夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

イスラエル・パレスチナ戦争 No1「パレスチナへの抑圧がテロとの闘いにすり替えられている」

2023-10-21 14:09:41 | 社会

イスラエルの空爆後のガザ

起きているのはイスラエル・パレスチナ戦争
 多くの西側主要メディアは、イスラエル・パレスティナ戦争を「イスラエル・ハマス戦争」と表現している。BBCもCNNもガーディアンもニューヨークタイムズも南ドイツ新聞も、そのように表現している。
 確かに、10月7日に、突然ハマスがイスラエル領内にロケット弾を撃ち込むと同時に侵入攻撃を加え、それに対しイスラエル側の反撃が開始された。そこだけを捉えれば「イスラエル・ハマス戦争」に違いない。しかし、それは第二次大戦後のイスラエル建国に伴うイスラエル対パレスチナとの対立が現在でも続いていることを完全に無視した歴史的健忘症とも言うべき表現である。イスラエル建国以来、75年にわたり、数百万人のパレスティナ人を排除し、抑圧してきたイスラエルに対するパレスティナ人の抵抗抵抗運動が、永続的に続いている現実を見れば、イスラエル・パレスチナ戦争と表記するのが適切なのは明らかだろう。
 この「イスラエル・ハマス戦争」という表現は、アメリカのバイデンが、「ハマスとパレスチナを明確に区別し、……イスラエルへの全面支持を表明し」(朝日新聞10月11日)ていることと符合している。バイデンが、あたかもパレスティナ人を敵視しているのではなく、敵はテロリストのハマスだけだと言っていることとと符合しているのである。
 この表現がいかに馬鹿げているかは、バイデンが支持するイスラエルがハマスの殲滅と言いながら、ガザの200万人のパレスティナ人を標的に爆撃をしていることを見れば、すぐに分かる。そして、ガザへの地上侵攻すら準備しているのである。現に、イスラエルが敵として殺害しているのは、ハマスに限らず、全パレスチナ人なのである。バイデンは、イスラエルに軍事支援の強化も表明したが、アメリカが供与した兵器で殺されているのは、全パレスチナ人なのである。
 2000年以降に限っても、2001年にシャロン右派政権が誕生すると 、パレスチナ両地区にイスラエルは軍事侵攻し、パレスティナ・イスラエル双方の多数の非武装の市民が殺害されている(パレスチナ側の犠牲者数はイスラエルの3倍)。また、イスラエル極右政権が入植を強行し、それに非武装で抗議するパレスティナ人の射殺は、日常茶飯事とさえなっている。さらには、2023年7月に、イスラエルはヨルダン川西岸地区の難民キャンプを空爆し、多数の難民を虐殺している。

 明白にしなければならないのは、現実には、数十年に及ぶイスラエルのパレスティナ人居住地の占領と抑圧に対するパレスティナ人とイスラエルの戦争なのである。それを矮小化するために、バイデンはイスラエルとハマスだけの戦争のように描きたいのである。バイデンは、イスラエルとテロリストであるハマスの戦争であり、イスラエルには自衛権があり、アメリカはイスラエルを全面支持するという理屈を振りかざしているのである。この理屈は、イスラエル政府のパレスチナに対する抑圧政策から目を背けさせる。イスラエルの抑圧政策がなければ、パレスチナ人の抵抗の一つの形であるハマスの武力闘争もあり得ないことを忘れさせる。だからバイデンは、パレスチナにイスラエルが何をしているのかに関しては、一言も言及しないのである。
 それを西側主要メディアは、バイデンを手助けするかのような表現で記事にしている。さらには、主要メディアは、ブリンケンが即座に、ハマスの攻撃にイランの関与を示唆したことを報じたが、これも別の要素であるイランとの対立を強調し、イスラエル対パレスティナの問題から目をそらさせる役割をしている。

衝突の根源とパレスティナ人の怒り
 この問題の根源が、イスラエル政府のパレスティナに対する抑圧政策であるのは明らかである。NHKですら「パレスチナの地に根を下ろしていた70万人が、イスラエルの建国で故郷を追われた…、いまパレスチナ人が住んでいるのは、ヨルダン川西岸とガザ地区という場所です。国にはなれないまま、イスラエルの占領下におかれている 。…ガザ地区は、日本の種子島ほどの面積に約200万人が住み…『天井のない監獄』とも呼ばれ、…最低限の生活さえできない状況 」(NHK2023/10/11)にあると、報じている。
 また、アムネスティインターナショナルも、「イスラエルによるパレスチナ人へのアパルトヘイト 残虐な支配体制と人道に対する罪」とイスラエルを断罪している。
 国連決議でも「パレスチナ人の自決権とパレスチナ国家独立の権利 」は完全に認められているが、その決議に真っ向から違反する政策をイスラエルは採り続けている。特に、最近のネタニヤフ極右政権は、ユダヤ人入植地の拡大とそれに抵抗するパレスティナ人を弾圧するための軍や警察を増加するするなど、抑圧政策を強化している。
 10月9日には、イスラエルの国防相ヨアヴ・ギャラントは「私たちは人間という動物と戦っている 」とまで言って、ガザに対する「完全包囲」を発表したのだ。 
 このような状況に置かれた人びとのイスラエルに対する怒りが最も先鋭化した、また悲劇的な形で表出したのがハマスのイスラエル攻撃なのは、誰の目にも明らかだろう。そもそもイスラエルの占領と抑圧がなければ、このような両者の衝突は起こりえないのだ。
 それにもかかわらず、アメリカとそれに追随する欧州はイスラエル全面支持を公言してはばからないのである。
 確かに、米欧のイスラエル「全面支持」とは、イスラエルの自衛権を支持したもので、それだけ捉えれば、正当なものに見える。しかし、アムネスティが言うところのイスラエルのパレスティナ人への「アパルトヘイト」には、一言の批判もなく、自衛権だけ「全面支持」を明言すれば、それは実際には、「アパルトヘイト」を容認していることと同じである。イスラエルは「自衛」の名で多くのパレスティナ人を殺害し続けている。それは、勿論、ハマスの戦闘員の周辺には多くの一般パレスティナ人が居住しており、区別することなどできないからである。さらに言えば、パレスティナ人の「自衛権」については、国家でないことからか、無いに等しいと見做しているのだ。

