夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

日本独自のコロナ危機 ワクチン不足の原因② 国が「自治体に、ただばら撒いただけから」

2021-07-19 10:17:43 | 政治
 
 7月13日のNHKは「厚労省は(ファイザー製ワクチンの)8月前半の供給量を示し、大阪市や名古屋市など一定量の在庫があると見なした自治体については、人口に応じて配分する『基本計画枠』を今回から1割減らし」たと報道した。これ以前にも、7月以降は、自治体の希望数量より大幅に減らされた供給量が提示されている。要するに、 「厚労省は、全国にはワクチンの在庫が一定量あるはず (NHK同日)」と見ており、だから、国からの供給量を減らしても、不足することはないと言うのである。
 しかし自治体側は、全国知事会でも「ワクチン供給が急減しているので、迅速に改善すること」、「希望量のワクチンを必要な時期に確実に供給すること」を近く国に要請するという(複数報道)。これは、実際に自治体で予約の取り消し、集団接種の中止などに追い込まれている実情があり、仮に、厚労省の言うとおり、どこかで余っているところがあるとしても、不足している現場が多数あるのが事実なのだから、自治体の要求は当然だ。
 結局のところ、国とっては、大量のワクチンがどこに行ったか分からないということである。最近のアメリカでは余り気味、春頃のEU諸国では供給総量が不足が深刻だった。そして当然のことだが、世界全体ではワクチンは不足している。その中で、あるはずのワクチンがない、などというのがニュースになるのは、世界中で日本だけだろう。
 
 7月12日、加藤勝信官房長官は、記者会見で「6月末までに、輸入した1億回分の内、自治体には8,800万回分を供給し、接種実績は4,800万回で、差引4,000万回分が自治体や医療機関がお持ちになっている」はずだと言った。それまで、政府は供給実績を正確に公表せず、メディア情報では輸入した1億回分はそのまま供給されていると見られていたのだが、実際には8,800万回分だと明らかにした。6月末の段階で、その供給量の55%しか接種されておらず、45%は自治体側に残っている。だから、7月以降は、自治体側の希望数量より減らしても問題ないはずだ、と言うのである。
 本当のところは、はどうなっているのだろうか?

 朝日新聞は7月13日、自治体は「在庫なんてない」、「国の説明は実態と乖離している」と訴えていると書いている。
 この記事の中では、神戸市の例をあげている。国からの供給量は95万回分分で、接種券の読み取りを伴うVRS(ワクチン接種記録システム)の接種済み入力は68万回だが、それとは別に、市独自の集計方法では72万回で、2回目用に23万回分が確保してあるのだという。合計は95万回分で、単なる在庫として残っているものはない、という意味だ。
 どうやら、これが多くの自治体で起きていることだと思われる。
 そもそも、接種済みの入力は、国の要請ではVRSの他に「医療従事者等」や「高齢者施設等従事者」等は、V-SYS(ワクチン接種円滑化システム )にも入力することになっている。それが入力業務を複雑化しており、さらに、朝日新聞記事であるように、多くの自治体で独自集計も行っているので、本当の接種実績が見えづらくなっているのである。
 国は、VRSだけの実績で接種済み分を把握していたが、それは実際より少なく、さらに、各自治体では、1回目の予約分や2回目分を確保していたが、それを国は在庫と見做したということである。
 国が把握しているのは、各自治体の供給実績とVRSの接種実績だけである。その差から、十分ある、不足していると判断しているのだが、接種拡充に沿って、今後のきちんとした計画を立て、適正にワクチンを確保していた自治体も在庫が十分あると判断しているのである。
 しかしそれでも、それらを足し合わせたとしても、不明の解消にはならない。各自治体は、ワクチン供給にVRSの接種実績が加味されていることを知った7月に入ってから、VRSの入力を確実にするようになったので、実態に近い数字がVRSに入力されいると考えられるからだ。7月5日、12日の週で、11,000箱1,072万回分が供給されているからである。7月15日現在で、官邸による接種実績は累計6,670万回(モデルナも含む)で、自治体への供給量9,800万回、その差は3,000万回分以上になる。これは接種実績の方はモデルナも含んでいるので、ファイザーのみの自治体接種では、今までの接種合計の半分、少なくとも1月分以上になる。
 もし、自治体側が平均的に数週間程度先の接種量を確保していたとすると、ほぼ不足することにはならない。だが、実際には報道にあるように、7月後半の予約を多くの自治体・医療機関がキャンセルせざるを得ない状況に追い込まれている。何が起きているかと言えば、自治体への過大な供給偏りがあるということしか考えられない。今後の供給不足を懸念して、自治体よって在庫に余裕があったとしても公表することはない。
 首相官邸主導で、ワクチンをばら撒いた
 政府は、菅首相が、7月になって「先進国の中でも最も速い」とワクチン接種実績を自画自賛したように、支持率を上げるために自治体側に接種回数を増やせと半ば強制した。そこで自治体側は、能力をフル動員して接種回数を増やしたのである。そして、政府はその能力を過少評価していたのである。
 ワクチンの専門家である川崎医科大中野貴司教授は「短期間で一斉に接種しようとする場合、計算上の対象人数を上回る十分なワクチンを確保し、綿密な接種計画に基づいて供給するのが通常のオペレーションだ(朝日新聞7月18日)」と言う。これが、まとも政府のやることである。しかし、菅政権は官邸が司令を出す形で、接種の「対象人員」も想定せず、「綿密な接種計画」も策定せず、やみくもに接種実績だけを求めたのである。政府は各自治体の「対象人員」や「綿密な接種計画」や予定などは一切問い合わせていない。ただ希望数量だけを聴いただけである。その結果、自治体個々の必要な供給量も一切考慮せず、ただ各自治体にばら撒くように、供給したのである。
 そもそも、VRSを作成したのは、厚労省ではなく、内閣官房 IT 総合戦略室、つまり首相官邸である。官邸というワクチン接種の素人集団が厚労省を指導し、無理やり接種実績数だけを上げるために自治体に接種を拡充させ、後先考えずにワクチンをばら撒いたのである。上記の中野貴司教授の「首相官邸主導でやるんだという感じで、専門家に相談することも乏しかった」という言葉もそれを裏付けている。

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