COVID-19による100万人当り死者数(Our World in Data 2023.3.21)
アメリカ 3296(人)
ブラジル 3249
英国 3102
アルゼンチン 2867
フランス 2502
ドイツ 2037
オーストラリア 743
韓国 659
日本 593
フィリピン 573
ニュージーランド 499
タイ 473
インド 374
中国 85
上記に表は、COVID-19による関連死も含めた主要各国の累計死者数である。このデータは、各国の公式統計であり、専門家は、実際にはこの数字より2~10倍も死者数があるのではないかと見ている。医療制度の整った先進国は、実際の死者数はこの数字に近く、医療制度の弱い国はさらに多いのではないか、という見方をしている。例えば、インドは最大で10倍程度の死者を出しているのではないか、というようなことである。
しかしそれを考慮しても、概して欧米と南米は桁違いに死者数が多く、アジア太平洋地域は少ないということが分かる。特に中国は、その中でも極めて少ない。
この差は、医療体制の水準による影響があり、人びとのコミュニケーションの取り方に関係する生活習慣(キス、抱擁の習慣のあるなし)、住宅の密集性、マスクに対する好悪(アジアでは、普段からマスク着用者が多い)などが影響していると思われるが、何よりもCOVID-19に対する各国の対策の違いが決定づけている。
そのことは、欧米の生活習慣や文化がありながら、ニュージーランド、オーストラリアでは、欧米に比べ著しく死者数が少ないことが証明している。ニュージーランドは、2020年の早期に入国制限を厳格に制限し、検査を徹底して行ったし、オーストラリアは、欧米が2020年内に解除した都市のロックダウンを、2021年まで継続して実施していたのである。
さらに、最も厳しいロックダウンを実施した中国が極めて少なく、大統領のボルソナロが、「COVID-19などただの風邪だ」と言い、中央政府が制限措置採らなかったブラジルでは死者数が多いことも、それを裏付けている。
結局、中国は最小限の犠牲で乗り越えた
3年間にわたり厳しい制限措置と徹底した検査を実施した中国は、2022年10月にそれまでのゼロコロナ政策を転換し、都市封鎖と全員検査政策を取りやめた。西側メディアは、その影響で、直後の1か月で6億人が感染し、「死者が100万人にも及ぶだろう」という香港大学の研究者の予想を大きく報じて、大混乱ぶりを伝えた。
中国政府は、死者数を2023年1月末で約8万人としたが、これには、中国政府は関連死を統計から外しているというような実態ははるかに死者者は多いはずだという報道が、特に日本の主要メディアから報道された。
しかし実際には、混乱は2~3か月ほどで収まり、死者数も100万人からははるかに少ない犠牲者数で終わっていると思われる。それは、中国政府の公式報道がどうあれ、中国には在留邦人が10万2000人(外務省 2022年10月時点)もおり、感染者と死者数が日本のメディアのいうとおり膨大なものになれば、在留邦人にもかなりの感染者と死者が出るはずであり、それは日本側にも伝わるからである。しかし、そのような情報はどこにもない。
1月27日に春節が終わると、日本のメディアに中国のCOCID-19の状況に関する報道は、ほとんど見られなくなった。日本のマスメディアの中国に関する報道は、「悪い話し」がほぼ100%なので、報道がないということは、中国の状況は悪くなってはいない、という推測ができる。
その極めて少なくなった報道の中でも、経済界は中国の状況が自分たちにも大きく影響するので、ビジネス誌では状況が垣間見える情報を載せている。
例えば、日経ビジネス(Web)が、2月9日の「誰も予測できなかった中国感染大爆発後の急展開」と題し、瀬口清之キヤノングローバル戦略研究所研究主幹のインタビュー記事を載せている。
そこには、感染爆発が「春節の連休に、帰省客を媒介として新型コロナウイルス感染が都市から農村に拡大する事態への懸念でした。医療基盤が脆弱な農村で、基礎疾患を抱える高齢者に感染が広がれば医療崩壊となりかねません。けれども、この懸念は杞憂(きゆう)に終わったことがほぼ明らかになりました。 」と記されている。
