あんたはすごい! 水本爽涼
第百八十三回
そこへ鍋下(なべした)専務が現われた。
「おお、児島君もおったか。塩山君、煮付(につけ)先生が今日の午後、遠路はるばる眠気(ねむけ)へ来られるそうだ」
「えっ! 煮付先輩が、ですか? なにか起こったんでしょうか?」
「んっ? いや、私もよくは分からんのだがね。先ほど社長室へ電話が入ったらしい。ただ、来られる、という話だったようだ」
「そうですか…。煮付先輩が…」
つい数日前、私が東京へ行った時、先輩は何も云わなかったのだ。急用なのかも知れなかったが、それにしても会社へ直接、電話した先輩の意図が分からなかった。二人が出ていったあと、私は先輩に携帯で電話した。会社の電話は交換を通すから、避けた方が無難だと判断した訳だ。別に聞かれて拙(まず)い話じゃなかったが、なぜかそうしていた。
「先ほど専務から聞いたんですが、今日、こちらへ態々(わざわざ)、来られるそうですね?」
「ああ、そのつもりだ。今、出るところでな。ちょっとお会いしたい方がおられてな。そのついで、と云ってはなんだが…」
「私に一報して下されば、よろしいのに…」
「ははは…。塩山でも別に構わなかったんだが…。社長の炊口(たきぐち)さんにも御挨拶しておきたかったんでな…」
煮付先輩は私に電話しなかった訳を説明した。

第百八十三回
そこへ鍋下(なべした)専務が現われた。
「おお、児島君もおったか。塩山君、煮付(につけ)先生が今日の午後、遠路はるばる眠気(ねむけ)へ来られるそうだ」
「えっ! 煮付先輩が、ですか? なにか起こったんでしょうか?」
「んっ? いや、私もよくは分からんのだがね。先ほど社長室へ電話が入ったらしい。ただ、来られる、という話だったようだ」
「そうですか…。煮付先輩が…」
つい数日前、私が東京へ行った時、先輩は何も云わなかったのだ。急用なのかも知れなかったが、それにしても会社へ直接、電話した先輩の意図が分からなかった。二人が出ていったあと、私は先輩に携帯で電話した。会社の電話は交換を通すから、避けた方が無難だと判断した訳だ。別に聞かれて拙(まず)い話じゃなかったが、なぜかそうしていた。
「先ほど専務から聞いたんですが、今日、こちらへ態々(わざわざ)、来られるそうですね?」
「ああ、そのつもりだ。今、出るところでな。ちょっとお会いしたい方がおられてな。そのついで、と云ってはなんだが…」
「私に一報して下されば、よろしいのに…」
「ははは…。塩山でも別に構わなかったんだが…。社長の炊口(たきぐち)さんにも御挨拶しておきたかったんでな…」
煮付先輩は私に電話しなかった訳を説明した。