水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

甘辛(あまから)ユーモア短編集 (69)模型(もけい)

2021年07月29日 00時00分00秒 | #小説

 若い頃、趣味の一環として模型(もけい)を組立てたものだ。完成させてしまえば、さほどの感慨(かんがい)は湧かなかったが、完成させるまでの過程[プロセス]は非常に楽しかったと記憶している。第三者として見ていると、辛(から)く拘(こだわ)る人は、細部の出来とか完成させるまでは…といった気分で作るものだから、どこか逼迫感(ひっぱくかん)のオーラのようなものが漂う。そこへいくと、甘く拘らない人は、おっ! もう昼か…などと、食べるものを脳裏に描くような軽い場合が多いから、どことなく和(なご)みの雰囲気が現れる。どちらの模型作りが正解か? などという解答はない訳だが、まあ、辛くも甘くも人それぞれ・・とは言える。^^
 とある美術館である。模型展覧会の開催に向け、予(あらかじ)めの賞を決定しておこうと、審査員が作品を見回っている。
「おっ! よく細部まで緻密(ちみつ)にっ!」
「そうですか? 私はこちらの方がいいと思いますが…」
「これですか? どうも見劣(みおと)りがするように思えますが…」
「いやいや、出来はそちらに比べれば不出来ですが、どことなく、和(なご)める雰囲気があります。そうは思われませんか?」
「ああ、そういや、どことなく…」
 金賞は一見(いっけん)、不出来に見える作品に決定した。
 辛く繊細に出来た模型でもダメなものはダメなのである。人は甘く和めるものの方が、いいようです。^^

 
                  完


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