この情報が、現実の状況を比較的正確に反映していると考えられるのは、「1月21日から始まった春節の7連休の前後に、中国で活動するエコノミストや企業経営者からヒアリング 」したものからの情報だからでる。
厳しい行動制限は、COVID-19以外の疾病者を増加させ、その他の疾患への医療も制限され、COVID-19以外の疾患数は増加する。しかしそれでも、COVID-19の死者数と同数のその他の「副反応」による死者数が増加するとは考えられず、「副反応」の死者数はCOVID-19によるものよりはるかに少ないい。もしそうでないとしたら、中国だけでなく、世界中で実施された行動制限は、一切必要なかったことになるからである。
さらには、死者数の問題だけでなく、COVID-19による後遺症患者は、あまりその数が報道されていないが、英紙ガーディアンによれば、英国だけでも100万人以上いると報じている。感染者が多ければ多いほど、後遺症で苦しむ人は多く、最大数の感染者が確認されているアメリカでは、数百万人に上るだろう。
付け加えれば、確かに他の国より中国は厳しい行動制限を実施したが、中国のゼロコロナ政策は、都市のロックダウンが中国全土で3年間継続して実施されたわけではない。中国の衛生当局は、ロックダウンよりむしろ、徹底したPCR検査、抗原検査に重点が置かれていたからだ。その徹底した検査体制で、ひとりでも陽性者が出れば封鎖、一定期間でなければ、封鎖を解除するという政策が実施されていたのである。最も早く感染が蔓延した武漢でも、半年後には、封鎖が全面解除されている。
結局、中国はコロナ危機をうまく乗り越えたのである。
人命か、個人の行動の自由か
近代的価値の中でも、自由の優先度は高く、個人の自由は最大値尊重されるべきだと多くの人は考える。感染症に対する行動の自由制限が、多くの国で最小限にすべきと主張されたのも、そのためである。だから、中国のゼロコロナ政策は、批判の的となったのである。 結果として、コロナ危機をうまく乗り越えたとしても、中国の政策は単純に称賛されるべきではないのは、言うまでもない。
しかしメディアの報道をよく見てみると、行動の自由制限の批判の中で、最も強く主張したのは、ボルソナロの例のように、あるいは多くの陰謀論者がそうであるように、右派に属する立場の者たちである。それは、アメリカで民主党より共和党、中でも共和党内の相対的右派・保守派が、COVID-19への検疫的政策に批判的だったことでも分かる。概して言えば、世界の政権与党勢力で中道右派より中道左派の政権の方が、例えば、ニュージーランド労働党政権のように、相対的には厳しい制限措置を選択したのである。概して、右派より左派の方が、厳しく行動を制限したのである。
その理由としては、右派が特に個人の自由を尊重しているのではない。行動制限は経済活動を著しく妨げるので、経済的利益、特に企業の利益を優先する傾向がある右派は、経済活動の「正常化」のために、行動制限は利益を失わせるからである。それはアメリカの銃規制と類似している。共和党は民主党より銃規制、つまり個人の銃を所有する自由を強く主張する。それはたびたび「人民が武器を保持し携帯する権利は奪われない」という憲法修正第二条を根拠として主張される。しかし、共和党がそれだけ憲法を尊重しているからではない。憲法は反対を主張する「武器」として使用しているに過ぎず、真の理由は、銃産業が共和党に多くの献金をし、利益を共有しているからなのである。
自由には様々な自由があり、様々な意味を持つ。ある人の自由は、別の人の自由を奪う。このようなことは、いくらでもある。銃を所有する自由は、おうおうにして、他人の生命の自由を奪う。感染者の行動の自由は、他人の健康に生きる権利・自由を奪う。無定見に自由はいいこと、とはいかないのである。行動の自由は感染を拡大し、多くの人の健康を損なう。この合理的、正当的理由がある限り、行動の自由は、合理的、正当的な手法で、言い換えれば最大限人びとの合意の下で、制限されるべきなのである。