アジアインフラ銀行への注目を逆手に、積極的「繁栄」主義を目指そう![HRPニュースファイル1325]
http://hrp-newsfile.jp/2015/2127/
文/HS政経塾部長 兼 幸福実現党事務局部長 幸福実現党東京都第9選挙区支部長 吉井としみつ
◆各国から熱い視線が注がれる、ある国際金融機関
アジアインフラ投資銀行(AIIB)という国際金融機関に注目が集まっています。
中国が主導して2015年内の設立を目指しており、アジア諸国の鉄道・道路・発電所などのインフラ整備の資金提供を主な目的としています。
3月31日時点で、51カ国・地域が参加申請をしており、日本側の予想を上回る活況を見せています。
ちなみに、インフラ整備の資金提供を主な目的とする国際金融機関は、既に存在しており、日米が主導しているアジア開発銀行(ADB)には67の国と地域が参加しています。
日米が主導するアジア開発銀行は、融資枠を現状の1.5倍に広げて、2017年に200億ドル(約2.4兆円)へと拡大する計画もありますが、アジア各国のインフラ需要は、毎年7000億ドル(約84兆円)超という試算もあり、現状ではインフラ投資への資金が大きく不足しています(4/1毎日)。
アジアにおけるインフラ投資への資金不足を解消するという点で、中国主導のアジアインフラ投資銀行への期待が高まっているのです。
◆当面の判断の節目となる6月
今後の議論の行方として、アジアインフラ銀行の出資期限となる6月末までに、日本として参加するか否か判断することになり、今後の議論の深まりが注目されます。
<アジアインフラ銀行の主な日程>
・2013年10月:習近平国家主席が設立を提唱
・2014年10月:中国や東南アジアなど21カ国が設立合意
・2015年
-3月31日:創設メンバーとなるための参加申請期限
-4月15日前後:創設メンバーの確定
-6月末:出資期限、参加国の出資比率等の決定
-12月末までに:運営開始を目指す。
(4/2日経、4/1毎日を参照)
◆変化しつつある日米のスタンス
日本としては、アジアインフラ投資銀行に対して、運営体制・融資基準・既存の国際機関との関係が曖昧であり、相手国の債務返済能力を超えた融資をしてしまう可能性や、環境破壊を招きかねないという点で、慎重な姿勢をとっていました。
しかし、アジアのインフラ需要を取り込むチャンスを逃すべきではないという産業界からの根強い意見もあり、将来的な参加の可能性もあります。
また、アメリカのルー財務長官は、アジアインフラ銀行が、既存の金融機関を補完するものであれば「歓迎する」というスタンスを示しています(4/2産経)。
◆中国との経済的結びつきに伴う恩恵への期待
当初、日本政府はアジアインフラ投資銀行に参加する国は限定的だと見ており、「G7諸国からの参加はない」旨の報告が、財務省から首相官邸に入っていました。(4/1日経)
しかし、3月12日のイギリスの参加表明を皮切りに、ドイツ、フランス、イタリアといったG7諸国も、参加を表明しました。各国とも、停滞する世界経済の中で、経済面で中国との関係を強めることで生じる恩恵への期待が垣間見えます。
イギリスでは、外務省側はアメリカとの関係悪化を懸念して、アジアインフラ銀行への参加に反対していたようですが、オズボーン財務相が経済的な利益を重視するべきとして、参加を決断しました(March 26, Financial Times, “Sound and fury over UK’s AIIB membership signifies very little”)。
◆日本に求められる構想力
日本の判断にかかわらず、中国主導のアジアインフラ投資銀行への各国の期待は高まることが予想されます。
インフラの受注競争の遅れを取らないために、アジアインフラ投資銀行に参加するという商業面のみの判断ではなく、日本がアジアや世界に対していかなる貢献ができるのかという構想の下に、進むべき道を決めるべきではないでしょうか。
ここで、日本側の対応として、以下2つの提案をします。
1)アジア開発銀行の融資基準を見直す
