代役アンドロイド 水本爽涼
(第176回)
「教授におんぶ、か」
『保にしては上手いこと言うわね。そう、それ! おんぶにだっこ、のおんぶよ』
「俺は全然、知りません・・で通してくれるかなあ?」
『知らないものは訊(き)けないでしょ?』
「そりゃまあ、そうだが…」
沙耶にその気にさせられながら、保はリビングの椅子に腰を下ろした。沙耶のボランティア活動も、この分なら当分、無理だな…と保は落胆した。しかし、沙耶のことがマスコミに知れた訳ではなく、直接の影響は保のマンション周辺までは及んでいないのだ。そう思えば、沙耶が言ったとおり、教授におんぶ、でやるしかないか…と思えた。後藤や但馬は、マスコミにチヤホヤされて有頂天なのだが、保はそんな気分ではなかった。すっかり萎(な)えて新聞を手にすると、一面トップに自動補足機の関連記事が見えた。記事には二枚のカラー写真が付けられていた。その一枚は山盛教授の満面の笑顔の写真で、もう一枚は昨夜、記者会見した四人が並んで座る写真だった。小さく写ってはいたが、当然、その中には保もいた。
「ああっ! …新聞のトップに出てるぜ!」
溜め息混じりに保は声を出した。
『大丈夫よ。今の日本人は飽きっぽいから、すぐ忘れるわよ』
「いつまでも付き纏われりゃどうする?」
『そのときは休めばいいじゃない、体調不良だと言って』
保は無言で立つとバスルームへ向かった。言わないでも沸いていることは分かっていた。経験則である。帰れば、風呂の準備が必ず出来ていたからだった。バスルームへ入ると、やはり準備はOKだった。保は疲れた気分を癒そうと、浴槽に身を深く沈めた。しばらく湯舟に浸かっていると、気分は治まってきた。まさか、このときが嵐の前の静けさだとは保は知るよしもなかった。