水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

甘辛(あまから)ユーモア短編集 (61)濃(こ)さ

2021年07月21日 00時00分00秒 | #小説

 甘辛(あまから)に関係なく、食べ物は濃(こ)さが一定限度を越えれば美味(おい)しくなくなる。要は、諄(くど)くなる・・ということだ。これは何も食べ物に限ったことではない。美人でもイケメンでも、濃さが越えれば、『チェッ! 美人づらしてっ!』とか、『格好つけ過ぎよっ!』などと敬遠される訳だ。(16)で書いた味(あじ)と同じ内容だが、ここでは別の視点で見てみたい。勝手にしたら…などと思われる方もあるだろうが、そこはそれ、美味しいスキ焼などをご賞味して戴いてお許しを願いたい。^^
 とある町役場である。この朝も平(ひら)職員の平林(ひらばやし)は課長の出世(でよ)からお小言(こごと)を頂戴している。
「ったくっ! 君は何度言ったら分かるんだねっ! 来週は月例の出納検査だよっ!」
「はあ、確かに例月の出納検査です。済みません…」
「馬鹿っ! 月例の出納検査だっ!」
「はあ…」
 平林は月例でも例月でも同じだろっ! とは思ったが、そうとも言えず、ペコリ! と頭を下げて謝(あやま)った。
「監査委員の志美亜(しびあ)さんは予算には濃い人なんだから、そこんとこ、よく考えてくれないとな…」
 出世が言うには、配当予算の使途にあった。
「はいっ! 次回から薄く出します…」
「もう、いいからっ! 支出したものは今更(いまさら)、元に戻せないんだからっ!」
 平林は、諄いなっ! 当たり前だろ…と、また思ったが、とても言えず、またペコリ! と頭を下げた。
 支出は濃く盛り過ぎればダメなのか? といえば、実はそうでもなく、薄(うす)く盛り過ぎてもダメなのである。この加減が難しいところで、財務省の方々は、コロコロ変わる補正予算の甘辛査定の濃さに、さぞお困りのことだろう。ご苦労をお察しする。^^

 
                  完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (60)判断

2021年07月20日 00時00分00秒 | #小説

 人生に瞬間的な判断は欠かせない。将棋や囲碁の棋士のようにジィ~っと考えているゆとり時間はない訳である。甘(あま)い小さな判断ミスはいいとしても、その後を左右するような大局的な辛(から)い判断は間違えることが出来ない。判断ミスは許されない世知辛い世の中なのだ。^^
 一人の男が、とある金融機関の本店に入ってきた。いつもは現金自動支払機[ATM]を利用するのだが、この日は定期預金の預け替え・・という面倒な手続きに、面倒だなぁ~~と半分、嫌気(いやけ)を覚えながら訪れたのだった。要は、仕方なしに…ということだ。よくよく考えれば、預け替えが嫌なら預金しなければいい訳である。^^
 生憎(あいにく)その日は混んでいて、番号札のボタンを押すと36番だった。電光掲示板は21である。
「チェッ! 21かっ! 36-21=15 …チェッ! 15人も待つのか…」
 嫌になった男は支店へ行こう…と、瞬間、判断した。支店なら15人も待たされないだろう…という判断である。
 支店である。本店から支店へ向かった男が入ってきた。店内の人は幸いにも少なく、5人程度である。男は番号札のボタンを押した。すると、どういう訳か番号が41ではないか。男は目の錯覚かとシゲシゲと番号札の紙を見た。だが、やはり番号は41だった。
「そんな馬鹿なっ!」
 男がそう呟(つぶや)いたときだった、
『13番の番号札のお客様、2番窓口へお越し下さい』
 店内アナウンスが静かに流れた。すると、どうだろう。待っていたかのように、どこからかスゥ~~っと13番の客が窓口へ進んでいくではないか。
「そんな馬鹿なっ!!」
 辛い判断をしたとしても、結果が甘くなることもあるのである。^^

