あんたはすごい! 水本爽涼
第百六十五回
「どうしたんだい? こんな早くから…。なにか急な問題でも起こったのかね?」
「いえ、そういうことではないのですが、実は昨夜、国会議員の煮付(につけ)代議士から俄かな電話がありまして…」
「煮付議員って、あの政府要人の煮付さんかね? …ほう、まあ、そちらでゆっくり聞こうじゃないか」
鍋下(なべした)専務は椅子から立ち上がると、前方にある応接セットを指さしてそう云った。私は云われるまま応接セットへ近づき、腰を下ろした。専務も私の対面へゆったりと座った。
「君は煮付さんをよく知ってると見えるね。向こうから電話をかけてこられるんだから…」
「はい、まあ…。学校の先輩後輩の間柄でして、何かとお世話になった方です」
「先輩か…。それで、内容は?」
「それなんですが、政府主導の農業プロジェクトに我が社も参画願えないか、というものでして、詳細は、これをお読み戴ければ…」
昨夜、煮付先輩の電話を聞いたあと、眠気(ねむけ)を我慢してPC入力した書類を、私は鍋下専務に手渡した。専務は座席まで一端、老眼鏡を取りに行ったあと、ふたたび戻り、応接セットへ腰を下ろして書類に目を通した。しばらくの時が流れ、黙読を終えた専務は、私の顔を老眼鏡越しに静かに見た。

第百六十五回
「どうしたんだい? こんな早くから…。なにか急な問題でも起こったのかね?」
「いえ、そういうことではないのですが、実は昨夜、国会議員の煮付(につけ)代議士から俄かな電話がありまして…」
「煮付議員って、あの政府要人の煮付さんかね? …ほう、まあ、そちらでゆっくり聞こうじゃないか」
鍋下(なべした)専務は椅子から立ち上がると、前方にある応接セットを指さしてそう云った。私は云われるまま応接セットへ近づき、腰を下ろした。専務も私の対面へゆったりと座った。
「君は煮付さんをよく知ってると見えるね。向こうから電話をかけてこられるんだから…」
「はい、まあ…。学校の先輩後輩の間柄でして、何かとお世話になった方です」
「先輩か…。それで、内容は?」
「それなんですが、政府主導の農業プロジェクトに我が社も参画願えないか、というものでして、詳細は、これをお読み戴ければ…」
昨夜、煮付先輩の電話を聞いたあと、眠気(ねむけ)を我慢してPC入力した書類を、私は鍋下専務に手渡した。専務は座席まで一端、老眼鏡を取りに行ったあと、ふたたび戻り、応接セットへ腰を下ろして書類に目を通した。しばらくの時が流れ、黙読を終えた専務は、私の顔を老眼鏡越しに静かに見た。