代役アンドロイド 水本爽涼
(第183回)
「おはよう…。おっ! 岸田君のお従兄妹さんでしたか。…まっ! それはそれとして、入口で警備員の矢車(やぐるま)さんに冷やかされたよ。ノーベル賞がどうのこうのってさ、ははは…」
『おはようございます。私は若林の従兄妹です』
「そうでしたっけ? 若林? はて、だれでした? まっ! どうでも、いいんですが…」
「若林は友達です。沙耶は預かってるんです」
「そうなの?」
保は頷いて、ほっ! とした。沙耶との関係が上手く修正できたからだ。そして、あの老警備員、矢車っていうんだ…と知った。
「教授、これから私らはどうなるんでしょ?」
心配顔で但馬が訊(たず)ねた。
「なるようにしか、ならんよ、但馬君。そう、気にせんと…」
教授が但馬を慰めた。
「そりゃ、そうなんですが…」
保は黙っていた。
その数日後、一転してマスコミの足が研究所から遠退(の)いた。新館入口の取り巻き記者達も、いつの間にか姿を消していた。それもそのはずで、夕方のニュースでノーベル賞受賞が見送られた決定の報道が、まるでお通夜のようにアナウンサーから流れたのだった。お通夜は、なにもテレビニュースだけに限らず、次の日の研究室内でも同じだった。山盛教授の表情はどこか虚(うつ)ろで、まるで生きる希望をなくした一人の哀れな老人のように保には見えた