 
                  完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (59)予想

2021年07月19日 00時00分00秒 | #小説

 予想が甘(あま)いと残念な結果となる。かといって、予想が辛(から)いといい結果になるか? と問えば、必ずしもそうならない・・というのが事実である。それなら予想などせず、なるがままに…という生き方もあるが、それも現実は許さないのだ。そんなことをすれば、社会から爪弾(つまはじ)きにされ、ホームレスのような惨(みじ)めな生き方をしなくてはならない。では、どうすれば? ということになるが、ピンポイント予想というのが正解だろう。ピンポイントというのは、飽くまでも重要なポイントだけということだが、まあ、甘く見るか辛く見るかの線引きはあなたにお任せする以外にはない。^^
 とある競馬場である。
「あの馬は見るからに勝てそうじゃないよ」
「あの馬というと、ノ-ウインですか?」
「そうそう。なにせノ-ウインだからね」
「ノ-ウインだと勝てない? 僕には、その予想、よく分からないです」
「ウインがノーなんだから」
「ウインがノーだとダメなんですか?」
「ああ、ダメダメ! イエスじゃないとっ!」
「そうなんですか? 僕、買っちゃいましたっ!」
「なんだ、そうだったの? もう少し、早く言やよかったな」
「はあ、ありがとうございます…」
 レース後である。
「万馬券ですねっ!」
「ああ。まあ、そういうこともあるさっ…」
 ノーウインは大方(おおかた)の予想を覆(くつがえ)し勝ったのだった。
 予想は、飽くまでも予想で、必ずそうなるというものではない・・という、ただそれだけのお話である。^^

 
                  完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (58)病気

2021年07月18日 00時00分00秒 | #小説

 お医者さんに、「甘いものはダメですよっ!」とか、「塩辛いものはダメですよっ!」と言われたことはないだろうか?^^ まあ、『フンッ! 大きなお世話だっ!』とお思いの方は論外だが、フツゥ~~の人々は、「はあ、分かりました…」と素直に聞いて従うことだろう。データというものが現実味を帯びていなかった昭和3、40年代では数値的な判断機器がまだ充実していなかったから、症状重視の曖昧(あいまい)な判断に終始していた。数値による評価は正確で、病気予防の上で大きな部分を占めるが、反面、そこまで…と思える面もなくはない。^^
 とある病院である。診察室で患者が医師の診察を受けている。
「先生! 大丈夫でしょうかっ! か、かなりモノ忘れが激しいんですが…」
 患者が心配そうに辛(から)く言った。
「そう、お気になさらない方がいいと思いますよっ! 検査結果では、脳の萎縮や異常はまったく認められませんから…」
 脳神経外科の医師は眠そうに甘(あま)く返した。実はこの医師、最近、睡眠症だったのである。
 辛い患者は健康で甘い医師が病気というケースもあることはあるのである^^ ━ 医者の不養生 ━ と言われているが、先生方、ご注意をっ!^^


                   完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (57)妥協(だきょう)

2021年07月17日 00時00分00秒 | #小説

 人の世では全(すべ)てにおいて多かれ少なかれ妥協(だきょう)が求められる。それは個人であろうと国家であろうと、全(まった)く同じである。誰だって思い通りにコトを進めたいに違いない。しかし、相手があればその相手の言い分も聞かねばならない。少し自分が凹(へこ)んだとしても、それはそれで仕方がない…と譲(ゆず)る必要に迫られる訳だ。それが妥協である。対象となるコトに対し、甘(あま)く出るか、あるいは辛(から)く出るかの態度の差により、結果も大きく変化する。個人の間なら多くの機会があるからまだいいが、国家間ともなれば、交渉を辛く出たことにより、一度(ひとたび)関係を拗(こじ)らせれば、これはもう修復が容易でなくなり、大問題となる。かといって甘く出過ぎれば、自国の不利益となり、これもそう簡単には変えられないから大問題である。妥協の程度を探るのは非常に難しい訳だ。学生諸君が小遣いの額を、まあ、いいか…と親に対して妥協するのとは大違いの話だ。^^
 A国とB国が交渉の席についている。双方ともに十数人づつが対峙(たいじ)し、中央には両国の国旗がクロスする形で立ち、友好関係を象(かたど)っている。
「#$◎%&’%&’’”%%&」
『お土産をつけましょう、と申されております』
「お土産ねぇ…。それは甘(あま)いですか、辛(から)いですか?」
『#$◎%&’…。$◎$&%$●#$%&’# ?』
「%◇&$$’#”$ #$#%#$&&’」
『それは、あなた方の好みですから、私どもには分かりません、と申されております』
「分かりませんか…。美味(おい)しいことを祈っております」
『#$#%#$&$%’(%〇…。◇%&%’(%#$#$%&』
「””#$%$$%く●◎ ”$%%#’’」
『私どもも、美味しく召し上がられることを祈っております、と申されております』
「いや、どうも…」
『”#$”…』
「”#$”」
 両国の代表は起立し、笑顔で握手した。双方の出席者から割れんばかりの拍手が起こった。
 妥協とは甘くも辛くもない微妙な味なのである。^^

