夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

世界各国ではストライキ頻繁。戦わない日本の労働者の賃金は上がらない。

2022-12-25 10:36:38 | 社会


 世界各国で労働者のストライキが頻繁している。今年の秋以降にメディアの記事になったものでも以下のとおりである。
 英国 鉄道、救急隊員 、看護師、 入国審査官 、 教員、 郵便事業運営の「ロイヤル・メール」
フランス 国鉄(SNCF)、パリ公共交通公団(RATP)、各地の空港、石油・ガス生産・販売のTotalEnergies、送電網管理のRTE、保険のAG2R LMondiale、化粧品販売チェーンのMarionnaud、土木業のEurovia、床材メーカー
ドイツ 港湾労働者、金属労組(IGメタル)傘下の電機、自動車、機械産業 による警告スト(産業別労働協約をめぐる交渉に対し、圧力を掛けるために行われる闘争形態 )
ベルギー、スペイン、ポルトガル、ギリシャ  港湾労働者
オーストラリア アップル社の従業員 
アメリカ 鉄道労働組合、板金・航空・鉄道・運輸組合輸送部門(SMART-TD) ニューヨーク・タイムズの労働組合 
韓国 トラック運転手と 貨物連帯(全国運送産業労働組合貨物連帯)

 メディアの記事だけでも、これだけあり、記事にならないものはもっとあるのが自然なので、さらに多くのストライキが世界各国では実施されていると思われる。
 しかし日本では、「東海大の非常勤講師が“異例の”ストライキ実施へ」(静岡 NEWS WEB12/5)とあるぐらいで、ストライキなどは文字どおり「異例」であり、ほとんど実施されていない。さぞかし、日本の労働者は恵まれており、ストライキの必要がないほどの高水準の給与を貰っているのかと思えるが、実態は逆である。

 日本の賃金はOECD平均より低く、近年は韓国にも抜かれているのである。さらに、物価上昇との関連でも、下記のように賃金が物価上昇に追いつかない状況が見て取れる。


賃金が低いのは労働生産性が低いから? 
日本の賃金の低さの原因を、主流の経済学者とメディアに登場する自民党を支える右派評論家たちは、最大の要因を労働生産性が低いからだと説明する。労働生産性が高ければ、その分、企業は収益を上げることができ、賃金も上がると言う。確かに、賃金の決定に生産性は影響すると考えられる。しかし、実際の生産性と賃金上昇を見ると、そうはなっていない。端的な例を挙げれば、韓国の労働生産性は、日本よりも低いが、賃金は日本を超えて上昇しているからである。また、日本の労働生産性のOECDでの順位は1970年から2015年までは20位程度で、2016年に21位、2020年には23位と下げているが、日本の賃金上昇は、1997年前後から止まってしまっている。このことからも、日本の賃金の低さの原因を労働生産性が上がらないことを主要因とするのは無理があることが分かる。



 
労働者は戦わなければ、賃金は低いまま 
 そもそも、労働生産性が高ければ、賃金も高いというのは、儲かっている会社はその分、労働者の給料を多く出せるということを難しく言っているに過ぎない。確かに、そのようなことはある。しかし、例え儲かっていても、経営者が渋ちんならば、自分の取り分は多く、労働者の給料は少なくしたいだろう。渋ちんでなくとも、経営の安定のために、会社の資金を多く蓄えたい(内部留保は多い方が安心)と思う。また、企業の利益は株主の利益に直結しているので、経営者は人間的には渋ちんでなくても、企業利益のために賃金コストを下げることを株主から強いられ、渋ちんにならざるを得ないのである。逆に、儲かっていない会社は、給料を多く出せないが、労働者を確保するために、他の会社の給料相場を見て、「このぐらい出さなきゃ、人は来ない」と、何とか賃金への資金を捻出する。
 もともと、賃金は、労働力という商品の交換で生じるので、その多寡は労働力を生む労働者の生計(生産)費と、労働力商品の労働市場の中で需要と供給に左右されるが、労働者は、賃金で生計を立てているので、多ければ多いほどいい生活ができると、賃金を上げたいと望むし、逆に経営者は、コストを下げるため、賃金を下げたいと望むのである。これらのことは、経済学の賃金論を持ち出さなくても、自明であり、誰の目にも明らかである。
 このように労働者と経営者(マルクスに従えば、資本の擬人化である資本家)の賃金に関する要求は相反するが、一般的に、相反するものは、その両者の力関係で決まる。力が強ければ、その分、要求を通すことができ、弱ければ、強いものに従わなければならない。つまり、その労働賃金は社会全体の労働者と資本家の総体としての力関係で決まのである。一言で言えばそのようなものだ。
 だから、労働者は近代資本主義の成立以来、戦わなければ強くはなれないので、団結して戦いを進めてきたのである。そしてこの戦いとは、社会全体での戦いであるので、例えば、労働者に支持基盤を置く政党が議会で強い力を持てば、最低賃金は上がる。