日米主導のアジア開発銀行は、「融資基準が厳しすぎる」とASEANから不満が出ていたことが、中国主導のアジアインフラ投資銀行への期待が高まった遠因ともなっているので、アジア開発銀行の役割を再定義する中で、融資基準の緩和について検討するべきです。
2)TPP交渉への追い風とする
中国のアジアインフラ投資銀行の構想は、環太平洋経済連携協定(TPP)への対抗という側面もあります。TPP交渉は大詰めを迎えつつあるので、締結に向けての材料として、アメリカに働きかけるべきです。
世界的な低金利の中、マネーは魅力的な投資先を求めています。リニアモーターカーの建設など、インフラ投資の質を高める方向で、日本ならではの提案も必要でしょう。
積極的平和と共に、アジアや世界に対する「積極的繁栄」のために、日本がなすべきことを構想することが求められています。中国主導のアジアインフラ投資銀行の動向に左右されるのではなく、日本にしか通れない道を、堂々と進むべきです。
アベノミクスは「なかったこと」になる
http://the-liberty.com/article.php?item_id=9385
そもそもアベノミクスは、
- 経済に資金を供給する「金融緩和」(第一の矢)
- 政府が公共事業を増やす「財政出動」(第二の矢)
- 新たな事業を生むための「成長戦略」(第三の矢)
を組み合わせることで資金を循環させ、景気回復、経済成長を目指す政策だった。
しかし、昨年4月に始まった8%への消費増税が資金循環を断ち切った。以来、総務省が発表する国民の消費支出は10カ月連続で減少している(2月27日時点)。
そのような状況で、企業が新事業に踏み出せるはずがない。そこに資金を供給しても、使い道のない企業は借りない。「金融緩和」(第一の矢)は空振りとなるだろう。
「財政出動」(第二の矢)も中途半端に終わりつつある。2014年度の補正予算は3・5兆円と昨年より少なく、公共事業も減った。
「成長戦略」(第三の矢)はといえば、「岩盤規制」に阻まれ不発に終わろうとしている。
かくしてアベノミクスは「なかったこと」になりつつある。
ここに10%への増税が待ち受ける。日本経済は、安倍政権誕生前よりもひどいデフレスパイラルに逆戻りする可能性が高い。
では、もし安倍政権がデフレを防ぐため、日銀に金融緩和を続けさせればどうなるか。
本誌はこれまで、「金融緩和がハイパーインフレにつながる」という意見に反対してきた。「お金を刷っても、使い道(資金需要)があれば、紙くずにはならない」からだ。しかし今、その資金需要が増える見込みはない。
金融緩和は、日銀が民間銀行から国債を買い入れることによって行われている。効果のない買い入れをいつまでも続ければ、国債価格の下落や、円の価値下落によるインフレで、経済を混乱させる可能性もある。
袋小路に陥ったアベノミクスを復活させるには、まず消費税増税を止めて、減税するしかない。
「アジアインフラ投資銀行」って何?【リバ犬×そもそモグラ博士のそもそも解説】
http://the-liberty.com/article.php?item_id=9388
ニュースの良い悪いは何となく"嗅ぎ分ける"ものの、政治経済の難しい話は苦手な「リバ犬」(本誌の新キャラクター)。そんな彼に「そもそモグラ博士」は、いつも少し"掘った"ニュース解説をしてくれる。今日は何を教えてくれるのか。
◆ ◆ ◆
そもそモグラ博士(以降、博士): 今週、世間をにぎわせたニュースに、「中国主導の『アジアインフラ投資銀行』にイギリス、フランス、ドイツが参加を決めた」というものがある。リバ犬くんはチェックしているかい?
リバ犬: テレビのニュースで、見たような、見なかったような……。
でも、「中国主導の何かに、ヨーロッパの国が参加する」っていうなら、危ない"匂い"がするね。「中国が世界で影響力を大きくしている」っているイメージだから。
アジアの途上国に投資する国際機関
博士: この「アジアインフラ投資銀行」の中身をひと言で言うとこうなる。 中国が「みんなでお金を集めて、アジアの発展途上国に貸して、道路などのインフラを造ってあげよう! 一緒にやりたい国は、この指とまれ」と呼びかけている。
リバ犬: みんなでお金を集める……?
