼迫していたことは明らかでした。

 仮に、2月7日に緊急事態宣言が全面解除され、翌日からGo toキャンペーンが再開されたとします。それから3月31日までの2か月弱で補正予算に計上された金額を消化できるでしょうか。感染者も重症者も増大しないでしょうか。このキャンペーンが気の緩みを生みだしたことは否定できないでしょうし、2020年12月の停止表明によって状況は急変し、観光業や飲食業は奈落の底へ、という事態になったのですから、再開後も多くの国民が「また急変するのではないか」と疑心暗鬼になるのではないでしょうか。これでは再開したところで利用者が増えないでしょう。

 室伏さんは、「ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現」について「言わずもがなであるが、新型コロナ不況対策とは無関係のものがほとんどである」として、様々な点について批判をされています。詳しくは記事をお読みいただきたいのですが、たとえば「マイナンバーカードの普及促進」などについて「新型コロナ不況の今、補正でやるべき話なのだろうか(そうしたものが、各府省で多く措置されているのは、つまるところ一部の者だけが得をするためなのではないかと邪推したくなる)」と書かれています。「中小企業等事業再構築促進事業」などに対する批判はさらに手厳しいので、記事をお読みいただくことを強くおすすめします。

 この他、「防災・減災、国⼟強靱化の推進など安全・安⼼の確保」の3兆1414億円も、よく見えないものと言えます。「防災・減災、国⼟強靱化の推進(公共事業)」に1兆6532億円が支出されることとなっているのですが、これが具体的に何の費目に充てられているかが気になるところです。公共事業が必要であるとしても、これはむしろ令和3年度予算に計上されるべきではないかと思われるのです。

 もう一つ、気になるのが「新型コロナウイルス感染症対応地⽅創⽣臨時交付⾦」です。既に記したように、必ずしも「新型コロナウイルス感染症対応」のためとは限らないことがうかがわれます。この交付金で公立図書館に本の殺菌機を導入するなどというのなら理解できます(ちなみに、うちから歩いて数分のところに川崎市立高津図書館があります)。しかし、どう考えても新型コロナウイルス感染対策につながらないようなものに支出される可能性は否定できないので、各地方公共団体の財政状況を観察する必要があります。

 「令和2年度補正予算(第3号)」は国会で審議され、今月中に可決されるのではないかと予想されますが、案の通りでよいのかと疑われる方も少なくないでしょう。国会での審議状況、緊急事態宣言の延長の有無、新規感染者数および重症患者数の動き、医療体制の状況などによっては「令和2年度補正予算(第4号)」が2月か3月に提出されるのではないかと予想されます。しかし、これはむしろ避けたい話でしょう。一旦「令和2年度補正予算(第3号)」が撤回され、新たな「令和2年度補正予算(第3号)」が提出されるほうが望ましいとも言えます。

 また、1月18日の臨時閣議において令和3年度予算が決定され、同日に国会に提出されています。2021年4月か5月に補正予算が提出されることもありうるのではないでしょうか。

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第20回 行政上の義務履行確保:行政上の強制執行以外の方法

2021年01月21日 00時00分00秒 | 行政法講義ノート〔第7版〕

 1.行政上の強制執行が可能な場合に、司法権に民事上の強制を求めることができるか?

 法律により、行政上の強制執行が許されない場合には、裁判所に民事上の強制執行手続を求めることとなる(但し、後述するように、問題もある)。これに対し、行政上の強制執行が可能な場合には、基本的に、強制執行を行えばよいこととなる。しかし、金銭債権が関係する場合などには、行政上の強制執行が可能であってもそれを用いず、裁判所に民事上の強制執行手続を求めるほうがよいという場合も考えられる。それでは、行政上の強制執行が可能な場合に、裁判所に民事上の強制執行手続を求めることは許されるのであろうか。

 下級審判決の中には肯定するものもみられる(例、岐阜地判昭和441127日判時600100頁)。しかし、最高裁判所の判例は、行政上の強制執行が可能な場合であれば、裁判所に民事上の強制執行手続を求めることは許されない、とする。

