夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

戦争を正当化する道具として使われる「民主主義」

2023-04-07 09:02:17 | 社会

バイデンの「民主主義サミット」の欺瞞
 アメリカのバイデンは、3月29日から2日間、第2回「民主主義サミット」をオンラインで実施した。世界を「民主主義対権威主義」で分け、バイデンが世界中から「民主主義」とする首脳120名を招待した。しかし、バイデンが招待した各国首脳には、「民主主義」から遥かに遠い人物が多く紛れ込んでいる。日本のメディアの多く、例えばNHKですら第1回開催を「招待するかしないかの基準があいまいで、恣意的な印象を拭えない」(髙橋祐介 解説委員 )と言っているのだ。今回も招待された顔ぶれを見れば、バイデンの言う「民主主義」がいかに欺瞞にみちたものか分かる。

 どこが「民主主義」なのか、首をかしげたくなる首脳を数人挙げれば次のような人物だ。これらは、西側メディアや西側人権団体等が、どう見ても「権威主義」と認めた政治家たちである。アメリカに都合の悪い情報は、ロシアや中国のプロパガンダだと言うなら、西側の主要メディアは、ロシア・中国のプロパガンダを盛んに流していることになる。

インドのナレンドラ・モディ 
 インド人民党を率いるモディが、イスラム教徒や少数民族を迫害するヒンデゥー至上主義で極端な民族主義者であることは、多くの西側メディアが認めている。

 
 ニューヨークタイムズは「インドの民主主義の死」とまで酷評した。最近も、2002 年のグジャラート暴動時のモディ首相のリーダーシップに疑問を呈した BBC のドキュメンタリーの放映をインド国内で禁止したことでも、西側メディアは厳しく批判した。

イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ
 2022年12月に発足したネタニヤフ極右宗教政権は独裁性を強め、国内では反対するデモが吹き荒れている。この人物が、「民主主義サミット」の最初の演説者なのである。イスラエル政府は、長い間パレスティナ人を迫害し続けてきた。「抵抗する者は殺す」戦略を徹底して推進してきたのが、ネタニヤフなのである。

ポーランドのアンジェイ・ドゥダ
 ポーランドの与党である極右政党「法と正義」は、たびたび「独裁政権」「権威主義authotarian」と、西側メディアに批判されている。その「法と正義」出身の代表がアンジェイ・ドゥダなのである。


イタリアのジョルジア・メローニ
 極右政党「イタリアの同胞(FDI)」党首の 、このイタリア初の女性首相は、過去にはムッソリーニを称賛したことで知られている。15歳でネオファシストの「イタリア社会運動(MSI)」に入党した筋金入りの極右指導者である。
 
 

戦争の正当化のための「民主主義サミット」
 なぜバイデンが、このような「民主主義」にはそぐわない首脳を招待したのかは、次のことで理解できる。バイデンにとって都合の悪い人物は招待されていないからである。
 NATO加盟国で、招待されなかった国にトルコとハンガリーがある。ハンガリーの方は、オルバン首相が強権的・権威主義と批判されている。しかし、ポーランドのアンジェイ・ドゥダも西側メディアでは、同様な批判がなされているのだ。アメリカのバラク・オバマはこの二つの国を「本質的に権威主義」と指摘した。


 同じように権威主義的なポーランドとハンガリーの違いはどこにあるのかと言えば、対ロシアへの戦争継続を推し進めるアメリカにとっては決定的なことがある。それは、ウクライナへの軍事支援の姿勢が正反対なのである。ポーランドは、NATO加盟国の中でも、他の国を軍事支援が消極的だと批判するほど、最も軍事支援に力を入れている国である。それに対し、ハンガリーはウクライナへの財政支援にも、軍事支援にも反対しているのである。このこと以外に、この二つの国の違いはあり得ない。軍事支援に賛成すれば、招待。反対すれば招待しない。ここに「民主主義サミット」の基準が明白に表れているのである。
 NATO加盟国のトルコは、大統領のエルドアンが、政府に批判的なジャーナリストを拘束し、たびたび強権的と批判されている。しかし、このような強権的姿勢は、ポーランド政府も同様であり、ロシアとウクライナの和平協定の仲介をするトルコのエルドアンが、ウクライナへの一方的軍事支援に消極的であることが、招待しない理由なのは明らかである。
 さらには、アジアでは、フィリピンを招待し、タイ、シンガポールは招待されていない。フィリピンは、4月に米軍が新たに使用する4基地を公表するなど、米軍に極めて協力的な姿勢を見せているが、タイ、シンガポールは大半のアセアン加盟国同様に、軍事的には中立を貫いている。ここにも、アメリカの軍事戦略に協力的あるか否かで、「民主主義」かどうかが決まる構図が見えている。
 
 対ロシア・中国との対決を進めるアメリカが、ウクライナのゼレンスキーを招待したのは、当然だろう。しかし、ゼレンスキー政権が民主的だというのは、馬鹿げている。ゼレンスキー政権は、左派野党を活動停止にし、党幹部を拘束しているし、メディア規制を強めているからだ。日本共産党は、ゼレンスキーの国会ビデオスピーチに拍手を送ったが、ゼレンスキー政権では、共産党は非合法なのである。
 ロシアから侵略されていれば、何をやろうと「民主主義」。ロシアと戦争すれば「民主主義」という論理である。
 
ウクライナの新メディア法は報道の自由を脅かす


徴兵を拒否する市民を暴力で拘束するウクライナ兵(フランス2)

このように、バイデンの「民主主義」の基準は、対中国・ロシアに敵対するか否か、なのである。要するに、「民主主義サミット」は「民主主義」の美名の下に、アメリカが対中国・ロシアと軍事的対決を世界に拡大させることが目的なのである。

戦争を正当化するための道具としての「民主主義」
 今日、世界は中国・ロシアとそれに対決する西側と、対決姿勢に同調せず、中立を守るインドを始め、グローバルサウスとの三つに分かれている。
ロシアは、NATOの東方拡大に対する過剰な危機感から、ウクライナへ侵攻し、中国も軍事力強化に努めている。それに対して、西側諸国もNATO加盟国を中心に軍事力強化が著しい。双方とも、相手側の軍事力強化を脅威としているが、これは「鶏と卵」のように、どちらが先かを問題にするのは意味がない。ただ、軍拡の悪循環に陥っているだけである。
 
 過去にアメリカは「民主主義」の美名の下に、独裁政権打倒を旗印に、「大量破壊兵器の嘘」をも使いイラクに侵攻して、フセイン政権を打倒した。勿論、誰でも知るように、行政機構を破壊されたイラクは、イスラム過激主義者や犯罪集団の武力だけが支配する世界に陥った。しかし、そこで行われてたアメリカ主導の政策は、公的部門を民営化し、西側企業へ解放することだった。すなわち、「民主主義」の美名の下に行われたのが、新自由主義なのである。ここにも、アメリカの言う「民主主義」が、一体どのようなものなのかが隠れている。

 アメリカ資本は、これまでの自由貿易体制で、中国資本に利益を吸い取られるかのように、巨大な利益を喪失した。このままでは、アメリカの衰退は止まらない。そこで、対中国との対決姿勢に転換し、中国資本を排除する必要に迫られたのである。かつては、日本企業のアメリカ侵食を排撃したが、中国の巨大経済力は、日本のようにはいかない。西側全体で中国を封じ込めるしか、方法はないのである。そのためにバイデンは奔走している。

 つまるところ、アメリカの戦略に協力すれば「民主主義」。協力しなければ「非民主主義」。そのことをバイデンの「民主主義サミット」は、如実に表している。
 
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