幽霊パッション 第三章 水本爽涼
第五十一回
「んっ? …新言語で? …つまり、世界共通語でだな? それは、どうだろ。だいいち、元の状態に私が戻ったとしてだ。その私が語れないじゃないか!」
少し興奮ぎみに上山は笑った。
『いや、その心配は…。当然、課長もその世界語で語れるように念じますから、安心なさって下さい』
「安心なさって下さい、か…。ははは…、すっかり君も先生だ」
二人(一人と一霊)は意気投合したように笑い合った。この時の幽霊平林は、少し陰気さが蔭(かげ)り、半陽気な、なんとも中途半端な笑いになっていた。
『冗談は、さておいて、これは、どう念じましょう? 如意の筆の力からすれば、瞬時に全世界の人が世界語で語り始める、という現象も可能になりますが…』
「君なあ、それはいくらなんでもアウトじゃないか? 人間に介入し過ぎて、私の身が危ういぞ」
『…ですね。小さなことじゃないですから。即、課長は霊界と人間界の狭間をさ迷われます…』
「恐らくは、な。危ない危ない!」
『はい…。世界語の発想を閃(ひらめ)かせる、ぐらいのとこですか』
「ああ、そのくらいが無難だろうな。問題は、どういったメンバーを対象にするか、だが…」
『まあ、それは、これから詰めましょう…って、課長、今日はご出勤でしたよね?』
「いや、今日は土曜だから休みなんだが…。どうも、昨日の晩は目が冴えてなあ。ウトウトはしたが、五時半頃には起きていたよ」
『なんだ、そうだったんですか。知らないもんで、僕はもう少し…と思って、外を漂ってたんです』
「漂ってたか…。これは他人様では聞けないな、ははは…」
上山はニタリと陽気に笑い、幽霊平林はニッタリと陰気に笑った。
『それは、そうとして、僕は会社へ現れませんから、このまま、お待ちしましょうか?』
「ああ、そうして貰(もら)うと有難いが…。しかしまあ、霊界へ戻ろうと、このままいようと、どう待つかは君の勝手だがな、ははは…」
『分かりました。世界語メンバーの詰めは、その時に…』
こうして、二人(一人と一霊)は夕方にメンバー人選のアイデアを考えることにして一端、別れることにした。