 ●最大判昭和41年2月23日民集20巻2号320頁(Ⅰ―108

 事案:原告Xは農業共済組合連合会であり、A市農業共済組合を構成員とする。そしてA市農業共済組合は組合員Yらを構成員としている。XはAに対して保険料や賦課金の債権を有し、AはYに対して共済掛金、賦課金、拠出金の債権を有している。Aの債権については行政上の強制徴収が認められている。しかし、農業災害補償法により、YらとAの共済関係は同時にAとXの保険関係を成立させることとされており、仮にYらがAに納付すべき共済掛金などに延滞があれば、AはXに対して保険金などを支払うことができなかった。そこで、XはAの債権を保全するため、Aに代位して共済掛金などの支払いを求める民事訴訟を提起した(民法第423条に基づく債権者代位権の行使)。一審判決(水戸地判昭和37年11月29日行集13巻11号2155頁)、控訴審判決(東京高判昭和38年4月10日民集20巻2号335頁)のいずれもXの請求を棄却した。最高裁判所大法廷は、次のように述べてXの上告を棄却した。

 判旨:農業共済組合が組合員に対して有する債権について農業災害補償法第87条の2が特別の扱いを認めるのは、「農業災害に関する共済事業の公共性に鑑み、その事業遂行上必要な財源を確保するためには、農業共済組合が強制加入制のもとにこれに加入する多数の組合員から収納するこれらの金円につき、租税に準ずる簡易迅速な行政上の強制徴収の手段によらしめることが、もっとも適切かつ妥当であるとしたから」である。このような行政上の強制執行手続が設けられている以上、民事訴訟上の手段によって債権の実現を図ることは立法の趣旨に反し、公共性の強い事業に関する権能行使の適正を欠く。「元来、農業共済組合自体が有しない権能を農業共済組合連合会が代位行使することは許されない」。

 

 2.非代替的作為義務や不作為義務についての別の問題

 行政代執行法は、代執行の対象を代替的作為義務に限定しているため、非代替的作為義務や不作為義務の履行を強制するためには、法律によって行政上の強制執行が認められていない限り、民事訴訟により、義務の履行を求めることになる。しかし、最近、これを認めないとする判決も出ている。

 最近までは、民事訴訟による義務の履行が認められた例が多い。例えば、大阪高決昭和601125日判時118939は、伊丹市の条例に違反する建築物に対して同市が建築中止命令を発したが全く無視されたので、この命令の履行を求めて、同市が建築続行禁止の仮処分申請を求めた、という事案につき、同市の請求を認めた。また、盛岡地決平成9年1月24日判時1638141頁は、モーテル類似施設の建築工事続行禁止仮処分(民事保全法第23第1項) が裁判所に請求され、これが認容された、というものである。 この他にも同様の訴訟があり、学説上もこれを認める説が多かった。

 しかし、 次に取り上げる最高裁判所第三小法廷の判決は、民事訴訟による義務の履行を認めなかった。この判決については、行政法学において強い批判が出されるなど、様々な議論がなされている。少なくとも、地方公共団体、とくに市町村のまちづくり政策などに大きな影響(打撃?)を与えるものであるとも言える。

 ●最三小判平成14年7月9日民集56巻6号1134頁(Ⅰ―109

 事案:宝塚市は「宝塚市パチンコ店等、ゲームセンター及びラブホテルの建築等の規制に関する条例」(以下、条例)を制定し、施行していた。Yは宝塚市内でパチンコ屋を営業することを計画し、宝塚市長に建築の同意を申請した。市長は同意を拒否したが、Yは同市建築主事に建築確認の申請を行ったが、市長の同意書がないことを理由に申請を受理しなかった。そこでYは、不受理処分の取消しを求めて同市の建築審査会に審査請求を行い、請求を認容する裁決を受けて工事を開始した。市長は条例第8条に基づき、建築中止命令を発したが、Yが建設を続行しようとしたため、同市は建築工事の続行禁止を求める民事訴訟を提起した。第一審判決は、条例が風俗適正化法や建築基準法に違反するとして同市の請求を棄却し、第二審も控訴を棄却した。

 判旨:最高裁判所第三小法廷は、破棄自判の上、宝塚市の訴えを却下した。まず、民事事件で裁判所が対象としうるのは裁判所法第3条第1項にいう「法律上の争訟」に限られるとして「板まんだら」事件最高裁判決 (最三小判昭和56年4月7日民集35巻3号443頁)を引用した。その上で「国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものではあって、自己の権利利益の保護救済を求めるものということはできないから、法律上の争訟として当然似裁判所の審判の対象となるものではな」いと述べた。そして、行政代執行法が認めるのは基本的に代執行のみであること、行政事件訴訟法などの法律にも「一般に国又は地方公共団体が国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟を提起する特別の規定は存在しない」などと述べている。

