水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第五十回)

2012年02月28日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
    
第五十回
『ああ、そうでしたね。僕も、そのことをお聞きしなきゃなりません』
 双方とも、情報は持っていた。
「君の方は?」
『はい。僕が朝早くから伝えておこうと現れたのは、そのことなんですが…』
「ほう、どんなこと?」
『僕と課長の今後の活動へのアドバイスを霊界番人様、いや、厳密には霊界トップの霊界司様のお言葉なんですがね。して下すったんですよ。で、そのことをお伝えしようと…』
 幽霊平林は早朝から自ら現れた訳を話した。
「霊界番人さんは、どう云ってらしたの?」
『この調子で、あと幾つかを順調に熟(こな)せば、僕は御霊(みたま)に昇華し、課長は元の状態へ戻れる、とのことでした』
「あと幾つか、か…。先が遠いなあ…」
 少し溜息混じりで上山が吐いた。
『いえ、僕達の行いによっては、すぐにでも、という話でした。それに僕は、場合によっちゃ、すぐにでも生まれ変われる、とか云っておられました』
「そうか…。場合によっては、すぐにってこともあるんだな。こりゃ、アグレッシブに、いかにゃならんな」
『はい。そのとおりです』
「私も、君と別れるのは辛(つら)いが、まあ仕方がなかろうな…」
『はあ、僕も課長と別れるのは悲しいですが、いつまでも、この状態は続きませんしね』
「なんか湿っぽくなってきたな。まるで男女の別れ話だ」
 上山が冗談めいて、陽気に笑いながら明るく云った。幽霊平林も返さずに無言で陰気に笑った。二人(一人と一霊)の間に一瞬だが和(なご)みの空間が溢(あふ)れていた。
『新言語で世界が語り始める、というのは、どうでしょう?』
 唐突に幽霊平林が口を開いたのは、それから数分後のことである。


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