【連載】呑んで喰って、また呑んで⑰
金門高粱酒は禁断の酒なのか
●台湾・台北
不定期に我が家で開催する呑み会に、ヘアサロンを経営するA君が美人スタッフのHさんを引き連れてやってきた。素晴らしい差し入れを持って。
「これですよ」
A君が私の目の前に差し出したのは、「金門高粱酒」。そうそう、これだ。台湾の金門島で栽培されるコーリャンからつくられた焼酎で、アルコール度数が58度とかなり強い。いやあ、嬉しいではないか。なにしろ、私のお気に入りの焼酎のひとつだからだ。まずはスパークリングワインで乾杯!
それからおもむろに高粱酒のボトルを手にとり、ごくごく小さめのグラスに注ぐ。うっとりと見つめてから、一気に呑む。うーん、美味い! 最高だ。私がさっと料理した鶏モモ肉のローストとよく合う。それから10杯は呑んだだろうか。もう他の酒は目に入らなかった。
私が高粱酒と出会ったのは、40年も前のこと。友人のライター宮本孝さんが台湾を紹介する月刊誌を創刊するというので、その手伝いで台北に飛んだ。私が主に担当したのが、台北の各種料理屋と茶藝館(チャ・イン・クァン)。この取材で台湾料理はもとより、広東、上海、北京と、ありとあらゆる料理を堪能したものだ。
上品なお茶をおしゃれな空間で楽しむ「茶藝館」を取材したとき、台湾茶藝館協会の代表Cさんにお目にかかった。がっしりした体格のCさんからひとしきり台湾茶の説明を受け、何種類かのお茶を味わう。なんという上品な味と香りなのか。こんなお茶を呑んだら、もう番茶なんか不味すぎて飲めない。しきりに感心していると、
「これも試してください」
とCさんが小さなグラスにテーブルに置き、ボトルから淡い緑色の液体を注ぎ始めた。
「何ですか?」
「金門島のコウリャンでつくった高粱酒にお茶の葉を漬けたものです。美味しいですよ」
説得力のあるCさんが説明すると、何でも試したくなる。グイっ。一瞬にして魔法にかかった。私の表情を見て、Cさんがまた注いだ。そして、また。この繰り返しがしばし続く。すっかりいい気持になって茶藝館を辞したときから、私と高粱酒は切っても切れない関係になっていた。
それから台湾には何度も訪れているが、台北でも、高雄でも、台中でも、夕食のたびに高粱酒を呑む習慣が身についた。ただ、お茶の葉を漬けた高粱酒はどこでも置いてはいない。なので普通の高粱酒で我慢するが、それでも台湾料理や各種中国料理を食するとき、高粱酒に敵う酒はない。
台湾の料理屋に入る前には、近くのコンビニで高粱酒を買う。置いていない店もあるから、それを料理屋に持ち込む。ま、何といっても、そのほうが安くつく。二人で入ったときには1本、4、5人の場合は少なくとも3本は必要だ。
台北でもっとも古い湖南料理の店には、友人U君に連れられて何度も通った。湖南料理は中国五大料理のひとつ。蜂蜜漬けの金華ハムを薄いパンに包んで食べるのがその店の代表的な料理で、これがまた高粱酒によく合う。鳩のすり身を竹の中に入れて蒸した料理も絶品だった。これも高粱酒がすすむ。要するに、何を喰っても、高粱酒の杯を重ねたというわけだ。
しかし、なにしろ強い酒なので、呑みすぎには気をつけてもらいたい。一度こんなことがあった。香港駐在が長く、台北にも頻繁に出かけていた友人と台湾に旅行したときのことだ。彼のビジネスの相手Jさんと夕食を一緒にすることになった。
記憶が確かでないが、総統府近くの山西料理の店だったかも。そこで羊肉のしゃぶしゃぶを食した。もちろん、高粱酒も。酒好きのJさんなので、私と呑み比べを。それが間違いのもとだった。
友人のU君は呑み比べに参加せず、ひたすら観戦するのみ。高粱酒の小さなボトルが次々に空になった。20本は越えただろうか。よく覚えていない。店を出たときから記憶がなくなった。
翌朝、U君に叩き起こされた。憮然とした表情だ。
「昨日はえらい目にあった!」
「……」
「お前な、店を出るなり、通りでひっくり返ったんだぞ。それも2回も。警官が近くにいたので、逮捕されるんじゃないかとひやひやしたよ、まったく」
「あ、そう。覚えてないな」と私はとぼけた。「で、Jさんはどうした?」
「あいつもぐでんぐでんになってた。無事に帰ったか心配だよ」
皆さん、酒は美味しくても、くれぐれも呑みすぎないように。