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折目朋美さんの「雪降リ止マズ」 二・二六事件を25歳の女性が劇画で描いた

2025-02-26 06:02:07 | 特別記事

折目朋美さんの『雪降リ止マズ』

二・二六事件を25歳の女性が劇画で描いた

 

559ページの大作『雪降リ止マズ』(双流社刊)

【目次】

推薦の言葉  池田俊彦
はじめに

身上調査
同憂同志
さえざえと国原に立てば
わが上の星は見えぬ
醒めよ日本の朝朗け
昭和十一年の幕開け
維新の行方
岐路
同志に殉ずる
二月二十五日
蹶起前夜
昭和維新・襲撃
二月二十六日 
二月二十七日
二月二十八日
二月二十九日
雪降り止マズ

二十二士一覧
参考文献一覧

 

映画『226』が出版のきっかけ

 折目朋美さんは昭和43(1968)年6月、横浜市で生まれた。横浜市立白山高校(美術科)を卒業後は、運送会社を経て、タイル製造会社に勤務する。彼女が20歳になった昭和64(1989)年1月7日、天皇陛下が崩御された。その年の7月、折目さんは二・二六事件を描いた映画「226」(監督・五社英雄、松竹富士)を見る。事件発生から終結までの4日間を陸軍将校の視点から描いたドキュメンタリー調の大作だ。当時の青年将校たちが命を懸けて決起したことに、彼女の心は大きく揺さぶられた。

クーデターは未遂に終わった

 今日からちょうど89年前に時を戻そう。
 昭和11(1936)年2月26日未明、「昭和維新」の実現を標榜する陸軍の「皇道派」青年将校約1400名の蹶起部隊が首相官邸などの重要拠点を占拠、内大臣の斎藤実、大蔵大臣の高橋是清、陸軍教育総監の渡辺錠太郎など政府高官を暗殺するという事件が勃発した。岡田啓介首相は間一髪で難を逃れている。

 蹶起部隊の期待に反して、天皇は鎮圧命令を下した。こうして「賊軍」となった反乱部隊は3日間で鎮圧され、クーデターは未遂に終わってしまう。これが日本を震撼させた「二・二六事件」である。首謀者たちうち野中四郎・歩兵大尉(歩兵第三連隊第五中隊長)と河野寿・航空大尉(所沢飛行学校)の2名は自決、軍法会議で19名(北一輝ら民間人も含む)が死刑となり、その他の参加者も重い処分を受けることに。

 さて、事件の背景に何があったのだろうか。日本は当時、満州事変(1931年)で国際的に孤立していた。国内に目を転じると、財政状態の悪化や、それに伴って農村地帯の惨状も目も当てられない状況で、泣く泣く娘を身売りする親も珍しくなかった。国民の間に不満が渦巻くのも当然だろう。

 いずれにしても、この事件は、日本を大きく変えるきっかけとなったのは確かである。満州事変以降、力を強めていた陸軍でしたが、けっして一枚岩ではなかった。将来の戦争に備えて軍の近代化を目指す永田鉄山少将(軍務局長)が中心の「統制派」と下士官とも付き合い深い「皇道派」に分かれていた。二・二六事件の青年将校たちは後者である。折目さんの劇画でも触れているが、二・二六事件が起きる半年前の昭和11(1936)年8月12日、永田少将が皇道派の相沢三郎中佐に軍務局長室で斬殺された。

 折目さんが二・二六事件を劇画で描こうと決意したのは、映画「226」を見た直後、つまり事件から53年後のことだった。なぜ、彼ら青年将校がそこまでできたのか⁉ そう問い詰めた折目さん。いつしか人生観が大きく変わったという。そして、決意します。事件を大好きな劇画で描こう、と。

 決意した彼女の行動は早かった。仕事の合間に、関係の書物や文献を読み漁る日々が続く。折目さんがもっとも感銘を受けた一冊の本がある。文藝春秋社から刊行された『生きている二・二六』だ。著者は池田俊彦氏。事件の前年に陸軍士官学校(第47期生)を卒業したばかりで、当時は歩兵第一聯隊附元陸軍歩兵少尉だった。二・二六事件に参加した最年少の青年将校である。

 事件で服役した池田氏は戦後、会社勤めをしながら処刑された将校たちの遺志を伝えようと、『二・二六事件裁判記録──蹶起将校公判廷』を出版、昭和史研究家の間で注目された。そして、平成(1987)年には、軍法会議の内幕、獄中での生活、事件参加者のその後などを明らかにした回想録『生きている二・二六』を出版する。

 ある日のことだ。そんな経歴を持つ池田俊彦氏の自宅前にタイル会社の2tトラックが停まった。運転していたのは若い女性である。折目朋美さんだった。二・二六事件についてのレッスンを池田氏に求めにやってきたのだ。池田氏は『雪降リ止マズ』の監修者でもあるが、同書の「推薦の言葉」で、次のように記している。

