幽霊パッション 第三章 水本爽涼
第四十一回
「よし! 世界中の科学者に能力を与えるよう念じてくれ」
『能力を与えるとは?』
「だから、発明、発見の潜在能力を、だよ」
『課長、それだと人工重力以外の分野も含まれますが…』
「ああ、だから人工重力の発明と念じりゃいいじゃないか」
『はい…』
幽霊平林は訝(いぶか)ったが、上山に従って如意の筆を胸元から引き出した。その後の所作は、いつもと同じである。如意の筆が振られると、幽霊平林はその筆を元の胸元へ戻して挿した。
『終わりました…』
「おっ! ご苦労さん。結果が楽しみだが、いつ頃、分かるかだな…」
『今日、明日という訳にはいかないでしょう。恐らくは一週間、いや、一か月、数ヶ月、一年のスパンで考えねばなりません』
幽霊平林の言葉は、いつになく妙な荘厳さを含んだ説明口調だった。
「…、そうだな。少し疲れたよ。今日は、これまでにしよう。動きがあれば、こちらから、また呼びだすから…」
『はい。それじゃそういうことで…。僕も結果が楽しみですよ』
「そうだな…。今回はストップが、かからなかったし、今後はこの程度だな」
『ですね。それじゃ…』
幽霊平林は、いつもの格好よさで、スゥ~っと消え失せた。上山は肩を軽く片手で摘(つま)むと、揉(も)みほぐした。
結果が表れ始めたのは、それから僅(わず)か四日後だった。上山が、いつものように出勤準備を整え、食事の後片づけも澄ましてテレビをつけた時である。目に飛び込んだ場面はニュース番組で、その最初の世界変化を報じていた。読み上げるアナウンサーの声も、心なしか興奮で震えているように上山には思えた。