夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

「戦争狂の殺人鬼と化したプーチン(4) 世界は右傾化するのか?」

2022-03-13 11:25:07 | 社会
 
ウクライナ軍のMig29戦闘機

 「左派を変えたウクライナ戦争」
 読売新聞が、3月10日(電子版)伊藤俊行編集委員の書いた興味深い記事を載せている。「左派を変えたウクライナ戦争…ドイツ、米国、日本」というものである。
 要約すると、ロシアのの侵略により、以下のような変化があったという。
1.ドイツ「ショルツ政権の転換」
 中道左派のショルツ政権は、ロシアからの天然ガス、ノルドストリーム2を凍結し、エネルギー不足のため、脱原発も再考し始めた。また、GDP2%以内という軍事費制限も撤廃、アメリカとの「核共有」も堅持する姿勢を見せるなど、今までの、軍事力の抑制政策から転換を決めた。
2.アメリカ「急進左派の影響力からの脱出」
 バイデン政権は、対ロシア強硬路線が共和党からの支持があるので、政権維持のために民主党左派の意見を取り入れてきた、その必要性がなくなり、本来の中道(右派)路線に戻り始めた。
3.日本「リベラル左派」「(安全保障政策の)態度は、変わりつつある 」
 日本のリベラル左派(主に、立憲を指すと思われる)も、対ロ制裁には異論はなく、中国の軍事侵攻を念頭に置く「台湾有事」の議論に抵抗がなくなった。
 これらの指摘は、多くのメディアも断片的に伝えていることで、事実としては正しいだろう。要するに、この3か国の一定の勢力を持つ中道左派の姿勢が、よりタカ派的に、つまり右派寄りになったということである。
 中道左派だけでなく、全体が右傾化する要素が、軍事的なこと以外にもある。ロシアは、特に希少金属などの資源大国だが、その供給が停止する。それは、ロシアと並んで中国も西側の警戒感があるので、いわゆるサプライチェーンの見直しを含めた、経済安保にも拍車がかかる。より自国ファーストと、同じく資源大国であるアメリカとの結びつきを強化する方向性は強まる。これは右派がかねがね主張してきたことであり、一言で言えば、西側全体の政治的姿勢が右傾化につながって行くのである。
 日本では、参院選への影響は大きい。立憲と共産党、社民、れいわは票を減らさずを得ないだろう。改憲への道は、さらにまた、広がってしまうのである。
 
