代役アンドロイド 水本爽涼
(第170回)
だが、よく考えれば、妙齢の女性なら化粧をしない方が怪(おか)しいのだ。今まで、化粧しなかった沙耶が、どうして? と、保は疑問が湧いた。気づいたとき、保は沙耶の部屋へ入っていた。部屋では馴れない仕草で沙耶が顔に化粧品を塗りたくっていた。保はその顔に思わず噴出さずにはいられなかった。そのはずだ…と思えたのは、直後だった。プログラムには学習システムとして、新しく発生する事象に対して認識し、その解決策を探るプログラムが入力されていた。ただ、化粧法といった技巧的な方法は自身の学習によって高度化される仕組みなのである。だから、経験値が0の沙耶は、幼稚園児のお絵かきに似通っていた。
「化粧品の店でやってもらった方がよくないか?」
保も面と向かっては、下手でひど過ぎる! とは言えなかった。沙耶は保の言葉を言語認識システムで解析した。
『保の言うとおり、私って駄目なのよね!』
自虐的な言葉が沙耶から飛び出した。沙耶にしては珍しかった。
「ははは…、すぐ上手くなるさ。まあ、その顔では外へは出られんがな」
言語認識システムがあるから、言ったことはお見通しなのだ。保はそう気づいて、本心を言った。沙耶はその本心の言葉を解析し、慌てて化粧を落とし始めた。
「先にチップを入れ替えよう。化粧を落としたら、立って停止してくれ。藤崎さんで、また忘れるところだったよ」
保は愚痴りながら入れ替え用のマイクロチップを取りに行った。