どんなものでもそうだが、作るものがあれば、やはり完成したときの出来映(できば)えが気になるものだ。絵、料理、会社の製品etc. 社会で作られるものには公私を含め、様々なものがある。完成度、すなわちその出来映えを甘く捉えるか、辛く捉えるかにより完成されたものの評価が大きく変わってくる。ただ、これには個人的な評価の違いがあり、Aという人は「いや、アレは素晴らしいっ! 私ゃ、今まであんな作品には出会ったことはないっ!」と高く評価したとしても、Bという人は、「いや、アレは酷(ひど)い。あんな駄作、今まで見たことがないですよっ!」と嘯(うそぶ)くかも知れない。要は、出来映えは、人によって感じ方が違うということになる。^^
幾度となく登場した猿翁寒山(えんおうかんざん)の掛け軸が、とある骨董屋(こっとうや)に掛けられている。
ふと、通りすがりで店に入った旅人が、その掛け軸に気づいた。
「こ、これはっ!! 寒山先生のっ!!」
「えっ! ああ、これですか。売れませんでねぇ~。もう、他の軸に変えようかと思っとったんですよっ。いやぁ~、この紛(まが)い物、酷(ひど)い駄作でしょ!?」
骨董屋の店主は塵払(ちりはら)いの手帚(てぼうき)の動きを止めて、そう言った。
「あ、あんたっ! なんという失礼なことをっ! 人間国宝の…」
「ええ、まあねぇ~。似せて書いてはいますが、贋作(がんさく)ですよっ! 贋作っ! 確かに、出来映えはいいんですがな…」
「な、なんということをっ!! か、買いましょう! 幾らですっ!」
「いいんですか? 贋作ですよ?」
客は、首を縦に幾度となく振った。
「う~ん! そうですか? じゃあ、二千円ばかりも貰(もら)っときましょうかな」
「ええっ! そ、そんな値でよろしいんですかっ?」
「よろしいもなにも…。お高いですかっ? じゃあ、千円で…」
客はすでに財布から二千円を出していた。
「い、いいですっ! こ、これ…」
「さいですかっ? …悪いですなぁ~、そいじゃ!」
店主は二千円を受け取ると、掛け軸を外して梱包(こんぽう)した。客は満足げにその掛け軸を受け取り、店を去った。
その三日後である。骨董屋の奥の間でテレビを観ていた店主が腰を抜かした。
『先日、発見された掛け軸は鑑定の結果、間違いなく人間国宝、猿翁寒山の掛け軸と評価されました。今後、国立博物館に寄贈される見込みです』
画面は、買い求めた客とアナウンサーの姿が映し出されていた。
「…そういや、出来映えは、確かによかったからなぁ~」
店主は悔(くや)しそうに、そうひと言、呟いた。
出来映えがいいものは、やはり甘い他とは違う辛い何かがあるようである。^^
完