夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

「戦争狂の殺人鬼と化したプーチン(2) 今こそ、平和主義を!」

2022-03-01 17:53:42 | 社会
(前項より続く)

戦争に反対するロシアの一般市民 ほとんどの市民は、顔を隠さず堂々と反対だと言う(BBC 25日)

プーチンの狂気を誘発したものは何か?
 人は何か理由があって、そうなるものだ。では、プーチンを戦況狂の殺人鬼と導いたのは何か? プーチンとそのロシアの追随者に、軍事侵攻を選択させたのは何か?
 それは、多くの専門家・研究者が言うように、NATOの東方拡大であるのは明らかだ。例えば、ロシア・ソ連の専門家下斗米伸夫は、米国内にも(NATOの)「同盟拡大はロシアを挑発すると警告した」意見があったという。下斗米の表現によれば、「東西和解の合意に抗して、クリントン政権が選んだのは同盟拡大というロシアを凍らせる選択だった」のだ。
 NATOは、とりもなおさず軍事同盟である。いくら純粋に防衛的なものと主張しても、周辺国から見れば、脅威と映る。中南米のどこかの国が中国またはロシアと軍事同盟を結んだとしたら、アメリカは看過できないだろう。それを独立国としての安保政策は自由などとは、決して言わないだろう。それと同じことが、ロシア側にはあったのである。また、下斗米は「2014年、ウクライナでNATO加盟推進派が右派民族勢力と組んで治安部隊と衝突し、ヤヌコヴィッチ大統領が亡命するというマイダン革命が起きた」と言い、「14年のマイダン革命は誰の特にもならない悲劇となった」としている(以上朝日新聞2月26日から)。現在のウクライナ政権には右派民族主義者の影響は少ないものの、ロシア語の非公用語化の動きはあったし、現在でもウクライナ語ができなければ公務員にはなれないなど、ロシア語話者の2級市民扱いは、厳然たる事実である。さらに言えば、西側が言う「クリミア半島の一方的併合」は、ゴルバチョフの言うように、ロシア側から見れば、それまでロシア管轄であったものを1954年にフルシチョフが個人的理由(ウクライナ共産党への機嫌取りと言う説が有力)からウクライナ管轄としたのであり、それを奪還したのである。
 これらのことが、西側からの圧力と捉えられ、プーチンだけでなく、その追随者の高級官僚、ロシア軍部の怒りを生んだのである。そこに、多くの専門家が指摘するように、プーチンの、周辺の国と民族を隷属化に置こうとする大ロシア主義が結びつき、今回の人道犯罪を行わせる「犯行動機」になったのは間違いないだろう。
 
ロシア国民はプーチンと心中するのか?
 プーチンの狂気を誘発したものがあるとはいえ、狂気は狂気である。英米の軍事情報機関は、ロシア軍が想定した以上のウクライナ軍の抵抗にあい、キエフなどのウクライナ政府中枢地域への侵攻が遅れているとの情報を流しているが、それは事実であると思われる。恐らくは、プーチンに側近から上がってくる情報は、ウクライナ政府はナチのような極右であり、国民の支持を得ていないというものだったのだろう。だから、電撃的に侵攻すれば、政権はすぐに崩壊すると考えていたのだろう。しかし、圧倒的に侵略者に対する抵抗意識が根強く、ウクライナ軍の強硬な反撃にあっているのが現実である。それは、かつてアフガニスタンに侵攻したソ連軍が直面した抵抗以上のものであるに違いない。その時の相手は、小銃やバーズーカ砲程度で武装するイスラムジハード主義者だったが、今度は旧ソ連製兵器とアメリカ製兵器を合わせ持つ正規軍である。また、抵抗軍の士気が侵略するロシア兵より高いのは、すべての歴史上の侵略戦争と同じである。
 欧米の経済制裁は、ついにSWIFT国際決済システムからロシアを排除することを決めた。これで、ロシアルーブルは暴落し、プーチン政権を支える一部の超富裕層たちは著しい損失を被り、国民経済は破綻する。
 結局は、狂気に陥ったプーチン一味以外の誰もが想定したとおり、ウクライナに人的・物的被害を与えるだけでなく、ロシア兵も犠牲になり、ロシア経済の崩壊、国民生活の甚だしい疲弊という惨憺たる結果しかもたらさない。プーチンは、NATOは他国を犠牲にした安全保障を進めていると言ったが、ウクライナとロシア国民を犠牲にして、暴挙に及んだのは、プーチン自身である。また、ウクライナ政府をナチになぞらえたが、むしろナチに近いのは、プーチン自身である。