 日本の最低賃金は、上記のように低いが、これも労働者よりの政党を議会に送り込む力が弱いからである。
 労働者の戦いの象徴的であり中核をなすものは、日本以外で盛んに実行されている賃金引上げ要求のストライキであるが、それを実行できる力が、日本の労働者にはないのである。典型的なのは、戦わない労組の代表である連合は、賃金引上げ要求をするが、ストライキなどの闘争を前提にしない限り、それは経営者に対する「お願い」であって、経営者の「お情け」にすがる以外の意味をもたない。そしてそれは、企業の儲けの「おこぼれを頂戴する」といった程度であり、企業が「大儲けする」という条件を、労働者側が認めたものになっている。だから、労働者が所属する企業の利益に反する運動ができないのである。電力会社の労組が、原発に反対できないのは、そのためである。
 日本の労働運動は、1970年頃まで、総評が解体される前頃は、ストライキも行われた。その頃は、賃金上昇率も高かったが(経済成長のおかげだと、主流派経済学者は説明するが)現在の日本の労働者は、戦う力がないほど力が弱い。したがって、当然ながら、日本の賃金は上がらないのである。
 ちなみに、日本より労働生産性の低い韓国は、賃金上昇率が日本より高いが、労働運動が、右派保守派から罵られる全国民主労働組合総連盟(略称「民主労総」)で見られるように、ストライキを含む盛んな戦を繰り広げているので、経営者側はしぶしぶ賃金を上げざるを得ないのである。
 
ストライキは、欧米ではどう報道されるのか?
 当然なのだが、ストライキは、その利用者の不便である。その時、それをどう報道するのかは、マスメディアの立ち位置による。利用者の不便を強調するのか、労働者の賃金の低さにスポットを当てるのか、である。そしてその立ち位置は、社会の「空気」がどちらに向いているのかに、大きく影響を受ける。
 英国では、看護師、救急隊員、国境警備隊員、鉄道等労働者がストライキを決行しているが、BBCは下記のように
「誰がストライキ? 今週のストライキがあなたに与える影響」(12/18)と報道している。淡々とどこの部門がストライキをやるのか、詳しく報じるというものであり、その是非については、政府・使用者側と労組側の言い分を載せる、という具合である。利用者の意見を報道する場合には、「迷惑だ」と「賃金が低いのだから、ストライキをする気持ちも理解できる」と両方の意見を報道する。ストライキが年中繰り返されるフランスでも、公共放送フランス2も、その是非については、「迷惑」と「理解できる」と両方並ぶ。恐らく、他のヨーロッパ諸国のマスメディアも同様なものと思われる。
 かつて日本で、国鉄労働者が3日間ストライキを決行したが、その時のマスメディアの報道ぶりは、「迷惑」一本槍で、完全に許されないと報道された。恐らく、現在ではもっと、ストライキは「悪」と一方的に報道されるだろう。
日本のマスメディアからは、交通ですら「悪」なのだから、看護師や救急隊員のストライキなど絶対に許されないと袋叩きにされるだろう。
 これは、マスメディアだけの判断で報道しているのではなく、その社会の「空気」がそのようなものであるからである。英国やフランスでは、ストライキは労働者の正当な権利であり、賃金などの働条件改善のための戦いとして、理解できるという社会の「空気」が一定程度あることを示している。逆に、日本では、そのような「空気」はほとんどないのである。
 
コメント
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