水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第三十八回)

2012年02月16日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第三章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
    
第三十八回
「ありがとうございます! 貴重なご意見、感謝致します。今日、教授を訪ねてよかったですよ」
「そうかあ? なら、いいがのう…」
 その後、しばらく世間話や佃(つくだ)教授のその後のことを訊(き)いたりして、上山は時を過ごした。教授の研究所を出ると、すでに昼間になっていた。上山はこの時、はじめて空腹に気づいた。外食は滅多としない上山だったが、この日は妙な具合に耐えられないほどの空腹感に苛(さいな)まれ、滑川(なめかわ)研究所近くの中華飯店へ駆け込んだ。急いで頼んだラーメンや餃子を食べると、やっと腹も満たされ落ちついた。すると、先ほどの滑川教授が云った言葉が上山の脳裏を過(よぎ)った。
━ ひとつ云えることは、小さいことから始めりゃ、苦情は出ないだろう、ってことだな… ━
 上山は、幽霊平林を店を出たら呼び出そうと思った。
 店を出た上山は、歩きながら左手首をグルリと回した。幽霊平林を呼び出す常套手段である。当然ともいえる早さでパッ! と幽霊平林は格好よく湧いて出た。
『どうでした? 教授は』
「ああ、上手い具合に、いいヒントを下さったよ。さすがは心霊学の権威者だけのことはあるな」
『ど、どんなことです? 早く聞かせて下さいよ』
 上山は歩きながら話し、その横を幽霊平林はスゥ~っと流れるように移動している。上山は、チラッ! と横を垣間見て、楽そうでいいなあ…と一瞬、思った。
「まあ、そう急(せ)かすなよ」
 上山が俯(うつむ)きながらボソッと漏らすと、もう元の駐車場へと来ていた。中華飯店が駐車場からそう遠くない距離にあった、ということもある。車が発進し、上山はハンドルを自宅へと切った。幽霊平林も車内でプカリと浮かびながら助手席で漂い、しばらくは両者とも無言だった。


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