 
                  完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (56)謎(なぞ)

2021年07月16日 00時00分00秒 | #小説

 推理サスペンスのドラマなんかをテレビで観ていると、謎(なぞ)が謎を呼ぶシーンが映る。観ている視聴者はテレビに釘付(くぎづ)けされ、ド壺(つぽ)に嵌(はま)ることになる訳だ。^^ これは視聴者がそのドラマを辛(から)い目で観ているときに起こる現象なのである。フフフ…そう来たかっ! などと冷(さ)めた目で甘(あま)く観ている視聴者は、決してド壺に嵌ることなく、軽い気分でテレビを離れて入浴できる訳だ。あとで観よう…などと、ビデオに録(と)る[V録する]視聴者もいようが、ド壺に嵌っていることに変わりはない。ビデオに録る・・という馬鹿な一(ひと)手間をかけているからだ。推理サスペンスのドラマは謎を呼ぶ前に甘く観た方が無難・・という結論に至る。^^
 とある映画館である。流行(はや)りのサスペンス映画が、いよいよ佳境(かきょう)のクライマックスへさしかかろうとしている。
『フフフ…知らなかったのか』
『ま、まさかお前がっ!』
『そうよっ! 俺が犯人を知っているのよっ!』
『えっ!? あんた、犯人じゃないの?』
『フフフ…俺が犯人な訳、ねえだろっ!』
『なんだっ!』
 すると誰が犯人なんだろう…と、映画を観る観客は釘付けになる。まあ、そんな甘い筋書きの映画はないが…。^^ そんな中で、一人の観客、鳥目(とりめ)は、そんなこたぁ~最初から分かっていたぜ…とばかり、席を離れ、場外へと消える。映画館街の美味(うま)いラーメンを食べたくなったためである。鳥目にとって犯人が誰か? など、どぉ~~でもよかったのだ。^^ 鳥目には謎が呼ばなかった・・という、ただそれだけの辛くない甘いお話である。
 謎が呼ばない前に、甘く去るのが人の世を生きるコツといえるだろう。^^


                   完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (55)嗜(たしな)み

2021年07月15日 00時00分00秒 | #小説

 嗜(たしな)みとは社会常識を備えた佇(たたず)まいである。個人的だと、ほう! あの人は嗜みがいいなっ! とか蔭(かげ)で言うことになる。嗜みを辛(から)く考えるか、甘(あま)く考えるかはその人次第だが、辛く考える人は気苦労が多く、心が繊細な人が多いようだ。逆に甘い人は、のんびり屋で大らかな性格の人が多い・・と統計的には考えられる。私は? ははは…まあフツゥ~~だと思っている。^^
 とある普通家庭の日常である。主婦が買い物に出ようと支度(したく)をしている。
「どの服がいいかしらっ!?」
「なんだっていいだろっ! 早く買ってきてくれよっ! ビールと摘(つ)まみっ!」
「もうっ! 主婦は嗜みが大事なんだからっ!」
「君の嗜みはいいからさっ! 俺への嗜みをしっかり頼むっ!」
「もうっ!」
 主婦は主人に愚痴られ、追われるように家をあとにした。
 嗜みを忘れさせるには愚痴ることに尽きるようだ。^^


                   完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (54)真心(まごころ)