 

 3.給付拒否、公表、課徴金、加算税

 既に述べたように、行政執行法は、行政上の強制執行の手段として、代執行、執行罰および直接強制をあげていた。行政代執行法は代執行のみを規定するが、行政執行法を廃止した上で制定されたものであるため、やはり代執行、執行罰および直接強制が前提となっている。しかし、行政上の義務を履行させる手段は、これら三種に限られるものではない。そこで、行政執行法の時代には存在せず、行政代執行法においても予定されていない手段をあげておく。

  (1)給付拒否

 何らかの事柄に関する私人の対応が適切さを欠いていると見られる場合に、生活に必要とされる行政サービス(例、上水道)の供給を拒否し、それによって対応の是正を図る。あるいは、拒否を留保しておくことにより、私人の行動を規制する。 現在のところ、この方法を正式に制裁手段として規定する法律はない(水道料金を支払わない私人に対し、契約違反として給水を拒否することは、ここでいう給付拒否にあたらない) が、 東京都公害防止条例や建築指導要綱(これは行政規則であり、法規としての性格を有しない)などに規定される。

 給付拒否は、 義務履行確保のための法制度として明確に位置づけられている訳ではないが、実質的にはその役割を果たしている。しかし、問題が多い。 ここで、判例をあげておくこととしよう。

 給付拒否の判例は、水道法第15条第1項にいう「正当の理由」 の有無が問題となった事例に関するものが多い。

 ●最一小判昭和56年7月16日民集35巻5号930

 事案:豊中市内に賃貸用共同住宅を所有するXは、増築工事を行い、豊中市の建築主事に対して建築確認の申請をした。この増築部分は建築基準法に適合しなかったので建築確認が得られなかったが、Xはそのまま同市水道局に給水装置新設工事の申込みをした。水道局は、建築基準法違反の是正を行い、建築確認を受けた後に申し込むよう勧告し(給水制限実施要綱に基づいていた)、受理を拒否した。1年半ほど後になり、Xは給水装置工事の申込みをした。これは受理され、工事が完成した。Xは、最初の申請の受理を拒否したことが水道法第15条第1項に違反するとして損害賠償を請求した。一審判決(大阪地判昭和52年7月15日民集35巻5号935頁)は最初の申請の受理が違法であるとしつつも請求を棄却し、二審判決(大阪高判昭和53年9月26日判時915号33頁)は、最初の申請の受理を拒否したことが行政指導の限界を超えているとは言えず、水道法第15条第1項に違反することが不法行為法上の違法と評価することはできないとして、Xの控訴を棄却した。最高裁判所第一小法廷もXの上告を棄却した。

 判旨:豊中市の水道局給水課長がXの「本件建物についての給水装置新設工事申込の受理を事実上拒絶し、申込書を返戻した措置は、右申込の受理を最終的に拒否する旨の意思表示をしたものではなく」、Xに対して「右建物につき存する建築基準法違反の状態を是正して建築確認を受けたうえ申込をするよう一応の勧告をしたものにすぎないと認められる」ものである。しかし、Xは「その後一年半余を経過したのち改めて右工事の申込をして受理されるまでの間右工事申込に関してなんらの措置を講じないままこれを放置していたのである」。このような事実関係の下においては、豊中市の水道局給水課長の「当初の措置のみによつては、未だ、被上告人市の職員が上告人の給水装置工事申込の受理を違法に拒否したものとして、被上告人市において上告人に対し不法行為法上の損害賠償の責任を負うものとするには当たらないと解するのが相当である」。

 この他に、最二小決平成元年11月8日判時132816頁(Ⅰ―92)および最一小判平成11年1月21日民集53巻1号13頁(志免町給水拒否事件)がある。三つの判決を比較検討していただきたい。

 (2)公表

 私人の側に義務の不履行があった場合、または私人が行政指導に従わなかった場合に、その事実を一般に公表することにより、心理的に義務を履行させようとし、または行政指導に従わせる、というものである(実定法では国土利用計画法第26条に例がある。また、条例で制度を設けることもできる)。公表自体には処分性が認められないので、事前の差止請求か事後の損害賠償請求による権利救済が可能である(但し、事後に救済する訳にいかない場合もある)。

