要領が悪いと、いい場合に比べ、余計に疲れる。すると当然、物事が悪い方向へ進む・・と、話はまあ、こうなる。^^ 誰が決めた訳でもないが、それが事実なのだから、しょうがない。^^ 物事が上手(うま)くいかない上に疲れるのだから、これはもう、どうしようもない。^^
とある中央官庁で勤務する蒲下(かばした)は、その日も残業を余儀なくされていた。前年度予算の決算書作りである。
「与党の議員さんが作りゃいいのになっ!」
そう嘯(うそぶ)いてはみても、作るのが予算を執行する蒲下の仕事なのだから、どうしようもない。^^ しかし、その仕事も残業が二週間続けば、さすがに疲れる。疲れると、思うに任(まか)せないし、間違いも生まれてくる。
「おいっ! 蒲下君っ! 一円、間違っとるじゃないかっ!!」
夜の七時が回った頃、ウトウトしかけた蒲下のデスクの後ろから声をかけたのは、課長の采田(さいだ)だった。
「一円!? なんですか、それはっ!」
「それはっ! も、これはっ! も、ないっ! 不用額が一円違うじゃないかっ! 予算現額-(マイナス)支出済額だよっ!」
「ええ。予算残額=(イコール)不用額ですよねっ!?」
「ああ、予算残額=(イコール)不用額だよっ! 馬鹿野郎っ!! そんなこと言ってんじゃないっ!!」
采田は少し切れ始めた。課長補佐の蒲下としては、どこがっ!? 気分である。
「ここだよ、ここっ!!」
「ああ、そこですかっ! そこは、それでいいんですっ!!」
「よかないだろっ!!」
「いいんですよっ! 課長が昨日(きのう)、一円、間違えたじゃないですかっ!!」
昨日は、「そうそう、そうだったね…」と素直に間違いを認め、「去年の決算書の出しっぱなしを見てたよっ! 俺も要領が悪いなっ! 書棚(しょだな)へ戻(もど)してから見りゃよかった。ははは…」と笑い飛ばした采田である。それが、一日経てば、もう忘れている。おいっ! 昨日を忘れたんかいっ!… とジロッと一瞥(いちべつ)し、采田の顔を窺(うかが)う蒲下の気持も分からないではない。だが、そんなことを言える訳もなく、蒲下は思うに留(とど)めた。
蒲下は帰路の屋台でおでんを突(つつ)きながら一杯やり、いつもより余計に疲れる身体を労(いた)わっていた。
要領が悪い上司を持つと、自分のことでなくても、いつもより余計に疲れる訳である。^^
完