THE WORLD AT WAR ヒストリー・チャンネル
1973年:イギリス
第24話(全26話中):原爆投下
ポーランド問題から始まってヨーロッパの話が続き、「え? メインテーマは原爆のはずでは?」と一瞬戸惑わされる前半。しかし、ドイツ降伏直後のヨーロッパ情勢が原爆投下の重要な要因となっていたことが徐々にわかってくる。大戦中ずっと、対日戦にソ連を引き込もうと努力していた米英だったが、対ドイツ戦の最終局面におけるソ連の東欧支配・共産化を目の当たりにして、同じ過ちをアジアで繰り返すまい、とトルーマンは決意する。こうして、ソ連の参戦前に日本を降伏させたいアメリカと、対日戦参戦の報酬としての領土的約束を何としても米英に守らせたいソ連との、日本をめぐるせわしい競争が始まる。それが原爆投下、同時期の満州侵攻となって爆発する。
ポツダム宣言の内容次第では、原爆投下は必要なかったと考える歴史家が多い。天皇制を保証すること、スターリンが宣言に参加すること、原爆の完成を明示することなど。それらをしなかったことによって、アメリカにとっての選択肢は、「原爆投下か、日本本土侵攻か」に絞られてしまった。この選択ならば、原爆投下はやむをえない。日本本土侵攻、つまり1945年11月1日の南九州上陸作戦(オリンピック作戦)と46年3月1日の関東平野上陸作戦(コロネット作戦)を実行したら、日米合わせて百万人規模の死者が出たことは確実だからである。(沖縄戦だけで十数万の住民が死んだことは映像にあったとおり。ちなみに関東平野上陸作戦では、九十九里浜と相模湾から上陸が予定されていた)
イギリス制作のドキュメンタリーだけあって、原爆に対して冷静かつ客観的な賛否両論が紹介されている。御前会議にも出席していた日本の高官が「原爆のおかげで戦争がやめられた」と正直に語っていたことにも注目したい。実際、海軍大臣米内光政は、当時、「原爆が落ちたのは天佑だった」と言った。あんなことでも起こらないと、陸軍の徹底抗戦派を押さえられなかっただろうと。
原爆投下とマンハッタン計画については、よくわかっていないことが多い。とくに、1943年段階から、どの文書をみても投下目標としては日本が想定されており、ドイツは対象になっていない。アメリカの原爆開発はもともとナチスの原爆研究に対抗するものだっただけに、始めから日本が対象というのは不可解である。こういう場合、「白人には使いたくなかったから」と言う人が必ずいるが、ドイツ市民に対する英米空軍の無差別爆撃は、日本への空襲とは比べものならぬほど執拗かつ残虐だったことを考えると(ドイツには日本への10倍以上の爆弾が投下され、軍事的意味の全くない芸術都市ドレスデンへの昼夜交代の空襲では東京大空襲を上回る死者を出している)、人種差別という説はあまりに安易というべきだろう。戦争はそんな甘いものではない。
いずれにしても、ポーランド問題のようなヨーロッパ情勢とソ連・西側の対立、そして日本政府の立場などを有機的に結びつけた、うまいストーリー仕立てのドキュメンタリー作品だった。元A級戦犯容疑者・児玉誉士夫も出てきて「原爆をいくつ落とされようが戦い続けるべきだった」と言っていたのが印象的でした。(児玉は、このインタビューの約五年後にロッキード事件の被告になる)
1973年:イギリス
第24話(全26話中):原爆投下
ポーランド問題から始まってヨーロッパの話が続き、「え? メインテーマは原爆のはずでは?」と一瞬戸惑わされる前半。しかし、ドイツ降伏直後のヨーロッパ情勢が原爆投下の重要な要因となっていたことが徐々にわかってくる。大戦中ずっと、対日戦にソ連を引き込もうと努力していた米英だったが、対ドイツ戦の最終局面におけるソ連の東欧支配・共産化を目の当たりにして、同じ過ちをアジアで繰り返すまい、とトルーマンは決意する。こうして、ソ連の参戦前に日本を降伏させたいアメリカと、対日戦参戦の報酬としての領土的約束を何としても米英に守らせたいソ連との、日本をめぐるせわしい競争が始まる。それが原爆投下、同時期の満州侵攻となって爆発する。
ポツダム宣言の内容次第では、原爆投下は必要なかったと考える歴史家が多い。天皇制を保証すること、スターリンが宣言に参加すること、原爆の完成を明示することなど。それらをしなかったことによって、アメリカにとっての選択肢は、「原爆投下か、日本本土侵攻か」に絞られてしまった。この選択ならば、原爆投下はやむをえない。日本本土侵攻、つまり1945年11月1日の南九州上陸作戦(オリンピック作戦)と46年3月1日の関東平野上陸作戦(コロネット作戦)を実行したら、日米合わせて百万人規模の死者が出たことは確実だからである。(沖縄戦だけで十数万の住民が死んだことは映像にあったとおり。ちなみに関東平野上陸作戦では、九十九里浜と相模湾から上陸が予定されていた)
イギリス制作のドキュメンタリーだけあって、原爆に対して冷静かつ客観的な賛否両論が紹介されている。御前会議にも出席していた日本の高官が「原爆のおかげで戦争がやめられた」と正直に語っていたことにも注目したい。実際、海軍大臣米内光政は、当時、「原爆が落ちたのは天佑だった」と言った。あんなことでも起こらないと、陸軍の徹底抗戦派を押さえられなかっただろうと。
原爆投下とマンハッタン計画については、よくわかっていないことが多い。とくに、1943年段階から、どの文書をみても投下目標としては日本が想定されており、ドイツは対象になっていない。アメリカの原爆開発はもともとナチスの原爆研究に対抗するものだっただけに、始めから日本が対象というのは不可解である。こういう場合、「白人には使いたくなかったから」と言う人が必ずいるが、ドイツ市民に対する英米空軍の無差別爆撃は、日本への空襲とは比べものならぬほど執拗かつ残虐だったことを考えると(ドイツには日本への10倍以上の爆弾が投下され、軍事的意味の全くない芸術都市ドレスデンへの昼夜交代の空襲では東京大空襲を上回る死者を出している)、人種差別という説はあまりに安易というべきだろう。戦争はそんな甘いものではない。
いずれにしても、ポーランド問題のようなヨーロッパ情勢とソ連・西側の対立、そして日本政府の立場などを有機的に結びつけた、うまいストーリー仕立てのドキュメンタリー作品だった。元A級戦犯容疑者・児玉誉士夫も出てきて「原爆をいくつ落とされようが戦い続けるべきだった」と言っていたのが印象的でした。(児玉は、このインタビューの約五年後にロッキード事件の被告になる)