 (3)課徴金

 広義では罰金や公課を含む(財政法第3条)が、狭義では、国民生活安定緊急措置法第11条第1項、独占禁止法第7条の2第1項などに規定されるような、法の予定するところ以上の経済的利得(これが直ちに違法となるか否かを問わない)を放置することが社会的公正に著しく反する場合に課されるものをいう。強制執行の手段ではないが、機能的に義務履行確保の手段としての性格をみせる。

  なお、このような制度については、刑事罰(罰金など)との併科として憲法第39条に違反するのではないかという疑問も生じるが、最三小判平成101013日判時166283頁は、独占禁止法第7条の2第1項に規定される課徴金について合憲としている。

 (4)加算税

 これは租税法上の義務履行確保の手段であり、国税通則法第65条以下に定められている。

 過少申告加算税は、国税通則法第65条に定められるものである。確定申告の期限内に申告書が提出された場合で、確定申告の期限後に修正申告書が提出され、または更正処分がなされた場合に課される。

 無申告加算税は、同第66条に定められるものである。①確定申告の期限内に申告書が提出されなかった場合で、期限後に申告書が提出され、もしくは税額等の決定(同第25条)がなされた場合、または 、②期限後に申告書が提出され、もしくは税額等の決定がなされた後に修正申告書が提出され、もしくは更正処分がなされた場合に課される。

 不納付加算税は、同第67条に定められるものである。源泉徴収などによる国税が法定期限内に完納されなかった場合に課される。

 重加算税は、同第68条に定められるものである。過少申告、無申告または不納付が、納税すべき税額の計算の基礎となる事実の全部または一部についての隠蔽または仮想に基づいている場合に、過少申告加算税、無申告加算税または不納付加算税の代わりとして課される。

 いずれの場合についても、加算税とともに刑罰が科されることがある(所得税法、法人税法、相続税法などを参照)。これについては、二重処罰の禁止を定める憲法第39条に違反しないのか、という問題がある。

 ●最大判昭和33年4月30日民集12巻6号938頁(Ⅰ―111

 事案:会社Xは昭和23年度の法人税について申告納税を行った。これに対し、税務署長Yは更正決定を行い、追徴税(現在の加算税に相当する)を課した。また、国税局はXが法人税の逋脱(脱税)行為を行ったとしてX自体とその担当部長を検察庁に告発した。その後両者は起訴され、有罪の判決を受けた。Xは、追徴税の課税が憲法第39条に違反するとして取消を求めたが、一審判決(大阪地判昭和27年4月26日行集3巻3号552頁)、二審判決(大阪高判昭和28年12月21日行集4巻12号3090頁)のいずれも請求を棄却した。最高裁判所大法廷も、次のように述べて請求を棄却した。

 判旨:「追徴税は、申告納税の実を挙げるために、本来の租税に附加して租税の形式により賦課せられるものであつて、これを課することが申告納税を怠つたものに対し制裁的意義を有することは否定し得ないところであるが、詐欺その他不正の行為により法人税を免れた場合に、その違反行為者および法人に科せられる同法48条1項および51条の罰金とは、その性質を異にするものと解すべきである。すなわち、法48条1項の逋脱犯に対する刑罰が「詐欺その他不正の行為により云々」の文字からも窺われるように、脱税者の不正行為の反社会性ないし反道徳性に着目し、これに対する制裁として科せられるものであるに反し、法43条の追徴税は、単に過少申告・不申告による納税義務違反の事実があれば、同条所定の己むを得ない事由のない限り、その違反の法人に対し課せられるものであり、これによつて、過少申告・不申告による納税義務違反の発生を防止し、以つて納税の実を挙げんとする趣旨に出でた行政上の措置であると解すべきである。法が追徴税を行政機関の行政手続により租税の形式により課すべきものとしたことは追徴税を課せらるべき納税義務違反者の行為を犯罪とし、これに対する刑罰として、これを課する趣旨でないこと明らかである。追徴税のかような性質にかんがみれば、憲法39条の規定は、刑罰たる罰金と追徴税とを併科することを禁止する趣旨を含むものでないと解するのが相当であるから所論違憲の主張は採用し得ない。」

 

 ▲第7版における履歴:2021年1月20日掲載。

 ▲第6版における履歴:2015年10月20日掲載(「第19回 行政上の義務履行確保、行政罰、即時強制」として)。

                                    2017年10月26日修正。

            2017年12月20日修正。

            2018年7月23日修正。

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