水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

思いようユーモア短編集 (78)谺(こだま)

2021年01月18日 00時00分00秒 | #小説
 別の短編集にも登場したが、山の谺(こだま)は相手がいなくても、声を発すれば反響して返ってくる。胸の鬱憤(うっぷん)を晴らそうと、山に向かって「馬鹿野郎っ~~~!!」と発すれば、当然、『馬鹿野郎っ~~~!』と返ってくる訳である。そこでしみじみ、俺は馬鹿なんだなぁ~~…と思う訳だ。^^ まあそれは冗談としても、ものは思いようで、自然に生じる谺は、人の感情など関係なく、ありのままの姿を返してくる訳である。この場合は音であり、映像の場合なら鏡(かがみ)がそれに当たるだろう。^^
 一人の社員が課へ戻(もど)ってきた。課長の木地(きじ)に怒られた漆田(うるしだ)である。漆田はショボく自分のデスクへ腰を下(お)ろした。漆田の趣味は山登りで、仕事そっちのけで山登りに齷齪(あくせく)し、他の社員とは異(こと)なり、有給休暇を使い果たしていた。
「漆田さん、また怒られたんですかっ!?」
 後輩社員の丸椀(まるわん)が心配げに漆田を窺(うかが)った。それも道理で、漆田は毎日のように木戸に怒られていたのである。
「ああ、まあな。少し休み過ぎたか、ははは…」
 軽く笑うと、漆田はデスクの書類を見遣(みや)った。不備はない…と漆田は軽~~く思った。それなのに、なぜ怒られたのか? いや、怒られるのか? が漆田には、はっきりと分かっていた。^^ 休み過ぎである。^^
「ちょっと、トイレ…」
 そう言い残すと漆田はデスクから立ち、課を出ていた。そして気づけば、屋上に漆田はいた。
「課長の馬鹿野郎っ~~~!」
 漆田は軽く叫んでいた。山とは違い、谺の反響はなかった。漆田は、課長の木地は馬鹿なんだ…と軽く思った。^^
 木地椀に漆が塗られなければ、木地椀はただの木の椀だ。^^ 同様に、ものは思いようで、課長は課員がいるから存在価値がある訳である。^^

                      

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