代役アンドロイド 水本爽涼
(第185回)
実は、保のシステム構築は、ある域まで完成していたのだが、保はそれを、おくびにも出さなかったのだ。
「はい、要は小さなエアカーってことです」
保は簡単に言って退(の)けた。三人は唖然として、異論を挟(はさ)めず頷(うなず)いた。
『SFとかの未来で飛んでる車よね?』
「あっ、ああ…」
また沙耶が、いらんことを…と保は思えたが、そのとおりだから渋々、肯定した。
「なるほど…。揚力とか考えれば、重力に逆らって金属が飛ぶこと自体、不思議なんだが、現実に飛行機は飛んでる。たまには、落っこちるがな、ははは…。いや、失礼、笑いごとではなかった。落ちて尊い人命をなくす物理理論しか考えられん科学者は敗北者だ!」
研究室内は一瞬、お通夜になった。
『私、これで帰ります。保、もう大丈夫よね』
「んっ? ああ…そりゃ、いいけどさ。マスコミの心配は、もうなさそうだし…」
研究室の三人は、保の奇想天外な発想を聞き、そのことに気が取られていて、沙耶と保の話は耳に入っていなかった。
『それじゃ…』
沙耶が帰ろうと思ったのは、完璧に研究室の全情報を収集して解析し、データ化を終了した結果だった。保のガードが不要になったこともあり、これ以上、研究室に存在しても無駄と分析システムが判断したのだ。