水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

思いようユーモア短編集 (88)シメシメ…

2021年01月28日 00時00分00秒 | #小説
 別に魔が刺したとか魔に刺された^^ という訳でもないのに、人は時折り、相手のミスとかで予想外に上手(うま)くいったとき、シメシメ…と思ったりしてしまう。もちろんこの思いようには個人差があり、いやっ! それはダメだっ! と自重する人もいるだろう。このシメシメ…とつい思ってしまう感情は人の弱点でもあるが、逆に予想外の展開で上手くいかなくなる場合もあるから、引き分け[イーブン]くらいなのかも知れない。^^
 どこにでもある普通のとある家庭である。冬休みも残り少なくなったある日のこと、小学生の正也は、『シメシメ…誰も気づかないうちに戸棚に入れてある正月の残り餅(もち)を焼いて食べよう』と、子供部屋から急いで駆け出した。そのとき、母親の未知子とぱったり鉢合わせしてしまった。
「あらっ、どうしたのっ? そんなに急いで…」
「んっ? ああ、まあ…」
 餅が食べたくなった・・とは、武士の沽券(こけん)にかけても言えない、言えない…と正也は瞬間、思えた。祖父の恭之介に、武士は食わねど高楊枝・・と教えられていたからである。軽く暈(ぼか)した正也が、危機は脱したな…と思いながら戸棚の前に来たとき、離れから母屋(おもや)へ入ってきた恭之介と運悪く、バッタリと出食わしてしまった。
「いかがされた、正也殿!? そんなに急がれてっ!?」
「いや、これという仔細(しさい)はござらぬが…」
 師匠の恭之介には、口が裂けても餅のことは言えないっ! と、正也には思えていた。恭之介は恭之介で、シメシメ…餅をっ! と意気込んで離れから来たことを知られてはな拙(まず)い…と思えていた。要は二人とも、餅目当てで戸棚の前へ来たのである。
「おっ! さようか…。では、いずれ…」
 恭之介は正也に悟(さと)られまいと、戸棚の前から立ち去った。
「いずれ…」
 正也もお武家言葉で返すと、反対方向へと立ち去った。正也は正也で、じいちゃんに知られては拙(まず)い…と思えたためである。両者、目的を果たせぬまま消え去ったのである。戸棚に入れられた餅がそのとき、二人とも馬鹿だなぁ~~と思っていた。
 シメシメ…は思いようが悪いため、上手くいかないと時折り、誤魔化(ごまか)す事態となる。^^

 ※ 風景シリーズに登場した湧水家から、代表お二人の特別出演でした。^^
 
                      

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