 プーチン政権の終わりの始まり
 ロシア国内では、抗議のデモが多発し、強権で取り締まっているが、英BBC は、ほとんどのロシア市民は戦争に反対していると街頭インタビューで堂々と答えていると伝えている。侵攻が長引けば長引くほど、国民生活の破綻が顕在化し、国民の反発は大きくなるのは目に見えている。
 欧米のSWIFTからのロシアの排除には、ロシアとの経済取引が多いことから、最も副反応を被るにも関わらず、ドイツの選択が決定的となっている。ドイツのショルツは、例え、ドイツにはロシアと取引する企業が多かろうと、ロシアからのガス供給が止まろうと、ロシアの侵攻を止めるためなら、犠牲をいとわないと決めたのである。首脳会談直後に侵攻を決め、プーチンにメンツを潰されたショルツの怒りは、プーチンが権力を握っている限り、収まらないだろう。それと同様に、西側各国首脳は、今度の侵攻をプーチン個人の決定として、プーチン個人をまったく信用できない人物と見ている。それを考えれば、ロシアに対する経済制裁は、プーチン政権が存続する限り終わることはあり得ない。
 ロシア国民は、プーチンと心中するのか、プーチンを権力の座から引きずり下ろすのかを問われれば、後者を選択するのは当然である。遅くない時期に、プーチン政権は崩壊せざるを得ないのだ。それは、無謀な戦争に突き進んだナチス、イタリアファシスト、日本の軍部支配の政権が崩壊したのと同じ運命なのである。
 
今こそ、平和主義を!
 ロシアの侵略を契機に、外交や制裁では侵略を防げないとして、軍事力を増強する動きが強まっている。
 ドイツのショルツは27日、「世界は転換点にある」と国防費をGDP2%以上に増額することを発表した。また、紛争地に武器を送らないという今までの方針を変え、ウクライナに武器供与も始めた。その他の欧州諸国も英国を筆頭に、続々とウクライナへの軍事支援を表明している。
 勿論これらの動きは、現に侵略攻撃を受けているウクライナを軍事的に支援しなければ、ロシアの攻撃からの市民の犠牲を増やすことになり、この軍事支援は、ロシアの侵略を停止させる効果を持つという意味がある。防衛しなければ、殺されるという「正当防衛」を支援する行為でもある。しかし、それは現に攻撃を受けている限りにおいて、正当だという意味でもある。
 そもそも、対ロシアの西側の対応は、NATOの東方拡大という「力によって抑える」という姿勢があった。今は、それが不充分だったという解釈をしているのである。しかし、下斗米の言葉を借りれば「NATOの東方拡大問題は、最悪の結果を生みつつある」のである。なぜなら、例えプーチンでなくとも、NATOから包囲されつつあるという軍事的脅威はロシア側が感じるのは自然だからだ。
 この「力によって抑える」というアメリカのネオコン的発想は、対テロ戦争で実行された。アメリカは、中東地域で空爆を重ね、イスラムテロリストといっしょに多くの市民を殺害した。その副反応として、ますます多くのテロリストを生むことになった。アメリカ軍に殺されたが、もともとテロリストではない一般市民の遺族は、アメリカを憎悪するからである。
 これと同様に、「力によって抑える」政策は、「力によって反発する」副反応を生むのだ。力で抑えようととすれば、相手側は脅威を感じ取り、最悪な場合、第二、第三のプーチンを生みかねない。むしろ、「力によらない」平和を模索することが求められているのである。
 とりわけ日本では、ウクライナ侵略に便乗した、敵基地攻撃能力の保持しようとする政府の動きを含め、改憲(解釈を変える実質改憲も含め)の動きが加速している。平和主義に立つ政治勢力は劣勢であり、その理論も実証的研究も充分とは言えない。今こそ、平和憲法を堅持し、「力によらない」外交問題解決の理論と研究を推し進めるべきなのである。

