水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

思いようユーモア短編集 (79)過ぎていく

2021年01月19日 00時00分00秒 | #小説
 毎年思うことだが、年の瀬が近づくと、『ああ、今年も過ぎていくのか…』と、さも自分が高尚(こうしょう)な人のように思ってしまう。ものは思いようで、よ~~く考えれば、自分はそんじょそこらにいる人間とちっとも変わりがないのである。^^ だが、そう思ってしまう背景には、手帳やカレンダーが薄っペらくなったり、マスコミが歳末をガナりたてる原因も多分にあるようだ。ということは、馬の耳に念仏・・と、年が過ぎていくこと自体を意識しなければ、年が変わろうと変わるまいと^^、ちっともバタバタする必要はない訳である。これが発想の改革をする第一歩になる。毎年、同じ繰り返しでは、ただ時が過ぎていくだけで、老いてチィ~~ン! とお悔(く)やみをされるだけなのである。^^ 憎まれようと憎まれまいと、織田上総介信長公は戦乱の変革を求められ、天下統一を目指された偉いお方なのだ。尋常の発想ならば、武将としておそらく天下統一は果たせなかったのでは? と私は歴史学者のように偉そうに考えているのである。当然、反する者や恨(うら)む者も増えることにはなったのだが…。しかし、誰かがその悪役を演じなければ、戦国時代はそのまま過ぎていくことになったのでは? と思えている。^^
 とある歳末の繁華街である。凍(こご)えそうな寒さの中を一人の男が半袖(はんそで)姿で暑そうに団扇(うちわ)を扇(あお)ぎながら顔の汗を拭(ふ)いている。よ~~く見れば、汗はちっとも出ていない。不思議に思った通行人が、訝(いぶか)しげな顔で、思わず声をかけた。
「あの…何やってんですか? 風邪、引きますよっ!」
「あっ、どうもっ! いや、大丈夫なんです私。エアー夏やってんですからっ!」
「エアー夏? …なんです、それはっ!?」
「だから、エアー夏ですよっ! おたく、エアー夏、知らないっ!?」 
「はい、知りません! なんなんです、それはっ!?」
「弱ったなぁ~。ほれ、エアーギターとかあるじゃないですか、アレですよっ!」
「ああ、あの感じですかっ! それにしても、こんな寒空で…」
「エアー夏やってますとね、どういう訳か寒くないんですよ、私」
「ははは…そうなんですかっ! それじゃ!」
 通行人は、『世間は広いや。こんな人もいるんだな…』と思いながら、そうとも言えず通り過ぎた。
 過ぎていく時の中で、何を思おうと思いようは自由なのである。^^
 
                      

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