水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第三十回)

2012年02月08日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
    
第三十回
 そんな生半可な仕事をしているうちに昼となり、やがて退社時間となった。上山の心の中には、一日の中で漠然と考えた一つの発想が次第に具体化しつつあった。上山の足は、どうしたことか社屋の外へは向かわず、社長室へ進んでいた。その社長室へ上山が入ろうとしたとき、入口ドアを出ようとしていた田丸と、ばったり鉢合わせした。
「おっと! なんだ上山君か。どうかしたのかね? 私は今、帰ろうとしとったんだが、何か用かね?」
「いえ、ちょっと社長に云っておこうと思ったもので…。私、退職させてもらえないでしょうか!」
「なんだ、藪から棒に! 驚くじゃないか…。まあ、歩きながら話そう」
 上山の思いつめたような眼差しに、田丸は幾らか、たじろぎながら宥(なだ)めた。
 田丸の勧(すす)めで、二人は会社前の喫茶・キングダムへと入った。ウエイトレスが注文を訊(き)いて下がったあと、田丸が急(せ)くように話しだした。
「辞めるって、それは聞き捨てならんぞ。何かあったのかね? 仕事のトラブルとか…」
「いや、そうじゃないんです。社長もご存知の平林君絡(がら)みの話なんですよ」
「君が見えるという、死んだあの平林君関連かね」
「はい、その平林君絡みで…」
「詳しいその後の事情は分からんが、余り人前で素(す)に話せん話だわなあ…」
 田丸は上山と幽霊平林の経緯(いきさつ)を知る唯一の人間であった。
「ええ、この前、少し霊界のお偉方のことをお話ししたと思うんですが、その霊界番人という存在のご命令で、私と平林君のやろうとしたことにストップがかかりまして…」
「おお、地球温暖化阻止とか云っておった事案だったな、確か」
「はい、そうです。そうしないと、私の身が危ういのです」
「危ういとは?」
「私の身が人間界と霊界の狭間(はざま)へ閉じ込められる危険性があるのです。現に一度、警告のように閉じ込められました」


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