ロシアは悪だから、対立アメリカは正義
 さらに、ロシアが悪ということから、対立するアメリカが正義という論調が激しくなっている。
 朝日新聞アメリカ総局長の望月洋嗣は、『「警察官」なき世界 覚悟と行動を』と題し、「米国が世界の警察官の役割を果たした時代は戻ってこない。それを嘆き、警察官の再登場を願っても、平和と安定は取り戻せない」とアメリカの軍事力の世界的展開こそが「平和と安定」に寄与したと意味することを書いている。望月は、突然、歴史健忘症になったのか、アメリカが第二次大戦以降行ってきた戦争のことをすっかり忘れてしまっている。ベトナム戦争やイラク戦争は平和を守ったのか。人を殺すことが平和なのか。
 この望月の論調は彼だけではなく、アメリカの主要メディア、ニューヨークタイムズやワシントンポスト、CNNのオピニオン欄と同一であり、民主・共和両党の主流派とも同一である。そこには、専制主義・権威主義と自由民主主義の対立という概念も見られるが、それは軍事力の増強という動き以上に、多くの西側のメディア、政治勢力から発せられている。
 確かに、ロシア(や中国)と対立する西側は、はるかに政治的に自由で民主的な国々であるのは間違いない。しかし、自由と民主主義の旗の下で行われたのは、ガーディアンに投稿されたバーニー・サンダースの寄稿文を引用すれば、以下のようなものだ。
 「我が国は(アメリカは)西半球の支配的大国として、我が国の利益を脅かす可能性のあるあらゆる国に介入する権利を有するという前提を受け入れてきた。この教義の下で、私たちは少なくとも十数の政府を弱体化させ、打倒した。」
 自由と民主主義の裏には、アメリカの政治的経済的利益がある。その利益から完全に離れて、外交政策を行うことなど不可能なのだ。自由と民主主義を掲げながらも、現存するアメリカ内部の、支配的な力を持つ巨大な資本によって、その政策は影響を受けるのである。1973年、チリでもう一つの9.11が起きた。自由選挙で成立したアジェンデ政権は、アメリカの支援によるクーデターで崩壊させられたのだ。その後のアメリカに支援された軍事独裁政権は、新自由主義政策を実行し、アメリカ企業に門戸を開いた。これは、自国の利益のために、自由と民主主義を踏みにじった典型的な例だ。遥か昔の話で、今は違うと抗弁するかもしれないが、その時も、今も、アメリカは同じ「自由と民主主義」を掲げているのである。そして、ベトナム戦争や虚偽の根拠に基づいて行われたイラク戦争(そこには石油支配権の維持と獲得がある)と同様に、それが行われている時は、西側主要メディアは批判的には、報道しなかったのである。
 実際に行われたことが、掲げた美辞麗句とかけ離れていることは、歴史上、山ほどある。「自由と民主主義」もまた、掲げられた美辞麗句である。それを少しも疑うことなしに、ものごとを考えることは愚かと言わなければならないだろう。
 
 最後に、プーチンはレーニンを持ち出しているが、レーニンの曲解が甚だしい。レーニンにとっては、(資本主義の最高の発展段階としての帝国主義の)「帝国主義戦争を内乱へ」が基本である。『「労働者に祖国なし」という「共産党宣言」の言葉は、今もいかなるときにもまして真実』(レーニン「社会主義と戦争」)であり、「汎スラブ主義的排外主義と戦い、……ロシアに抑圧されている諸民族の解放と自決……をスローガンとする」(レーニン全集)ことが労働者・農民階級の課題であり、一握りに富裕層と軍隊、人民抑圧国家機関に支えられた、ロシア帝国の復活を熱望するプーチン政権が、真っ先に打倒すべき対象であるというのが、レーニンの思想だと言うべきである。
 

 


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