〈私はこれにこたえて日本の歴史、世界史から話し出して、事件の背景となった日本の世情と、軍隊というものがどのようなものであったかを時間をかけて話した。 彼女はすこしずつ事件関係の著書を買い求めて読み、その数は今までに数十冊になっていると思う。彼女はいくつかのノートを作り、それを分類したものを私に見せ私に批判を求めた。私はそれを一々チェックして事実と異なる点は私の体験と智識を通じて意見を述べた。
 何しろ旧軍隊のことなど何一つ知らないので、彼女は私に軍隊の組織、編成、装備、歩兵の兵器、兵舎 兵営生活等細かい所まで質問し、私は一つ一つ例をとって説明した。 そして時には、偕行社に行って参考書を探し出してゼロックスしたものを与えたりもした。
「陸軍士官学校」という本や「歩兵第一聯隊写真集」なども貸与して、画の参考にした。私の部屋では射撃動作とか銃剣術の型などもやって見せた。彼女は剣道を習っているのでこれはよく理解した。歩兵第一隊と第三聯隊の跡は私が案内して見せた。昔のまま残っている歩兵第三聯隊の建物は写真に撮って、これが作品の中に生きている。
 私が特に心をこめて話したのは、処刑された人々の人物像についてである。私の所持している古い写真はすべて見せた。私が直接よく知っている一聯隊の香田、栗原、丹生、林の諸兄に就いては、一人一人の性格や信条など私の知る限り熱をこめて話した。その他の人々に就いても、軍事裁判の公判廷で私が見たことなど、人物を理解するに必要なことは大体話した。彼女は事件の原因と経過だけでなく、事件を起こすに到った人々の心の中にまで熱い思いを注いだ。
 私は彼女が何処迄根気よくこの仕事を続けられるかと思っていたが、四年間たゆむことなく作業は続けられた。私も彼女の倦むことなき事件に寄せる情熱に心を衝たれ、出来得る限りの協力をした。彼女は絵を画くだけでなく、処刑された人々が眠る賢崇寺のお墓と、処刑された地に立つ渋谷の慰霊像にお参りを続けている。そして平成四年に入ってか処刑された一人一人のお墓詣りをしようと思い立ち私に同行を求めた。私もこれを良い機会とし一緒にお詣りをした。彼女に導かれるようにして亡き同志の墓前に額ずいたのである。
 彼女は平成四年の十一月から渋川善助氏のお墓のある会津に居を移して、働く職場を捨て、漫画に専心した。そして五年の八月にようやくその完成を見たのである。私は漫画のことはよく解らないが、漫画の一こま一こまは大事なポイントをよく捉えていていると思う。一人一人の心理描写の域にまで踏みこんでいることもこの作品の優れた特徴であると思う。〉

 こうした折目さんの努力が実って、『雪降リ止マズ』が平成7(1995)年2月26日に出版される。決意から5年が立っていた。25歳になった彼女は、池田氏への感謝の気持ちを忘れなかった。本の冒頭、こう記している。

〈私が深く感銘を受けた「生きている二・二六』の著者で、事件に参加された池田俊彦氏を師として仰ぐ事ができ、氏のご温情とご協力に依り、今回の作品の完成を見る事が出来ました。〉

 その池田氏は平成14(2002)年、87年の生涯を閉じた。さらに折目さんは、こう続ける。

〈この作品は、私が参考にした著書あるいはビデオ等から印象に残った場面を抜粋・整理し、一つの物語にまとめたもので、内容に就いては事件の真相解明に努め、蹶起した将校たちの憲兵調書もよく分析し、できるだけ史実に忠実に描いたつもりです。〉

 まさに同書は折目さんと池田氏の合作と言ってもよいだろう。出版から30年も経っているうえ、自費出版だったので、『雪降リ止マズ』は一般書店には置かれていない。一部の古書店やネット通販で取り扱っている。

 確実なのはamazonでの注文だが、

本ブログが劇画の一部を紹介!

 

 

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■出版後の折目朋美さん

『雪降リ止マズ』を出版した翌年、折目さんは國學院大學で神職の免許を取得。山梨県護国神社に20年間奉職した。現在、都内にある神社の社務所に事務職として勤務している。

■毎月2回、都内の慰霊碑を清掃

 昭和11(1936)年7月12日に陸軍将校16名が銃殺刑に処せられた東京陸軍刑務所(現・東京都渋谷区宇田川町)の跡地に二・二六事件慰霊碑がある。渋谷税務署などが入る渋谷地方合同庁舎の一角だ。敷地の北西角に犠牲者と処刑者を弔う二・二六事件慰霊像(観音像)が立つ。昭和40(1965)年2月26日に建立された。折目さんは毎月2回、ひとりで慰霊碑の清掃に訪れる。

▲二・二六事件慰霊碑。その後ろに立つ観音像が、昭和40(1965)年2月26日に建立された犠牲者と処刑者を弔う二・二六事件慰霊像(2月10日に折目朋美さんが撮影)

 

 

 


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