水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

思いようユーモア短編集 (62)失(な)くす

2021年01月02日 00時00分00秒 | #小説
 人は神さまや仏さまではないから、物を失(な)くしたり、うっかり壊(こわ)してしまったりする。壊してしまったものは、元へ戻(もど)らないから諦(あきら)めるしかないが、失くしたものは探すことで見つかる可能性もあり、なかなか諦められないものだ。下手(へた)をすれば、一日中、探した・・なんてこともあるだろう。思いようの深さで一人一人の違いはあるが、やはり物を失くせば辛(つら)い気分になるのが普通だ。ならない人は相当、心の備(そな)わった人か、あるいは愚鈍(ぐどん)に違いない。^^
 平末(ひらすえ)は朝から宝くじの当たった当選券を探しまくっていた。休日の朝は、いつも寝坊するのだが、珍しくこの日の朝は目覚ましどおり、普通の時間に起きられたから、こりゃ、いい日になるぞっ! と意気込んだまではよかったのだ。そのあとがいけなかった。宝くじの当選番号が出ていた新聞欄に目がいってしまったのである。まあ、そこまでは、まだよかった。おっ! 当たってんじゃねぇ~かっ!! と、うろ憶(おぼ)えの番号を思い出した平末は、確認しようと背広が収納されているクローゼットへと走った。そして、宝くじ券を入れたと思った背広の内ポケットを弄(まさぐ)った。弄ったまでは、まだよかった。弄ったポケットに宝くじ券は入っていなかったのである。さて! どこへいった! と、平末は失くした宝くじ券のことが頭について離れなくなった。まだよくなくなったのである。^^ ものは思いようで、出てきたって恐らく当たってないだろっ! …くらいに軽く踏ん切りをつければよかったのだ。しかし、平末にはそれが出来なかった。諦めの悪い性格が災(わざわ)いしたのだ。^^ それからというもの、平末の格闘が始まった。昼食も抜いて一日中、探し回ったが、やはり、宝くじ券は出てこなかった。
「フゥ~~、ないか…」
 溜め息まじりに平末はキッチンのテーブルへ重い腰を下(お)ろした。そして、ふと目を遣(や)ると、テーブルの上に一枚の券があるではないかっ! それは、紛(まぎ)れもなく探していた宝くじ券だった。平末とすれば、なんだっ! 気分である。ようやく満足した平末は、新聞と宝くじ券の番号を照合した。…残念ながら、似通ってはいたが当たってはいなかった。平末はガックリ!! と肩を落とした。
 このように、失くすことはよくあることだから、思いようは軽い方がいい・・という結論が導ける。^^

                      

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