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水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

甘辛(あまから)ユーモア短編集 (62)ボケナス

2021年07月22日 00時00分00秒 | #小説

 怒られるときに言われるのが、「このボケナスがっ!」である。このボケナスという言葉を紐解(ひもと)くのも面白い。^^
 ボケナスとは、収穫期が過ぎているのにボケェ~~っと実ったナスのことである。このナスはすでに中に種が出来ていて、外面(そとづら)は食べられそうなナスなのだが、食べると口当たりが悪く、食べようにも食べられない[まあ、腐ってはいないから我慢すれば食べられなくもない程度の]ナスなのである。早い話、不出来なナスだ。甘(あま)く考える人なら、まあ、いいか…と我慢して食べるくらいのナスなのだが、辛い人だと、このボケナスがっ! と捨てられるようなナスな訳だ。半(なか)ばに考える人ならどうか? まで私には分からない。^^
「お前は、どうしてそうなんだっ!」
 朝からご隠居の恭之介が辛口(からくち)で息子の恭一を叱(しか)っている。
「ここは日本だっ! 人は右っ! 車は左だろうがっ!」
「ええ。まあ、そうですが…」
「なにが、そうですが、だっ! 法律で決まっとるんだから、自転車で右を走るなっ! お前は完璧(かんぺき)な犯罪者だっ!!」
「そこまで言わなくても…。たかが10mほどじゃないですかっ!」
「たかが10mとはなんだ、このボケナスがっ! そういう小事から犯罪は生まれるんだっ! 確かに警察に注意されることはあっても、捕まることはないだろう。しかし、だっ! ポイ捨てと同じ理屈で、ダメなものはダメなんだっ! 分かったかっ!!」
「はい、はい…」
「返事は一度っ!!」
「はいっ!! …それはそうと、これ、食べませんか? さっき買ってきたアイスですが…」
 恭一は危(あや)ういと話題を転じた。
「おう! 美味(うま)そうなアイスじゃないかっ!」
「右を走って、どうにかこうにか融(とけ)けずに…」
「なんだ、そうかっ! それを早く言いなさい。そういう緊急避難の場合は、まあいいだろう…」
 話題を転じれば、ボケナスも甘く美味しくなるのである。^^


 ※ 風景シリーズにご登場の湧水家のお二人に特別出演して戴きました。^^

 
                  完


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