水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

甘辛(あまから)ユーモア短編集 (64)越すっ!

2021年07月24日 00時00分00秒 | #小説

 負けまいと先を越したくなるのが人の心情だ。ただ、この越すっ! という感覚には受け取り方に違いがあり、甘(あま)い感覚と辛(から)い感覚がある。越されたか、まあ、いいさ…と冷(さ)めた気分で甘く受け流す人と、チェッ! 越されたかっ! ちきしょう、越してやるっ!! …と辛く興奮する人の大まかな二通りのパターンに分かれる訳だ。私も年を取り、最近は枯れてきたからか、お茶をズズゥ~~と啜(すす)りながら、まあ、いいさ…と、甘く思うようになりつつある。^^
 とある町内運動会たけなわのグラウンドである。チーム対抗のムカデ競争が行われている。
「まっ! 負けるなっ! 追い越せぇ~~っ!!」
 先を追い越されたチームの代表は、最後尾(さいこうび)から興奮気味にチームを叱咤激励(しったげきれい)した。一チームが六名編成のムカデ競争である。足首を細いロープで互いに括(くく)りつけているから、個人的には動きが取れない。チーム代表に、追い越せぇ~~っ!! と言われても、残りの五人としては、そんなこと言われても…気分である。全員、気は急(せ)くが、こればっかりは一人が速度を上げたとしても、どうにもならない。返ってチームのバランスが崩(くず)れ、転倒する危険性もある訳だ。事実、このあと、このチームは転倒して最下位になってしまった。
 辛く越す! と意気込めば、気分では越しても、現実で返って越される・・という皮肉な結果になりますから、皆さん、注意しましょう、というお話です。心と身体は違う訳ですから…。^^


                   完


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