夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

ウクライナ戦争 英BBCによる現時点の戦況分析

2023-09-22 10:01:58 | 社会
ロシアの「龍の歯」

 9月19日現在、日本の新聞には、ウクライナ側がバフムト近郊の小さな村をいくつか奪還したという記事が載っている。しかし、実際の戦況はどうなっているのだろうか? それについて、9月18日英国BBCは「最前線に沿って 9 つのソーシャルメディア動画 」を検証し、かなり客観的な実際の戦況を報じている。
 
英国BBC「反転攻勢は進んでいるのか?」
 1.ウクライナ軍の反転攻勢は大きくは進んでいない
ウクライナ軍の反転攻勢が開始されて3か月になるが、9月になってウクライナ軍は、南部におけるロシアの第一線の防衛線を「突破」したと述べた 。その意味は、この方向からアゾフ海に向かって攻撃することに成功すれば、ロシアの都市ロストフ・ナ・ドヌとクリミアを結ぶロシアの補給線が遮断される可能性があり、ロシアのクリミア巨大駐屯地の維持は困難になる。
 しかし、SNS動画を分析すると、ロシア軍の一部の防衛施設を突破しているウクライナ軍は歩兵だけであり、装甲部隊が占領保持しているのではない。つまり、ウクライナ軍の反転攻勢が進んでいないということである。
 
2.ロシア軍は、多層防御を構築した
 ロシア軍は、数ヶ月で障害物、塹壕、掩蔽壕、地雷原が連なった多層防御装置を施設した。その中の「ドラゴンの歯」はコンクリートの対戦車障壁である。
 ウクライナ軍が6月に攻撃したが、失敗に終わり、多数の死傷者を出した。 それ以来、ウクライナ軍はこれらの地雷を徒歩で、しばしば夜間に、時には砲撃の下で除去することに頼らざるを得なくなった。西側供与の戦車、装甲は、広い道の確保とロシア側砲兵が制圧できないと進撃できないが、そこまではまったく進んでいない。
 
3.ロシア軍は、増援を進めている。
 ウクライナ軍は、一部の村を奪還したが、ロシア軍は、精鋭空挺部隊であるVDVがヴェルボヴェの町の近くに展開しているなど、ウクライナ軍はロシア軍の抵抗に直面し続けている。ウクライナ軍はアゾフ海岸までの距離でかろうじて10%以上進んでいるが、現実は厳しく。

4.数週間後に雨季が到来し、反転攻勢はさらに厳しい
 もしウクライナ軍がロシア軍の残りの防衛を突破してトクマクの町まで到達できれば、ロシアのクリミアへの鉄道と道路の補給路が大砲の射程内に入るだろうが、数週間後に雨季が到来し、道路がぬかるみになって、さらにウクライナ軍の進撃は困難になる。 
 
5.戦争は終結しない
 戦争は2024年まで、あるいはさらに長く続く可能性が高い 。

反転攻勢は進んでいないという現実
 ウクライナ軍の反転攻勢については、「英軍制服組トップのトニー・ラダキン国防参謀総長は、ウクライナが勝ち、ロシアが負けつつあると述べた」(BBC9/11)というような「希望的観測」もあるが、米軍のマーク・ミリー統合参謀本部議長は、「 失敗はしていないが、領土奪還という大きな目標については非常に高いハードルに直面している」(AFP9/18)と言っている。それらを考慮しても「反転攻勢は順調には進んでいない」というBBCの報道は現実に即していると言える。そしてこのことは、シカゴ大学のミアシャイマーの「ウクライナは負けるべくして負ける」(9/3)という主張を裏付けている。
 
 反転攻勢が順調に進んでいないことを、ゼレンスキーやNATO諸国の積極的軍事支援強硬派は、西側の最新強力兵器の供与が遅れているせいだ、としている。
 確かに、アメリカのM1エイブラムス戦車やF16戦闘機など、西側最新兵器はウクライナ兵の高度の操縦技術訓練と前線への輸送に数ヶ月から数年かかる。それらがウクライナ軍の標準的兵器となれば、来年、再来年の攻勢にはプラスに働くだろう。しかし、その動きはロシア側も見据えているので、それに対抗する措置を講じることになる。支配地域に協力な多層防御を施設したように。また、今まで最も積極的な武器支援国ポーランドが、最近になってウクライナの穀物輸出問題がこじれ、武器輸出をこれ以上しないと言い始めたように、また、アメリカで来年の大統領選で軍事支援に消極的な共和党大統領が誕生した場合には、NATOの支援は弱まることになることや、さらには多額の軍事支援は各国財政を悪化さることなど、NATOのこれまで同様の強力な軍事支援がいつまで続くのかは不透明である。
 それらを考えれば、ウクライナの軍事力による領土奪還は夢物語のようなものだ。また、いくらロシア軍は撤退しろと大声で叫び続けたところで、また、経済制裁で政策を変更した国など歴史上存在せず、制裁はその国の弱者をさらの困窮させるだけであり、ロシア側がウクライナから撤退することなどあり得ない。
 要するに、ウクライナ人がこれ以上死なないためには、停戦交渉を始める以外に道はないのである。
 
 
 
 
 

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