敵はハマスだけという欺瞞のかたまりの論理
 一般論として、目的が正当だとしても、そのすべての手段が正当化されるわけではない。ハマスのイスラエルへの千人以上の一般市民虐殺と数百人の拉致も、同様に正当化することはできない。これは、非難されるべきなのは当然である。また、この残業行為がイスラエルの「自衛権」を正当化し、イスラエルの極右政権だけでなく、一般市民の怒りを生み、米欧の世論を「イスラエル寄り」に導くことを助長する。
 しかしそれでも、ハマスの残虐行為とイスラエルの大量虐殺を同じものだと見做すことはできない。片方は抑圧されている側であり、もう一方は抑圧する側だからだ。イスラエルの軍と警察は、非武装の抵抗するパレスティナ人を殺害している現実があるからである。
 言うなれば、原因がパレスチナ人へのイスラエルの占領と抑圧であり、結果がハマスの攻撃であるのは、誰の目にも明らかなことだ。
 
 現実には、ハマスと一般のパレスチナ人を峻別することなどできない。ハマスは、2006年にガザ自治区選挙で勝利し(それ以降、選挙は行われていない。)、軍事部門だけでなく、衣食住・教育・医療全般にわたるボランティア的活動でガザ地区で完全に根をおろしている。それが、西側メディアが言う「実行支配」の実態なのである。ヨルダン川西岸パレスティナ人自治区でも、この衝突以来、一斉にハマス支持のデモが沸き起こっているのは、パレスティナ人全体でハマス支持の強さを物語っている。
 峻別できないから、イスラエルは一般パレスティナ人を含めて殺害するのである。バイデンが「全面支持」するイスラエルの「自衛」とは、現実には子供や老人を含めた一般パレスティナ人を大量に殺害することなのであり、それを数十年にわたり実行し、これからも実行しようとしていのである。
 バイデンは、口先では人道支援を口にする。しかし、人道支援と言うなら、イスラエルの事実上の無差別攻撃をやめさればいいだけである。これ以上の、イスラエルへの軍事支援はしないと言えばいいのである

孤立するイスラエル・アメリカと追随者
 米欧政府やその追随者以外には、この馬鹿げた主張が欺瞞にかたまりなのは明らかだ。世界各地でイスラエルの「武力占領と大量虐殺をやめろ」と叫ぶデモが、メディアが記事にしたものだけでも、欧州、アメリカ、アラブ各国、トルコ、マーレーシア、中南米起きている。アメリカでは、ユダヤ人の団体が抗議し、参加者は「私自身ユダヤ人であり、ユダヤ人の名において多くのことがなされていることを拒否する。この暴力に対する米国の加担と支援に終止符を打つために、私たちは歩みを止めない。パレスチナが自由になる日まで」と述べている。 
 中露はもとより、南米コロンビアのグスタボ・ペトロ大統領は9日 、イスラエルの抑圧行為をナチスに例えて非難したが、南アのシリル・ラマポーザ大統領は、「イスラエルとパレスチナの民間人悲惨な死は、私たち人類全体にとって衝撃です 」とした上で、「イスラエルの民間人に対する理不尽な攻撃とガザ包囲、そして100万人以上の住民をガザから強制的に追放する決定は、無差別武力行使と相まって、さらなる大規模な苦しみと死の基礎を築いている」と大統領府の公式声明でイスラエルを非難している。 From the desk of the President - Monday, 16 October 2023 | The Presidency
 
 国連安保理では10月18日、「ハマスによるイスラエル攻撃非難」を含み、「戦闘の一時中断」を求めるブラジル案を、日中仏が賛成し、15カ国のうち12カ国が賛成したが、唯一アメリカだけが反対し、拒否権を行使した。そこには、ひたすら、一方的にイスラエルを「全面支持」し、武力によるハマスの殲滅を支援するアメリカ政府の姿勢がにじみ出ている。言うまでもなく、そのような姿勢は、無分別に(差別的用語を敢えて使えば、盲目的に)アメリカに追随する者以外には、絶対に受け入れられるものではない。
 
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