代役アンドロイド 水本爽涼
(第181回)
修正プログラム違反だが、まっ! いいか…と、保は無視することにした。
保はいつものようにマンションを出た。少し後ろを保をガードする形で沙耶が続く。完璧なボディガードだ。番記者は近くに潜んで保を窺っているようだが、幸い、近づく素振りは見せなかった。
研究室へ入る前に立ちはだかったのは、やはりマスコミの番記者達だった。昨日と違い、一日経つと飛ぶ言葉もそう諄(くど)くない。
「おはようございます! ご苦労さまです」
おやっ? と疑えるほど淡白な声が飛んだ。取材に詰め寄る気配もない。沙耶が付いているのだが、これでは出番がなく拍子抜けだ。しかしまあ、そのお蔭でスムースに中へ入ることは出来た。
「おはようございます。おっ! いつぞやの…」
老ガードマンが沙耶の姿を見てそう言うと、外部者通行用の名札を手渡した。軽くお辞儀すると、沙耶は柔和な笑みを浮かべその名札を受け取った。
「岸田さん、実は今朝早く電話が入りましてね! なんでも、ノーベル賞に内定したみたいなんですよ、おたくの研究所。ご存じでしたか?」
「ええっ!! いや、まったく…」
保にすれば寝耳に水の話である。しかしよく考えれば、入口の番記者達が騒いでいないのが腑に落ちない。もしそうなら、中へ入るまでに突(つつ)かれたはずなのだ。訝(いぶか)しくは思えたが、保は平静を装って笑顔で老ガードマンを躱(かわ)し、エレベーターへと歩いた。沙耶は名札を左胸へつけると、そのあとを追った。