水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第百八十ニ回)

2010年12月25日 00時00分00秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第百八十ニ
 よくよく落ちついて考えれば、米粉の卸(おろし)会社の中にいて営業部長という管理職を務める現実とフラッシュ映像では、明らかに違うギャップがあった。なぜ地球人類の未来を動かしかねない国連総会で私が演説をするのか? と不思議に思えたが、それでもそんな大舞台に登れる魅力は多少あった。たぶんそれが原動力となったのだろう。だが、フラッシュ映像はその一枚だけではなかった。その一枚一枚が大舞台で、まったく関連していないという奇妙さはあった。
「児島君、その後のプロジェクトの推移はどうなってる? 順調に運んでいるかな?」
 部長室に児島君を呼んで、私は現状報告を受けていた。
「はい! 以前の多毛(たげ)本舗のときとは販売網のスケールが違いますからねえ。営業実績だけじゃなく、まさに名実とも日本の一流企業ですよ」
「ああ…、それはまあそうだな。二部で低迷していた米翔(こめしょう)だが、今や一部上場だからなあ…」
「仰せのとおりです。当期純利益ひとつ見ても、恐ろしい額に跳ね上がってますから…。まったく過去では想像もできませんよ」
 児島君は興奮ぎみに捲(まく)し立てた。
「しかし、手放しで喜んでばかりもおれんぞ」
「はい、それは分かっています」
 児島君の顔に新(あら)たな精気が漲(みなぎ)り、紅潮した。

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残月剣 -秘抄- 《惜別》第二十七回

2010年12月25日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《惜別》第二十七回

「いやあ、なに…。お茶でも差し上げねば…と、思いましたもので…」
「ははは…。どうぞ、お気遣いなく」
 そうとだけ遠慮を吐く左馬介へ、敷居を早足で上がった与五郎が座布団を勧めた。権十、の破けた座布団とは偉い違いだな…と左馬介は思いながら、腰の刀を手に持つと、座布団へ身を委ねた。
 申の下刻、樋口がやってきた。今日の場合は八十文の口だな…と、左馬介は一瞬、思った。
「なんだ、左馬介ではないか…。よく、ここが分かったな」
 店奥への暖簾を潜るや、樋口から飛び出した言葉は、まずこのひと言である。
「ええ…、さる筋から訊ねまして、漸くここが…」
「さる筋か…。左馬介も隅には置けぬな。なかなかの人脈とみえる」
 そう探って、樋口は笑みを浮かべた。
「なにを…。運よく辿り着けただけの話で」
「まあいい。それで、どういう用件だ? 確か、お前との約束は、先生に異変があらば…とのことだった筈だが…」
「それは、そうなのですが、一方的にこちらが待っている、というのも如何なものか…と思えまして。それに、暫く音沙汰がありませんでしたから、先生のご様子も気がかりで…」


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