「NATOの拡大は冷戦終結後における米国の最も致命的な政策」 
 しかし、このような状況をもたらすのは、西側主要メディアが(特に、一般大衆に影響力を及ぼすテレビが)、ロシアが悪いというだけで、そこに至る背景をほとんど報道しないからである。例えば、1940年代から1950年代末にかけてアメリカの外交政策を立案 し、冷戦政策を主導した ジョージ・ケナンの次のような指摘は、BBCでも、CNNでも、NHKでも報道されない。
「NATOの拡大は冷戦終結後における米国の最も致命的な政策となるだろう。この決定が、ロシア世論の国粋主義的、反欧米的、軍国主義的傾向を煽ることを懸念する。東西関係に冷戦の様相を蒸し返し、ロシアの外交政策を我々が望むのとは違う方向に向けさせることになるだろう」( George F. Kennan, «A fateful error», The New York Times, 1997年2月5日)
 この指摘が現実になったのである。国粋主義者、反欧米、軍国主義者のプーチンを狂気に導いたのである。
 そもそも、ここに至る背景は次のようなものだ。
 「ソ連の脅威」に備えて創設されたNATOは、その目的から考えてワルシャワ条約機構の廃止ともに解体されるべきだ、という意見は多くあった。それが解体どころか、軍同盟の強化に走ったのだ。1999年にハンガリー、ポーランド、チェコの東方拡大から始まり、その後も拡大を続け、ロシアの国境沿いまで進めた。その時期に、ユーゴスラビアに対する戦争を開始したことによって、NATOは西側ブロックの防衛組織から攻撃的同盟へと変質していったのである。アメリカは東欧にミサイル迎撃装備を設置し、そして、1972年に調印した弾道弾迎撃ミサイル制限条約(ABM条約)から2001年12月に脱退して、核兵器削減の諸合意を白紙に戻したのである。
 これらのことは、西側が軍事力の強化を基本とする安全保障で臨んだことを意味している。そこで実際に起きたのが「安全保障のジレンマ」だったのである。「安全保障のジレンマ」とは、「抑止論」に基づき、敵と見做す相手方の侵略を防ぐために、軍事力を強化するが、相手方もそれに見合った軍事力を強化するので、軍拡競争に至るというものだが、まさに、ロシア側は、NATOの拡大に対処するために、最新鋭兵器の開発を含め、軍事力強化に走ったのである。そして、最悪の結果を生み出したのである。
 だが、メディアに登場する多くの「専門家」からは、バルト三国がNATOに加盟し、アメリカ軍との連携が強化されているから、ロシアは手を出さないという例を挙げ、ウクライナがNATO に加盟し、軍事力強化をしていれば、ロシアも侵攻できなかったはずだ、と言う。だから、さらなる軍事力強化が必要だという主張を繰り返し、西側の多くの政府もその方向に向かおうとしている。
 確かに、ウクライナがNATOに加盟していれば、アメリカ軍との直接戦闘を嫌うロシアは、侵攻しなかった可能性は高いと思われる。しかし、NATOに加盟していないが、中立政策により、ロシアと決定的な軍事的対立はないフィンランドのことを忘れている。周辺国との対立を避けるという選択肢もあるのである。さらに言えば、敵と見做す相手方を軍事力で封じ込めようとすると、相手方が感じる脅威は増大し、脅威を弱める目的で、どこかに軍事的脆弱さを見つけ出し、攻撃してくる可能性は否定できない。常に臨戦態勢で臨まない限り、相手方は「穴」を探し出す。或いは、アメリカ軍との直接的戦闘を覚悟してくる可能性も否定できない。それは、敵と見做す相手方が存在する限り終わらない。未来永劫にわたって、戦争の危険性は排除できない。また、軍事費の最大化によって、福祉予算は大幅に削減せざるを得ない。

 今こそ、軍事力によらない「平和の創出」が必要なのである。その主張の一つに、中道左派のドイツSPDのショルツより、もっと左の左派党Die Linkeのものがある。
「ウクライナへの攻撃:戦争を止めろ!
プーチンの軍隊がウクライナを攻撃します。左派党はこの攻撃に反対している。私たちは政治の手段として戦争を拒否します。
 近年、NATOはその再建と拡張計画でエスカレーションに貢献してきました。しかし、「人民共和国」の承認とロシア軍による攻撃は「平和の使命」ではなく、国際法に違反し、軍国主義の行為です。プーチンは、彼が攻撃的なナショナリズムを代表していることを明らかにしました。私たちはそれに反対します
 ウクライナの安全と独立を回復しなければなりません。人々はもはや地政学的利益の遊び道具にされてはなりません。私たちはエスカレーションのスパイラルから抜け出さなければなりません–それから恩恵を受けるのは兵器会社だけです。 
 非暴力の紛争解決、社会的バランス、国境を越えた協力のために、政策の変更が必要です。したがって、私たちは全国的に抗議を呼びかけています。
再軍備をやめ、腕を組んで、今すぐ平和を!」
左派党の要求
1.ロシア軍はすぐに撤退
2.すべての外交の機会は、エスカレーションを解除するために使用する必要。ミンスク協定の実施は引き続く
3.ウクライナとロシアの国境、およびロシアとNATO加盟国の国境での軍事的自由な安全保障回廊に関する合意
4.難民を守る:国境を開く。EUから危機地域への強制送還と押し戻すことは直ちに停止。良心的兵役拒否者の連帯承認
5.新しいヨーロッパのセキュリティ構築とすべての大国政治の終焉
(Die Linke ホームページより)
 

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