幽霊パッション 第三章 水本爽涼
第二十四回
『はい、確かに…』
「まあ、それはそれとしてだ。現実に彼等が政治を掌握し、軍事力を駆使していることも確かだ」
『それはそうなんですが、彼等は軍事面ですよね。地球上の温室効果ガスという物を撒き散らす国家の代表者は含まれてません。地球上の環境汚染は独裁者とは、また異質で別個のものでしょう』
「おお…。そうだな。地球環境は全世界の問題だから、すべての国々のトップに念じないと効果はないなあ」
上山は、軍事面と環境面を混同した自分を反省した。その上山が両腕を組んだとき、俄かに激しい震動が起こり、家全体が揺れだした。いや、上山には、そう思えた。
「地震かっ!!」
上山は幽霊平林に思わず叫んだ。その幽霊平林は緊張のためか言葉を発しない。ただ、彼の頭上には、気持の昂(たかぶ)りによって生じる青火でけが灯っていた。震動が止まったとき、上山の視界は暗闇に閉ざされた。瞬間、上山は停電か…と思った。しかしそれは、停電などではなかった。暗闇の中に見えるものといえば、青火を頭に頂(いただ)いた幽霊平林だけである。やがて、上山も少しずつ異変に気づきだした。
「おいっ! 私は、どうしたんだっ!!」
『ぼ、僕にも、さっぱり分かりません! どうなったんでしょう!』
幽霊平林も周(まわ)りを見回しながら状況を把握しようとしたが分からず、不安げな眼差(まなざ)しでポツンと云った。その時、声がどこからともなく響いた。といっても、人間には聞こえない。霊界の者だけに聞こえる特殊な声である。この場合は当然、幽霊平林にしか聞こえなかった。
『儂(わし)じゃ! お前には聞こえるであろうが、そこにいる人間界の者にき聞こえぬであろう。よって、儂の云うことをろねそのとおり汝(なんじ)が伝えるのじゃ』
『はは~っ!! 霊界番人様!』
空中を漂いながら頭(こうべ)を地につける土下座の仕草を幽霊平林は始めた。