鳥谷(とりたに)美咲は食品会社のOLに採用されて2年ばかりが経つピチピチのヤングギャルだった。容姿といい仕事ぶりといい、まあ、それなりにまあまあのOLとして、目立たない日々を会社で過ごしていた。そんな美咲だったから、男子にモーションをかけられることも、ほぼなかったが、別にそのこと自体、美咲は気にしていなかった。それより美咲には一つ、気になることがあった。今いる会社が、どうしてこんな大きくなったのだろうか? という漠然(ばくぜん)とした疑問だ。その疑問は、ひょんなことで湧いた。
あるとき、美咲は会社の資料室で偶然、創設当時のちっぽけな商店の写真記事を見てしまった。疑問に思うようになったのは、そのときからである。というのも、今との期間が僅(わず)か10年にも満たなかったからである。美咲は秘密裏に会社の実態の歴史を逆に辿(たど)ることにした。すると、妙なことが分かった。それには、ある食品の発売が関係していることが分かったのである。その食品の名は、[サスペンス]。味はサスペンスの筋書きのように、はらはらとさせる味つけで、食べる者を悩ましくさせる美味で悩ましい健康食品だった。ああ、アレか! と美咲も納得した。自分も食べたことがあった。鳥谷美咲が[サスペンス]を食べる。鳥谷美咲と[サスペンス]。美しい花が咲く岸壁に佇(たたず)む一人の女…海鳥が舞っているラストシーン…もうこれだけで十分、ドラマになる映像が揃(そろ)っていた。
THE END