幽霊パッション 第三章 水本爽涼
第四十回
「だろ? 現実は、宇宙ステーションを含めて、プカリプカリだわな」
『ええ、それは云えます。1Gの人工重力を生み出す発見、発明は、されてません』
「私は正に、こういうのがノーベル賞だと思うんだよ。最近の賞の軽いこと、軽いこと。もらった人が悪いとは云わんがな。私の後輩の塩山がもらったTSS免疫ワクチンの開発貢献とかだつたら分かるんだがな…」
「塩山さんは偉い方なんですねえ」
「偉かぁ~ないだろうが、まあ稀有の優秀な男であることは疑う余地がない」
『それはともかく、課長のその発想、いいですよ!』
幽霊平林は久しぶりにニンマリと陰気に笑った。
「だいいち、帰還したあと、機能回復訓練をするそうじゃないか」
『ええ、無重力では筋肉とかが弱りますからねえ』
「そうそう、生理的に無重力ゾーンでの長期滞在は、よくないわな」
『確かに…。僕も課長が云われるとおりだと思います。夢を人々に与えてくれるのはいいんですが、なんか、やってることが上辺だけのような気がしますよね。この発想は、いいでしょう』
「で、だ。そうなると、問題は、どう念じるか、だわな」
『そうなんですよ。少し詰めますか?』
「ああ、そうしよう」
車が上山の家へ着き、上山はドアを開けて入り、幽霊平林は壁からスゥ~っと透過して入った。その後、二人は居間で詳細の詰めを語り合った。
「結局は、小難しく念じるのは駄目だということか…。シンプルに念じた方が上手くいくと…」
上山と幽霊平林は、あれこれと内容を詰めたが、どれも帯に短し襷(たすき)に長しで、すべてを纏(まと)めるには決定力に欠けた。人工重力発生装置は、念じたところで即、完成するものではない。要は、科学者へのモチベーションを与えることに尽きた。科学者が俄かに閃(ひらめ)いて機械を開発、設計し、詩作をし、そののち完成させたなら、ひとまず成功したと云える話だった。