合崎(ごうざき)武司は人間には強かったが、電気関係には滅法、弱かった。もう少し正確に言うなら、[電]と付くあらゆるもの、具体的には電話、電波、電磁波、電子…など、目に見えないすべてのものに弱かったのである。
「そんなこっちゃ君ね、今の時代、世渡り出来ないよっ!」
嫌みに聞こえる正論を会社上司の太良吹(たらふく)は課長席に座りながら、対峙する合崎に説教口調で言った。太良吹は座った位置にいるから、前に直立する合崎には当然、上目 遣(づか)いである。
「はあ…しかし、どうしようもありません。ダメなものはダメなんですよ、僕」
「小学生じゃないんだから、私と言いなさい、私と! …まったく!」
太良吹は完全に旋毛(つむじ)を曲(ま)げた。
「はあ、どうも…」
ペコリとお辞儀してデスクへ戻(もど)った合崎はビクビクしながら椅子(いす)へ座った。机の上には強敵の電気スタンド、パソコン、電話といった、合崎にとって見るのもおぞましい[電]関係品が合崎を見つめていた。それは合崎がビリビリっ! と感じる━見えざる視線━だった。
会社の帰り道、まだ田畑が豊かに広がる畔(あぜ)を合崎は歩いていた。畔に沿(そ)って電柱がまっすぐに続き、高い電圧が流れる電線の上で、スズメ達がチュンチュン…と囀(さえず)っていた。それを見ながら合崎は、ふと思った。アイツら…よく感電しないな? と。落ちないメカニズムは分からなかったが、合崎はピリピリっ! に強いスズメ達を羨(うらや)ましく思った。
しばらくのんびりと畔を歩いていると、バイブにしていた携帯が急にビリビリっ! と震動した。驚いた合崎は完全にビリビリっ! 状態になり、電話に出ないまま、畦道を駆け出した。そのとき、タイミング悪く、夏空にビリビリっ! と稲妻がひと筋、走り、ズド~~ンときた。
「ギャア~~!!」
走る合崎は完全にビリビリっ! 人間になってしまっていた。
THE END