2021年07月14日 00時00分00秒 | #小説

 真心(まごころ)は、甘(あま)いとか辛(から)いとかいった次元で判断されるものではない。その人自身の気持が現れた[具現化された]ものだからだ。他人がとやかく言う性質のものではなく、感じるものなのである。その人の行為がジィ~~ンと心に突き刺されば、その突き刺さる気持そのものが真心と言えるだろう。最近の世界の動向は? と見れば、なんと上辺(うわべ)だけのパフォーマンスが多いことか…とガックリさせられることだらけだ。要は、自身を良く見せたい顕示欲(けんじよく)を持った人が多いということに他ならない。私は? と自(みずか)らに問えば、真心のある不言実行の行為に努めてはいるが、忘れていたっ! 間違った! とかで、まだまだ…の日々だ。^^
 とある市役所の部長室である。朝からブツブツと部長の設楽(しだら)が商工観光課の課長、柵(しがらみ)に辛口の苦言(くげん)を呈(てい)している。
「ったくっ! それじゃ住民の慰安にならんじゃないかっ!」
「そう申されましても、なにせ雪洞(ぼんぼり)の数が不足しておりますもので…」
「ったくっ! それを何とかするのが君の仕事じゃないかっ! 暗闇の夜桜は見えんだろうがっ!」
 設楽は、ったくっ!  を繰り返した。
「はあ、確かに…。桜祭りまでには何とかしてみせますっ! 」
「ったくっ! 頼んだよっ! こう言うの、これで何度目だっ!」
「はあ…おそらく八回ばかりかと…」
「そういうことは覚えとるんだから、君はっ! 真心だよ、真心! 真心がありゃ、なんだって出来るんだからっ!」
「はいっ! 真心でやってみますっ!」
 柵は分かったような声で甘く返した。実のところ、全然、分かっていなかったのだが…。^^
 真心は、言うことでそう簡単に備わるものではないようである。^^


                   完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (53)政策

2021年07月13日 00時00分00秒 | #小説

 政策を甘(あま)くいい加減に実行するか、辛(から)く確実に実行するかは、政策を実施する立場にある組織の真摯(しんし)な取り組みにかかっている。マンネリ化すれば、甘くなるのは当然で、いいこと言ってるな…と聞こえても、少しもよくならない訳だ。今の…。^^
 とある電気も通っていない人里離れた山村の寄り合いである。
「今どき、それはねぇ~だろがっ! スマホの時代だがっ!」
「馬鹿こけっ! スマホの時代だとっ!? …スマホってなんだっ!?」
「ははは…スマホはスマホだがや。なんでも、いない者(もん)と話ができるそうだっ!」
「ほう! そりゃ便利だがっ!」
「携帯とか、うらの息子が言っとった!」
「一台、買うかのう!」
「買うても、ここでは無理だのうっ!」
「電波とか言うとったのうっ! やってもらえん国の政策に、よう似とるっ!」
「山崩れする土地に、よう家ば、建てられると思わんかっ! じゃが、それもありかっ!?」
「そげよっ! どんどん建っとるんじゃからのうっ!」
「まあのう…。じゃけん、大雨で積み木崩しだがや…」
「政策は辛ういかんとな…。マンネリですぐ甘うなりよるっ!」
 寄り合いは、肝心の村の政策を決めないまま、愚痴ばかり出し合って終了した。^^

 
                  完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (52)感染

2021年07月12日 00時00分00秒 | #小説

 今や世界を席巻(せっけん)している新型ウイルスの感染を終息できるか? が世界の喫緊(きっきん)の課題となっている。目に見えないウイルスに対する見方として、甘(あま)く捉(とら)えるか? あるいは辛(から)く捉えるか? によって、以降の結果に大きな差異を生じる訳だ。この問題は笑いごとではないだろう。^^→--
 とある対策会議である。
「延期になったオリンピックですよっ! こんな甘い対策でいいんですかっ!?」
 委員の一人、猪豚(いのぶた)が脂(あぶら)っこい顔で理屈っぽく言った。
「わ、私に言われても…」
 委員長の鋤焼(すきやき)は思わず口籠(くちごも)り、小声で呟(つぶや)いた。
「い、いや…。何も不満を言ってる訳ではないんですよっ! もう少し辛く考えた方がいいんでは? と思える訳です」
「それは私もそう思いますねっ!」
 別の委員、茸松(たけまつ)が猪豚の具になったような声で猪豚を援護[フォロー]した。
「猪豚さん、あなたは別の鍋でしょ!?」
 また別の委員、白滝(しらたき)が不満を言った。
「そ、そんな…」
 猪豚は思わず口籠った。
「まっ、いいじゃないですかっ! 食べられない訳じゃないんですからっ!」
 委員長の鋤焼が猪豚を援護[フォロー]した。
 会議はいつの間にか美味(おい)しそうな話へと変化していった。
 感染の主役であるコロナウイルスが、馬鹿馬鹿しい…とばかりに、欠伸(あくび)をして嗤(わら)った。

 
                  完


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