社会保険労務士の大澤朝子です。
前回のブログで、「従業員さんの身に交通事故が起きた・・・(ら忙しくなる)」という意味の
記述をいたしました。
なぜ、社会保険労務士の顧問先に「交通事故」が起きたら忙しくなるの?
と疑問に思われた方も多いのではないでしょうか。
そこで、本日は、交通事故と労災保険と健康保険の関係について、簡単に説明しましょう。
顧問先の従業員さんの身に交通事故が起きると、経営者さんや総務さんから
必ずと言っていいほど、電話がかかってきます。
1、会社として、どのような対応をとったらいいのか
2、本人はどのような補償が受けられるのか
3、労災保険は使えるのかetc・・・
社会保険労務士は自賠責保険の専門家でもありませんし、ましてや任意保険の損保会社でも
ありません。しかし、従業員さんが交通事故に遭った場合、補償関係の面で大きな判断が
求められる場合があります。
すなわち、大きく分けると、次の3つの選択肢を早急に決定しなければなりません。
その従業員さんが被害者であるか、加害者であるか、或いは過失割合が何%であるか
にかかわらず、病院で治療を受けることになった場合、は必須です。
(・・・一つの交通事故を聞いて、まず、我々は一般的な過失割合を想定しておきますが。)
1、(相手の)自賠責保険を使うか(使える場合)
2、労災保険を使うか
3、健康保険を使うか
予備知識として言っておきますが、以上の3者から同時に、同一事由に基づいて同一内容の
補償を受けることはできません。原則として、3つのうち一つだけです(「併給調整」)。
基本的に、自賠責か労災保険かを選択、又は、自賠責か健康保険か選択、です。
(蛇足ですが、
自賠責が使えるのに労災保険を使った場合は、国(労災)は相手側に
対して、その価額の限度で損害賠償を請求します(求償)。
自賠責が使えるのに健康保険を使った場合も、健保の保険者は相手側に
対して、その価額の限度で損害賠償を請求します(求償)。)
さて、判断の基準は、
・業務上又は通勤途上であったか
・私事の途上であったか
です。次の2つの中からその取扱いを決定します。
1、業務上又は通勤途上であった場合
→相手の自賠責保険が使える場合は自賠責を使うか、又は労災保険を使うかを決定
2、私事の途上であった場合
→相手の自賠責保険が使える場合は自賠責を使うか、又は健康保険を使うか
2の場合は、会社としては、従業員の私事であるため、ほとんど手出しは行いません。
せいぜい本人又はご家族からの問い合わせに対しアドバイスを行ったり、
自賠責の休業補償の請求書を持ってきたら、賃金・出勤状況の証明をする程度です。
1の場合が問題です。
業務上又は通勤途上での交通事故である場合は、
労災保険の対象であるか否か判断をし、
もし、自賠責も使え、労災保険も使える場合は、
自賠責保険を使うか(自賠責先行)、労災保険のみでいくのか、
その怪我の重篤度を加味してどちらかに決定します。
なぜなら、自賠責保険には、治療費、死亡等の補償に限度額があるからです。
労災保険には、限度額はありません(給与額による一定程度の限度はあります)。
また、先に述べたように、自賠責と労災保険の両方は使えません。
どちらか一方だけです(併給調整)。
さて、仮定として、自賠責先行でいくことにしたとします。
しかし、「併給調整」といいながら、実は、その際にも労災保険から、休業補償の20%
を受けることができます(併給調整されない)。
労災保険の対象事故である場合は、自賠責を使っても、労災保険の請求行為はあるのです。
労災保険請求行為がありますから、事故の概要をつかみ、交通事故証明書を
取り寄せて必要な書類作成を行わなければなりません。
・・・「従業員さんが交通事故に遭った」というだけで、
これだけの判断を即日、行わなければなりません。
読者は、交通事故なんて稀でしょう、と思われるかもしれませんが、
我々社会保険労務士が抱えている(顧問先さんの)従業員総数は多いですので、
交通事故もけっこう日常茶飯事なのです。
余談ですが、よく、相手側の保険会社さんから電話を受けることもあります。
この場合、保険会社さんもプロですから、話がし易い。お互い電話で話し合って
「労災保険を使って、自賠責を使わない」こととした場合は、
保険会社さんの方から、(にこやかに)
「労災の書類にこちらの担当者の連絡先を書いておいてください」
とまで言ってくれる会社さんもあります。
これは、労災保険を使っても、先の「求償」のため、どっちみち、
国から相手側保険会社に連絡がくるので、そう言ってくれるのです。
明日から仕事始めです。今夜はこの辺で幕引きといたしましょう。
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