水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第百六十九回)

2010年12月12日 00時00分02秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第百六十九回
「そうです…。まあ、この現象は、そう度々(たびたび)、起こりゃしませんがね。玉が盛んに霊力を出して活動している時に、よく起こります」
「…そういえば、今日、沼澤さんにそのことを訊(たず)ねようと思って寄ったんです。部長になるやら、議員の煮付(につけ)先輩から、どでかい話が舞い込むやら、それに今のことも含めて、なんか変なんですよね」
「そうでしょうとも…」
 沼澤氏は当然だと云わんばかりで、私に理解を示した。ママと早希ちゃんは、いつの間にかボックス席へと逃避行を決め込んでいた。むろん、逃避はしているのだが、私と沼澤氏が話している様子を遠目に窺(うかが)っている訳で、ある意味、気を利かせてくれた、とも云えた。
「玉のお告げがあるのですが、途中で中断すると、そのあとがないんですよ。これって、どういうもんでしょうか?」
「それはこの前、塩山さんがお訊(たず)ねになったので私が答えたじゃありませんか。あなたが慣れるしかないと…」
「慣れる…といいますと、具体的には?」
「慣れるのですよ、霊力に慣れるのです。慣れるとは、霊力をコントロールする力(フォース)を高める、ということです」
「なるほど…」

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残月剣 -秘抄- 《惜別》第十四回

2010年12月12日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《惜別》第十四回

 そう云うと、長谷川は苦笑した。
 三人は堂所で握り飯を頬張りながら雑談に花を咲かせた。この時期は流石に屋外で食べるというのは余り気が進まない。囲炉裏が部屋の片隅に、どっかりとあり、上から吊るされた自在鉤に掛けられた鉄瓶からは、シュンシュンと湯気が立つ。更には、その下で小火がチロチロと燃えている…。そんな暖を取れる場で食うのが適する極寒の時期であった。
「左馬介、先生のご様子は如何であった。俺も暫く、お会いしておらぬのだ」
 鴨下に話した折りには、いなかった長谷川が、何故、幻妙斎に左馬介が謁見したことを知っているのか…。そのことが解せぬ左馬介であった。

「お前の動きなど、大よそ分かっておるわ」

 負けん気が出たのか、長谷川はそう放つと、高らかに笑った。左馬介としては完全に一本取られた形だ。しかし、師範代の面子(メンツ)もあるのだから、左馬介としても鷹揚に構えて、敢えて深く絡まない。

「それは、そうです。長谷川さんですから…」

 引かれてしまえば、長谷川としてもそれ以上は突っ込めないし、

一応は顔も立ったのだから相応だと思えた。
「お前の動きなど、大よそ分かるわい」
 そう放つと、長谷川は高らかに笑った。左馬介は、完全に一本取られた気がした。


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