水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

甘辛(あまから)ユーモア短編集 (66)見えないモノ

2021年07月26日 00時00分00秒 | #小説

 見えないモノは見えないから怖(こわ)ぁ~~い。^^ 当たり前だろっ! と言われればそれまでだが、最近、巷(ちまた)を賑(にぎ)わしている新型コロナウイルスもその一つだ。今朝、数年に一度のガスの漏洩検査に二名、来られたが、ガスも見えないから怖い。悪霊も取り憑(つ)かれれば見えないから怖い。放射能だって見えないから当然、怖い。よくよく考えれば、私達は多くの見えないモノに良い、悪い、便利、不便にかかわらず取り囲まれて生活している訳だ。電気、電波etc.他にもいろいろとある。見えないモノに対して辛(から)く捉(とら)えるか、甘(あま)く捉えるかで、私達の生活そのものが変化していくのだから怖ぁ~~~いっ!^^
 とあるマンションである。
「や、喧(やかま)しいなぁ~~!! お隣さんっ!」
 隣の住人が賑やかに好きな音楽曲を聴いている。音楽を聴くのはいいが、蒲鉾(かまぼこ)には好みの音楽曲ではなく、五月蠅(うるさ)くて仕方がない。防音壁でない安い物件を買い求めたのが蒲鉾の運の尽きだった。だが、買い求めた以上、その環境で生活しなければならない。『五月蠅いですよっ!』と足を運んで言おうとは思ったが、それもカドが立つから出来そうにない。音楽という見えないモノに俺はこれから付き合わされるのか…と思うと、蒲鉾は少しづつ気鬱(きうつ)になっていった。
「ははは…だったら、思いきって他のマンションをお探しになったらいかがですっ!?」
 思いきって入った病院の医師に、鬱病の初期ですねっ! と笑顔で言われ、何が面白いんだっ! と思わず怒れた蒲鉾だった。しかし、とてもそんなことは言えず、「はぁ…」と気の抜けたように返すしかなかった。
「私なら、耳栓(みみせん)するくらいで、そんなに気にしませんがね…」
 蒲鉾は、それはアンタだろっ! 俺は五月蠅いんだよっ!! と、また思ったが、当然、それも言えず、黙って首を縦に振りながら頷(うなず)いた。
 その後、蒲鉾がどうしたか? まで私は知らない。ただ、甘い辛いに関係なく、見えないモノは、人の思いようでいろいろな気分へと変化させるのである。^^


                   完


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