幽霊パッション 第三章 水本爽涼
第四十七回
「ご謙遜を…。私も滑川(なめかわ)教授と話し合う機会があり、あなた方のことは今じゃ百パーセント信じております」
佃教授は上山に缶コーヒーを奨めながら、そう云った。
その頃、霊界の幽霊平林は霊界番人の訪問を受けていた。この、訪問などと表現出来るのは、未(いま)だ幽霊平林が御霊(みたま)の姿に変化出来ない幽体だからで、彼には崇高な霊界の長を迎えるという意識はなく、人間的に訪問される…程度の感覚しかなかったからで、云わば、彼の感性である。
『そなた達の行いは、霊界司様の知るところなれど、なお一層、励めとのお達しがあったゆえ、ここに伝えおく』
荘厳な霊界番人の声が、眩(まばゆ)い光輪の中より響いて、幽霊平林の耳に入った。
『ははぁ~~!』
ただただ幽霊平林は平伏するのみである。幽霊の平伏は人間とは異なり、空中で九十度、回転する姿勢である。もちろん、陰の手の幽霊ポーズのままなのだが、今の幽霊平林は、霊界番人に威厳を感じているというより、自分の身の上に不安を抱いている感が強かったから平伏しているのだ。内心は人間的に訪問されている程度の感性だから、これは、ある種の欺瞞(ぎまん)である。
『今日、寄ったは他でもない。その方(ほう)達の人工重力発生装置とやらの発想を霊界司様が、いたく褒めておられたぞ。この調子でいけば、あと幾つかの行いで、いや近々、お許しが出るであろうよ』
『お許しとは、どのようなことに、ございましょう?』
『知れたこと。そなたは御霊(みたま)となり、新たな生を授かるまで、ここを飛んでおる他の御霊と同格になるのよ。そなたの上司とか申す者は元の状態へとたち戻り、そなたの姿が見えなくなる。すなわち、すべてが何も起きておらぬ以前へ、のう…』
『僕…いえ、私の記憶は消滅するのでしょうか?』
『そのことについては、霊界の決めで云えん。まあ、そなた達の行いによっては、上手くすればそなたは、すぐにでも新たな生を授かるかも知れんのう』
『ええっ!!』
幽霊平林は刹那、驚いた。