目指せ! 標高1122メートル

山の神にお供して歩きつづける、ある山のぼら~の記録。ネイチャー、冒険の本もとりあげるよ。

アラスカ物語

2011-06-25 | 山・ネイチャー・冒険・探検の本

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まさにモーゼに擬せられる行為。「アラスカのモーゼ」と呼ばれたフランク安田は、イヌイットたちを引き連れて、アラスカの沿岸部から内陸部への大移動を成功させた。この物語の核心部だ。こんな日本人がいたことなど、この本を手に取るまでは、まったく知らなかった。

主人公の安田恭輔(フランク安田)は、裕福な医者の家系に生まれながらも、15歳にして両親を失い、不遇をかこって単身アメリカにわたる決意をする。彼は彼なりに自分の前途をアメリカにかけたのだろう。しかし彼の前には幾多の苦難や試練が待ち受けていた。

まずこの小説の冒頭に出てくる、沿岸警備船ベアー号の遭難事故のエピソードは驚くばかりだ。アラスカ北部で氷に閉じ込められ、身動きがとれなくなり、誰かが救援を呼びに行かなければならない。その役目をフランク安田が買って出る。人種差別という特別な事情もあったが、彼の行動は真摯かつ献身的だった。イヌイットの助力もあって約200Kmの長旅を完遂し、最寄の街ポートバローにたどりつく。この命がけの氷上横断は冒険家植村直己さんの北極行以上だろう。

このときに知り合ったイヌイットとの縁が彼の人生を変える。フランク安田は、彼らの村に溶け込み結婚もして、永住を決意する。順風満帆に見えた生活もつかの間、疫病が蔓延し死者が続出する。また環境の変化で食糧のアザラシがとれなくなってしまう。状況が暗転していくなかでの彼の決断は早かった。将来有望な移住地を探して、アラスカの内陸部へと出発するのだ。内陸部ではゴールドラッシュに沸いていて、金鉱探しにも手を染める。そして砂金を見つけてしまう。

その砂金発見場所の近くに、新たにイヌイットの村をつくる壮大な画を描く。だがその土地の周辺には、もともとイヌイットとは仲が悪いインディアンが住んでいた。彼らと粘り強く交渉し、土地使用の権利を得たのち、イヌイットの村に戻って、皆を引き連れての大移動となる。困難を極めた徒歩での大移動が終わっても息は抜けない。一からの村づくりが待っていた。家も道路も畑も工場も何もないのだから。

そのうち第2次大戦が始まると、フランクは強制収容所に入れられるという試練にあう。戦後収容所から出ると、今度はビーバーの毛皮をビジネスにつなげ、生活の基盤づくりに精を出す。まさにリーダーとしての政治家的な部分と、商魂たくましい優秀なビジネスマンとしての部分をあわせもったスーパーマン、一人で八面六臂の大活躍をした人物なのだ。こんな日本人がいたとは、信じがたいが、この小説に書かれたことは事実をもとにしている。現代にもこんな日本人はいるのだろうか。あるいは登場してくるのだろうか。

アラスカ物語 (新潮文庫)
クリエーター情報なし
新潮社
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