博士: 「各国がお金を出し合って途上国を助ける」というたぐいの銀行は、昔からあった。日本も戦後に復興するときは、アメリカ主導の「世界銀行」というところからお金を借りて、発電所、製鉄所、自動車工場、東海道新幹線なんかを造った。
今、アジアでは、日本とアメリカが主導する「アジア開発銀行」というところが有名だ。
中国が投資額の50%を出す
博士: その「中国主導版」を新しく作ろうと、2013年の10月に中国の習近平国家主席が打ち出したのが、「アジアインフラ投資銀行」なんだ。中国はその投資額の50%を出すと言っている。
そこに最初は、インド、タイ、ベトナムなどの途上国が参加を表明していた。でも今回ニュースになっているのは、そこにイギリスやフランスといった大国がぞろぞろ集まってきたこと。それで日本政府内に、「日本も入るべきだ」という声が出ている。
リバ犬: たしかにアジアの途上国には道路とか、発電所とか、インフラが必要だよね。そこに投資するのはいいことのようにも見えるけど……。
博士: 何か違和感があるよね。リバ犬くんの「中国が影響力を増す」という"嗅ぎ"は正しいんだ。じゃあ、どう危ないか、少し"掘って"みよう。
リバ犬: ワン!
もしヤクザが相互扶助団体をつくったら?
博士: 少し乱暴だが、「アジア地域の覇権を握ろうとしている」ことで有名な中国を、「近所で縄張りを広げようとする」ヤクザに例えてみよう。
ヤクザが、「貧乏で困ってる人を助けよう」と相互扶助団体を立ち上げて、近所の人たちに出資を募ったとする。ヤクザが50万円出して、残り半分が地域の人たち5人が10万円ずつ出して、全部で100万円になった。
では具体的にその100万円で、誰を助けるのか?
そもそも、投資先を誰は決めるのか?
リバ犬: 一番たくさんお金出しているヤクザが決めるんじゃない?
博士: そうだね。もちろん、他の出資者が何も言えないわけじゃない。でも、あまり発言権は無いだろうね。
リバ犬: そうなるとヤクザは、皆が出した100万円を、事実上、好きなように投資できるってこと?
博士: その通り。では、その資金でヤクザは誰を助けるか。
恩を売って言うことを聞かせる
博士: 例えば、近所で「配下にしたい人」を助けるかもしれないね。恩を売ることで、いざという時は言うことを聞くようにさせる。「俺が悪いことしているのを見ても、警察に言うなよ」みたいな圧力をかけられる。地域で勢力を拡大するためにね。
リバ犬: なるほど。本当にお金で困っている人は借りちゃうよね。
博士: これが、「アジアインフラ投資銀行」における中国の思惑だと言われているんだ。
この銀行の本部は北京に置かれて、総裁は中国人になる予定。しかも、「本当に公正な融資が行われているか」を外からチェックする仕組みが充分じゃないと、アメリカなどから批判されている。
リバ犬: 中国が好き勝手に投資先を決められるようになるかもしれない、ってこと?
博士: その通り。これで、領土問題で争っているベトナムやフィリピンにお金を貸せば、譲歩させられるかもしれない。他にも、アメリカや日本の味方にならないように圧力をかけることもできる。「港への投資」などといって、中国海軍の寄航港を整備するかもしれない。
また、道路や発電所を中国企業に受注させれば、中国人の雇用先にもできる。参加国のイギリス企業に受注させれば、イギリスに恩を売ることもできる。
他にも、中国はドルや円ではなく、「人民元」で貸す。そうすると、貸された側は、色々なところで人民元を使わざるを得なくなる。人民元を使う地域が広がれば、ドルのような「基軸通貨」になるかもしれない。アメリカはドルを刷ることで軍事費に宛てたりしている。中国もそれができるようになる可能性があるということだ。
とにかくこの話、中国の覇権拡大にとって、メリットだらけなんだ。
正義より経済を選ぶ各国
リバ犬: 後半難しかったけど、危なさはなんとなくわかった。でもなんで各国の政治家は、そんな危ない事業に参加しちゃうの?
博士: もちろん「危ない」という声も参加国の国内にはあるだろう。実際にアメリカは各国に、「参加しないように」と呼びかけている。それでも参加を決めた理由は、やっぱり自国の経済にとって得だからだ。
途上国諸国は、参加することで投資してもらえる。ヨーロッパの国々も、「アジアで自国企業が活躍できるビジネスチャンスが増える」と思うわけだ。それに、もし仲間はずれになったらアジアで仕事ができなくなる、とも思う。今はどの国の経済も苦しいからね。
リバ犬: う~ん、経済が苦しいと、正しい選択ができなくなっちゃうんだね。
博士: その通り。だから経済発展はとても大切だよ。日本ももっと経済発展して、中国に経済的弱みに付け込まれそうになっている国を助けられるようにならないといけない。何よりも、「自由の無い中国の拡大は危ない」という思想を広げて、中国になびく各国の目を覚まさないといけないね。
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